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104 パーティを組む

 デンズリード魔法学院に通うという任務は解かれ、代わりに候補生を一人前にせよ、という新たな指示を与えられたリリ。候補生とは言うまでもなくシャリーとアリシアーナの二人である。


「一人前にって……ふわっとした指示だよねぇ」


 特務隊の指示書をひらひらさせながら、リリはアルゴに向かってぼやいた。


『また奴に瘴魔がいそうな場所でも聞いてみるか?』

『う~ん、それもありっちゃありだけど……』


 アルゴの言う「奴」とはもちろんラルカンのことだ。ラルカンは体の小ささにそぐわない広大な探知範囲を持つ。

 瘴魔祓い士として成長するには実戦が一番だろうとは思う。でもその前に、せっかく三人でパーティを組むのだから、パーティとしての連携や戦い方を確立したい。


「うん。ジェイクおじちゃんに相談しよう!」


 リリの知っている、最も理想的な「パーティ」は「金色の鷹」だ。冒険者と瘴魔祓い士という違いはあれど、参考になる部分はきっと多いはず。出来れば、以前ライカン討伐に行った時のように、間近で彼らの戦いを見たい。


「……騎士じゃなくて冒険者パーティに同行してもらうっていうのも、アリ……?」


 リリとしては、瘴魔の討伐に赴く際に騎士ではなく冒険者、もっと言えば「金色の鷹」に同行してもらえたら理想的だと考える。騎士は毎回同じ人ではなく、長丁場になると気も遣って疲れる。それに同行する騎士の役目は現場までの安全確保が主だ。瘴魔との戦いでは囮になることもあるらしいが、リリはそんな場面を見たことがない。


 だったら気心の知れた冒険者パーティに同行してもらっても変わらないのでは?


 しかし、リリは知らないことだが、Sランク冒険者パーティに護衛を依頼するとかなりの費用がかかるのだ。日帰りでも二~三万スニードは下らない。それを誰が負担するかと言えば国が負担することになる。つまり国民の税金である。もっとランクの低いパーティに依頼すれば費用も抑えられるが、今度は瘴魔祓い士の安全を確保できなくなる。そんな事情で騎士が同行する形になっているのだった。


 その日の夜。夕食を終えて寛ぎながら、リリはジェイクに相談を持ち掛けた。


「ねぇ、ジェイクおじちゃん」

「ん?」

「私とシャリー、アリシアの三人で、瘴魔祓い士のパーティを組むことになったの」

「ほう、そりゃいいな! 何で祓い士はいっつもソロなのか不思議だったんだよ」


 ジェイクもリリと同じ疑問を抱いていたらしい。


「でしょ? だから、特務隊で試験的にパーティを組んでみることにしたの」

「いいと思うぜ? ソロよりパーティの方が安全度がぐっと上がるからな」

「うん、私もそう思う。それでね、パーティとしての連携とか戦い方とか、色々教わりたいなって」

「なるほど」


 ジェイクはまず基本的なことだが、と前置きを口にした。


「三人それぞれ能力や戦い方が違うだろ? まずはそれをお互いしっかりと理解することだな」

「うんうん」

「そしたらな、ポジションを決めるんだ」

「ポジション?」

「ああ。前衛・中衛・後衛みたいなもんだ。左・真ん中・右でもいい」

「それで?」

「自分がどの敵を倒すのか、前もって決めとくんだよ」

「なる、ほど?」


 敵がいないのに、どの敵を倒すか決めておくの?


「敵が一体しかいないとか、正面に二~三体しかいないとか、周り中敵だらけとか、色んな想定をして、それぞれ先に決めとく。もちろん敵は動くし自分たちだって動く。動いたらポジションがどうなるか、それも決めとく」

「うぅ……すごく難しそう」


 パターンが無限にありそう。


「いや、実はそうでもねぇんだ。リリたちは三人なんだろ?」

「うん、今のところ」

「だったら――」


 例えば、と前置きしてジェイクは三枚のコインをテーブルに置いた。上から見ると正三角形の頂点に一枚ずつコインがある形だ。


「どの方向に一番敵がいるか。どこが少ないか。それが分かれば、どこに誰を配置すればいいか分かると思わねぇか?」


 リリは一瞬で想像した。索敵マップがあれば敵の配置も分かる。火力の高いシャリーは敵が密集する方向へ。まだ攻撃範囲が狭いアリシアは敵の少ない方向。私は臨機応変に対応する遊撃といった感じかな。


「まぁ、これはあくまで一例だ。状況に応じて横に並んでもいいし、縦に並んだっていい。ただ、どの方向の敵を自分が倒さなきゃならないか、それぞれが分かっていれば混乱は起きねぇんだ」

「すごい……これって、瘴魔を倒すことを考えて言ってくれたんだよね?」

「ああ、まぁな。冒険者でも基本はそんなに変わらねぇけどな」


 ジェイクたちは、今言われたより何倍も高度なことをさらりとやってのける。戦い慣れている、というのももちろんあるだろうが、何よりお互いを信頼しているから出来るのだ。


「また、みんなが戦ってるところ見たいな」

「俺たちが行くのは危険が……いや待てよ?」

「ん?」


 ジェイクは腕を組んで空中を睨み始める。


「実はな、新しい迷宮が出来たってんで、調査依頼が出ててな。受けるかどうか迷ってたんだが」

「それは危ないの?」

「いや、初級から中級向けの迷宮っぽい。依頼料も安いしな。ただ、新しい迷宮は何が起こるか分からんから、Aランク以上じゃないと依頼を受けられねぇんだよ」


 どんな危険が待ち受けているか分からない割に、魔物が弱いと採れる魔石も大したことはない。鉱石や薬草があるかも分からない。つまり、Sランクパーティが受ける旨味はない。他にいくらでも稼げる依頼があるからだ。ただ冒険者ギルドへの貢献という意味合いが大きいだけの、ボランティアのような依頼らしい。


「ファンデルに移ってから、ギルドに貢献する依頼を受けてねぇからな……」


 年に一度くらいはボランティア的な依頼を受けるのもSランクパーティの責務なのだとジェイクは言う。


「せっかくだからそれを受けて、リリたちを連れて行くのも悪くねぇ」

「いいの!?」

「一石二鳥ってやつだ」


 ギルドに恩を売って、リリにもいい所を見せられる。ついでにシャリーやアリシアーナにも連携の参考になるかも知れない。


「そうと決まればスケジュール調整だな」

「うん! 私も特務隊に申請出しとくよ!」


 こうして、リリたちと「金色の鷹」は新しく出来た迷宮へ行くことに決まった。





 シャリー、アリシアーナの二人とパーティを組むことが決まって、三人はお互いどうやって連絡を取り合うか悩んだ。

 リリとシャリーは同じ東区だが、徒歩だと二十分くらい離れた所に住んでいる。アリシアーナに至っては貴族区だ。平民はおいそれとは中に入ることさえ出来ない。


「と言うことで、ジェイクおじちゃん達と迷宮に行こうと思うんだけど」

「いいぞ!」

「私も良いと思いますわ!」

「じゃあ行く日が決まったら教えて欲しいっす。隊に申請しとくっす」


 リリの家に、シャリー・アリシアーナ・ラムリーが集まっている。ラムリーはリリ担当の秘書官だったが、リリが二人の候補生とパーティを組むことになり、パーティを担当する秘書官となった。


「それでちょっと悩んでることがあって」

「どうしたんだ、姉御!?」

「いや、そんな大層なことじゃなんだけどさ」


 今日は予め集まることを決めていたから、迷宮行きについてもすぐ確認が取れた。しかし、バラバラに住む三人はすぐに連絡を取り合うことが出来ない。


 前世ではスマホをぽちぽちすれば簡単に連絡が取れたのになぁ……。


 「金色の鷹」はお互い近くに住み、何もない時でも一緒にいることが多いらしい。全員が揃わなくても誰がどこにいるかはだいたい把握していて、緊急時でもそれほど時間を掛けずに集まれるという話だった。


「ラムリーさんが三人の家を回るってすごく効率悪いと思うの」

「たしかにそうですわね……いっそ、三人で住む家を買いましょうか? お金はお父様が出してくれると思いますわ」

「いやいやいや、いきなり買うのは止めとこうよ」


 ファンデルは前世で言う東京のような場所。物件はなかなかお高い。メイルラード侯爵家にとってははした金かも知れないが、自分たちの利便性のためにお金を出して貰うのは違う気がする。


「リリさん達には必要だと思って、隊に魔道具の貸し出しを申請しておいたっす」

「魔道具?」

「一級以上の祓い士さんは全員持ってるんすよ。これっす」


 そう言ってラムリーが鞄から取り出したのは、磨き上げられた金属で出来た厚みのある板。大きさは正しくスマホくらいである。長辺側にスタイラスペンのような、先の尖った細い棒がくっついている。


「通信魔道具っす。これでここに文字を書くと相手に伝わるっす」


 おおぅ。スマホじゃなくてポケベルか。


 ラムリーの説明では、事前に十か所の通信先を登録でき、相手を選んでから伝えたい内容を送信できるらしい。ただ、文字は五十文字まで、通信できる範囲はファンデルの街中だけのようだ。


「こんな便利なものがあったんだ……」

「すっげぇ!」

「お父様が持っているのを見たことがありますわ。これはそういう魔道具だったのですね」


 国の要職に就いている人も皆持っているらしい。この携帯通信魔道具は全て国の所有物で、国が管理している。簡単に悪用される恐れがあるためだ。それで、敢えて通信可能範囲も制限されている。


「たぶん、一週間くらいで許可が下りると思うっす。そしたらみなさんにお届けするっすね!」

「「「お願いします!」」」





 ラムリーが帰った後、三人は侯爵家の馬車に乗って北門の先に向かった。アルゴの案内で、シャリーが炎魔法を使っても大丈夫そうな開けた場所に行くのだ。三人がお互いの能力を把握するためである。


「セバスさん、すみません」

「いえ、お嬢様のご指示ですから。お構いなく」


 客車にはセバスも乗っている。御者は別の男性だ。セバスさんは瘴魔の討伐にも付いて来るのだろうか。アリシアが心配なのは分かるが、出来れば勘弁願いたい。


 北門を出て三十分ほど馬車に揺られ、目的の場所に着いた。


『あちら側が良いだろう』


 街道の西は遠くに林、東には同じく遠くに岩山が見える。アルゴが示したのは東の岩山方面だ。近くに草木など燃えそうなものがないから、炎魔法には丁度良さそうである。


『さすがアルゴ! いい場所だね』


 リリが念話で褒めると、前を行くアルゴの尻尾がブンブンと振られた。付いて来ると言うセバスをアリシアーナがばっさりと切り捨て、彼は御者と一緒に馬車でお留守番をしている。リリたち三人とアルゴは街道から東へ十分ほど歩いた。岩山がすぐ傍に迫る荒野といった光景だ。


「じゃあ、話した通りお互いの力を確認しよう」

「はい、私からいきますわ!」


 シャリーとアリシアーナには、魔法に関する知識を自分が知る限り伝えた。もちろん事前にアルゴには伝えて問題ないか確認済みである。属性の適性はあくまで使用する魔力量の多寡であり、世界の理に反しない限りイメージさえ作り上げれば魔法は発動する。問題はイメージ自体が使用したい魔法と合致しているか、また発生させようとする事象にどれだけの魔力が必要か、という二点である。


 簡単に言うと、誰でもだいたい全ての魔法が使えるよ、という事実。ただし魔力量には注意してね、という話である。


浄罪(ピュリフィケイション)!」


 浄罪は上位浄化魔法。アリシアーナは自分を中心に半径五十メートルで発現させた。これはつまり、二十五メートル先にいる複数の瘴魔なら問題なく倒せることを意味する。


「神聖浄化!」


 続いて神聖浄化魔法の金色の光が発生する。自分を中心に半径十メートルを少し超えるくらい。即ち五メートル先の瘴魔鬼なら倒せる。ただし、瘴魔鬼を五メートルの距離に近付かせるのは非常に危険だ。だから現段階では、アリシアーナの神聖浄化魔法は自分の身を守る結界のような使い方になる。


風刃(ウインドエッジ)!」


 さらに続けて風刃を岩山に向けて放った。リリから魔法について聞かされ、つい最近使えるようになった魔法だ。その威力は岩肌を削る程度。普通なら十分な殺傷力だが、瘴魔相手だと弱点に当たらない限り倒せない。それでも習得する意味はある。戦う相手は瘴魔だけとは限らない。魔物もいるし、盗賊だっている。


 そして例の襲撃事件も解決していないのだ。浄化魔法は生物相手に攻撃手段にならないので、風刃のような攻撃魔法を習得するのはリリも大賛成であった。


 うん。アリシア、順調に強くなってる。


「じゃあ次はオレがいくぞ? 獄炎(フォルテ)!」


 続いてシャリーの魔法。上位炎魔法の獄炎を続けざまに三つ放つ。岩肌は大きく抉れて周囲が黒焦げになった。威力、速さともに申し分ない。


「うん。紅炎(プロミネンス)を使わなくても十分っぽいね」

「でも、瘴魔鬼はすごく素早いんだろ?」

「それはたしかにそうなんだけど、シャリーは獄炎ならかなりの数撃てるでしょ?」

「そうだな」

「だったら、今みたいに三連発、少しずつずらして撃てばいいと思うよ。あれなら躱せない」

「そうか!」


 シャリーは三連射を何度か練習した。そのうち、ほとんどタイムラグ無しで連射できるようになってしまった。


「さすがシャリー。才能が恐ろしい」

「もっと褒めていいんだぞ!」

「シャリー、凄いですわ!」


 褒められて上機嫌のシャリー。彼女は現在、炎魔法以外に土魔法「石礫(ストーングラベル)」と「岩杭(ロックパイル)」を練習中だ。前者は直径三センチくらいの石を高速で飛ばすもの。後者は鋭く尖った岩の杭を地面から生やすものである。いずれも習得すれば対生物に相当な戦力となるだろう。


「じゃあ姉御の新しい魔法を見せてくれ!」

「雷魔法と爆発魔法、でしたわよね? 楽しみですわ!」


 本音を言えば見せたくない。ドン引きされるのが目に見える。だが、これからパーティを組むのだ。見せない訳にもいかない。


「一応先に言っとくけど、威力がまぁまぁ高いからびっくりしないでね?」

「大丈夫だぞ!」

「問題ありませんわ!」


 リリは一つ息を吐き、覚悟を決めて岩山に向き直った。

ブックマークして下さった読者様、本当にありがとうございます!

最近ポイントの変動がなくて少し凹んでましたけど元気が出ました!

今後もよろしくお願いいたします!!

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