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第12話 ライラック号


 旅行に行こう!

 と決まったものの、お父さんとサディさんが仕事を同時に休むのは難しい。


 結局、旅行に出られたのはしばらく経ってからだったけど、お父さんもサディさんも初めての家族旅行のために頑張ってくれた。



 旅行当日。

 可愛くて動きやすい水色のワンピースに袖を通す。


 マドレーヌさんに髪を整えてもらって、お父さんに買ってもらったペンダントをつければお出掛けの準備は完了だ。


 お父さんより先にマドレーヌさんと庭に出ると、もうサディさんが迎えに来ていてくれた。


「おはよう、アリシアちゃん。マドレーヌさんも。アルは?」

「旦那様はまだお支度の最中でございます。もう少々お待ちください」

「寝坊したんじゃない? アルって、楽しみなことがあるとなかなか眠れないんだよね」


 さすがサディさん、よくわかってる。マドレーヌさんの話では、お父さんは寝坊したらしい。

 でもそんなことを知ってるってことは、お父さんと一緒に『楽しみな日』を過ごしたことがあるってことだよね。


 もしかしたら『楽しみな日』の前夜、一緒に寝たことがあったり……!

 どんな『楽しみな日』だったんでしょうね。デートですか?


「悪い! 遅くなった!」

「寝坊助がきたきた」

「お父さん、おはよう!」


 お父さんがジャケットを羽織りながら慌てて走ってきた。


「寝坊したわけじゃない。少し支度に手間取っただけだ」

「いいよいいよ、わかってる。昨日楽しみで眠れなかったんだよね」

「そんなわけあるか! 子供じゃあるまいし」


 サディさんにムキになってるお父さん。今日も朝からかわいいですね。

 マドレーヌさんからカバンを受け取って、いよいよ出発だ。


「じゃあ行ってくる、マドレーヌ。家のことは頼んだ」

「マドレーヌさん、行ってきます。お土産買ってくるからね」

「いってらっしゃいませ。ライラック号によろしくお伝えくださいね」


 ん? ライラック号によろしくって、なんで?


 てっきりどこかで汽車に乗るのかと思ったら、向かったのは厩舎だった。


「どうして厩舎に行くの?」

「ライラック号に馬車を引いてもらうからな」


 馬車!

 魔王を倒したライラック号に馬車を引いてもらうなんて、すんごい贅沢。


「アリシアちゃん、ライラック号の馬車は初めてだよね? きっとビックリするよ」


 サディさんがいたずらっ子みたいな笑みを浮かべる。

 そりゃ馬車なんてビックリするに決まってる。おとぎ話みたいだ。


 お父さんが厩舎の中からライラック号を連れてきた。

 もうブラシを掛けてもらったのか、茶色い体がツヤツヤして、黒い毛並みもきれいになびいている。


「おはよう、ライラック号。今日はよろしくね」


 ライラック号が挨拶の代わりにブルッと頭を振った。


 サディアスさんとお父さんで、ライラック号に金色のハーネスをつけていく。茶色い体に金色のハーネスがちょっと浮いて見えた。

 ゴージャスだけど、黒とかの方が似合うと思うんだけどな。


「よし、頼むぞ。ライラック号」


 お父さんがライラック号をポンと叩くと、ライラック号は頭を上げて「ヒヒーン!」と高く鳴いた。

 その瞬間、みるみるうちにライラック号の体が白く変わっていく! 白馬になったライラック号が体を震わせると、背中から大きな翼が生えた!


「えええええ!?」


 驚いている私の横で、ライラック号は大きな白い翼をバサバサと羽ばたかせている。

 よく見ると、羽先は紫のグラデーションになっていた。


「どうなってるの!?」

「ビックリしたでしょ? これがライラック号の本来の姿だよ」

「ライラック号は魔力を持った馬だ。ただ、この姿だと目立ちすぎるからな。普段は普通の馬の姿にさせている」

「魔王を倒したときの凱旋パレードは、この姿のライラック号にアルを乗せるつもりだったんだけどね」

「却下! 勘弁してくれ」


 魔力を持つ馬っていうか……ペガサスじゃん!

 これに正装したお父さんが乗ったら、まさに白馬に乗った王子様になりそうだったのに。


 なんて唖然としてライラック号を見つめていたら、その後ろに……


「馬車!?」


 いつの間に、ライラック号の後ろには大きな馬車が!

 さっきまでなかったのに!


「この金のハーネスは魔法使いが作ったものだから、魔力のある馬につけると馬車が現れるんだよ」


 さっきまで浮いて見えた金のハーネスは、白馬のライラック号によく映えている。

 球体の馬車はライラック号と同じ真っ白で、金色の装飾が施されていた。


 てっぺんにはティアラを模した飾りがついていて、めちゃくちゃ豪華。シンデレラが乗るかぼちゃの馬車みたい。


「これね、アルが結婚したときリリアさんに贈った馬車なんだ」

「結婚したら馬車があった方がいいと聞いたのに、リリアのやつ『これじゃ街に買い物に行けない』なんて言って1回しか乗らなかったんだ」


 いや、これ普段使い用だったの?

 結婚式用のオープンカーで買い物に行けと言われてるようなものなんですけど。


「そりゃ乗れないでしょ。自分は白馬のライラック号に跨ることすら嫌だったくせに、なんでリリアさんにはこれなの」

「女性はこういうのが喜ぶと、馬車のディーラーに言われて」


 サディさんにツッコまれたお父さんが拗ねる。かわいい。お父さん不器用かわいい。

 そういうところがお母さんも、もちろんサディさんも好きなんじゃないかな!


 それにこの馬車を今日出してくれたってことは、私なら喜ぶと思ってくれたんだよね。

 お母さんには目立ちすぎたかもしれないけど、6歳の私にはピッタリだと思う。


「お父さん、この馬車とってもステキだね」

「そ、そうか! 気に入ってくれたか?」

「うん! シンデレラの馬車みたい」

「しん、でれら?」


 マズイ。この世界にシンデレラはなかった。


「お姫様の馬車みたいだなぁって」

「ああ、そうだ! アリシアはお姫様だぞ!」


 お父さんが弾けんばかりの笑顔になった。お父さんの気持ち、やっと報われたみたいでよかった。

 サディさんが私の前に片膝をついて、手を差し出す。


「お姫様、お手をどうぞ」


 こ、これはまるで王子様のエスコート。

 お父さんも似合うと思うけど、サディさんこそ王子様っぽいよね。


「待て待て! エスコートは父親である俺がやる!」

「バージンロードみたいに?」

「バッ!? アリシアにはそんなところ絶対に歩かせないからな!」


 張り合うように、お父さんも跪いて私に手を差し出した。

 前世のときも縁のなかったモテ期到来? いや私がモテてどうすんだ。


 私は片手ずつ、差し出された2人の手を取った。両側からエスコートされて、キラッキラの馬車に乗り込む。

 馬車の中は思ってたより広く、イスはソファのようにふかふかだった。


 ライラック号がまた高く鳴いて、翼をゆっくりと羽ばたかせる。

 走り出したライラック号の後について、徐々に馬車は地面から浮き上がった。


「うわあ……!」


 窓から外を見ると、本当に空を飛んでいた。王都の街並みがあっという間に小さくなる。

 飛行機にも乗ったことなかったのに、空飛ぶ馬車に乗れるなんて。


「そういえば、どこに行くの?」

「隣の国、サウザンリーフにある遊園地だ」

「魔法使いが運営してるテーマパークだよ。サウザンリーフは魔法使いが多い国だからね。大人から子供まで、今すっごい人気なんだって」


 ディズニーランドみたいなものかな。ディズニーランド行ったことないけど。

 あっちの夢と魔法の国もすごいらしいのに、本物の魔法の遊園地か。どんなところなんだろう。


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