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モモの告白

 エメリの言葉にほっとしたモモは、慎重に言葉を選び話し出した。この人達は悪い人では無さそうだが、自分が異世界からやってきた事は隠さねばならない。あの魔法使いの少女、エメリは違和感に気がついていそうだが、彼女が黙ってくれているのだからここは考えてうまく切り抜けなければならない。

 

「僕は2週間くらい程前に気がついたらここにいました。ここがどこか全くわからず、覚えていたのは、自分の名前がモモだって事だけ。

 お腹が空いてふらついて行き倒れになりそうなところを、親切なおかみさんが助けてパンをくれて……」


 この世界へ迷い込んだ時、たまたまパジャマ代わりの高校のジャージ姿だったのが幸いだった。髪を後ろで縛った華奢な外見から、パンをくれたおかみさんはモモの事を少年だと思い込んだ。本当は22歳の女なのに。


 変わった服だね、息子の子どもの頃の服があるからあげるよ、その代わりあんたが着ているのをおくれよ、と言われた。おそらくここは異世界で、ここで生き抜く為にはこの世界に馴染まねばならないと悟ったモモは、言われるままに服を交換した。


 おかみさんの息子の子どもの頃の服というのは草臥てはいたがサイズはモモにぴったり合った。

 良かったら今晩は納屋で寝ていくといいよとおかみさんに言われて、とにかく疲れていたモモはその言葉を有り難く受け取ったのだが。


「そして納屋に積み上げてあった藁に寝そべっていたら、外で声が聞こえてきた」


 それはおかみさんの息子、つまりこの服の元の持ち主だった。モモの着ていた服に驚いた息子は、こいつはどこかの貴族か金持ちの子どもで誘拐でもされたのを命からがら逃げ出したのだろうと考えた。

 痩せているが顔立ちは綺麗でそこはかとなく漂う上品さは隠せない。こいつを売り飛ばしたら金になると、息子は判断したようだった。そして夜中にこっそりと納屋に忍び込んできた息子は、おい、起きろ!と、モモに触れようとした。まさにその瞬間にバチバチと静電気が走ったのだ。

 痛ぇっ!この野郎なにしやがるんだっ!と、息子は激怒して殴りかかってきた。


「だから僕、怖くて叫んだんだんです。みんな燃えてしまえ!って」


 震えるモモをエメリが抱きかかえた。怖かったね、辛かったねと、頭を撫でる様子に、カルは尊い……と胸を掻きむしっていたが、冷静なサフィは続きを促した。


「で、燃えたのか?いや、燃やしたのか?」

「わからない。気がつけば納屋は燃えていました。おかみさんの息子は腰を抜かしてへたり込んでいて、母屋から飛び出して来たおかみさんは、火付だっ!火付泥棒だ!って叫んだので、僕は怖くなってその場から走り出しました」

「そうか。それで森へ?」

 モモはこくりと頷いた。


「夢中で走りました。途中果物を見つけたり、川の水を飲んだりしてなんとか飢えをしのいで、森へたどり着いたんです」


「この村を通らなかったという事は反対側からやって来たのか。ここを走り抜けようとしたら、暇な爺さんらが見つけて構い倒すだろうからなぁ」

 サフィは遠い目をして、エメリの影響で鍛えられていく村の年寄り達を思い浮かべた。


「少し前から森で食い散らかされた動物の死体が見つかっていたんだ。村の者達が魔物を恐れて俺たちに調査を依頼した。お前が食料として動物を狩ったのか?」


「必死だったんです。どうやって狩るのか、捌き方もわからなくて。それであんな風に無駄にバラバラにする事しか出来なくて」


「見たところ、お前は貴族か金持ちの子どものようだから、ああいった大型の動物を仕留めて捌いたことなどなかっただろうに」

 カルが、お前小さいのに偉いなあとしみじみと言った。


「どうやって仕留めたんだ?あと捌くためのナイフとかどうしたんだ?それにどうやってあれらが食べられるとわかったんだ?毒があるかもしれないんだぞ?危うく命を落としていたかもしれなきんだぞ」


 矢継ぎ早の質問にモモは身震いをした。あっち行け!と願ったら、動物だか魔獣だかは勝手に爆死したとは言えなかった。どう答えようか思案していると、答えたくないのだと察したサフィが軽くため息をついた。


「責めているわけではないんだ。何事もなく無事だったから良かったものの、死にたくなければ訳のわからない物を口にするなよ。

 エメリ、こいつの体内はどこも異常はないのか?」


「た、多分大丈夫だと思います。食べる前に浄化というのをしてみました。調理については、簡単な魔法が使えるみたいで」


 エメリが答える前に、モモが喋った。黙っていてもいずれバレてしまうなら、魔法が使える事くらいは告白しても良いかもと判断したのだ。エメリも魔法使いだし、この世界はいわゆる剣と魔法のファンタジーの世界なのだと受け入れたら少し気持ちが楽になった。


「浄化?え?鑑定したの?」

「鑑定っていうのでしょうか、食べられるのかと考えたら、毒の有無や食べられる部位がわかったんですけど」


 サフィ達は驚きの表情で固まってしまった。これはとんでもないのを拾ってしまったかもしれない。もしも、エメリと同じ程度の能力を持つとしたら、とんでもない魔法使いになるだろうし、もしや、もしや……


「あー、モモ。君は気がついたらここにいたと言ったが、前世の記憶があったりはしないか?」

「前世ですか?ありません」

「無いのか。この家の中を見て何か思う事はないか?」

「……暮らしやすそうですね」


 カルが立ち上がって某キャラクターのぬいぐるみを抱えて持って来た。


「俺さ、こいつが大好きで、月いちで通ってたんだ。

だからこの家をリフォームする時に、エメリに作ってもらった。お前はどれが好きだ?」


「ぼ、僕ですか?僕は特に好みはありません」


 そう、モモは某有名テーマパークにはさほど興味がなかったのだ。ただ一般常識としてキャラクター名がわかる程度の思い入れしかなかった。


「そうかー!もしや坊主も転生者かと思ったんだがな!違ったか。残念だ」


 さして残念でもなさそうにカルが齎した言葉は、モモに少なからずショックを与えた。


 転生者ってこちらの世界に生まれたって事だよね、

じゃあわたしはいわゆる転移者で間違いない……のかな?

 どうしよう、女だって事と転移者だとバレたらどうしたら良い?

 日本で読んだファンタジー小説の内容がぐるぐると脳内を巡る。


 もしや!あたし、魔法使いとしてやっていけるのかな?


「皆さんは転生者って、どういう意味ですか?」

 取り敢えずまずは確認だ。



 



お読みいただきありがとうございます。

モモ(が仲間に加わった)編はあと2.3話続いて一旦休止の予定です。

誤字脱字は適時修正いたします。

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