脳残し鳥
怖い夢を見た。
確か近くに廃墟のある、そんな薄汚れたホテルだった。
廃墟へ肝試しに行く若者が絶えず、ホテルも細々と営業しているような、そんな場所に例に漏れずサークルの皆と遊びに来ていたのだ。
草木がぼうぼうと生い茂り、ホテルの外壁には平気でツタ植物が張り巡らされ、所々へこんだり罅が入っていたりと、地震でもあれば一発で崩壊しそうなボロいホテルだった。
ホテルロビーにはまるで 「スズメバチに注意!」 のような 「脳残し鳥に注意!」 という意味の分からない文句が踊ったポスターが張ってある。
そのポスターによると、どうやらその鳥は廃墟を拠点とした妖怪のようなものらしい。
ここら一帯で噂になっている都市伝説のようなものなのだろうと当たりを付け、皆いよいよ楽しい肝試しになるぞと盛り上がった。
私達はその名前から 「何故脳吸い鳥ではないのか?」 と軽い気持ちで議論をしながらそれぞれの部屋に荷物を置きに行く。
サークルのメンバーは男がA男、B男、C男。そして女がD子、E子、F子、そして私だった。
女子は資金の問題から二人ずつで相部屋にしていたが、そんなもの関係無いとばかりに男はシングルでそれぞれ部屋をとっていた。
それに文句を付けに行った子もいたが、結局かわされていいように弄ばれてから帰ってきたようだ。
この泊まったホテルは近くに町がないのでちゃんと朝昼晩と食事が出るようになっている。
しかし、所詮はボロホテル。普通のホテルのようなバイキング形式でもなく、注文形式でもなく、オーナーが自身の食事のついでに私達の分まで作っているような、手抜き感溢れるような食事だった。
それでも作ってくれているのだからとカレーを完食する女子陣と、30分程行った場所にあるコンビニへと夜食を買い出しに行った男子陣で別れて行動していた。
風呂は共用のものしかなく、間違いが起こる前にと女子は全員さっさと風呂に入った。
4人でロビーを拠点にトランプをしながら話していると、夜の9時くらいに男子陣が帰って来た。3人ともなんだか奇妙な様子で、C男は酷く怯えているようだった。
なんでも、例の廃墟の近くで変な鳥を見かけたらしい。
C男はその鳥と目が合い、 「ゲッゲッゲッ」 と鳴くその鳥に朝見たポスターを思い出してしまったのだそうだ。
その鳥は箸のように細長い嘴を持ち、頭は小柄だが喉が大きく膨らんでおり、褐色の翼は暗闇の中では視認しずらかったのだとか。
そのせいで全貌は確認できていないようだが、C男は嘴だけが異様なほど鮮やかな赤色だったと震えながら言っている。
周囲から聞こえるカエルの声によく似ている声をしているようで、現在も聞こえてくるカエルの大合唱に酷く怯えている。
まあ、眠さと暗闇で変な勘違いでもしたのだろうと結論付けて全員自重し、眠りについたのだが…… まさか肝試し&廃墟探索をする前日にこんな奇妙な出来事があるとは思わなかったのだ。
そして翌日の朝、酷く取り乱した様子のE子が部屋のドアを立て続けに連打し、叩き起こされたことでF子と共に外に出る。
未だ早朝。常識外れのその行動に呆れ果てていたが、酷く憔悴した様子の彼女に私達はなにかがあったのかと質問した。
どうやらD子が部屋におらず、行方不明になっているらしい。まずこちらに来ていないかと確認しに来たらしいのだが、D子は来ていない。
これは間違いが起きたのではないかと笑いながら順にA男の部屋、B男の部屋へと突撃していったが空振り。
男二人は 「怯えてたくせにただのポーズかよ〜」 だとか、 「臆病なくせにやるなぁ」 とにやにや笑いながら前を歩いている。
さりげなくF子に後で部屋に来るようにだとか、にやにや笑いつつも私達にセクハラをしてくるのをピシリと叩き、C男の部屋に着いた…… のだが、応答がない。
「お? 昨夜はお楽しみにでしたってか? っかー! 羨ましいじゃねーか! 叩き起こそうぜ!」
その一言が切っ掛けだった。
老朽化で軋む、いつまでも応答のない扉を無理矢理こじ開けて男子二人が中へ。
そして、私達も中に入るとそこではD子が放心して座り込んでいるのが見えた。
裸の彼女に男共が反応がないのはつまらないと言うように悪戯気味にセクハラしたりしながらふざけている。
C男は何処にもおらず、シングルのベッドは彼女一人分の抜け出た跡がある。
ふと、彼女の視線の先を辿るとベッドに辿り着くことに気がついた。
スタスタと歩き、布団をばっと捲る。
色めき立っていた他の人達は笑っていたが、それが悲鳴に変わるのはすぐだった。
布団を捲ってあったのは、白に散る赤の血飛沫と黄色いような白いような、ぶよぶよの液体…… 脳だけを残してC男は何処かへと消えてしまったのだ。
その所在に気がついてしまった皆が喚く。
早朝、静かなホテルにカエルの大合唱が響き渡っていた。
……そこで私は、目が覚めた。
案の定、家の外では夢の中と同じカエルの合唱が響いていたのだった。