たい焼き・卵
『たい焼き』
目が覚めると家中が煙だらけだった。
緊急事態かもしれないのに暢気にも私は煙が来ているであろう部屋に向かい、扉を開けた。
そこでは、両親が魚を焼くように網でたい焼きを焼いていた。
納得して私はまた寝て、目が覚めた。
起床した際の第一声はもちろんこれだ。
「いや、たい焼きを網で焼くってなんだよ」
『卵』
そこは白い廊下だった。病的なまでに白い廊下に、瞬くこともなく出力を落として暗いオレンジ色になった蛍光灯の光。ぽつぽつと存在する大きな卵。
そこを私は恍惚とした笑みを浮かべながら歩いていた。握りこぶしにし、両手を顔の前に添えて惹かれるように廊下を進む。その吐息は甘く、誰もいないその場所に喜びを感じているようだった。その場でやることやり始めてしまいそうなほどの歓喜と恍惚。ときどき武者震いするかのように立ち止まり、ひたすら真っ直ぐの廊下を進んでいく。脇にある諸部屋は無視して進む。
とある部屋の前で完全に立ち止まり震える手で取っ手を引く。中はどうやら手術室のようで、椅子のようなものが置かれたり、血のついたメスが置かれていたり、少し荒れているだけだ。私は喜んで手術台の上に座り、目を閉じた。
次に目を覚ましたとき、私はまた白い廊下にいた。
少し変わっていることがあるとすれば、ダチョウのそれよりもなお大きな卵が点々とオブジェのようにあることだろうか。
すぐ傍にある手術室を通り過ぎ、また歩き出す。顔は貼り付けたように愉悦か、恍惚の表情をしたままで、手の先程の位置のまま。廊下を最奥まで進み、また私は扉に手をかけた。
中に入ると、先程までとは比べ物にならないほどの数の卵がその部屋にはあった。
私はそれを見て満面の笑みを浮かべ、部屋の中央にある一層大きな卵に近寄った。すかさずしゃがみこみ、頬を卵の表面に当て、両手で抱きこみ、撫でた。それを暖めるように。ひたすら愛おしそうに。我が子を愛でるように。
ひっそりと、その暗い部屋で私は妖しく笑った。
その後、巨大卵以外の卵が割れて犬が生まれ、私は大歓喜した。
犬は卵生じゃありません。