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パーティを組みました

断罪されて処分される寸前の転生者たち、サフィール、エメランデ、カルセドの元日本人3人組は、エメランデの転移魔法でさくっと牢から脱出し、祖国から離れた国で冒険者になりました。

 光が差し込まない暗い森に断末魔の悲鳴が響く。

それは思わず耳を塞ぎたくなるほど不快で吐き気を催す音の連なりだった。

 

「またつまらないモノを斬ってしまった」


 纏わり付いた血を落とすように大剣を振った赤毛の男が呟く。彼の足元には猿に似た大きな魔物が倒れていた。


「南無。成仏しろよ」と手を合わせ、死んだ魔物をマジックバッグに収納する。

 この便利なバッグの容量はかなりのもので、中には既に数頭の魔物が収められている。仲間の1人が作った物だが本当に便利な代物だ。買うとなると相当の覚悟が必要だろう。


「おーい、カル!片付いたら帰るよ」

「了解!」


 カルと呼ばれた背の高い男は声を掛けてきた少女の元に向かった。



「今日もやっつけまくったね!」


 小柄な少女がお金で膨らんだ小袋を片手にニンマリ笑った。守銭奴のような人相の悪さである。


「お前たちさ、自重って言葉知ってる?目立ったらいい事ないの!対外交渉一手に担ってる俺の苦労を少しは考えろよな。

 そんでもってカルさんよ、『あの赤毛の大男はどこかの国の騎士団に所属していたのか?見事な剣さばきである、太刀筋に隠しきれない気品を感じる』んだとよ。

 それからエメリ、お前さぁ魔力値が膨大だからって頼まれて気軽にホイホイと結界張るんじゃねーぞ。ここの領主様に目ェつけられちまっただろうが!」


 長い黒髪を後ろでひとつにしばった美しい男が、顔に似合わない砕けた口調で、仲間に苦情を申し立てた。


「やだなぁ、サフィってば口煩いオカンみたいだよ。

 村の人達が困ってるんだから少しくらいいいじゃん。お礼にほら、食べ物いっぱい貰ったから、ね?」


 エメリと呼ばれた少女は自分のマジックバッグから

湯気の立つ料理のあれこれを並べ出した。このマジックバッグは自分で作った物だ。仲間達にもそれぞれ渡してある。容量はほぼ底なしの、非常に便利な逸品である、値段などつけられる物ではない。まさに国宝級の逸品であふ。そんなスゴイものをささっと作ったエメリは、サフィとカルにも惜しげもなく渡している。


「領主か。ここの上は比較的まともだ。専属騎士団もよく統制されているし。

 それでも使い勝手良くこき使われたり、搾取されるのはかなわん。そろそろ拠点を変えるべきだろうか」


 テーブルに並んだ素朴だが滋養たっぷりのスープが熱かったのか、赤毛のカルはふぅふぅと冷ましている。


「ありゃ、カルは猫舌だったね。はい、氷入れて冷まして。

 そっか。せっかく村のじいちゃんばあちゃんと仲良くなったけど、仕方ないよね。貴族には関わりたくないもんね」


「お前らなあ、口先ばっかりで危機感が薄いんだよ!

エメリもほいほい氷出してるんじゃねぇぞ。俺なんて外見変えて慎重に行動してるってのに、カルもエメリも偽装もしねぇし。まあ、エメリは元々が地味だから、外見変えたほうが目立つかもしれんがな。カルはその赤毛、ほんっと目立つからせめて色味を変えてくれよ」


「嫌だ。燃える赤は沸る血の色、男のロマンだぜ」


「むぅ、元が地味って腹立つわね。貴方の外見を変えてあげたのは誰かしら?それも顔立ちは変えたくないから髪と瞳の色だけって、日本人に戻してくれよと我儘言った子は誰かしら?」

 

 エメリことエメランデ(元男爵令嬢)は王子を誑かした罪で、サフィことサフィール(元王太子)は王族たる資格なしと断罪されて、2人が城内の牢屋に入れられたのは半年前の事。

 どこかに追放されるのかななどとのんびり構えていたら、サフィの護衛騎士のカルことカルセドがやってきて、このままここにいると殺されてしまうと教えてくれた。

 そこで身体的危機によって、封印されていた魔力リミッターが外れて魔法に開眼したエメリが、ふたりを伴って城からの脱出に成功したのだった。


 実は彼ら3人は日本からの転生者で、3人が3人とも断罪事件の際に前世を思い出していた。

 元々、冒険者になりたいからこの国から逃げ出そうと相談していたエメリとサフィにカルが加わって、彼らの逃避行が始まった。


 それから半年が経過していたのである。その間、彼らが辛苦を舐めたかというとそうではなく、日本でボーイスカウトのリーダーをしていてサバイバル能力の高いサフィの知識を活かしたり、エメリの魔法チートが炸裂。優れた剣士のカルはカルで、変な技名を名乗りながらの魔物退治(名乗ると効果が増すらしい)と、三人寄れば文殊の知恵とばかりに、思いの外楽しい冒険者生活を始める事になったのだった。

 但し、祖国の追手から逃げる必要があるので、決して目立ってはいけない。だから「自重しろよ」とサフィは口を酸っぱくして注意していた。


 もちろんサフィとて対策を考えなかったわけではなく、逃走から2週間後に魔獣に襲われて3人とも死亡という偽装工作をしたのだった。

 食い散らかされた死体は原型を留めず、ただしその周辺には逃げた時に来ていた豪華な衣装や、サフィの持っていた王族の証の装身具などを散らばせておいた。エメリは偽装遺体を動物に勝手に持ち去られない様に保護をかけていた。彼らの惨状を見つけたのは冒険者達で、彼らが持ち帰った装身具により死体の身元が判明した。全ては目論見通りである。




 3人が今滞在しているのは、祖国から遠く離れた土地だ。この世界は共通言語と共通の貨幣が普及しているので、どこへ行っても余程の事が無い限り生きていける。

 エメリの転移魔法を何度か繰り返してたどり着いた国は、食べ物が美味しいところだった。冒険者登録を済ませて3人が初めにした事は食べ歩きだった。元日本人達は米に飢えていた。町中のバザールで米を発見して狂喜乱舞したものだ。今エメリのマジックバッグには白米が大量に収納してある。今後他の国へ移動しても、当分は米には困らない筈だ。


 さて、彼らはパーティを組んでギルドに登録した。名前は『深夜』である。

 カルとエメリは『紅の使者』だの『疾風のときめき』だのカッコ良さげな名前を何個か提案したが、全てサフィに却下された。


「シンプルで目立たない単語がいいんだ。やたら強そうなのとか、ときめいてたら駄目だろ?」


 正論である。結局サフィの案が採用されてこうなった。その深夜の三人組は目立たぬように、でしゃばらないように心を配っていたが、大剣を背負った赤毛のカルは軽やかな剣捌きで魔物を屠っていくし、小柄で身軽な少女は見かけから想像できないほど強烈な魔法で、魔物を最小限の傷で仕留めてしまう。

 彼らはマジックバッグ(エメリ作製)にそれらを納めて、ギルドで買い取ってもらう。ランクに応じた依頼をこまめにこなし続けると異例の早さで初心者FランクからEランクに上がってしまった。目立つことを避けたいので、昇格についてはサフィは全力で拒絶したのだ。

 しかしサフィには悩みがあった。女性冒険者達から理不尽な要求と無駄な期待をされて辟易していたのである。

 駆け出し新人パーティは先輩達の言うことは聞くべしとか言い出して、見栄えの良いサフィとカルだけを連れて魔獣討伐の遠征へ行くと言い出した女性冒険者達のパーティがあった。当然エメリは反発するし、サフィも丁重に辞退したのだが、意のままにならない事に焦った女性冒険者が、サフィに媚薬を盛ろうとしたのだ。性格は難ありでも外見は特上の男である。自分のモノにしたかったのだろう。


 ハニトラ対策でエメリが作った毒物を拒絶するポーションが役にたち事なきを得たが、サフィはこのパーティの所業をギルドに報告、彼女たちは厳罰を受けることになる。そしてその際に、面倒事を回避するためにはランクアップした方が良いと助言を受けたのだった。

 

「顔がいいのも困ったもんだね。サフィの外見は王子様だけど中身は毒舌の世話焼きオカンだし、カルは硬派そのものに見えて、中身は可愛い物が大好きな夢見る乙女だもんね」


「そういうお前は、貧相な身体付きなのに、信じられないくらいの魔法使いだもんなあ。人は見かけによらないもんだ」


 貧相な身体は余計だと憤慨しながらも、エメリはうんうんと頷いた。


「なにはともあれ、逃走から半年。大きな揉め事もなく仲良くしてくれてありがとう。

 サフィもカルも大事な同郷の仲間、これからもよろしくね!」


「こちらこそ」


 3人はワインを満たしたグラスをコツンと合わせた。

 明日はDランク昇格試験。3人の冒険はこれからも続くのだ。

 


お読みいただきありがとうございます。

不定期でのんびり更新いたします。

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