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これは、物語じゃない。



私は出来上がった物達を整理しつつ、ルネに準備を頼む。ロイドが持ってきた石を並べるルネを他所に、ロイドは私が手に持つそれらに興味津々だった。




「これは何?変な感触だけど」


「ケーブルって言うものよ。この中に電流を流す金属があるんだけど、触ったら危ないから周りは電気を通さないもので覆われてるの」


「へえ、このトゲトゲは?」


「クリップ。この板を挟んで、違う電流を流すために使うの」


「違うデンリュウが流れるとどうなる」


「違う動きをするから、ぶつかりあった所で目に見えるようになる……はず?」





この説明であっているかは不明だ。なぜなら仕組みを全くもって理解していないからである。素人に毛すら生えない程度の状況だが、ロイドは真剣な顔をして話を聞いていた。


ある程度準備が出来た私はルネの魔法で、石に雷を落としてもらうことにする。あの日の夜あったことを話していた際に、彼女は雷魔法が使えるということを知った為お願いをしていたのだ。




「お嬢様のお力になれることがあり、嬉しいです」




そう言って泣きそうな顔をしたルネに対し、若干の申し訳なさを感じた。あんなに迷惑をかけ、本来であれば目を離したということで侍女では居られなくなる可能性もあったのだ、自分のせいで。それでもそう言ってくれるルネに対し、申し訳なさと同時にできるだけ今後は迷惑をかけたくないと思っている。


自分の行動で、誰かが傷つくことはしたくないから。




「うーん。これもだめだね…」


「威力は抑えていますが…難しいてすね」




石に向け、出来る限り弱い力でと。ルネは最小限の雷を落としてくれている。正直音のならない雷は不気味に感じるが、威力も小さく見えるのに石がバラバラになってしまうのだ。

あまりにもバラけすぎてどうしたものかと思っていると、道具に目を向けていたロイドが徐にこちらを見る。



「魔法陣構造を変えればいい」


「はい?変える、ですか?」




思いついたかのような顔で言うロイドに対し、ルネは眉間に皺を寄せながら首を傾げた。この世界の魔法は、発動する為に魔法陣を要する。学園などで学んだ魔法陣構造をインプットし、それを元に魔力を流すと発動するという仕組みの筈だ。


だが、一般的に学園で学ぶ魔法陣は基礎的なものの為、雷魔法の場合は攻撃特化型だ。他の使い方を学ぶとなれば、学園を卒業後専門の学院に入り学ぶということになるが……ルネは色々言いたげな顔をするも、私がいる手前あまり強く言えないのか、ロイドのことを見つめていた。


ロイドは己の人差し指を立て、言葉を続ける。



「雷魔法の主要魔法陣は攻撃型。目標の物体を倒す、または破壊する文字配列がある以上、どちらを取っても形を残すのは難しい。対応するには倒さず、壊さない魔法陣への組み換えしかない」


「魔法陣の組み換え、ですか。それはまた難しいことを」




うーんと、顎に手を置き目を閉じるルネ。ロイドは同じように首を傾げた後、想像力の問題だと言った。



「基本戦闘特化だからイメージがしづらい傾向にあるけど、水や炎に置き換えるとイメージがしやすい。花に水をあげる場合、花を壊そうとは思わない。暖炉に火を灯す時、薪を灰にしようとも考えない。同じイメージで、雷で対象を壊さず中に収めるイメージに置き換える」


「……つまり、攻撃構造の文字列を置き換えて…?」


「魔法はイメージだから。魔法陣の基礎が頭にあるなら、後はいくらでも変えられる」




そういうロイドは火、と小さく言う。その瞬間彼の指先にポンっと音を立てろうそくのような火が灯る。私はそれを見て口をポカンと開けてしまったが、ルネはどこか納得したような顔で頷いた。


何が理解出来たというのか。私にはさっぱり分からないが、私からすればこの世界はまだ知らない事ばかりのため、あまりにも多くを知らなければいけないとほんの少し焦りを覚える。



「難しい、という固定概念がそもそも邪魔だと言うことでしょうか。文字配列を変えるという認識はありませんでしたが…『ボルト』」


「……え!わ、壊れてない!!入った!?」


「……入ってしまい、ましたね」




完全に理解したように手を握るルネは、何やら考え込むように己の手を見つめている。私から見た光景は、小さな電流が石の中に吸い込まれ消えたというものだ。石そのものの形を残しつつ、目的であったそれは成功したようで。


ルネは暫く考え込んだ後、近くにいた騎士に声をかけどこかへとかけていく。変わるように傍に来た騎士は特に何も言わないまま、傍でこちらの様子を伺っていた。多分場を離れるために見守るよう言われたのだろう。




「アレクサンドラ」



ルネが消えていった方を見つめていた私は、突然呼ばれた自分の名に肩を揺らし、声のする方へ目を向ける。ロイドとは少し距離があったが、その声はとても良く通って聞こえてきた。

あのルネの様子からするに、この状況が只事ではないと報告をしに行った可能性がある。ロイドという少年が、とんでもない天才であるという功績に繋がるなら、悪いことでは無いと考えていた私はロイドの顔を見て、思考をとめた。



私を見つめるロイドはどこか少し、寂しそうな顔に見えて。理由はないけれど、私はロイドに駆け寄りその手を取った。




「なに?ルネは行っちゃったけど、雷は蓄積されたみたいだし…二人で続きをする?」


「……お前は、怖くないの?」


「怖い?なにが?」




何となく、暗い顔で。そう言うロイドに対しニコリと笑みを浮かべて見せる。ロイドは少し気まずそうな顔をするも、ゆっくりとその目をこちらに向けた。



「……俺を、変だとは思わないの」




そう呟いた顔は、酷く悲しげで。こちらの心が痛くなるような、不安そうな顔をするロイドに思わず目を見開いてしまう。そんな私を見たロイドは視線を落とし、何でもないと言って私の手を離し、背を向けた。


何故、そんな事を聞くのだろうか。

ふと、私は考える。彼の情報は知っているつもりだ。だが、小説の中で出てきた情報でしかなく、設定上でしか知らないのだと気がついてしまった。ただ人と関わらず、自由に好きなことをする。そういう人物だからこそ、心が強いのだと思っていた。でも…そうじゃないとしたら?


彼について、私はあまりにも想像で決めつけていたのではないだろうか。それ程までに悲しげな表情を見た私は酷く心が痛くなる。普通と違うのは天才だからと、当たり前に受け入れていたのは物語として彼を見ていたからかもしれない。


あんな表情をするという事は、そういう経験があるからだ。物語としてではなく、生きている人間として。




「ロイド!」


「え?何……わ、ちょ…!?」




私は歩いていくロイドの名を呼び、振り返るのを待たないまま彼に抱きついた。驚いた様子の彼はバランスを崩し、後ろへと倒れ込む。私は覆い被さるようになりながらも、彼の腰に手を回し強く、強く抱き締めた。


上半身を起こすロイドはどうしたのかと、狼狽えるような声で私の名を呼ぶ。私は抱き締めたまま顔を上げ、驚いているロイドの目を真っ直ぐと見た。



「ロイドは変じゃないし、怖いと思ったことなんてないよ!ずっと優しくて、ずっとかっこいいんだから!」


「は?なんだお前、本当にどうした…」


「私が知らない事を沢山知ってるし、いっぱい知ってるのは凄いことなんだから!私の手をずっと握っててくれたのは、私が不安にならないようにって優しさだし!困ってる人に手を差しのべられるのは、心の強い人なの!そんな人を怖いなんて思わないし、変なところもない!」


「……お前、何で泣いてるの」




思ったことを全て言った。ただ、怖くも変でもない、優しい人なのだと伝えたかっただけなのに。何故か歪む視界の正体は涙だったようで…涙が出てくる理由は分からなかったけど、その中でも彼の赤い瞳だけは鮮明に映される。


彼は今、存在している。

この世界で、人として生きている。

物語の中のキャラクターではなく、一人の人間だ。


今更ながらそんな事を理解した私は、キャラクターとしてしか見ていなかった彼に対し申し訳なさを感じていた。これからはちゃんと、この世界に生きる一人の人間として、自分含め全ての人たちを知り、生きていかなければと。


彼は私の涙を拭うように指の腹を当ててくる。

それ以上何も言わなかったけど、私はルネが人を連れて戻ってくるまで、ロイドを抱き締めたまま泣き続けた。


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