第四話 自分で言ってあれですが僕なんかがお姫様で良いんですかね?
「昨日からずっと桜ちゃんの可愛いお顔を見てきたけど、特に真っ赤なお顔になった時の桜ちゃんは別格ね。もうね、ギュって抱きしめたくなっちゃうわ。ギュって、何度も見てきたからお姉さんもう理性を抑えるのも大変だわ~、うふふ」
「なんですかそれ……そんなに僕の顔って赤くなりやすいんですか? 確かにこの身体にされてから慣れない体験で恥ずかしい思いは沢山しましたが……」
「肌質も薄くなったのかしらね、大まかな見た目は元のままだけど、性別レベルで変化するとやっぱり細かい所で変わるものなのね。後でお肌のお手入れも教えるから、覚えておきましょうね」
グレイスさんと一緒に会議室の手前まで歩き、不意に顔が赤くなる話を振られる。先程トイレを済ませた時に顔が赤くなっていたからだと思う。
本当は辛いのではと心配されていたが、ただ単に変に緊張していただけだとわかったから、今はもう手を繋いでは無いし、こうして話しかけてくれる。
そもそも緊張してしまったのは、用を足す前に気持ち良さそうに色々噴き出したとか言われたから変に意識してしまったからだし、確かに男の頃とは違いびっくりしたけれど、こんなに意識してしまうなんて、もしかして僕は変態なのかもしれない……
気になったから尋ねてしまったが、あんな事を聞くのは完全にタイミングを間違えたと思う。
「あらら~、またちょっと顔が赤くなってるけど、どうしたのかしら? ほんとに大丈夫?」
「な、何でもないですっ、また僕顔赤くなってるんですか……」
そう考えていると、また顔が赤くなってしまっているようだった。
思っているより僕の顔は赤くなりやすいようだ。トイレの事はひとまず置いておいて、今は会議に集中しないといけない。
この姿でレオ様達に会うのだから緊張してしまう。気が付けば会議室の扉の前、今日は前もってグレイスさんが会議に来るのに少し時間が掛かると伝え、僕達がここに来るのは一番遅い。
扉を開けたらそこには既にレオ様達が待っている筈だ、待たせてしまうのは申し訳ない急がなければと僕が扉を開けようとしたら、不意に声を掛けられる。
「あ、待って桜ちゃん。ちょっとこっちの方を向いてくれる?」
グレイスさんに声を掛けられ振り向く。すると彼女は手に何か筒状の物を持っていて、それを僕の口に近づけてきた。
「あ、あの。なんですかそれ?」
「未使用のリップクリームよ、紙袋に入れて置いてたのを持って来たわ。今日はこれで間に合わせだけど、女の子になったんだし特にお年頃の子は人に会う時は色々と意識してるものよ」
リップクリームを手にしたグレイスさんに、女の子としての心構えについて説かれる。随分と真剣なのだなと感じていると、こういう事は自分もやっているのだと意識の差について指摘される。
「私だって会議の時は身だしなみとしていつも顔を軽く整えて来てるから、桜ちゃんも覚えておくと潜入が楽になるわよ。塗ってあげるから、少しじっとしててね」
そう言ってグレイスさんは僕の口にリップクリームを塗る。口に何かを塗る経験は無かったので、変な感じがして、ふと口元に手を添えている自分がいる。
今まで特に意識はしていなかったが、覚えておくと潜入作戦を円滑に進められるなんて言われてしまうと、これからの任務の為にはと意識せざるを得ない。
「あ、ありがとうございます。こういうのって使った事無かったんですが、口に塗るとこんな感触になるんですね、勉強になります」
「まあ、とは言っても学校だと派手にお化粧なんてしないと思うけど。顔が赤くなるくらい肌が白い桜ちゃんならお肌のお手入れを覚えて常にリップクリーム位持っておけば、周りの子からも変に思われないわよ。レオ様がどんな顔をするのか楽しみね」
そう言ってグレイスさんは僕にリップクリームを手渡し、両手でもにもにと僕の頬を軽く揉む。数秒して手から解放されると、なんだか緊張がほぐれた気がして楽になる。
僕はリップクリームをポケットに仕舞い、会議室のドアを開け中に入る。
会議室には既にレオ様達が座っていて、僕達を待っていた。
ドアが開き、僕に顔を向け途端に表情が一変し立ち上がるレオ様。ウルフさんとイグアノさんも同様に僕を見て表情を変える。
「遅くなりました! 待たせてしまい申し訳ありませ……あれ? どうかしましたか皆さん?」
「ザ、ザーコッシュ……本当にお前が……? い、いや、顔も髪の色も確かに昨日見た通りなんだがっ、そのっ、か、かかっ……」
「そ、そうですっ、僕はザーコッシュです。レオ様……? どうしたんですか? もしかして今の僕の姿は変でしょうか……?」
僕を見て明らかに様子がおかしくなるレオ様、ここ最近急にこんな調子になる時がある。確か僕の潜入作戦に関して女装とかメスとか言い出してからだ。
グレイスさんはレオ様が僕の顔を気に入ってるって言ってくれてはいたけれど、ひょっとしてこんな作戦、男らしく無いから本当はレオ様は嫌なのかもしれない。
「あの、レオ様……僕は皆さんと違って四天王としては全然戦う力がありません……この作戦だって何で女の子になる必要があるのか未だに僕自身よくわかりませんが、新たな脅威に対してシャドウレコードの今後に関わる重要な作戦なのはわかります」
レオ様の様子がおかしい原因が僕なのは間違いない。そう考えると気持ちが落ち込み、話す内にどうしてか胸の辺りが切なくなって手で押さえてしまう。
「……元から頼りない僕ですが、大切に思う皆さんの為に初めて本格的に役に立てる機会を得られた事は本心で嬉しかったんです。レオ様はこんな男らしく無い事嫌かもしれませんが……」
身体が震えそうになり、仕舞いにはレオ様の顔も見られなくなり不意に視界も滲んでしまう。
「ち、違う!? 違うぞザーコッシュ! そんな事は無いぞっ! 男らしく無いとか一体何の話だ! 俺はお前がお前らしくいてくれれば、男とか女とかは、そのっ……」
「えっ……? じゃあ、な、何でレオ様は数日前から様子がおかしいのですか? 僕の作戦が決まってからずっとこの調子ですよ?」
今の僕の姿が嫌では無い事を聞いて顔を上げる。嫌だとは思われていないようなのでホッとしたが、でも僕の顔を見るレオ様の様子がおかしいままなのは変わる事は無い。
「そ、それは……その、話題になったからつい想像してしまったんだ……! ザーコッシュ、お前の女装姿や女になった姿を……! 勝手に想像するのは失礼だと思ったんだが、お前を見る度に頭の中で何度も思い浮かべるのが止まらなくなって……すまない」
レオ様の突然の告白に、どういう意味なのかわからずつい驚いてしまう。
止まらなくなる程思い浮かべてしまうというのはどういう事なんだろう。とても大事に思っていてはくれているので、それについては僕は嬉しいのだけれど、何故レオ様がおかしくなるのかはわからない。
とりあえずお互い落ち着いて話をしようと思い、涙で滲んでしまった目を手で擦ろうとしたら、隣にいて話を聞いていたグレイスさんがハンカチで目元を優しく拭ってくれる。そして、僕の目を拭いた後はレオ様に向かって眉を上げ少し怒るような顔をしていた。
「駄目ですよレオ様、立場も歳も上なんですからいつまでもそんな調子じゃ。貴方が桜ちゃんに対してもっとしっかりとした対応をしてあげないから、不安にさせて泣かせてしまうんですわ。それで、どうなんです? 今の桜ちゃんの姿は?」
「あ、ああ。本当に申し訳ないザーコッシュ、いや……桜。い、今のお前は俺が想像していた姿より、遥かに上回っている……これは嘘偽りない本心だ。これなら作戦も上手く行く筈だ」
「当たり前です、まだ一日も経ってませんけど私がここまで桜ちゃんを見てきましたから、半端な事は致しませんわ。入学まで後ひと月程ですが、これからもっと面倒を見て何処に出ても恥ずかしくないようにしていくつもりです」
レオ様からの感想を聞いて、どういう訳か得意げな顔になるグレイスさん。ここまであれこれ面倒を見られているけれど、今後もそうなのだと言われると、学校に向かう頃には僕は一体どうなってしまうのだろうかと考えてしまう。
「こんなに生真面目で慕ってくれてる子をレオ様が今後も泣かせるような情けない人なら、私が奪っちゃいますからね。うふふ」
そう言ってグレイスさんは両手で僕の肩を抱き、レオ様に向かって微笑みながら顔を僕に近づける。
頬がくっつきそうな所まで顔を寄せられ、大人の女性の香りを強く感じさせる程のさっきまでとは違う今までに無い距離の迫り方に、思わず顔が熱くなってしまう。
「なっ!? あっ……! グレイスお前っ、顔が近いぞっ……」
「はいはいレオさん、これ以上やっても尚更ザーコッシュさんに情けない姿を晒すだけですよ」
「イグアノ!? し、しかしだな……」
「普段は誰よりも堂々としている貴方がここまで取り乱すとはよっぽどですね。グレイスもおふざけはその辺にして置いて下さい、三人だけで盛り上がっていては私とウルフが話に加わる機会がありません」
顔を赤くし取り乱すレオ様を見かねてイグアノさんが二人に割って入る。ウルフさんの方も話が終わりそうに無くて腕を組んでそわそわしていた。
僕達の会話を聞いていた二人に挨拶をするべく、僕はグレイスさんに離れて貰い身体を彼等に向ける。
「おはようございます、イグアノさん、ウルフさん。僕のせいで変な空気になってしまい、ごめんなさい」
僕の姿が変わったせいで、会議室の空気が変になってしまった事を謝罪すると、ウルフさんはゆっくりと首を横に振るのだった。
「いや、ザーコッシュのせいではない、確かにオレもイグアノもお前の今の姿を見て驚きはしたが、取り乱す程動揺したレオが悪い。髪が伸び、オスの匂いが完全に消え去ったぐらいで一体何をそんなに慌てている」
そ、そうなんですか。ウルフさん曰く、もう既に僕の身体はオスの匂いはしないんだ。
たった一晩で匂いが完全に無くなるなんて、一体あの触手は僕の身体に何をしたのだろう……
触手に関わっているグレイスさんとイグアノさんなら何か知っているだろうけれど、グレイスさんは昨日から一つ一つ確かめるように僕の身体の事を見てくれているから、多分イグアノさんの方が原因なのかもしれない。
「いやぁ、グレイスが提供して下さった触手の方を薬剤投与で遺伝子操作と活性化をさせて変化速度を早めたのですが、身体の方は元気そうで安心しましたよザーコッシュさん。後で診察を行いましょう。レオさんとグレイスが既に桜さんと呼んでいるのでこれからは私も合わせておきましょうか、桜さん」
「ちょっとイグアノ、桜ちゃんが一瞬で女の子になっちゃったの貴方の仕業だったの?」
イグアノさんの言葉に、突如顔をしかめるグレイスさん。それがどうかしましたか? と、何か不都合な事でもあったのかと首を傾げるイグアノさん。
やっぱり僕の予想は当たっていて、何か言いたげなグレイスさんはつかつかと前に進みだしそのまま口論を始めた。
「貴方がメアリーちゃんに無茶な事をしたせいで、桜ちゃんが大変だったのよ」
「何が問題なのですか、早く済んで良かったでしょうに」
「ほんとはあの時メアリーちゃんを媒介にして女の子になる薬を注入した後、半月かけてじっくりと身体を変えていく予定だったのに」
「貴女の個人的な興味の為に、半月もかける方が身体への負荷が長引いて大変ではありませんか」
半月掛けてゆっくりと身体を変えていく予定だったグレイスさんに、そんな事は面倒では無いかといった顔で反論していくイグアノさん。
僕の身体を変化させる方針で意見が食い違っていて、僕もどう反応したら良いのかわからず唖然としてしまう。
「その半月分の負荷が一気に来て、半日も意識が無かったのよ! 桜ちゃん全然目を覚ましてくれなくて慌てたわよ!」
「あの後すぐに桜さんが意識を失ったと貴女が端末で知らせて来たので、こちらも医療班を手配しようとした所で全部突っぱねられてしまいましたが、そちらこそ一体何をお考えで?」
「あっという間に女の子にしちゃって意識も失うものだから、裸のままべっとべとにされてとても見せられる物じゃなかったわ、何が起きるか考えなかったの? この子が可哀想よ」
「おや、レオさんがこの部屋で責任を取ると言い出した辺りで突然通信が切れたんですよね。今日のこの時まで桜さんにも会わせてくれませんでしたが、そのような事があったのですか」
「色々あったのよ。それも全部桜ちゃんの為だったの。貴方が用意した医療班は全員女性だったかしら? 通信を急いで切ったのも、貴方達にも見せてたら桜ちゃんは今頃、部屋に引きこもって作戦どころじゃ無くなってたわよ」
口論が続いていき、僕が意識を失った後、盛大に粗相をしてグレイスさんに色々迷惑をかけてしまった事や、僕が個人的に恥ずかしがっていた身体の悩みを隠したまま、イグアノさんに苦情をぶつけるグレイスさん。
イグアノさんも、僕に問題が起きた場合を考えていて、すぐに対応出来る準備をしていたようだけれど、全部グレイスさんが一人でやってしまった事に疑問を持っている。
意識を失う前、僕はグレイスさんに抱きかかえられてたような気がする。目を覚ました時、服を着替えていたのはそういう事だったんだと理解すると、途端に恥ずかしくなってしまう。
「あ、あの……グレイスさん、イグアノさん、そ、その辺りで僕の話は一旦終わりにしてくれませんか……? 僕自身その事でいつまでも口論されるのはとても恥ずかしいので……」
二人が言い争っている部分を集約すると、どっちの選択が選ばれていたとしても結局僕が恥ずかしい目に会っている結果にしか繋がらないので、本当にもうやめて欲しい。
「あっ、う、うん……そうね、桜ちゃん。このまま詳しく状況を質問されてたら、また貴女に怒られる所だったわ、ごめんなさいね」
「私も医学的見地から腕が良い者を揃えたつもりでしたが、確かに指摘された通り配慮する部分を見誤りましたね。申し訳ありません桜さん」
「いえ、もう僕の事はいいんで、会議を始めましょう。そうですよねレオ様?」
二人の口論を止め、そろそろ会議を始めるべきだと、僕はレオ様に進言する。先程から決まりが悪そうにしていたレオ様は、僕からの言葉に機会を得たというような顔で応じようやく会議が始まり、潜入作戦に向けて今日から僕がするべき事を提案していく。
◆◇◆
僕達は数十分話し合い、今やるべき事と、今後しなくてはいけない事を確認していく。
まず僕は、会議が終わり次第グレイスさん同行の元、女性の医療班によって診察を受ける。
四天王の僕に女の子の身体について指導するのは同じ役職の自分が行うべきだと、何故か使命感に燃えているグレイスさんは誰にも譲らない勢いでこれを強引に決めた。
確かに昨日まで男だった年下の上司に逐一あれこれ教えなければいけないのは、僕も相手も正直キツいものがあると思うので、この提案に乗るしかなかった。
「この後の診察ですが、医療班に連絡しグレイスが指摘した通り、女性隊員を数名向かわせます。会議が終わり次第、第三医務室に向かって下さい」
「あの時は桜ちゃんが男には刺激が強すぎる状態になっちゃってたから、そういう話になっちゃっただけなんですけどね。でもまあ、今の桜ちゃんも診察とはいえ男に診られていい気分じゃないから助かるわ」
グレイスさんが今の僕の姿を見てそう言いながら頷くと、イグアノさんはため息を吐いて僕に忠告をして来る。
「……桜さん、もし今後グレイスが触診と称し何かしてきたらすぐにおっしゃって下さい。この人は趣味と実益を兼ねて、半月で徐々に変化していく身体に戸惑う貴女の姿を見て楽しもうとしていましたから」
「ちょっと、人聞きの悪い事を言うのやめてくれる? 変化がゆっくりなら教えるのも楽だと思ったし、気構えも出来たし、下着や服だって余裕を持って揃えられたのよ。そういう事はイグアノじゃフォロー出来ないでしょ」
「あ、あはは……これから自分の身体がどうなっているのかがわかるんですね、グレイスさんも色々教えてくれましたが、まだわからない事だらけなのでよろしくお願いします」
善意か趣味か謎だけれど、わからない事があったらとりあえず今は乗り気で教えてくれるグレイスさんしか頼れる人がいない。僕の部下にも女性はいるのだが、元男の僕に突然尋ねられても向こうも嫌じゃないだろうか。
診察が終われば潜入先への引っ越しの手続きがある。
僕は無事に試験に受かり入学申請が受理され、通学に必要な物は引っ越し先に届くようになっている。
こちらは事前にレオ様が大半をやっていて下さり、後は僕が端末に送られている電子書類に必要なサインを済ませ、住居の間取りの確認や周辺地域の地図の把握を行う。
「後は必要な書類に僕がサインをすればよろしいんですね、レオ様」
「そうだ。診察が済み、空いた時間に一通り目を通してから記入してくれれば良い。わからない事があれば連絡してくれると助かる。それと、これが希星高校の入学許可証に学校周辺の地図のデータだ」
レオ様から入学許可証に地図のデータを受け取る。これでようやく使命を果たせると内心一人意気込むと、不意にレオ様から声をかけられる。
「桜、お前なら試験など容易いと信じていた。最後に向こうで使用する為のシャドウレコード直通回線が開ける携帯端末だ、これを渡しておく」
「あ、ありがとうございます。これがあればどこでも僕達は繋がっていられるという訳ですね! 寂しい思いをしなくて済みそうです」
レオ様からここへ直通回線を開ける端末を渡され、僕は思わず頬が緩んでしまう。四天王クラスが長期の任務に就く時に、ここと連絡を繋ぐ為の物だ。回線を開くには四天王本人の生体反応で承認する必要があるので、他の人は使う事は出来ない。
他の三人が過去に、これと同じ物を持たされ今も尚所持している筈で、僕は今までこういう機会が訪れなかったのでようやく皆と並び立てる事に感動している。
「あらあら、桜ちゃん何だかとても嬉しそうね。レオ様もこんなに喜んでもらえるなんて思っても見なかったでしょう? この子誰かが通信で会議に参加してた時、今までずっと物欲しそうにあの端末を見てたものね」
「えへへ、はいっ! 今はまだこうやって会議で皆さんと直接顔を合わせる事が出来ますが、作戦が始まってしまいますとこの端末が唯一の連絡手段になりますからね」
なぜだかとても嬉しくて、つい僕は上機嫌で返事をしてしまう。グレイスさんも笑顔で僕を見ていて、少し間が空いた後に別の話題を振るのだった。
「それで皆、話は変わるんだけどね、さっきも軽く触れたし当たり前の事なんだけど、今桜ちゃん女の子のお洋服全然持って無いのよ。困ったわ」
「あっ、そういえばそうでしたよね……今日だって人前に出る服が無くて、仕方なくこの服を着ましたから」
「なるほど、確かにな。今のザーコッシュがその格好をしていても潜入には全く使えんしな、戦いに出るには常にそれ相応の装束が必要になる。ザーコッシュにはザーコッシュの、桜には桜のそれぞれに合った格好か」
ウルフさんの言う通り、今着ているザーコッシュの制服は外では着る事は無いので、引っ越しに持っていく物でも無いしその他に持っている服も全部男物なので、新しい服を下着込みで用意しなくてはいけない。
間に合わせの服はグレイスさんが自身の部下に用意してもらうと言っていたので、当面はそれを着て、引っ越しが済み次第再度調達する方向になった。
服の調達に、僕は信頼の置ける自分の部下の女性隊員に同行を頼もうかと思っていたが、グレイスさんはこれにも同行する意思を示しており、意見は多い方が良いとの結論になり三人で行く事になった。
「人前に出て大丈夫なんですか? グレイスさん、服のアドバイスだけ貰って僕が部下と一緒に用意する方が安全だと思うんですが」
「人間態に変装するから大丈夫よ。桜ちゃんが部下と二人っきりだと向こうが気を使っちゃって貴女の意見に合わせて地味で控えめな服と下着しか買わなさそうだから、私も行くのよ。レオ様も可愛いお洋服を着た桜ちゃんの方が見たいですよね?」
「なっ!? 何故俺に振る!? さ、桜の服だから、桜が着たい物を着れば良いのではないかっ? ただ何だ、今は余り露出が少ない方が助かる……刺激が強すぎると心が落ち着けられない、桜だから大事にしたいんだ……俺は」
唐突に話を振られ、動揺してしまうレオ様。僕の服の話でレオ様にどれだけ女の子の服の知識があるのかはわからないけれど、意見を聞いて良いのだろうか。
ただ、僕も余り露出の多い服は避けたかったので、方向性が合って助かっている。
「そうですよね、僕も自分で露出の多い格好をするのは恥ずかしそうで落ち着かないので、考えが合って助かります。今は全く服の知識が無いので、着づらい物が多くあっても困りますね」
「俺はそういう事では……あっ、いや! な、何でもない……落ち着いていて似合う服が見つかれば良いな、うん」
「なるほどねぇ、大体方向性はわかったわ。間に合わせのお洋服も着やすくて露出の少ない物で用意させるわ。ただ、引っ越し後の買い出しはレオ様にも見せるつもりで気合を入れるからね、桜ちゃん」
話が進み、僕の方針はあらかた決まった。後は次の全体朝礼で作戦発表と今の僕の姿を隊員達に見せればシャドウレコード内で伝えるべき内容は伝わる筈。
ホッと一息つくと、会議は次の話に進んだ。
「奴らに叩きのめされた後、このまま負けたままでは悔しくてたまらないと、オレの部下が表の部隊と独自に協力して奴らについての情報を集めたが、判明したのはせいぜい苗字ぐらいだった。ザーコッシュ、確認しておけ」
そう言ってウルフさんから手渡されたデータによると、ガンバルンジャー五人の苗字が色ごとに表示されている。赤が赤崎、青が青峰、黄が萌黄、緑が林田、桃が桃瀬らしい。
「僕が言うのもなんですけれど、それぞれ色と名前が一致しているんですね。萌黄だけちょっと緑と色味が寄ってますが」
「それと主に奴らが活動している地区で、他組織の構成員の姿を目撃したとの情報も入っている。ピースアライアンスの管轄内では派手な動きなど出来る筈も無いだろうが、敵性生物を利用している時は別だ。極力関わらない方が良いだろう、今後、学校内にも潜り込んでくる可能性もあるので油断はするなよ」
「ふむ、他組織の行動次第によっては、ガンバルンジャー以外のヒーローも向かってくるかもしれませんね、希少な回復能力の保有者である一般人としての桜さんは、彼らヒーローに庇護対象として護衛されるかもですが、そうなれば、まさか誰も桜さんがシャドウレコードの四天王であるとは思いもしなくなるでしょう」
「あら、そんな面白い展開になってくれたら、こちらも暗躍しやすくて非常に助かるわ。護るべき皆のお姫様が実は悪の組織の最後の四天王だったなんて、正に悪女の極みで羨ましいわ。なんだったら代わる代わる皆で出て行って、桜ちゃんを襲うフリをして適当にヒーローを焚きつけてやれば、向こうも乗り気になりそうね」
「やりすぎるなよグレイス。もしこちらの介入の目論見がバレたらそれで一番危険になるのは桜になるのだからな、こちらへの人質にでもされたら少々厄介だ。桜を助ける為に俺自らが出なくてはいけなくなる。今後の為に世界情勢は余り変えたくは無い」
情報共有も済み、皆それぞれの思惑を語る。
思ったより潜入している他組織の数が多く、それを利用して僕がヒーローに護られる立場になって、潜入している四天王だと思われ無くなれば確かに本来の目的である情報は集めやすくなる。
しかし、その為にはたとえフリだとしても皆さんと相対する立場にならなければいけなくなるのは寂しい。
僕としては情報を集められればそれで良いのでそこまでしたいと思わない。でも、役に立ちたい気持ちはあるので僕はここで逃げる訳には行かない。
「わかりました! 例え演技とはいえ皆さんと相対する立場になるのは寂しくて嫌ですが、情報を集める為ならヒーローに護衛されるように計算して動く、腹黒い悪女のお姫様だって目指します! ……自分で言ってあれですが僕なんかがお姫様で良いんですかね?」
自分で目標を話したのに、返って何が言いたかったのか、訳がわからなくなってきた。今後僕がやるべき事は学校に潜入して、ヒーロー達の情報を集めつつも彼等を油断させる事になるだろう。その為には何が足りなくて、皆と何を変えて行けば良いのかを考えていく。
「腹黒は頑張って目指しますし、悪女だって今は悪の組織の女の子ですから既になっていますが、お姫様ってなんだか女の子の最上位みたいな響きですけれど、一応僕も四天王ですしこれも既になっているようなものなのでしょうか? でもそうなると皆さんもお姫様に……? あれ?」
僕が腹黒の悪いお姫様を目指すと、どういう訳か皆もお姫様になるという結論になってしまった。もうちょっと考えてから話そうと思い直し、少し固まっているとグレイスさんが近づいて来て優しく頭を撫でられてしまう。
そこでレオ様が今日の会議の終わりを告げ、それぞれ解散していく。僕もグレイスさんに診察に向かいましょうね。とそのまま第三医務室に連れられて行く。