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分かち合うことの喜び


その後、ルネが戻ってきたことにより実験は再開された。

結論から言うと、電球は光ったとだけ言おう。



ケーブルやクリップ、板やモーターなど様々なものを駆使した結果歪な形の電球は光をともし、その場にいた人達は大いに驚いて見せた。



「サーニャ、お前どこでこんな物を?」


「うーん、眠っている間に夢で見て……本当に成功するなんて思ってもなかった!」



その場には両親もいた。想定通り、ルネがロイドのことを両親へ報告したようで…話を聞いた両親はロイドに話を聞こうとやってきたらしいが、それよりも実験をと言うロイドの圧力には適わなかった。電球を取り囲みまじまじと見つめる大人たちを他所に、ロイドは私の方へとやってきた。


「もういいの?面白くなかった?」


「いや、面白かった。物は知れたから、家に帰って色々やってみようと思う」


「そっか!ロイドが楽しかったなら、良かったぁ」



心からの言葉だった。最初は興味を引いて仲良くなれればなどと思ってしまっていたが、今は一人の人間として、彼の知識に貢献出来たことに喜びを感じる。


ロイドは暫く黙ったまま私を見ていたが、何となく気まずさを感じながらも目はそらさないまま笑って見せた。




「それにしても話には聞いていたが…これは君が具現化をしたらしいね。魔源ペンなしに大したものだ。普通は魔塔を介すはずだが、これはどういう原理なんだ?」




私達の方へやってきた父がロイドに話を聞かせてくれと声をかける。チラリと後ろを見れば、使用人達と共に電球を見る母の姿が見えた。母もどこか楽しそうな顔で皆と話しているのを見て、少しだけホッとする。

記憶がないと言われた母は、分かりやすく私に気を遣っていた為…あの様に笑う母を見れたことは、自分にとっても安心出来るものだった。



父とロイドの会話に意識を戻してみたが、あまりにも難しい会話だからか何の話をしているか全く理解できなくなっていた。聞いているだけで頭が痛くなりそうだと思った私は母達の方へ向かおうとするが、何かに引かれたように体がかくんと止まる。




「何処へ行くの」


「え?お母様たちの所へいこうかなって…どうして?」


「話、面白くなかった?」





何かに引っかかったのかと思えば、その正体はロイドの手で。私の服の裾を掴んだ様子のロイドはこちらを見つめているが、目の前にいる父は突然止まった会話に驚いた様子だった。


面白くなかったかと言うのは、二人の会話のことだろうか。それで言うと面白くないというより、理解が出来なかったと答えるのが正しい。私はチラリと父の方を見た後、自分の頬をかきながら眉を下げ正直にそう伝える。



「面白くない訳じゃないの。私には難しくて、お話の内容が理解できなかっただけ。大切なお話なら私は向こうへ行こうかなって思っただけだよ」


「そう。じゃあ分かりやすく言うよ」


「え?あ、私に分かるようにってこと?わざわざ良いのに」


「まあ、いいじゃないか。サーニャにも分かるように説明が出来るということは、もしかしたら楽しくなるかもしれないだろう?」




はは、と乾いた笑いを漏らしながら大丈夫だと伝えたが、何やら楽しげに笑う父の手前私はそれ以上食い下がることは出来なかった。この年齢のアレクサンドラがどうだったかは分からないが、現時点で言えることは私はそこまで頭が良くないということだ。


物の説明もそこそこ出来たらいい方だ。前世で理系を学んでおけばもっと話が理解出来たのだろうかと……今更ながら考える。

ここから学べば多少は成長出来る可能性もあるかな?と、最終的には前向きに捉えて話を聞くことにした。




「で、魔源の話だっけ?器なしで出来る仕組み?の説明だよね」


「そうだ。彼が言うに魔源ペンという器その物はあくまで付与魔法を取り込む器らしくてな。その器の性質について話を聞いていたところだ」




性質という言葉に対し、その時点でうっと顔を顰めてしまう。性質とか構造とか、色々なワードを聞きすぎて既に頭もお腹もいっぱいだ。そんな私を見てか、困ったように笑う父には申し訳ないと思う。私の頭の容量はそこまで大きくないのだ。現時点ではだが。


父の言葉を聞き、私の表情を見たロイドは暫く口元に手を置き空を見上げた。分かるように説明すると言ってくれたが、考えさせてしまうことに申し訳なさを感じる。




「アレクサンドラ、泡を見た事はある?」


「泡?石鹸の泡とか、洗濯物の泡とか?」


「そう。あの泡の中同じような、小さくした泡を入れるイメージはできる?」


「出来る。ふわふわで綺麗だね」




ロイドに言われた言葉を脳裏でイメージする。泡の中に沢山の泡が入ってクルクル回る、所謂シャボン玉の想像だ。

どのくらい入るかなど、言われてもいないことまで勝手に想像しているとロイドはそのまま話を続ける。



「沢山の泡を囲う大きな泡が所謂器だ。器は外から強い影響を受けない限り壊れない。器が壊れないように穴を開け、空気の道を作ったとしたら中身はどうなる?」


「えっと、外に飛んでいく?」


「そう。魔源ペンの仕組みはそうなってる。ペン先から中身の泡を出すようなもの。それと同じイメージで、透明な膜を貼るように魔力を指先に集める。付与魔法の構造は本来無属性という魔力密度の高い結晶だ。それを外に出すイメージで放出するんだ」


「なるほど!シャボン玉みたいなものね!」




つまりシャボン玉だと、勢いよく言ってのける私に対し目の前の二人は首を傾げるが、私の中ではそう結論づけた。

非常に分かりやすい説明ではあったが、無属性というものがどんなものかまではひとまず聞かないでおこう。今聞いてしまうと、より情報が増えてしまう気がしたからだ。


ロイドにシャボン玉について聞かれたが、付加がついたペンで必要なものを作成した私は、何度かやった事があると自信ありげにそれを披露した。



「何と…!これは子供が喜びそうなものだな!」




筒から出る沢山のシャボン玉を見た父は声を上げ、周りの人達と共に楽しそうな顔をする母を見た。何かに使えるという訳では無いが、子供が喜ぶという発想をする父を見て少し嬉しく思う。


ロイドへの接し方もそうだが、この人は多分子供が好きなんだろう。リアクションも大きく、褒めるための言葉は真っ直ぐで。そんなところで人となりが見えてくる。



「お父様、私は出来たら良いなぁって考えるしか出来ないけど、ロイドはそれを実際に生み出す力があります。全部ロイドのおかげなの!」


「そうか、そうだな。ロイド君は素晴らしい才能を持った子だ。だが、一人ではなく二人で作り上げたものでもある。だから私にとって、二人とも同じくらい素晴らしい子だよ」




真っ直ぐに向けれる言葉に、私はまたも涙が出そうになる。私の力は所詮、ハリボテのものだ。何も知らず作れすらしないもので終わったはずのそれは、ロイドのお陰でこのような形になっただけで、私は何一つしてなんかいない。


それでも真っ直ぐに伝えられる言葉に、私はグッと涙をおしとめる。



「…俺はこんな発想はなかった。アレクサンドラのお陰で、新しいものが見れただけ」


「……ううん。ロイドのお陰だよ。ロイドがいなかったら、こんな風には出来なかったの。イメージしか出来なかった。だから、本当にありがとう」




私の隣に立つロイドにそう言葉をかけるが、特に返事は無い。目の前に広がる鮮やかな景色はとても綺麗で、それを生み出してくれたことも含め感謝の気持ちを伝えたかっただけで。返事を求めたわけでもなかった為、特に気にせず楽しげな皆の様子を伺っていると、ふとロイドが言葉を漏らす。




「これがアレクサンドラのイメージか。お前の見てる世界は、綺麗なんだな」




何の気なしに言った言葉だったのかもしれない。それでも、私が見ている世界を綺麗だと言った。同じ世界を見れていなかったからこそ見たいと思ったが、私にとって綺麗と感じたものを、彼も綺麗だと言ってくれる。

あまりの出来事に嬉しさを隠せなかった私はまたもロイドに飛びついた。その光景に一瞬場はザワついていたが、皆最後は優しく見守ってくれていたらしい。


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