表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/39

第八話 もう皆さんはご存じだと思いますけれど、私の名前は日和 桜といいます




◆◇◆




 体育館に行くと床に敷き物が敷かれ、大量のパイプ椅子が並べられている。山田先生からA組はここだと説明され、出席番号順に座る。


 少しして、他の組の生徒達も組ごとに順番にやって来て、各組の先生の指示によって座っていく。


 一年生が全員座った後、壁際に置かれた椅子に先生達が座りだす。今日の入学式には生徒会や一部のボランティアの上級生以外は休みのようで、桃瀬さんと赤崎 焔以外の調査対象は一体どこにいるのだろうか。


 マイクを持った先生が司会を始め、入学式が始まった。校長先生やら学年主任の先生が壇に立ち、挨拶や色々な心構え等を話している。


 それらの話は数分程で終わり、次は生徒会代表の挨拶になる。司会の先生がマイク越しに生徒会長の名前を呼ぶ。


「えー、それでは続きまして、生徒会代表からの挨拶です。生徒会長、青峰、前へ」


 先生の口から出た青峰という名前。恐らくその人も僕が調査を行う人物だと思われる。先生達とは別の方向の壁から一人の生徒がやって来て、礼を済ませてから壇に上がり挨拶が始まった。


「来賓、および教師、新入生の皆さん。おはようございます、俺は生徒会代表にして生徒会長の青峰(あおみね) (すい)だ。まだ二年の身ながら生徒会長という存在になってしまい、本来であれば今日は休みだった筈だったが、急遽この場に立たされ挨拶をさせられている者だ」


 生徒会長の青峰という先輩は、二年生ながらも生徒会代表に選ばれたのだと自身の事を説明している。余程の事が無い限りこの時期では珍しいのではと思い、僕は彼の話を注意深く聞くのだった。


「知っている者や俺の髪の色を見て気づいた者はいるかもしれないが、一応ピースアライアンスのヒーロー組織に席を置いている者でもある」


 僕の想像通り、彼はヒーローとして活動している実績を買われて、生徒会長という地位に選ばれたようだ。


 そのまま先輩は僕達新入生に対して、自らの立場からの注意を行う。


「ヒーローと生徒会長、そのどちらも両立させていくのは少々骨が折れるが、実現不可能な事では無い。新入生諸君がのびのびと学校生活を送れるように努力していくつもりだが、余りにもやんちゃが過ぎると生徒会長では無くヒーローの俺がやって来るのでそのつもりでよろしく頼むぞ、以上」




 切り揃えられた青い髪に、眼鏡を掛けきっちりと制服を着ている長身の彼は、青峰 翠という名前と自ら明かした所属組織からして、恐らく調査対象の一人で間違いなさそうである。


 これで三人目であり、学校内で相当な立場を持っている人物がヒーローだという事実だけで、僕は何だか身体中の気が重くなったように感じた。


 原稿を用意した形跡も無く、ただ冷静に正面を向いて言いたい事を簡潔に纏めて挨拶を済ませて颯爽と立ち去る彼に、あちらこちらから女子の浮き立つような声が聞こえる。長身でスラっとした見た目で、それでいて生徒会長でありヒーローなのだから、興味を惹かれるのはわかる。


 一見すると、冷静沈着且つクールな印象を覚える。もし彼と学校内で対立するような場面に会い、それで目を付けられでもしたら、今後の作戦活動が相当にやり辛そうに思える。桃瀬さん達含め要注意で警戒しつつ、尚且つ目立った行為は行わないように慎重に行こう。


 司会の先生から、女子への注意の言葉が入り、周りが静かになるまで少し時間が掛かる。完全に静かになった後に進行は進み、次は新入生代表の挨拶になる。


 桃瀬さんから始まり、赤崎 焔と青峰 翠と続いているこの流れ。もしかして新入生代表も……?


「次は新入生代表の挨拶になります。新入生代表、一年C組、萌黄(もえぎ)、前へ」




 やはり、新入生代表もこの流れに続いて調査対象の名前と同じだった。まだ名前だけ同じな生徒で実は違うのではと一瞬思いもしたけれど、壇に上がる彼の髪の色は新入生代表の筈なのに、しっかりと金髪だったので、能力者である事が確定したようなものだった。


「皆さん、おはようございます。俺は新入生代表の萌黄(もえぎ) (あきら)と言います。新入生代表の筈なのに、髪の色で疑問に思った人もいると思いますので答えますが、一応俺も能力者になります」


 壇に上がった新入生代表の彼も、自身が能力者だという事を明かすのだった。気を抜く間もないまま僕は話に集中する。


「そして、先程の生徒会長と同じ組織に席を置かせて貰っています。特別能力者入学枠を設けている学校はこの辺りではこの希星高校だけなので、俺が所属する組織のメンバーは全員この学校に入学しているという訳です。じゃあなんでメンバーの中で選ばれたのが俺なのかと言うと、他のメンバーに挨拶を断られたからです、あはは……」


 苦笑いを浮かべながら、自分がこの場に立った理由を説明し後頭部を掻く彼。


 僕もあんまり人の事は言えないけれど、一見すると金髪で派手な印象を受けてしまうが、その穏やかそうな印象は桃瀬さん達三人の中だと、新入生代表として挨拶をするのは妥当と考えてしまう。


「そう言う訳で能力者の見た目は派手ですが、中身は皆さんとそう変わらないと思いますので、クラスの中に能力者が居ても距離を置かずにまずは気軽に接してくれると幸いです。皆さんと良い交友関係を築けたらと思います。以上、それでは」




 穏やかで気さくな雰囲気で挨拶をする新入生代表。彼は挨拶の言葉を話す前にチラッとA組の方を見たような気がした。A組には桃瀬さん達が居るので、さっきの彼の口振りからしてやっぱり彼は四人目の調査対象だった。


 彼が見たのはA組だけのようなので、五人目は一年生にはいないのかもしれない。流石に五人全員の名前と容姿を入学式初日で確認するのは無理があった。


 萌黄 彰と名乗った彼は、金髪で目尻が垂れ下がった緑色の目をしていて、新入生代表に選ばれる位真面目で制服もきっちりと着ていた筈なのに、何処か遊んでいそうな雰囲気に見えてしまった。


 案の定彼にも女子達からの熱気を帯びた声が飛ぶ。A組は男子達が集まっていたけれど、C組の方は女子の方は大丈夫だったのかな?


 彼も彼で、今日見た調査対象の男子の中では一番柔和そうな雰囲気なのに、近づくと女子の視線に射殺されそうだと感じたので、出来れば僕からは近寄らないように気を付けないといけない。組も違うので、多分機会はそう無いと思われるのが唯一の救いになる。


 一応最後の五人目が出てこないか警戒は解かなかったが、その後に続く挨拶は保護者代表の挨拶やピースアライアンス関係の来賓の挨拶だったので、どうやら五人目の人は出てくる気配は無かった。


 入学式自体も終わりを迎え、来賓客がぞろぞろと退場し始め、生徒達にも息を吐いて気を緩める声が聞こえる。学年主任の先生がこの後の全体の注意事項や、ここに来た時と同じようにまたA組から順番に教室へ戻る様に指示が入る。


 山田先生がA組の列にやって来て、移動するように言うと、それを合図にぞろぞろと教室まで戻る。




◆◇◆




 A組に戻り、皆がそれぞれの席に着く。他のクラスがちゃんと教室に戻るまで少し時間が掛かるのと、山田先生も準備があるらしく教室の扉を開けて生徒が全員いる事を確認して、職員室の方に戻っていくと、教室はつかの間の時間自由となった。


 そうなると当然今この瞬間、最も気になる話題となるのは入学式に代表として出て来た二人の存在である。桃瀬さんと同じくヒーローであり、見た目も相当に格好良いと思われるあの二人に興味を持つA組の女子は多く、彼女達の多くが桃瀬さんに詰め寄って質問攻めに遭っている。


「ねぇ! 桃瀬さん! さっき挨拶に出てたあの二人、青峰先輩と萌黄君なんだけど、桃瀬さんと同じヒーロー組織に所属してるんだよね! どっちも格好良かったけど普段はどんな感じなの?」


「あぁー、あの二人ねぇー。聞かれると思ってたわぁ、中学の時は学校別々だったから交流が出来たのはチームとして組んだ時からだし私も詳しい事まではまだ知らないけど、まあ二人共普段とは雰囲気変えて来て驚いたわ」


「えぇ! そうなんだ! じゃあ入学式にはいなかった五人目の人と五人一緒にいる時ってどんな感じだったりするの? 答えられる範囲で良いから教えてよ」


 興味津々の女子達に対し、桃瀬さんはこの手の話題を振られるのだと待っていたかのように堂々とした振る舞いをしており、愛想良く周囲に話していく。


「まぁ、あの二人も柄にも無くカッコつけてたから私はおかしくて笑いそうになったから言うけど、五人でいる時なんかはホントに雰囲気違うわよ?」


 二人は普段とは違うのだと、先程の挨拶を思い返しているのか、一人で笑いを抑える桃瀬さん。


「翠なんか生徒会長に選ばれた時は本気で嫌がってたし、冷静沈着装ってたけどいつもは焔と彰と一緒に馬鹿な事やってるし。彰も本来は気弱で真面目な性格なのに、自分の遊び人みたいな風貌ですぐに難癖付けられたり、遊んでそうな女の子に絡まれたりで滅茶苦茶苦労してるのよね」


 へぇ、そうなんですか。あの二人、普段はそんなに変わったりしているのですか。桃瀬さんの三人で馬鹿をやっているという発言を聞き、何となく廊下の方の席を見る。机に肘をついて手に頭を乗せてボーっとしている赤崎 焔が、以前から交流のあるような距離間の男子達の話を何やら聞いている。


 年相応にふざけ合える仲間がいるのは羨ましいと思う。シャドウレコード内での僕は組織内で一番年下だったので、立場を越えてそんな関係になった隊員はいない。比較的仲の良いメイさんだって向こうは二十歳だし、高校に通う歳でも無いし、仲が良くてもふざけ合うような関係では無いので、そう思うと、何だか寂しさを感じ、胸の辺りがきゅうっとなってしまう。良いなぁ、同じ年の友達かぁ……


 隣の席にいる桃瀬さんの話を聞いて、今までの組織での立ち位置を思い返して一人で物悲しい気持ちになっていると、教室の扉が開き先生が帰ってきた。


「はい、それじゃあこれから先生が話をするのでお喋りはその辺にしておいて、皆席に着いて貰ってね。お互いの自己紹介や今後の予定なんかを話すので、まずは担任の俺から紹介させて貰うぞ」


 全員が席に着いた後、山田先生の自己紹介が始まる。下の名前から、好きな食べ物や嫌いな食べ物、趣味や最近はまっている事など、お手本となるようなありきたりな内容を坦々と語る。因みに担当教科は社会科である。


「というのが、先生の大体のプロフィールになる。こんな感じで順番に自己紹介をして貰えればありがたいぞ。先生が出席簿で名前を呼ぶので、名前を呼ばれた生徒は返事をして立って貰い自己紹介をしていってくれ。それじゃあ、出席番号一番の赤崎から行くぞ」


 先生に呼ばれ、一番最初の彼が軽い返事と共に立ち上がる。一体どんな自己紹介をするのか気になる。


「俺は赤崎 焔。食べ物の好き嫌いとかは特に無いし、食えりゃなんでも良い。趣味も楽しけりゃ何でもいいし最近は活動が忙しすぎて眠くて仕方がねえ。学校とか怠いけど行かねえと色々うるせえからせめて俺の周りでは静かにして欲しい。以上」




 開幕から何だか随分と素っ気ない自己紹介だった。教室の一同がポカンとしてしまっている。本当に眠いのか今も欠伸をしているし、今にも眠りに入りそうだ。仮にもヒーローをやっている者がそんな自己紹介で良いのかとすかさず先生が補足に入る。


「い、一応赤崎はピースアライアンス所属のヒーロー組織に所属している能力者になる。なので学校側としても事前に幾つかの条件を盛り込んで通学を許可している訳だ。緊急で出動命令が出た場合、途中早退や欠席そのものになる可能性にも考慮して、活動で出席日数には響かないようにはなっている」


 先生からの補足説明により、彼等ヒーローは特殊な措置を含めての入学になるのだという。彼がそうなのだとしたら、桃瀬さん達も同じ扱いなのだろうと考える。


「因みになんだが、ピースアライアンス等の今の世界を構成する三つの勢力についての成り立ち等は俺の授業で教える範囲なので、その辺については覚えておくように。えー、じゃあ気を取り直して次に行くぞ」


 そう言って先生が次の生徒の名前を呼び、何事も無かったかのように自己紹介が進んでいく。


 先生が言った制度は、ピースアライアンスのヒーロー組織に所属している生徒にのみ適応される制度であり、能力者であっても何処の組織にも所属していない生徒や、僕みたいな密かにウェイクライシス側の人間には適応されない。しかも学校や病院等こういった公共的な場所が多く存在してある生活圏では、意図的に戦闘能力が極端に制限されているので、そもそも危険な人が容易に立ち入れないようにはなっている。


 治安維持側のヒーローには非常時には制限を一時的に解除出来る仕様なので、不審者が暴れていても、通報があればすぐに制限解除したヒーローがやって来てボコボコにされるだけである。


 シャドウレコードの存在はウェイクライシスの中でも結構最上位に位置している筈だ。なのにこうして真っ当な手段で正式に生徒として入学できた僕って一体……


 自己紹介も最初の件以外は何事も無く順調に進んでおり、既に中盤まで来ている。僕の番まで後二人、後一人となると、次第に緊張してきた。ちゃんと自己紹介出来るかな?


 前の席の人が立ち上がり、簡潔に自己紹介を進めていく。さくさくと終わらせ、先生からの補足にもしっかりと受け答えして席に座って自己紹介も終わる。


「それじゃあ次は、って何故か皆が期待していてそわそわしているようだが、頼めるかな? ……おっ、ちょっと待て、出席簿の備考欄によると特別能力者入学枠と記載されているが、先生からも幾つか質問したいな……日和、少し時間が掛かるけど良いかな?」


 先生が発した特別能力者入学枠という単語で教室中がざわめく。ヒーローになれる位身体能力が秀でてる桃瀬さん達ならともかく、この枠に僕もいると言う事はよっぽど凄い能力を保有していると言う事になるので、当然注目は集まる。


 はい、と返事をして席から立ち上がると、一斉に視線が飛んでくる。シャドウレコードの朝礼の時にも隊員達からの視線を集めた事もあったけれど、男女問わず同年代からの期待に満ちた視線を向けられるのは校門の時もそうだったが、それだけで何だか新鮮味を感じてしまう。自己紹介を始める前に恐る恐る周囲を見渡すと、隣の席の桃瀬さんも驚いたようにこちらの顔を見ている。


 僕が立ち上がって尚も教室はざわついていて、完全に自己紹介を始めるタイミングを見失ってしまっていると、先生から注意が飛びようやく落ち着いた。




「あー……済まない日和。ただでさえ目立つお前の番に先生余計な事を言ってしまったな。申し訳ない。それじゃあ、始めていいぞ」


「え、えっと、はい。朝に色々あって、もう皆さんはご存じだと思いますけれど、私の名前は日和 桜といいます。一応好きな食べ物は甘い物で、苦手な食べ物は多少なら我慢できるのですが、苦みや辛みが強い物は苦手だったりします」


 僕は自分の名前を言い、最初にお手本になった先生を見習って慌てないようにゆっくりと自己紹介をしていく。


「立派な大人になろうと勉強漬けの日々だったので、趣味は特にありませんが、皆さんの知っている素敵な物を教えて頂けると、皆さんの事も知れるので気軽に教えて貰えるとありがたいです。こんな私ですが、これからどうぞよろしくお願いします」


 と、とりあえず、こんな感じで自己紹介は良いのかな……? 胸がドキドキしていつの間にか手で胸を抑えながら喋っていた。何とか言い終えると、拍手が鳴り響く。


 拍手と共に、色々教えてあげるよと気さくに話し掛けて来れるクラスメイトの声が聞こえる。


 そして、特に隣の桃瀬さんの熱が凄い。目とか爛々に輝いていて何だかちょっと怖い。ただ、同年代の友達と呼べる存在がいなかった僕には、この教室に心地よい温かさを感じている。この空気感は大切にしたいと思った。


 これで自己紹介が終われば良かったのだけれど、それとこれとは話は別にある。A組の皆はまだまだ僕に聞きたい事がありそうな雰囲気だし、先生も聞きたい事があると言って少し事前に時間を取ると言っていたので、僕の時間はもう少し続く。こうなって来ると、僕の後ろ以降の人がやり辛く無いだろうかと気まずく思うので、早い所終わって欲しいと願うばかりだ。


「皆から大事にして貰えそうで良かったな、日和。それでだが、備考欄には特別能力者入学枠とあるんだけど、これは本当なのか? 差し支えなければどんな能力なのかも把握しておきたいのだが……」


 先生がそう言うと、桃瀬さん以外の皆の目も輝き、熱も籠り始めた。さっきまで良い感じに温かかった空気感だったのに、なぜだろう今は少し暑く感じてしまう。


 能力者と言ってもその能力は千差万別ある。特別能力者にもなって来ると期待の色は大きい。僕の能力は回復能力だ。この世界ではこの能力と言うだけで、特別な枠で入学出来る位には希少な能力になる。


 大きな怪我とか瀕死の重体とかは、まだ流石に治せる程の実力では無いけれど、それでも痛みを和らげたり治癒力や抵抗力を上げたりなんかは一応出来る。治療を行うには神経や血管や筋肉や骨や内臓を把握していないと正しく効果を発揮しない事もあるので、まず人なら人の、動物なら動物の構造から把握しておく所から始まる。


 僕は回復能力は一通り使えるし、人体の勉強も行っていた。じゃあなんで女の子の身体機能には疎かったのかと言われると、僕は女の子じゃなかったし、そもそもアレは痛みや出血はあるけれど病気でも怪我でも無いので、幾ら構造を把握してても僕の能力ではどうしようも無いし、勉強の範囲では無かったとしか言えない。


 教室の熱気と僕自身の恥ずかしい体験談で、顔が少し熱くなりながらも、なんとか答えていかねばと声を出す。


「私の能力ですか……まだ初級の範囲までしか修めていないのですが、回復の能力を一通りは扱えます。これからももっと精進して、卒業する頃には中級までの範囲を習得していきたいです」


 能力を話し終わり、何とか冷静になろうと一息を吐こうとしたら、教室は一気にざわめき、思わず息が引っ込んでしまう。


 女子からは「回復能力!? すごーい!」「日和さんってやっぱりお姫様なんじゃないの?」などと言った僕に憧れるような声が聞こえ、男子からは「癒し系お姫様って最高だな!」「俺も癒されてぇ……」等と言った何だか良くわからない声が聞こえる。


 注目に耐え切れず、これ以上は身が持たないので、何とか落ち着いて貰おうと宥めようとしても、教室内は一向に落ち着かない。そうだ、こういう時はヒーローだ。と、桃瀬さん達にどうにかして貰おうと顔を見ると、桃瀬さんは僕の方に顔を向いて目を思いっきり輝かせ、何だか妄想の世界に入っている。これではどうしようもないと、もう一人のヒーローの方を見ても、向こうも何故かこっちを見て小声でぼそぼそ呟きながら惚けているような顔をしている。


 突然どうしたのか、肝心な所でヒーロー二人が役に立たなくなってしまったので、最後の頼みの先生に助けを求める。先生も自己紹介の場でこんな騒ぎになるとは思っておらず、二人で周りを落ち着かせるのに数分掛かってしまった。




「髪や目の色や、見た目の雰囲気や本人の性格と能力が相まって、騒ぎを起こすのはわからんでも無いが、流石にやり過ぎだぞお前達。このクラスや他のクラスにも日和以外に、他にも能力者はいるのだし、中には過去にからかいを受けて気にしている者もいるかもしれない。皆が皆、日和みたいな子だとは限らないんだ。その子の見た目だけを見るんじゃなく、内面を大事にしてやるんだ。いいな?」


 はーい、とトーンダウンするA組一同。桃瀬さんも正気に戻り、一緒に落ち込んでいる。僕だけでもう結構時間を取ったし、疲れてしまったので先生から最後の質問が入る。


「日和の能力は把握したが、確か日和はここに一人で引っ越してきていると聞いている。これだけ希少な能力だと他にも誰か親族で日和に似た能力者とかはいたりするのか?」


 先生からの質問に、僕はどう答えようか悩む。僕は生まれつき孤児なので、そういう人がいるのかいないのかなんてわかりっこなんて無いのだから。


 隣の桃瀬さんも先生の質問を聞いて、ハッとした顔をしたと思ったら苦い顔になる。最初からいない者に僕自身はそんなに悩んだ事は無いのだけれど、それでも気にする人は気にしてしまうのが人っていうものなのだろう。


「実は私、生まれた時には孤児だったんです。なので、親が誰なのかとか、今も生きているのかとかも全く知らないので答えられないんです。けれど幸い、小さい頃に孤児院から引き取られて、大事に育てられて過ごして来ました。今でも私の大切な人達は私を大事に思ってくれています。一人で引っ越してきたのも、社会勉強の一環としてその人達に薦められたからなんです」


 僕がそう答えると、まずい質問をしたのだと先生も戸惑ってしまい、慌てて謝罪が入る。


「ああ……いや、済まない……そういう事情があったとは、先生も余り考えが足りていなかったようだな。ただ、日和がその人達にとても大事にされているのは良くわかる。日和自身の言動からしても余程の人格者なのが伝わって来る。良い人達に出会えたようだな」


 先生は深入りさせないようにそう言って、僕の自己紹介の締めに入ろうとしている。僕の番が終わり、ようやく席に腰を下ろせる。しかし、A組の皆は僕のさっきの話を聞いて、何だか神妙な空気になってしまった。


 これでは自己紹介が回せない、これで座って良いのかと思っていたら、察した先生が甘い物のお店を幾つか紹介してくれた。ただチョイスが微妙にズレていたのか、そういうのに詳しい女子からツッコミが入り空気を和ませてくれた。




 ようやく自己紹介が次に進み、順調に進行していく。僕の自己紹介一つで場の空気がとんでもない事になってしまったので、何だか次の人達に申し訳ない。


 そう思い後ろを振り向き謝罪をしようとしたら、寧ろ自分達も色々気になって仕方なかったし、こうなるってわかってて乗りに乗ってしまった所もあると言う事で、許してくれた。


 順番が巡って、いよいよ桃瀬さんの番になった。僕の時と同様に、教室中の視線が集まる。ただ、僕の時は男女問わず視線が来ていたけれど、桃瀬さんの場合は男子からの視線の方が強く感じる。


「次は桃瀬か、桃瀬もまたクラスの注目を集めているな。先に言っておくと、彼女は最初に自己紹介した赤崎と同じヒーロー部隊に所属しているので、当然赤崎と同じ措置を設けてあるぞ。それじゃあ桃瀬、自己紹介を」


「私は桃瀬 涼芽よ。最初に自己紹介した焔とは同じ組織のメンバーで、それ以上の関係では無い事は最初に言っておくわ。そして私は今日、運命とも呼べる出会いを果たしたの、その子は正に護るべきお姫様と呼ぶのに相応しくて、私の理想と言っても過言では無いわ」


 過去に何かやっかみを受けたのだろうか、最初に独特な断りを入れて桃瀬さんの自己紹介が始まる。彼女は同じガンバルンジャーの男子達よりも、興味がある子がいるのだと言わんばかりの意味深な事を言い放つ。


 ……ここでもお姫様と呼ばれてしまうという事は、相当な気に入られ方をされてしまったと、僕は一人身震いしてしまう。


「今日ほどヒーローとして活動してきた事に感謝するなんてね、これからはヒーローであると共に、お姫様に相応しい素敵でカッコ良い騎士なる事を誓うわ! 皆、応援よろしくね!」


 桃瀬さんの自己紹介(?)が終わる。それと同時に男子達からの熱い声援が飛び交う、女子達は何だか微笑ましい物を見るような感じで桃瀬さんに拍手を送っている。


 それらを応援と受け取ったのか、桃瀬さんは拍手と声援にお礼を言って感謝している。多分彼女の言うそのお姫様であろう僕は、A組のノリについていけずに苦笑いをするしか出来なかった。


「そ、そうか……桃瀬よ、隣でそのお姫様が苦笑いしているから、なるべく日和の負担にならない程度にしておくんだぞ」


「勿論です! だって嫌われたりしたら元も子も無いですし! これはあくまでも私の決意表明ですから、皆にも伝える事で私の本気度を示したかっただけです!」


 正直、僕に対する熱量が凄いしヒーローでもあるしで、少し桃瀬さんの事を怖いと感じてしまっている。最初に出会った時は凄く親切な人だなって思っていたのに、一体僕の何が彼女の本能を刺激してしまったのだろうか。出会って初日とは思えない位距離感が近くて、普通の女子ってこれ位近づいてくるものなの? 誰か僕に教えて欲しい。


 先生からやんわりと自己紹介を次に回すように促され、桃瀬さんは席に座る。


 今は僕の方に向かって、満面の笑みを浮かべている。その顔はやりきったとでも言いたげにしていた。


 自己紹介も最後まで進み、先生の言葉で次の話に進む。先生が正面の電子ボードを操作し、来週の予定表を出す。始業式に、A組での委員決めに、身体測定に、組全体での集合写真なんかもある。


 身体測定に委員決めかあ、ボロを出さないように気を付けねば。特に身体測定とか、ただでさえ僕は謎のお姫様扱いを受けてしまっているので、これからどうしたらいいのかグレイスさんやメイさんと相談しなければ。多分グレイスさんは面白がって変な方向に舵をきりそうだけれど、一人でパニックになるよりまだマシかもしれない。


 委員決めも教室に馴染む為以外にも、色々と学校内で情報を探る理由付けに最適かもしれない。僕の能力からして、保健委員とかがピッタリだと思うし、その方向で上手く行けないか期待したい。一応これらの予定は今後の作戦に役立てないか、メモをしておかねば。


 先生からの注意事項も耳に入れて、今日はこれで学校は終わりになる。特に用事も無い僕達新入生は真っすぐ帰路に着くだけである。今日は金曜日で、土日があるので次の登校は来週になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ