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第六話 流石に男子も普通にいる場所だと恥ずかしいですよ




◆◇◆




 遂に訪れた希星高校の入学式。僕にとっての一世一代の潜入作戦がいよいよ始まる。


 高校の女子制服を身に纏い、鞄は用意したし、ハンカチやティッシュも準備万端である。


「変な所はありませんよね? 制服はグレイスさんに言われた通りキチンと着ている筈だし、靴下も違う種類の物は穿いていませんし、髪も寝癖はブラシで入念に梳かしましたし、後は、後は……」


「桜ちゃんおはよー……今日は朝から随分とパタパタ慌てているけど、鏡の前でどうしたのよぉー……」


 僕が出す物音に目が覚めたのか、煽情的な寝間着姿で隣の部屋からグレイスさんが寝ぼけ気味にやってくる。彼女は引っ越しの後、一度シャドウレコードに戻る用事があり、数日して全ての用事をこなして入学式の前日に僕が心配だからと、こうして泊まり込みで来てくれたのだ。


 今の僕の姿は彼女によって徹底的に鍛えられた、完全な女子高生スタイルになっている筈だ。でも、一人で着替えていざ鏡の前に立ち、不安でへにゃりとしている自分の顔を見ると、途端に居ても立ってもいられなくなってしまい軽くパニックを起こしてしまった。


「おはようございます、グレイスさん。うるさくして起こしてしまってごめんなさい……あ、あの、今の僕は言われた通りにちゃんと出来てますでしょうか……?」


「んんー……? あぁ、そういう事ねぇ……私が教えた通りに桜ちゃんはちゃんと制服は着ているけど、どうしても不安になっちゃうのかしら。だったら髪型とか軽く弄ってみましょうか」




 そういうとグレイスさんは、ブラシとヘアゴムで僕の髪をササっと弄り髪型を変えてくれた。後ろの髪の一部を左右に分けてヘアゴムで纏めただけなのに、鏡に映る僕はさっきとは少し印象が変わって見える。


「桜ちゃんの髪は長くて綺麗だし、能力者の特徴で髪の色も特殊だから、ただでさえ周りの女の子達は意識して羨ましがるわよねぇ、なら何もしていないよりかはこうやって少し髪型を弄ってオシャレしておけば、悪い印象は与えないと思うわ」


「な、なるほど……そうなのですね! 勉強になります。後で自分でも出来るように練習しておきますね」


「うんうん、がんばれがんばれー。後は緊張しちゃって唇が乾燥気味になってるから、リップクリームを塗っておけばいい感じになるわよ」


 そう言われてふと鏡を見る。言われてみれば確かに口元も少し気になる。


 鞄の中に入れてあるポーチから色の付いてないリップクリームを取り出し、自分で塗ってみる。こういう細かい所が足りて無かったから、僕は不安になってしまったんだなと自己分析してみた。




 これではまだ無事に作戦をこなせそうに無いかもしれない、でもここで凹んでいては立派な四天王にはなれない。


 この作戦を成功させて、見事頼れる素敵な僕になり、僕の成長を期待してくれているレオ様を喜ばせるんだ。


 鏡の前で握り拳を作りむんっと気合を入れる、先程とは変わって鏡に映る僕は少し凛々しく見えた。よし、これで大丈夫な筈だ。


 僕が気合を入れていると、隣でグレイスさんはくすくす笑っている。


「うふふ、桜ちゃん気合入ってるわね。今日は入学式だけなんでしょ? そんなにすぐ情報が手に入るなんてレオ様達も思ってないだろうから、まずは学校に慣れる所から頑張れば良いのよ。後は一人称を意識出来れば誰も貴女の素性なんて見抜けないでしょうねぇ」


「えっ? あっ、そういえばそうでした! でも一人称ですかぁ……僕じゃあ確かに変ですよね……わ、私……ですか。な、なんだか知ってる人の前で一人称変えるのって気恥ずかしいです……」


 全く面識の無い相手になら、一人称を変えて話しても多分普通に話せると思う。けれど、今まで親しくして来た相手に急に一人称を変えて話すと何だか凄く身体がムズムズしてしまう。


 今までの僕の事や、少し前の僕の姿も知られている分、いきなり自分の呼び方を僕から私に変えるのなんて何でこんなに難しく感じるんだろう。


 特にグレイスさんは、今まで散々僕の恥ずかしい姿を見て来た筈だけれども、それは意識の外の出来事だったり無理矢理身体を見られたりして来た恥ずかしさだったから、今回の僕が自分で言わなければならないこれは別の恥ずかしさを覚える。




 そんな一人で勝手に恥ずかしがってる僕を見て、グレイスさんが突然僕を抱きしめて来た。寝間着姿の彼女の身体は色々柔らかくて、感じた事の無い感触に驚きすぎて声が出せない。


「ああ、もうホントに桜ちゃん可愛すぎるわぁ……こんな健気な子をこれから血気盛んな思春期男子もいる戦場に送り出さなきゃ行けないなんて、お姉さん辛すぎてしんどいわぁ……」


 ぶにゅんぶにゅんで、もにゅんもにゅんとした温かくて柔らかい物を僕に押し当てながら、僕を心配するように語りだす。


「良い? 貴女位の歳の男子は普通、異性との繋がりに酷く飢えているものなのよ? この前のお引っ越しの時もそうだったように元が同じだから大丈夫だとか絶対に思わないでね、心配で心配でもう」


 息が出来ない位に潰されそうになっている僕は、とりあえず放して欲しくて思わずグレイスさんの背中をぺんぺんと叩いて意思を知らせるのが精いっぱいだった。


「あらっ、ご、ごめんねぇ桜ちゃん……お姉さん、恥ずかしそうに一人称を変えてもじもじしてる桜ちゃんが可愛すぎて、つい理性が吹っ飛んじゃったわ。多分、今のレオ様に同じ事をやったら確実に気絶しそうだから、私達の前では無理して変えなくて良いからね」


「はぁ、そうですかぁ……潰れて窒息するのは嫌なのでわかりましたぁ……こういうのって外で慣れたら知ってる人達の前でも恥ずかしく感じなくなるものなのでしょうか」


 突然の抱擁に服や髪が乱れて無いか鏡の前で確認しながら、グレイスさんに尋ねてみる。いつか僕も自分の事を私って呼ぶようになるのかなぁ。


 大人の人なら男性でも普通にそう言う人もいるし、いずれ大人になる僕も格好良くそう言えるようになりたいな。


「うーん、まあ慣れたらそうなのかしらねぇ。イグアノだって一人称私だし、桜ちゃんみたいなお年頃の子達って徐々に使い分けを覚えていく頃だと思うからこれもお勉強なのかもね。でも、もし桜ちゃんが能力や強さがそのままで男らしい言葉遣いだったり俺とか使ってたら、これを矯正するのにもっと大変だったわよ」


 これもお勉強の一つだとグレイスさんはそう言う。確か、時と場所と場合が大事だとか服装や言葉遣いの話を、何処かで聞いた事があるような気がする。


 この作戦も高校に通える学生位の年齢の子が必要だった訳だし、そういう物が求められていると言える。四天王ザーコッシュの存在を徹底的に隠す為に、僕はわざわざ女の子にされた訳だけれど、このひと月程で指導されたのは女の子としての服装や髪型や身の回りのケア位で、立ち振る舞いや言葉遣いでグレイスさん含め、女性隊員達からは何か言われた事は無い。


 男だった身としては何だか散々な評価をされたような気がしたけれど、もうそろそろ出発しないと入学式に遅れてしまう。幸い乱れた所は無かったので、このまま玄関に向かう。


「それじゃあグレイスさん、僕もう学校の方に行きますね。昨日から家に来て下さってありがとうございます。今日僕一人だったら慌てて大変な事になってました」


「うん、桜ちゃんも気を付けて行ってらっしゃい。寄り道はしないと思うけど、今日は久しぶりにレオ様達に顔を見せる日だからそのつもりでね」


 そういえばもうそんな日になるんだ。久しぶりの報告会議でレオ様達の顔が見られる。今の僕の姿を見てどんな反応をしてくるんだろうか、少しは落ち着いて下さっていると良いのだけれど。


 学校指定の靴を履き、玄関のドアを開ける。行ってきますと声を掛け外に出る。


 さあ、いよいよ大事な作戦の始まりだ。まずは学校に通う一般生徒として上手く馴染んで、それから情報収集だ、頑張るぞー。




◆◇◆




 マンションから出て、歩いて数分が経とうとしている。レオ様から貰った地図を予め確認しておいたけれど、こうして実際に道を進んでいくのは初めてになる。


 数日前に来るべきものに備える為にバタバタして、出歩ける程精神的な余裕が無かったというか、なんというか……幸い、メイさん曰く数日前から体調に気を遣って身体を冷やしたりとかしなければそこまで辛くはならないとの事らしい。


 肉体よりも、下着やら何やら色々汚したりしてしまった精神的な疲労の方が大きかったので、後は何度か経験して乗り越えるよう頑張るしかない。そう思うと入学式より前に来てくれたのは、これも幸いなのかもしれない。


 という訳で、ここひと月何もかも初めての事ばかりの僕は、また新たな初めての経験に新鮮な気持ちにさせられっぱなしなのである。緊張はするけれど、これまでの経験は全てこれからの日の為の物なのだ。再度気合を入れ直して、一歩一歩周囲の景色を覚えながら進んでいく。




 少し歩いていけば住宅街とは違う広い道に出て、自分と同じ制服を着て同じ目的地に向かおうとしている人をちらほら見かける。彼ら彼女らは一瞬僕に視線が向いたかと思うと、一瞥しただけでおっかなそうに距離を取ってしまう。


 一体なんでなんだろう、髪の色や目の色もそうだけれど、やっぱり僕の姿は何処か変なのだろうか。


 家できちんと確認はしたし、グレイスさんだって我を忘れて抱き着く位には僕を褒めてくれたのに。


 先程まで期待と気合で明るい気持ちで歩けていたのに、急にあんな対応をされると不安になってくる。道は間違っていなかったのでそこには安心したけれど、学校でちゃんと上手くやれるのかな。どうしよう。


 同じ制服を着ていた人から、男女問わず予想していなかった対応をされて、思わず落ち込んでいると、不意に横から声を掛けられる。


「ねえ、そこの貴女随分不安そうな顔をしているけど、一体どうしたの? 大丈夫?」

 

 声を掛けられた方に顔を向けると、そこには僕と同じ制服を着た女の子がいた。


 明るめの茶髪をポニーテールにして、前髪にピンク色のヘアピンを付けたほんのり瞳が桃色に見える、僕よりもスタイルも身長もある活発そうな子だ。


 周囲を見渡すと、少し離れた所に何人かはいるけれど、距離を取られた僕の周りには誰もいない。


 わざわざ彼女はそんな僕に話し掛けて来たのだと理解する。その上で大丈夫? と聞かれたので、とりあえず返事をしなければ。




「えっ、あっ……わ、私ですか……? えっと、はい、大丈夫です……」


 出る前に言われた一人称もちゃんと意識して返事をしてみる。突然声を掛けられたので変な感じになってしまった。うん、大丈夫じゃない。


「いやいや! 大丈夫じゃなさそうだけど!? ホントに大丈夫なの貴女? 見た所一人だけのようだし、何かあったの?」


 ポニーテールの彼女は、見た目通り活発に僕の様子を伺ってくる。声は少し大きめだけれど、話し方や表情を見る限り、僕を気に掛けているのは確かだ。出会って間も無いのにここまで接して来るのはどうしてなんだろうと思うと、また別の女の子達がやって来て、彼女に声を掛ける。


「おはよー、チュンちゃん。って、隣の子誰!? 凄っ! えぇ……こんな子初めて見るわぁ……私らと別次元過ぎじゃんよ」


 女の子達は僕を見て、途端に騒ぎ始めた。それをチュンちゃんと呼ばれた最初に僕に話し掛けて来たポニーテールの子が一喝してその場を収める。


「コラー! はしゃぎ過ぎよ! 急に騒いだらこの子だってびっくりしてるでしょ!? 皆同じ制服着てるし、学校に向かってる途中でしょ、サッサと行けっての」


「あぁ、確かにそうねぇ。じゃあ私ら先行って通学路にとんでもねえ子がいたって話してくるわー。じゃあねチュンちゃんまた学校でー」


 そう言って、後から来た女の子達はチュンちゃんという子に任せるようにスタスタと先に行ってしまった。


 僕は出会ってすぐの知らない人から別次元とかとんでもねえとか言われても、何がそれに当てはまるのか良くわからないので、ポカンとしてしまった。




「ごめんねぇ、突然あの子達も騒ぎ出しちゃって驚いちゃったよね。しかも周りに貴女の事話してくるとか何考えてんだか、全く」


「ああ、いえ、私自身目立つ髪や目の色をしているという自覚はありますので、そこは承知の上です。それより別次元とかとんでもねえとはどういう意味なんでしょうか? 確かにとんでもない髪の色をしていますけれど」


 自分の髪の一部を摘まんで確かめる。白みを帯びた銀髪に毛先だけほんのり桜色をしているこの髪は、僕自身でもとんでもないとは思う。


「あー……確かに髪の毛もそうだけど、多分そこじゃないと思うわ……それでさっきも聞いたけど、不安そうな表情で一人でいたけど何かあったの? というか貴女って、ここら辺じゃ見かけた事無いんだけど、外国とか異世界からとかの出身ですか?」


 お互い初対面なので、どこから来たのかと出身を聞かれてしまう。シャドウレコードからヒーローの調査をする為にやって来たとはとても言えないので、どうにか当たり障りの無い感じの説明を考える。


「私は希星高校に入学する為に最近この辺りに引っ越してきました。でもその後すぐに体調不良で数日寝込んでいたので、見かけた事が無いのも仕方が無い気がします」


 僕は産まれてから物心ついた時にはもう孤児だったので、本当の両親の顔を知らない。なので外国とか異世界出身なのかと尋ねられても、正直どう答えるのが良いのかわからないけれど、これは素直に話すしかないのではと思う。


「あと、ちゃんとこの国の戸籍は一応持っていますが、産まれた時には既に孤児だったもので、実の両親や何処の産まれとかは聞かれても私も全然知らないんです」


 出自については全然知らないのだけれど、シャドウレコードに拾われた時に表で活動する時用の戸籍は用意してある。ただそれもこのひと月で大きな変更があったのだけれど。


 自分でも全く知らない事を聞かれて、変にはぐらかすのも深掘りされるとどうしようも無いので、言いにくいけれど正直に話すしかなかった。


 どう答えようか考えながら話したので、いつの間にか目線が地面を向いていた。これではいけないと思い、目線を上げるとチュンちゃんと呼ばれていた少女は、自分が何気なく尋ねたであろう質問が不味い質問をしてしまったと、一人震えていた。


「ごっ! ごめんなさいっ! 貴女が全く見掛けた事が無い、とびきり可憐で儚げな綺麗な子だったからっ、もしかしてはるばる遠い国からお忍びでやって来たお嬢様か何かだと勝手に思っちゃったのよ! だからそんな事を聞きたくて尋ねた訳じゃないの! ホントにごめんなさい!」


 勢い良く頭を深々と下げる彼女。勢いが良すぎて側にいると頭をぶつけてしまいそうだった。ぶおんとした風圧と素早くしなるポニーテールに僕の髪が少し揺れた。




 孤立してしまっていた僕を見かねて声を掛けて来てくれたこの人は、悪い人じゃなさそうなんだけれど、何だかとてもパワフルだ。活発そうな印象だったけれどここまで力強いとは。

 

 ふとした瞬間に吹っ飛ばされるんじゃないかと警戒するが、僕が何か言わないとずっと頭を下げてそうだったので、声を掛けてもう少し会話をしてみる。


「あの、頭を上げて下さい。自分でもどう話せば良いのか考えながら話していただけですから、落ち込んでいたとかでは無いんです。それに、歩いていただけで何故か周りに距離を置かれてしまい、不安になっていた所に声を掛けて来て下さったのは、チュンちゃんさんだけですし」


 お互いまだ名前を知らないので、とりあえず先程呼ばれてたチュンちゃんで呼んでみる。いきなりチュンちゃんは馴れ馴れしいと思ったのでさん付けもしてみた。


 僕が声を掛けると彼女はホッとしたような顔で頭を上げる。


「怒って無いんだ……良かったぁ、私って周りにしょっちゅうデリカシーに欠けるって言われるし、さっきのもまたやっちゃったって、どうしようってなってたんだよね。こんな可愛い子に嫌われちゃったらこれからの学生生活、三年間お先真っ暗かと思ったわ」


 頭をようやく上げ、先程と同じ調子に戻る。


 僕に嫌われた位でお先真っ暗になるとは随分大袈裟な、とは思うが、僕もさっきは不安になっていたので人の事は言えないなと、胸の内だけに留める。


 いつまでも道の上に立っているのも学校に遅れてしまうし、目的地も一緒なのでここからは歩きながら話しましょうとチュンちゃんさんから提案され、僕も一人だとまた寂しくて不安になりそうだったので、それに乗って一緒に歩きだした。




 テクテクと歩を進めていると、歩きながら色々考えるような素振りをしていたチュンちゃんさんが話し掛けて来る。


「それで、私が貴女に声を掛けた理由を改めて言うんだけどね。同じ制服着てて見た事も無いとびきり可愛い子が一人で不安そうな顔をしていたから、気になって声を掛けたんだよね」


 おどけながらそう言う彼女、親切心で声を掛けて来たんだと言うのが伝わって来る。


「結構色んな女の子にこうやって声を掛けて仲良くなって来たから、やり慣れて無いと貴女みたいな子相手だと萎縮しちゃってたかもね。あーでも、なんかこれじゃあナンパみたいだわ、あっはは」


 そう笑いながら、僕から距離を取って離れた人達の事も向こうが萎縮してしまったのだと説明が入る。


「ナンパだなんてそんな、たまにそういう目的の為に私に話し掛けて来る男の人はいましたけれど、貴女みたいな優しい理由で声を掛けて来て、ナンパだなんて言う人初めてですよ」


 引っ越しの時の一件含めて、シャドウレコードで僕をそういう目で見て来たであろう人達を、グレイスさんとメイさんは纏めてナンパ野郎とそう断定した。

 

 僕の事を上司とわかっていたから一線を越えて来る人はいなかったが、尚もグイグイと迫って来られたのには、認識の差を教えて貰ってから改めて思い返してみると、少し複雑な気持ちになる。


「ええっ!? ナンパされた経験あるの!? そりゃ男子からして見れば放って置けないだろうけど、こんな子にそういう目的で声を掛けるなんてちょっと一体何考えてる訳!? ……って、私もさっきナンパって言っちゃってるじゃん! 違う、私のはナンパかもだけど違うの! またデリカシーの無い事言っちゃってた!? ホントにゴメン!」


 チュンちゃんさんは僕の嫌な体験を聞いて、親身になって怒ったかと思うと、自分がおどけて言った言葉がまた悪い方向に向いているんじゃないかと、慌てて手を合わせて謝罪し訂正し始めた。


 僕の事で勝手に慌ててしまう様子を見て、何だか彼女は少しレオ様に似ている気がした。


 慌てふためくレオ様の事を思い出してしまい、不意に笑みがこぼれてしまったので、チュンちゃんさんが不思議がって尋ねて来る。


「……って、怒らない所か笑ってる? 何処かおかしい要素ってあった?」


「あはは、いえ、慌てふためくチュンちゃんさんの姿が、孤児だった私を拾って、育ててくれている大事な人に少し似ていたんです。普段はとても格好いい素敵な人なんですけれど、最近は私の事になると特に一人で慌てているんです」


 レオ様達、今頃何をしているんだろうなぁ。

 

 グレイスさんは能力的に力に頼らないタイプだし、見た目を誤魔化して会いに来てくれて寂しくは無いのだけれど、レオ様達はこっちに来るのは無理そうだろうな。尚更、今日の通信会議で久々に顔を見せるのが楽しみだ。


 楽しみで仕方が無くなって、目の前に人がいて会話の途中なのに、何だか顔がにやにやしてしまう。これではいけない、失礼な人に思われて無いだろうか。




「へぇ……孤児だって聞いてびっくりしたけど、顔を見ればホントに大事にされてそうだし、ホッとしたわ。ねえ、私が少し似てるって人ってカッコよくて素敵って言ってたけど、もしかして男の人だったりする?」


「は、はい! そうなんです。私とは少し歳が離れているんですけれど、凄い頼りになる人なんです。あっ、で、でも失礼ですよね、男の人に雰囲気が似ているなんて言われても。チュンちゃんさんは私よりスタイル良くて健康的で綺麗ですし、どう見ても女の子なのに、ごめんなさい」


 女の子が男の人に雰囲気が似ているだなんて、そんな事を言われた方は褒められた気がしないだろうと思い慌てて謝罪をするものの、彼女はどういう訳かそれを気に入ってる様子がした。


「ふふん良いの、気にしなくて。だって私カッコよくて素敵な女を目指してるから! 寧ろどんどんカッコいい素敵って思って! あー、身近にそんな人がいるなんて羨ましいなぁ、私も大人になる頃にはそう思ってくれる子に出会えないかなー。なんてね」


 腕を上にあげ、頭の後ろで手を組みながらそう答えるチュンちゃんさん。見た目はとても女の子らしい女の子なのに、格好良さに憧れていて頼りになる素敵な存在を目指しているなんて、僕も見習わなければ。


 そんな事を思っていると、どこかもどかしそうな顔をした彼女が僕にまた話し掛けて来る。


「所でさ、話は変わるんだけどさ。お互いまだ名前も知らないよね、ここまで話してるのに貴女の事なんて呼べば良いのかわからなくて、そっちはなんか私の事独特な呼び方してるけど」


 そういえばそうでした。チュンちゃんさんって呼び方は流石に気になるよね。話の振られ方からして本名では無い事は判明した。


 僕もここまで話し合った人に、これで名前も告げずに別れでもしたら、学校内で出くわした時とか非常に気まずい。




「そう言われればそうですよね、失礼しました。私は日和 桜って言います。先程チュンちゃんって呼ばれていたので、さん付けして呼んでいたのですが嫌でした?」


「日和 桜さんね、思ったより和風な名前でホッとしたわぁ、でも桜って名前は髪の色的に似合ってて素敵よね。後、別にチュンちゃん呼び自体は嫌じゃないのよ、ただ小さい頃からのあだ名だから初めて会った人からそう呼ばれるのはちょっとムズ痒いっていうか、まあ何か変な感じしない?」


 人差し指で自分の頬を軽く搔きながら話す彼女。確かに僕も見ず知らずの人に突然ザーコッシュって呼ばれたらびっくりするかもしれない。


「私の名前ってスズメって言うのよ、ほら、スズメってチュンチュン鳴くからそこから取ってチュンちゃんな訳よ。小さい頃はそう呼ばれる経緯が可愛かったから気に入ってたんだけどね、流石にこの歳になる頃にはチュンちゃんは可愛すぎるかなぁって」


 シンプルだけれど、とっても可愛いらしい理由で良いなと思う。僕のザーコッシュって名前は四天王としては弱すぎるからって理由で、皆が面白がって付けた名前だった思い出がある。いつか僕が強くなったら改名する予定ではあった。


「スズメさんって言うんですね。スズメがチュンチュン鳴くからチュンちゃんという訳ですか、私も可愛くて良いと思うんですけれど、今は格好良いのを目指しているんでしたっけ」


「うん、そうよ! 漢字の方は涼しいって字と、植物の芽で、小鳥の方じゃ無いんだけどね。それで苗字の方は桃瀬って言うの。桃瀬(ももせ) 涼芽(すずめ)よ、桃と桜で何だか良い感じだと思わない? これからよろしくね日和さん。困った事があればいつでも声を掛けてね」




 え? 桃瀬? 今確かに目の前の彼女は桃瀬だと自己紹介した。


 何処かで見た覚えがある名前である。ウルフさんが調べ上げて、レオ様から貰った資料にもその名前が記載されていた筈だ。多分親戚か兄弟姉妹の類いなんじゃないかとは思う。話し掛けて来た相手が、まさか本人である確証はまだ無い。


 桃瀬さんは僕からの返事にニコニコと微笑んで待っている。とりあえずこちらも返事をしなければ。


「も、桃瀬 涼芽さんですね。はい、こちらこそよろしくお願いします……い、いやー、桃と桜ですかー、確かに奇遇ですねぇ。あはは……」


「急にどうしちゃったの日和さん、もしかして、私またなんか不味い事言っちゃった? 桃と桜で近くて良いねって思ったんだけど、これ嫌だった? 順番が気に入らないとかだったら別に桜と桃でも良いんだけど……」


 何だか気まずい空気になってしまった。気が付くと目的地の希星高校の校門まで来ていた。


 桃瀬さんが明後日の方向に勘違いして気を遣ってくれている間に、何とか策を練らねばと考えていると、先程の女の子達がこちらに近付いてくる。


「あー、チュンちゃんやっと来たー。もう遅いよー、あっ! さっきのとんでもねえ美少女も一緒じゃん! やっぱ改めて見ると私らと顔の造形全然ちがくね?」


「ねえねえ! 貴女名前なんて言うの? さっきは聞きそびれちゃったから今聞くよ! それにしても髪も凄い綺麗だし、脱色とかじゃ傷んで絶対こんな維持の仕方出来ないって。やっぱほらっ天然物じゃん!」


「肌も凄いよこの子! 透明感半端無いし、シミもほくろも見つかんないって。ていうか、無駄な毛が生えて無いし、毛穴無くね!?」


 彼女達は僕達を見つけると、目を輝かせて近付き僕の身体を突然触り出した。何をされているのかわからず、僕は驚いてしまう。


「えっ!? あ、あのっ! ちょっと、かっ、身体とか急にっさわっ! んひゃあっ! 首筋とかくすぐったいですっ、な、名前教えますからっ! あっ、や、やめてくださいぃっ、そこ触るのだめですってぇ!」


 突然の乱痴気騒ぎに周囲は騒然となる。更にこの人達はそれなりの人に言いふらしたのだろう、僕の姿を見てざわめき出した。幸い、反応しているのは女子が多めなので、首元とか、脚周りを触られても女子の視線を気にしてか、色めき立った人はほぼいない。


「こらぁ! アンタ達校門の前で日和さんに何してんのよぉ! 幾ら気になるからって、時と場所を考えなさいよ。私だって気になってるんだし、立場が無ければ混ざりたくなるじゃない! 理性を消費させないで! 縁切るわよ!」


 桃瀬さんが三人に注意する。後半の発言が気になるけれど、一応止めには入ってくれている。


 僕はまだ色々見て回りたい三人から渋々ながらも解放され、何とか服や髪の乱れを直す。


「大丈夫? 日和さん、ごめんねぇ私の友達が急に変な事しだして……ほら、アンタ達も謝んなさいって!」


「うひゃー、悪かったってチュンちゃん。日和さんっていうの? さっきはごめんね! 何かとんでもねえ別次元の美容法でも隠し持ってんのかと思ったけど、ただ単に日和さんが別次元に綺麗なだけだったわ! ホントにごめんなさい!」


「髪とか肌とかは普通にケアはしてるっぽいんだけど、化粧品で補えるレベルじゃ無いんだわ。おみそれしました。ごめんなさい、それで上っち、私らの組に日和さんの名前ってあったっけ?」


「いやー……流石に無かったと思うわぁ。日和さんごめんねぇ、皆に言ったらどうしても気になっちゃった子もいてさぁ。女子の間であっという間に話広がっちゃうし、チュンちゃんの友人の私らが代表して日和さんの事調べるような事して悪かったね。ごめんなさい」


 ああ、これってそういう事だったのかと思う。ひと月前にも似たような事があったなぁ。恥ずかしくてびっくりしたけれど、まだ服を着ている分診察の時とは違い、恥ずかしい部分までは見られて無いからまだ落ち着ける。


 規模や勢いはこっちの方があったけれど、ひと月前のは裸になった分、生々しさがより顕著に出ててあっちの方が恥ずかしさの方では上だった。

 

 くすぐったくて思わず変な声を出してしまったのがあれだと思うが。ひとまず乱れた所は直せた筈なので、僕は三人に向き合う。


「あの……私も人とは色味が違う分、多少なりに覚悟はしていたつもりです。女子が相手なら、髪が気になると言えば触っても良いですし、ケアの仕方も尋ねられたら知っている範囲でなら答えました。ただ場所は考えてやって欲しかったです。流石に男子も普通にいる場所だと恥ずかしいですよ」


 自分なりに心構えはしていたが、これは少しやり過ぎているとそう答える。こういう事をされるのは恥ずかしいし嫌だけれど、グレイスさんが前もって言った通り、気になる子は気にするだろうし、こうして羨ましがっている子達を間近で見てしまうと、あまり強くは出られない。


 それに相手は僕の事を完全に女の子だと思っている訳だし、自分から手を出すのはアウトだけれど、向こうから手を出して来て、女の子の枠組みに入れて貰う方が今は都合が良い。


 ここで僕が少し我慢すれば、少なくともここに集まってた女子達はオシャレとかに興味がある筈なので、そういう子達からのけ者にされず受け入れて貰える土台を作る事はこれからの作戦には必要不可欠だと、女性隊員達からそう学んだ。


 でも、嫌な事は嫌だとちゃんと周囲に意思表示もしておくのも大事だと、これも女性隊員達の教えになる。




「日和さん、ホントにごめんね、アンタ達も日和さんが妙に達観してるだけで、アレは普通に親とか呼ばれて停学になっても仕方ないレベルよ。入学初日でそんな恥ずかしい事にならずに済んだんだから、もっと反省しときなさいよ」


「えっと、私もそんなに気にしてませんから、桃瀬さんもその辺で落ち着いて下さい。それに気になる子は大勢いるのは自覚している方なので、こういう襲撃は違う人から何度も起こされるより、大勢で一度に襲撃された方が私は気が楽と言いますか……」


「そうだよ、チュンちゃん! 日和さんも言ってる通り、私らの行いは必要な行為だったんだよ。ていうか、あんなに周りに人だかり出来たら、私らじゃもうどうしようも出来ないって! あんなに人が来るとは思わなかったの!」


「男子も普通にいる場でやるのが問題だって言ってるのよ。やるなら女子更衣室とかあるでしょ。そこでなら私も羽目を外せるし」


 結局さっきの三人と一緒に校門前の通路を移動する。名前はそれぞれ上田、中島、下橋というらしい。


 上田さんは明るい茶髪に緩いウェーブがかかった子で、中島さんはショートボブの茶髪に髪の色と同じ縁をした眼鏡をしていて、下橋さんは黒いロングヘアでたれ目が特徴的だ。


 背丈は、上田さんは桃瀬さんより少し背が低く、中島さんは僕より背が低めで、下橋さんがこの中で一番背が高い。


 周囲にいた女子達は、僕の痴態を見て知りたい情報や、僕個人の主張を聞いて、知りたい事があれば教えてくれると理解したのか、無理をする必要は無いと判断してそれぞれの教室に向かった。


 桃瀬さんは真面目に怒ってる風に見えるが、何だかちょっと言動がおかしい。さっきも自分も混ざりたいとか言っていたような気がするし、女子更衣室なら羽目を外せるとか何なんだろう?




「えー、更衣室じゃ私ら日和さんと組違うから無理なんですけどー、さっき組み分け表見てきたらチュンちゃんとも組違ってたし、超萎えるんですけどー。もう帰っていい?」


「え? 上っち達と私って違う組なの!? 日和さんも違うってちょっと何でそんな大事な事教えてくれないのよ! てっきり同じ組だと思ったじゃない」


 そういえば僕も組み分け表を見ていない。どこにあるのか上田さん達に尋ねたら、玄関にある電子掲示板にあるという。


 せかせかと歩く桃瀬さんを先頭に組み分け表の前にやって来る。するとそこにはやけに男子が多くいて、一人一人が声を上げてはしゃいでいたり、はしゃぐ男子を恨めしそうに見る男子や、うな垂れて悔し泣きする男子もいる。


「一体どうしたんでしょうか、組分けであんなに大騒ぎする様な何かがこの学校にはあるんですか?」


「あー、あれだねぇ多分A組の件かなぁ。チュンちゃんA組だったよ」


「えー、ちょっとぉ! 何で先に本人の目の前でバラすの! 何組だったか気になってた私の楽しみ無くなったじゃない」


 下橋さんが桃瀬さんの組を先に言ってしまい、桃瀬さんがそれに怒っている。そんな僕達の声が前の男子達に聞こえると、彼らは一斉にこちらを振り向いた。


「み、見ろ本物の桃瀬さんだ……!」「隣にいる美少女誰だ……?」「あの子さっき校門で女子達に囲まれてた子だ」「確か日和さんって苗字だった筈」「!? マジかよっ! A組の男子全員爆発しろよ!」「うわあああっ! 羨ましいよおおおおお!」「チクショー!!!」


 様々な男子があれこれ言って騒いでいる。状況から察するに怨嗟の声の方が大きいので、あそこにいるのはA組では無い男子達なのだと思う。


 すると騒ぐ男子達に向かって桃瀬さんが一歩歩きだし、男子達を一瞥すると一言放つ。


「邪魔よ。入学式早々にこんな所でいつまでも騒いでたらこっちも迷惑なのよ」


 桃瀬さんがそう言い放つと、彼等は突然背中を震わせてササーっと退散し、慌ててそれぞれの教室に向って行った。


 僕はその一瞬で起こった出来事に驚き、その際に放たれた桃瀬さんの迫力について感想を述べる。


「うわぁ、何だか桃瀬さん凄い迫力ですね。私の知り合いにも似たような事が出来る人がいますが、一体どうやるんでしょうね、男子達が一瞬でいなくなってしまいました。私もやってみたいんですけれど、逆効果になって群がってしまうとその人に止められた事があるんですよね」


 僕が何となく呟いていく感想に、上田さんと中島さんが反応する。


「へえ、日和さんの知り合いにもチュンちゃんと同じ事出来る人がいるんだー。凄いね、チュンちゃん曰く、あれってとっても強い人が周囲を気合で威圧して怖がらせてるだけだって言ってたよ」


「じゃあ日和さんの知り合いにもヒーロー関係の人がいるって事!? うわぁ凄いじゃん! ねえねえ、どんな人なの? 男の人? 女の人?」


 ……えっ? 今サラッと中島さんから大事な確証を得る言葉を聞いたような気がする。じゃあもしかして桃瀬さんってやっぱり……


「あ、あの……中島さん、つかぬ事を伺いますけれど、私の知り合いがヒーロー関係の仕事だと思った理由って、もしかして桃瀬さんってヒーローか何かなんですか?」


 僕が尋ねた内容に、何だかスッキリとした表情をした桃瀬さんが、胸を張ってそう答えてくれる。


「私はそのヒーローよ、日和さん。と言っても最近Aクラスに上がったばかりなんだけどね。始めたのもここ数年だし、まだまだ修行中の身よ」




 間違い無い……桃瀬さんは、僕が調査を命じられたガンバルンジャーの一人で、恐らくガンバピンクだと思う。もし、ここで僕の素性がバレて戦闘になったら、僕には勝ち目は無い。絶対にシャドウレコードの四天王ザーコッシュだと言う事は知られてはいけない。


 一人で不安になっていた僕に優しく声を掛けてくれた親切な人が、まさかヒーローだなんて、思わないよね? ……ってそれ正にヒーローっぽい行動じゃん。

 

 どうしよう、一人で脳内で上田さん達のようなツッコミをしてしまう程に慌ててしまう。とりあえず、桃瀬さんが調査対象なのはわかったので、ここは一旦距離を取って家に帰って一度会議で作戦を練ろう。うん、そうしよう。


 そうと決まれば、せめて僕はA組では無い事を祈りたい。


「も、桃瀬さんがヒーローだったとは……驚きです、私の知り合いは今は護衛をやっていまして、ヒーローでは無いので凄いですね……と、所で私って何組なんでしょうか?」


 一刻も早くこの場を離れたい。頼むから桃瀬さんとは別の組でいて欲しい。組み分け表を見に行こうとしたら、既に上田さんが先に組み分けを見ていた。


「あっ、チュンちゃん、日和さんも同じA組だってさ。あー良いなぁ、チュンちゃんだけ日和さん一人占めじゃんずるいよー」


 まさかそんな筈は、と駆け足でA組の組み分けを見てみる。そこには確かに僕の名前がそこに書かれており、そこから少し離れた所に桃瀬さんの名前もあった。


 ……終わった。上田さん達は調査対象の名前では無いので、彼女達はヒーローではないのだが、桃瀬さんの友達なので万が一ヒーローに準じた強さを持っていたら、僕が完全に詰んでしまう。どうしよう、レオ様。助けて下さい。


「あ、ホントだ。私と日和さん同じA組だ! やったー! 嬉しい! 桃と桜で良い感じじゃんって話してたらまさか同じA組になれるなんてね! もうこれ運命感じちゃうんだけど、私が一番最初に日和さんと仲良くなったし自慢していい? これ」


 一人絶望してしまう僕を他所に、一緒の組になれた事が嬉しくて桃瀬さんは先程の機嫌の悪さを吹き飛ばして大はしゃぎしている。


「えー、A組羨ましすぎじゃん。いいないいなぁ、今なら男子達の気持ちもわかるわぁ、チュンちゃんがいる時はチュンちゃんが男子から守ってくれるけど、日和さんも十分気を付けてね」


「……善処します」


 まだ入学式も始まってすらいないのに、僕は既に疲労感とすぐ側にヒーローがいる恐怖で家に逃げ帰りたくなってしまう。どういう訳か彼女は僕を見て運命を感じるのだと言って上機嫌でいるのだけれど、一体どうしてしまったのだろうか。

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