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何とかなるものです

最終話です。



 翌朝、元王太子サフィールと元男爵令嬢のエメランデ、そして護衛騎士のカルセドが忽然と消えてしまった事で、城内は大騒ぎになった。

 彼らを始末するという密命を帯びた護衛騎士のカルセドまでもが行方不明となって、パール公爵は内心焦っていた。

 抹殺計画の事は国王は知らない。カルセドに罪を被せて口封じするつもりでいたのに、彼もまた姿を消してしまった。元王太子達をどこかへ連れ出して、そこで処分したとも考えられない事もないが、それはそれで困る。必要なのはサフィールが生きていないという事実なのだから。


 溺愛する娘を貶めた元王太子が生きていれば、将来国に問題が起きた時にややこしくなる事は必然だ。現にサフィールを支持する貴族は今もいる。イオライトが政策で失敗したり、彼らに子どもが生まれなかったら、サフィールを擁立する声が上がるかもしれない。

 国王はメイド腹の子を王太子にする程、鷹揚と言えば聞こえはいいが、つまりは事なかれ主義で、王妃もまた然り。側妃へ対抗するためだけに、サフィールをペットのように可愛がっただけで、いざとなったら守りもせずに責任放棄というのが、国王夫婦の真実である。


 そんな国王と血筋の卑しい王子にこの国を任せられないと、自分本位の正義感で立ち上がったのがパール公爵だった。そこで息子の第二王子を王太子にしたい側妃と手を組んだものの、肝心の第二王子はそれ程乗り気ではなかった。イオライトは堂々たる態度と見目と出自の良さにも関わらず、中身は意外と平凡な男だった。いわゆる見掛け倒しというやつである。

 兄が貴族学院卒業パーティで断罪される時も婚約者がいなかったのは、裏を返せば婚約者候補達が辞退し続けた結果なのだ。

 サフィールと形だけの婚約中であったルビニアは、サフィールと出くわす時だけイオライトの側にいたので、イオライトの本質を理解していなかった。婚約者になって初めて知るのである。

 なんとイオライトはマザコンだった、それも重度の。



 元王太子と元男爵令嬢と護衛が王都から逃げ出した事件は、いつのまにか有耶無耶にされた。彼らは辺境の開拓地に送られた事になっている。

 所詮は世間知らずの王族と貴族令嬢だから、逃げ出したとてふたりが無事に生きていける術はないだろう。護衛騎士だった伯爵子息はきっと彼らと離れて、冒険者にでもなっているのかもしれないと、勝手に推測されていた。そしてそれは半分当たっていた。


 前世の知恵と知識を思い出した転生者3人組は、ちゃっかりと生き抜いていた。

 ボーイスカウト時代にサバイバル術を会得している元王太子と、想像力と科学知識を駆使して魔法を繰り出す元男爵令嬢、元々剣技に優れていたのを魔法で補強してもらった結果無双状態の元護衛騎士の3人は、遠く離れた国で冒険者として人生を謳歌していたのだ。



 ルビニアは落胆していた。 

 目の前の美しい婚約者は、母親と並んで座り、2人は菓子をお互いに食べさせあっている。


「イオちゃん、美味しいわね」

「ええ、母上。さすがパール家のパティシエだね。本当に美味しいよ、ルビニア。さぁ、君もひとつ食べたまえよ」

 

 側妃に食べさせたその指でつまんだ菓子を、身を乗り出してルビニアの口元へと持ってきた。

 ルビニアは曖昧に微笑んでやんわりと拒絶したのだが、側妃は眉を顰めて文句を言った。


「まあ、ルビニアはイオちゃんが手ずから食べさせてくれるものを拒否するつもりなの?」


 ルビニアは泣きたくなった。こんな筈じゃなかった。


『素敵なジュエル(殿方)を集めちゃうぞ』の内容をを最初に改変したのは確かに自分だ。

 10歳でサフィール王子を婚約者だと紹介された時に、前世と同時にこのゲームを思い出したのだ。ゲームのヒロインのエメランデがどの攻略者を選んでも、自分は悪役令嬢として断罪されてしまう。最悪は死の場合もある。だから死なない為に策を練った。


 元からサフィールには興味がなかったので、相手に執着されないように初めから交流は避けた。

 そして、凡庸で出自のよろしくないサフィールは切り捨て、弟のイオライトを狙った。正直イオライトの自信に満ち溢れた凛々しい顔が大好きだった。ゲームの中のイオライトは優れた頭脳と素晴らしい容姿を持ち、兄の婚約者ルビニアを密かに慕う健気な青年として描かれていたので、イオライトが自分を受け入れないわけがないと考えた。


 やがてヒロインのエメランデが登場し、ゲームのストーリー通りに抱きつきイベントが起きて、サフィールとエメランデは急速に接近していくのだが、その後は物語はなかなか進まなかった。


 ルビニアはエメランデを虐めたりする事なく慎重に避けていたが、公爵家に忖度した誰かがエメランデに虐めを働いていた。エメランデ本人が大事にしなかったので手応えがなく面白くないせいか、虐めは徐々に収まってきたが、肝を冷やしたものである。まるで悪役令嬢が仕事をしないので、強制力が働きましたよと警告された気分だった。


 エメランデは恋愛脳ではないらしく、サフィールとは親しくしているが特別な関係に進んでいるようには見えなかった。だから2人の動向を公爵家の人間に見張らせて随時報告をさせていたが、彼らの関係は上司と部下といった感じで、恋愛関係には全く進みそうにない。

 焦れたルビニアは、父親を動かすことにした。

ヤラレる前にヤル……悪役令嬢として断罪されるなんてまっぴら御免だ。せっかく美しさと権力を持った公爵令嬢に転生したのだから、サフィール達を追いやって、大好きなイオライトと結ばれたいわと自分の欲に素直になる事にしたのだ。


 父を動かして側妃と結託した。ゲームに出てくる他の攻略者達はヒロインのエメランデに無関心だったが、念には念を入れてパール公爵家の息のかかった家から婚約者を送り込んだ。これでひと安心、エメランデとサフィールは破滅一直線だ。


 ルビニアは大好きなキャラのイオライトと婚約して、有頂天になっていた。しかしその喜びが崩れるのは案外早かった。

 イオライトはまさかのマザコンで、母親の側妃が始終ベッタリと張り付いているのだ。何をするにも母親が着いてくるとは予想外もいいところだ。


 貴族学院での彼しか知らなかったし、それもゲームの知識と入り混じっているから、どのイオライトが真実の姿なのか全く見誤っていたと、ルビニアは今になって思い知らされた。


 こんな筈じゃなかった。

 目の前でまるで恋人同士のようにいちゃつく母と息子に、結婚したらどうなるんだろうか、まさか閨まで側妃様に見届けられるんだろうと、遠い目になった。



 さて、国から逃げ出した3人はというと、祖国から遠く離れた地で冒険者として生活している。祖国には魔法を使える人間は非常に少なかったし、魔獣が跋扈する魔の森もなかったので、思い切り大暴れ出来るこの状況が楽しいらしい。


「そっち、行ったー!カルセド仕留めてっ!」


「おう!任せろ」


 背中の大剣を正面に持ち直したカルセドは、こちらに向かってくる魔獣に真正面から対峙する。


「必殺!十文字切りっ!」

 カルセドは目にも止まらぬ早業で、歯を剥き出しにして襲いかかる熊形の魔獣の額を縦クロスに切り裂いた。元より腕に覚えはあったのが、前世を思い出してからは、ゲームで得た知識を参考に声に出して技を決めると成功率が2倍になる事を発見し、みるみる間にさらに腕をあげた。エメランデがバフ効果をつけてくれるのも助かっている。


 一方サフィールは、魔獣の解体技術に並々ならぬ腕を発揮した。祖国から逃げ出した当初から、火おこしや外でのキャンプ、野営料理などはサフィールが担当していた。とにかく器用なのである。後は対外的な交渉に於いて、その美しい顔と柔らかい物腰で相手を惹きつけるので、交渉ごとは自分の仕事だと引き受けていた。

 サフィールは魔獣の討伐先で、娘婿にならないかとしょっちゅうスカウトされていたが、思う女性がいるので、と断っている事をエメランデは知らなかった。カルセドはそんなサフィールを生暖かく見守っていたが、内心は失恋のショックでちょっぴりイジイジしていた。彼が賢かったのは、サフィールへの腐った思いを決して口にしなかった事だ。もし一言でも漏らしていたら、サフィールに叩き切られていただろう。知らぬが仏である。


 サフィールは、その容姿で王族とバレてはいけないからと、エメランデの魔法で髪と目の色を変えていた。元の日本人のように黒髪黒目にしたのだ。さらには体を鍛えて筋肉をつけて印象が変わったので、某国の元王子である事に気が付かれる事はなかった。

 それでも隠せない高貴な感じで冒険者仲間の女性からモテモテのサフィールは、エメランデから嫉妬の魔法攻撃で服を焼かれたりされていた。

 

 3人は気儘に冒険者生活を続け、気がつけば早々にBランクパーティへと上がり、Aランクにならないかと、打診を受けていたが、目立つと碌なことがないからという理由で、そこそこで留めている。


「出る杭は打たれるって言うもんね」

 

 エメランデの言葉にサフィールが頷く。


「その通りだ。そうだなぁ、金も溜まってきたしそろそろ別の国に行くか?」


「俺は構わんが、こいつも連れていっていいか」


 こいつと言うのは、先日魔獣に襲われていたところを助け出した少年だ。天涯孤独で行くところがないと言うので、同情したカルセドが仕事が見つかるまで面倒を見てやっているのだ。


「僕、ご飯担当でも使いっぱしりでも何でもしますよ!カルセドさん達と一緒に行きたいです!」


「もちろんいいよ!ねぇサフィール?」


「……カルセドがいいならいいんじゃないか」

 サフィールはちらりとカルセドを見た。


 そんなわけで、サフィール達一行は、拾った仲間が増えて4人となったのだった。



 はーっ、助かった。

 いきなり地面が光って吸い込まれたと思ったら、異世界に来てたなんてね。驚いたわ。だけど助けてくれたのがいい人たちで良かった。

 モモは胸に巻いた晒を緩めて深呼吸した。普段は晒で胸を潰し、ダボダボのシャツとパンツで体型を隠している。伸びた髪は後ろにひとつに纏めているし、どうしても幼く見える顔立ちで、年齢より遥かに下に見られていたし、何なら助けられた時から性別を間違われていたが、敢えて訂正しなかった。その方が安全だからである。


 なんとかこの人たちに捨てられないように、少年のフリをしておこう。お金が貯まって1人で生きていける自信がついたら、騙してた事を謝ろう。許してくれるといいのだけど。


 その後、モモはあっさり女性とばれてしまい、女とわかって動揺したカルセドといつの間にかいい仲になったり、腐れ縁でひっつくのかひっつかないのか周りから心配されていたサフィールが一世一代のプロポーズをしてエメランデがそれを受け入れたりと、転生者達の人生にも変化があった。


 サフィール達はその後、Sランクパーティへとのし上がってゆく。彼らがその名を響かせる頃、祖国ではイオライト王太子が国王となった。

 凛々しく美丈夫な国王は、前国王と違って有能で、善政を敷いたという。王妃との仲は良好だとも、仮面夫婦だとも、諸説あるが真実は不明だ。




お読みいただきありがとうございます。


荒唐無稽なお話、思いついて一気に書いたので抜けてるところがあるかと思います。

誤字脱字等お知らせ頂きますとありがたいです。

主要人物がみんな転生者だったら面白いなと思いました。モモは転移者です。ゲームは知りません。


カルセドだけがモモが女性だとわかっていませんでした。モモも隠せていると思っていたけど、サフィールとエメランデにはバレていました。





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― 新着の感想 ―
[良い点] イオちゃん……に笑いました! イオライト、まさかの(*`艸´) 3人+1も、冒険者として楽しそうでいいですね。 最終話でタイトルが綺麗に回収されていて、とっても面白かったです! 読ませ…
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