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想像以上の成果


その後暫く経ち、ロイドは当たり前の様に屋敷へ出入りするようになった。


何度か間隔を開けつつも時間を重ね、様々な話をしていくうちに、屋敷の人達は快くロイドを受け入れた。両親の許可があったのは大きかったが、それ以上にロイドは公爵家の生活に貢献していたからである。




「あ、ロイド君こんにちは!ちょっと聞いてもいいかい?外灯のことなんだが」


「ロイドくーん!この間作ってくれたソウジキの魔源供給なんだけど」


「ロイド君……すまない、これはどうしたら直るかな」




ロイドと一緒に歩いているだけで、使用人達が駆け寄ってくるほどには、貢献してくれていた。あの後様々な話をした訳だが、私は想像だけの具現化をするという考えをやめようと思った。再現性がないからだ。

それならばある物を使いつつ、作成出来るものを見つける方が私も楽しく考えられるのではと思い至り、ロイドと相談してお試しで色々作ったりしたのだ。


もちろん。作るのはロイドである。



「……ロイド、人気者だわ」


「そうですね、とても頼りになりますから。お嬢様は…もしかすると残念だったりしますか?」


「ううん。嬉しいことだよ」



使用人達からの質問に答えるロイドを尻目に、私はその場から離れルネの横に立ち、ボソリと言葉を漏らす。

頼りになる。まさにその通りだ。聞かれた事に対し丁寧に対応し、解決までのスピードも早い。彼に聞けば、自分が分かるように説明してくれるし、解決策までセットでついてくる。

自分達の生活がより豊かになるよう考えてくれる人というのは、それだけでも好感度が上がるというもの。


ほんの少しだけ、自分との時間を奪われたような気もするが。寂しく感じつつも、彼が評価されるのは心から嬉しいと思える。




「ごめん、おまたせ」


「ううん!今日も人気者だね」





使用人との会話を終えこちらに来たロイドは、以前と比べかなり心を開いてくれたように感じる。自分に対してもそうだが、周りの人達と会話をする時も気を遣う様子が減ったように見えるから。

見た目としても、かなりのスピードで変化が出た。

私と色々作っていく試作品の中で、これは良いと評価を得た物をお父様が増やして欲しいと注文をしてきた。それにより給金として彼に正当報酬を支払っているのが大きいところだろう。彼はお金は必要ないという為、代わりに食事や衣類等で半ば無理矢理受け取ってもらっているのである。


今日着ている服は黒のベストに白いシャツ、赤いネクタイまで着いている。シンプルなはずの服装だが、モデルが良いためかとてもかっこいい少年だ。




「それで、今日は外灯の改良だったよね」


「あ、うん!この間たまたま出来た物を、使ってみよう」




正直言うと見とれる程にかっこいいロイド。一人の人間として見ることには代わりないが、理解した上で言えることは、変わらず推しであるということ。推しが愛され頼られ認められ、かつかっこよく成長していく過程を見守ることが出来るというのは、オタク冥利に尽きるだろう。


なんて考えは横へ置いておきつつ、私とロイドはある物を作り始めた。


これが、ロイドの名が世に出る……第一作品になるとは露知らず。




____________

________

____。




「……これは、一体なんだ?」


「とっても綺麗な物ね?心無しか光っているようだけど…」



その後暫くして、私たちは作った物を見せる為に両親の元へ訪れた。いつも通り試作品として使ってもらおう程度の物だったが、二人の反応は想像以上に驚いた様子で…父は置かれたそれをハンカチで包み、色々な角度から確認をしている。


母は片手を頬に添えながら、不思議な物を見るような顔で。キラキラ飛び交って見えるそれが母の目を輝かせ、何度か瞬きを繰り返した。


私達が持ってくるものは私生活で使えるものが多いからか、話を聞いてくれる事が多かった。今日はいつもより反応もいい為始まる前からの好感触に私は心の中でガッツポーズをする。私は一緒に渡した透明な箱の中にそれを入れ、上から蓋を閉めて二人へ説明をする。




「これは以前ロイドが使っていた、ライトの応用で実験してみました。元々光を蓄積する石だったんですが夜は光っぱなしだったので、周りを外気温に反応し熱を持つ素材で覆ってみたんです」


「この透明な結晶の事か?」


「はい!実験の中で判明したのですが、光を蓄積するこの石は温度によって光が変化するのが分かったので、外気温が下がる夜に合わせて明るくなるような仕組みになってます。箱が透明なのは日中光を取り込む為で、暗くなるのに合わせて勝手に明るくなる筈です。名付けて太陽光ライト……」


「……なんという事だ」





私の説明に対し、両親は唖然とした顔をする。

説明自体はおかしくないはずだと、念の為ロイドに目を向けるがロイドは問題ないと言うように頷いていた。

暫く黙り込む両親に対し、謎の緊張感が走る。いつもはじゃあ使ってみようかとすぐ言ってくれるのに、その反応がないことに若干の焦りが生じたのだ。

両親は互いに目を合わせた後、私達の方へ向き直る。


父は一度私を見たあと、その視線をロイドへと移した。




「ロイド、これを制作したのは君だね?」


「大まかな部分は、そうです。けど、考えたのはアレクサンドラです。」




ロイドの回答はいつも通りだ。作る部分に関しては殆どロイドが行っている。事実私がしている事とすれば、こういう物があればと話をしたり、こういうのはどうかと案を出す程度である。今回光り方が代わるのに気がついたのは私だったが、それを確実な物にするため思考したのはロイド。

行動の全てはロイドによる物だが、少しでも私が関わっている場合…ロイドは自分だけの功績にしようとはしない。

驚く程に真面目で、それでいて正直だ。



ロイドの返答を聞いた父は手で顔を覆う。暫くして手を離した父は真っ直ぐに私達を見た。



「…そうだな。火を必要とせず、人の手がなくとも勝手に灯り、作成時以外は動力も必要としない。そうなるとこれは非常に重宝されるべき発明だ。確実に使えるものかの確認は勿論必要になるが、これが成功するとしたら君達は非常に国へ利益をもたらす可能性がある」


「…え、この太陽光ライトが?」


「そうだ。普段外へ出しておき、夜になって家に入れれば火がなくとも灯りが使える。道を歩く時も明るく危険も減るし、消し忘れによる事故もなくなる。その太陽光ライトというもの一つで、かなりの問題が解消されるはずだ」




父から発せられた言葉に対し、私はぽかんと口を開けてしまう。

最初の時以外外に出ていない為知らなかったが、確かに思い返すとロイドの家も外に灯りはなかった。家の中でも暖炉に火をつけ灯りをともしたし、帰り道もライトがなければ真っ暗だっただろう。あの時は森の中だからと思っていたが、もしかすると街へ行っても同じような状況なのかもしれない。


父が言う通り、火は生活に欠かせないものだが同じくらい危険もある。消し忘れで中毒を起こす可能性もあれば、火花や火元が他の物へ移り火事になる可能性もある。


そう言われると、確かにこれ一つで多くの危険が回避されるだろう。



「ロイド、これは量産が可能なものか?」


「イコウ草とマナグの実があれば可能です。」


「公爵領に困る程ある自生のやつか!?量産しよう!こうしちゃおれん……サーニャ、ロイド、君達はその実験を続けて結果を報告してくれ!特許も取るぞ!。」


「は、はい!」





勢いよく立ち上がり、顔を赤くする父に対し咄嗟に返事だけを返す。走り去っていく父を尻目に、残された母と私達。ひとまず実験をし、成功例をあげなければと考えていると……すぐ近くにいた母が私に手を伸ばした。


私が精力的に行動をしているからか、最近は母もだいぶ明るさを取り戻したように見受けられる。母は優しく微笑みながら私の手を取り、そっと撫でてくれた。




「サーニャ、あなたは本当に…素晴らしい子だわ。こんなに小さいのに、とても立派ね」


「ありがとうございます。お父様やお母様がいつもお話を聞いてくれるから、こうして行動出来るんです!それに、ロイドのおかげです!」


「ふふ、そうね。あなたも、ロイドも本当に良い子よ。自分だけの力と過信せず、互いを尊重し合うことは大人でも難しいこと……今のうちからそれを出来ている二人は、とても素敵な大人になるんでしょうね」



ふふ、と上品な…それでいて柔らかく温かな笑みを浮かべた母は私を引き寄せギュッと抱き締める。優しい温もりを感じた私は母を抱き締め返した後、はっとしてロイドの方へ顔を向けた。

ロイドは私の意図を理解したのか、若干困ったような顔をしつつも私の傍へとやってくる。折角なら一緒に抱き締めてもらおうと思ったが、流石にハードルは高かったようだ。


一定の距離を確保するロイドに対し、私は手を伸ばした。彼は近づきはしなかったが、私が伸ばした手に自分の手を重ねる。


当初から変わらない、当たり前のように差し出した手をとってくれるロイドだが…以前よりもやはり、距離は近づいていると感じるアレクサンドラ。


暫くその温かな空間で幸せを噛み締めつつ、私達はその場を去ったのであった。


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