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迷子を拾いました

申し訳ありません。一度アップしましたが、内容に満足がいかず全面改稿いたしました。

2度目になりますが、お読みいたたければ嬉しいです。


 いつものように魔獣討伐に出かけたエメリ達3人は、いつもと違った様子に戸惑っていた。


 逃走から約8ヶ月、冒険者パーティ深夜はなんとDランクに昇格していた。異例の速さである。目立つ事は避けたいというサフィの意思を無視して、突っ走った残り2名のやらかしをうまく片付ける為には、周囲を納得させる権威が必要だったのだ。


 さて、祖国の噂は少しは耳に入ってくる。王太子の成婚があったりして祖国はお祭り騒ぎである。そして早々に行った偽装工作が功を奏したのか、追手が現れる事はなかった。


 以前、魔獣の襲撃から守った村の老人たちと仲良くなったエメリは、本来ならDランク冒険者が引き受けないような小さな依頼も受けている。畑の開墾などはそもそも村人の仕事だけど、年寄りにはきつい作業だから人助けのつもりで、手の空いている時は依頼を受けるのだ。

 エメリが個人的にやっている事なので、サフィ達は基本的に口も手も出さないのだが、今回は少し特殊だった。

 村の外れにある森に大型の動物が住んでいる痕跡があり、それが魔獣かもしれないと言うのだ。

 森には様々な恵みがあるので、村人達は定期的に森に入る。ある日、木の実や山菜を取りに行った村人が、無惨に食い散らされた動物の死骸を見つけてしまった。それは大型捕食動物の仕業なのかもしれないが、人のやり方でない事は確か。人なら毛皮や牙といった貴重な素材を無惨な状態で残していく事はないだろう。そこで不安にかられた村人達が意を決してギルドへ調査依頼を出したのだった。


 ちょっとした困りごとなど引き受けないという、変にプライドの高い冒険者も多い中、Dランク冒険者パーティ深夜(ミッドナイト)の3人はなんの迷いもなく引き受けた。村のお年寄りに懐いているエメリにすれば、おじいちゃん達の為に何とかしてあげたい気持ちでいっぱいだった。




 鬱蒼とした森に乗り込んだ3人は、件の場所を確認するも怪しげな痕跡は残っていない。エメリの魔力察知にも何もひっかからないよ、と告げようとしたその時事態は動いた。


 遠くに聞こえる悲鳴と咆吼、深夜の3人は駆け出した。ザクザクと下生えを踏みしめ走る。大きな跳躍の出来るエメリは、上から悲鳴の主を探そうとしたが、サフィに止められた。誰がいるかわからない中でエメリの力を迂闊に使うのは危険だ。ややこしい事になる予感しかない。

 エメリが魔法使いとしての能力を抑えても、こちらには赤毛の大剣使いカルがいる。サフィも決して弱くはない、寧ろ強い。3人はよっしゃ!と気合いを入れて悲鳴の方向へと進んだ。



 目の前の光景に3人は言葉なく立ち尽くした。


 ズタズタになった肉塊、あたりは血の海。まるで内部から破壊されたかのようだ。残された部分から推測するに、かなり大型の熊タイプの魔獣のようである。

 そしてその場にあまりに場違いな人間がひとり、小刻みに震えて立っていた。


「おい!大丈夫か?怪我はないか?」


 カルが声をかけて近付くと、その人間、小柄な少年はひっと怯えたように後退りした。


「知らない、何もしていない」

 顔は青ざめているがきちんと受け答えはできる様だ。明るい茶色の髪に黒い瞳をした少年は、大剣を背中に背負ったカルに怯えていた。前に出ようとしたエメリを制して、サフィが少年の方へとゆっくりと歩み寄る。


「俺たちは冒険者だ。最近この森で動物の無惨な死骸が発見されたんだ。地元の住民達から調査依頼を受けてやってきたら、お前を見つけた。

 悪いが俺たちと一緒に来てくれないか。まずはお前を保護しなくちゃならないからな。汚れを落として腹に何か入れたほうがいい。ここじゃ気分悪いだろう?」


 怯える少年は後退りしながら叫んだ。

「つ、捕まえて売り飛ばすつもりなんだろうっ!親切なふりにはもう騙されないんだから!」


 少年はサフィを睨むと、何か言葉をを唱えようとした。咄嗟にエメリが少年に魔法をかけ言葉が言えないようにする。

 驚愕の表情をしていた少年は諦めたのかその場にじっと立っていたので、エメリはじりじりと近寄った。

「返り血を落とそう。それで食べて寝て、話はそれから、ね?」

 エメリが首筋に手刀を軽く当てると少年は意識を失った。



 後始末と他に魔獣がいないか調べ、出来れば討伐するためにカルとサフィを森に残して、エメリは少年を抱えて森に程近い村に戻ってきた。村人達と仲良しのエメリは住む者のいない荒屋を譲り受け、外観はあまり変えずに中を弄って快適に過ごせる様にしている。そこが深夜のベースキャンプでもある。


 少年は目を覚ますと驚いた。なぜならそこにあるのはまるで某有名テーマパークのキャラクターだったのだ。思わず声をあげそうになった。しかし自分の身の上を明かすわけにはいかない。この人たちは敵が味方かわからないのである。

 少年は恐る恐るエメリに声をかけた。

「あの……」

「気が付いた?まずはお風呂に入っておいでよ。脱いだ服に清浄魔法かけてあげる」

「あ、いや、待って。それは困る」

「なんで?あ、あなたが女の子だってバレるから?」

 少年は絶句した。


 エメリは、風呂で汚れを落とし、暖かいスープとパンを食べている少年をそっと観察していた。

 明るい茶色の髪は後ろでひとまとめにされており、瞳は黒曜石のようだ。綺麗な顔立ちをしている。かなり華奢でエメリと同じくらいの背丈だ。食事の作法はきちんとして上品だし、どこか身分もある家の子ではないかと思われる。そして身の安全を守る為に少年のふりをしているのだろうと思った。

 

 森で遭遇した時、男達は気がついていないが、この子は少女だとサフィは直感した。男と女では根本的に骨格が違うのだ。男っぽい女の子も前世ではたくさん見かけたけれど、初潮を迎えたらどうしても体型は変わってしまう。この子も痩せてはいるが、腰のあたりの肉のつき方は少女であることを隠せなかった。13.4歳だろうかと見当をつけた。


 少年は目覚めてから部屋の中をこそこそ見て驚く表情をするので、もしかしたらこの子も転生者かもしれないと思ったが、エメリは無理に聞き出すつもりはなかった。この子が落ち着いて自分から話すまで待とう、きっと心の整理もついてはいないだろう。


「あの、僕が女だって黙っていて貰えませんか」

「わかったわ。男どもには秘密にしとくね。危険から身を守るためには偽装も必要だものね。

 でもわたし達はあなたに危害は加えないわ。だから信用していいと思ったら、あなたの事を教えて欲しいな。言える範囲で良いから」

「……はい」



 森から戻ってきたサフィは早速尋問を始めた 

「そろそろ事情を話して貰えるかな。どうして1人であそこにいた?お前の親は?あの熊をやっつけたのはお前か?」


「やだ、サフィ、この子の名前はモモよ。そんなに矢継ぎ早に問い詰めたらモモが混乱するわ」


「そうだよ、サフィ。子どもなんだから優しくしてやらないと坊主が怯えてしまう」


「カル、モモは16歳だよ、子どもじゃないから」


「なんと!坊主は16だったのか!16なんてのはまだまだガキだよ。お前苦労したんだなあ、そんなに小さくて痩せてて、筋肉もついていないしなんて細い腕なんだ」


 カルは内心で、坊主は女装が似合いそうだなあと思い、久々にオタク心が湧き上がるのを感じた。前世での彼は腐男子で、趣味でその手の絵も描いていたので、サフィとモモとのカップリングが絵になりそうだと、ちょっとだけワクワクしていた。


 モモは何と答えようか迷っていたが、エメリが頷き返してくれたので勇気を出した。


「あの……僕、道を歩いていて気がついたらここにいました。どこからどうやってやって来たのか、全くわからないんです」


「そうか。エメリ、彼の言う事に間違いはないのか?自白魔法とか?」

「だめよ。この子に使うにはキツすぎる」


 サフィを目で制したエメリは、サフィとは情報を共有する必要があると感じた。カルは駄目だ。万が一モモが女の子ってわかったら、あいつ挙動不審になっちゃう。

 エメリは、カルの性的指向がどっち向いてるのか、男の子が好きなのか単にBLが好きなだかなのかちょっと自信がなかったが、モモの事を真剣に心配するカルの態度から、しばらくこのままにしておこうと考えた。

 そもそもモモとはここで別れるかもしれないし、そうなれば男の振りをしている方が安全なのだから。


「何も覚えていない?わからないと?それを俺たちが信じると思うのか」


「サフィ!魔物に襲われそうになってたんだよ。気が動転してるのよ。そんな言い方しないでよ。

 モモ、わかる範囲でいいから今までの事を話してくれるかな?」


 

お読みいただきありがとうございました。

モモは、恐らく転移者ですが

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