1/33
月夜の中で。
「…サーニャ。お前だけは俺の傍から離れるな。」
月夜に照らされたその人は、漆黒の髪の隙間から覗かせる赤い瞳で私を見た。
何処か寂しげで、だが自信を感じさせる瞳に私は後退りそうになる足に力を込める。そのまま一歩、また一歩とその人の方へ足を進め……こちらを見下ろす彼の頬に手を添えた。
彼はその手を包み込むように自身の手を添え、目を閉じながら宝物を壊さないようにと言わんばかりに優しく顔を傾ける。
「頼む、誓ってくれ。お前以外を愛すことなんて出来ない」
「……ロイド、私は…」
ゆっくりと開かれた彼の目を見て、私は言葉を繋ぐ。
揺れ動く彼の瞳は月に照らされ、宝石のように輝いた。
私は……。
抱き締められた私の言葉は夜に熔けて消えていく。
その言葉は、彼にだけ。しっかりと届いたと信じて。
これは私が、私たちが過ごしてきた時の中で、
最も記憶に残るであろう…そんな夜の出来事だった。