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第三十三話 強化付与……




 驚きを隠せず、慌てふためく景志さんが赤崎君を睨み付ける。それは鈴斗さんも同様であり、残っているゲージの多さから彼等の方が優勢である筈なのに、その表情は予想とは違う結果にどこか焦っているようにも思える。


「Aクラスにもなろう者が、模擬戦如きで土塗れで無様に転がったっていう状況なんだぞっ!? お姫様の騎士には程遠い印象の筈だってのに、何でなんだよ……!」


 景志さんが自身が思っていた事とは全く違う状況になり、つい口を滑らしてしまう。それに対して赤崎君は怒りを見せる様子も無く、口元に笑みを浮かべる余裕を見せる。


「主戦場が街中のお前達とは、鍛え方も培った精神力も違うって事だ。別に身体が汚れるぐらいで、ヒーローとして何がどう変わるって言うんだ?」


「な、なんだと? お前等位の歳の他の奴なら、地面に転がされたらそれだけで悔しがるって言うのに……!」


 経験が豊富なのだろうか、普段模擬戦を行っている時にどのような訓練を行っているのかを話す景志さん。


 歳が若い上でAクラスにも登りつめている彼等は、主な戦場が街中と比較的支部に滞在している時間が長いようで、新人教育の場にも駆り出されているのだと想像出来る。


 それに対して赤崎君が、堂々とそれ位は何でも無いといった態度を見せつけていく。


「生憎だが、こっちは外で地球外敵性生物と戦うのが主な戦場だ。泥だらけになり汗だらけのドロドロの姿には、涼芽も含めてもう全員慣れちまってるからな」


 そう豪語する赤崎君、その中に桃瀬さんも含まれている事に驚く景志さん達。先程の土煙の渦には薄い反応を見せていた職員や他のヒーロー達の中にも、思わず桃瀬さんの方に顔を向けて来る人達もいた。


「そうよ、私も今まで焔達と一緒に戦って来たんだからね! ヒーローがそんな事で一々騒いでてどうするのよ、お飾りで着いて行ってる訳じゃ無いわよ!」


 向けられた視線にムッとした表情を浮かべ、そう反論する桃瀬さん。結界の中には彼女の声は届いてはいない筈ではあるが、それに合わせるような感じで赤崎君も真剣な顔をして続けて口を開く。


「もう一度言うぞ、涼芽は俺達の仲間なんだ。それに、俺達五人でお前達よりもっと強い奴とも戦った事もある」


「何? 俺達よりも強いだと……? Aクラスのヒーローをやってる期間は俺達の方が上だぞ! そんな奴そうそうお目にかかれる訳無い! 何処のどいつなんだ!」


 自分達より強いと言われ、反論する景志さん。もしかしてと思い、その人物に該当する存在を僕はここにいる誰よりも知っていて、いつ名前が出て来るのかと思わず息を呑んで静かに様子を見守る。


「【群狼大将】……この呼び名は当然知ってるだろ? Aクラスになった直後に俺達は奴と偶然出会っちまった。どういう訳か向こうから退いてくれたから助かったが、本気で挑まれていたら成す術無く全滅していた」


「ぐ、【群狼大将】だと!? そんな奴、Sクラスのヒーローが対処するレベルだろ! しかもお前等がAクラスになってすぐに出会っただと!? 冗談を言うのも大概にしろよ!」


 赤崎君が言い放ったその名に、景志さんが驚きのあまり声を荒げていき、職員や他のヒーロー達の中にも同様に驚いてしまっている人達も出ている。




 ウルフさんの通り名が出て来て、竹崎さんみたいに全く驚く気配を見せない人もいれば、景志さんのような反応を見せる人もいて、人によって反応が違う事に僕は疑問に思ったので、慎重に聞いてみる事にする。


「あの、赤崎君が出した呼び名に景志さんのように驚いている人もいるみたいですが、竹崎さんは平然としているのはどうしてでしょうか?」


「ん? ああ、いや俺も焔達からその話を聞いた時はびっくりしたぜ? この件は支部長にも報告済みだし、情報として交戦記録も一応情報管理室にも残ってるから、支部の管理職レベルの人間なら把握してると思うんだけどな」


「そのなんとか大将って人って、そんなに凄いんですか? 対処もSクラスって言われてますし、チュンちゃん達良く無事だったねぇ」


 上田さん達も何も知らないといった感じで、桃瀬さんを心配して話に加わって来る。世間一般では彼女達の反応がごく自然の反応になり、ここで僕が迂闊な事を言ってしまわないように尋ねる内容には注意を払っていると、桃瀬さんが僕達に簡潔に説明し始める。


「えっとね、これは当然普段は機密情報だし皆を怖がらせたく無いから黙ってたけど、私達と敵対してる勢力にとっても強い組織があって、それこそ本部が動く程の物なのよ」


「ええっ!? ホントにガンバルンジャー達より強いの!? そんなのすっごく危ないじゃん!」


「強いのは強いんだけど、でも、よっぽどの事が無い限り自分達からこっちに手を出して来るような危険性はあんまり無いのよねぇ。戦闘になったのも地球外敵性生物を倒しに出動したら、お互い偶然出くわしたからって感じだったし」


 その時ウルフさんは自分の隊を引き連れて、桃瀬さん達の目的と同じく地球外敵性生物の調査に出ていた。


 そこで偶然出会ったのはこちらにとってもそうであり、隊員の身を案じたウルフさんが撤退の指示を出さなかったら、両者にとって相当な被害を被っていただろう。


 僕達はこの歳でAクラスになったガンバルンジャーをかなり警戒して今回の作戦を決行した訳だけれど、内と外からではこれ程彼等への認識に差がある現実に戸惑いそうになる。レオ様や他の四天王達もそう判断したのだから、身内であれば若さ故に侮ってしまう部分があるのかもしれない。


 それだけに赤崎君の話を素直に聞き入れる事が出来なかった景志さんが、怒りを見せ始める。


「俺がその名前を出されてビビるとでも思ったか? 確かにそいつは俺達より強いが、それだけでお前等が俺達より強いという証明にはならねえぞ! 鈴斗! 目くらましは止めだ! 次は全力で行くぞ!」


「ああ! ここに千里はいないが、こんな何も隠れる物も無い場所ならアイツの目が無くてもいける! 巻き上げるぞ! 乗れ!」


 鈴斗さんが両腕を目の前に突き出すと、そこから風の渦が発生し始めあっという間に巨大になっていく。その勢いで結界内は相当な風が吹き始め、赤崎君達はいつでも対応出来るように身構えている。


 風の渦が鈴斗さんの腕から離れると、どこへ進む事も無くその場に留まり続ける。その渦に景志さんが勢い良く飛び乗ると、彼は両脚に渦の勢いを纏い始めるのだった。


「俺の風と、鈴斗の風が合わさるとどうなるかわかるか? 答えは、その威力は何倍にも跳ね上がってお前達を一撃でブッ飛ばせるんだぜ!」


 そう言って完全に渦を両脚に取り込んだ景志さんは飛び上がっていく。その勢いは先程までの一人の時よりも素早くなり、まるで瞬間移動を行っているかのような速度で空中を駆け回っている。


 目まぐるしく動く景志さんに、周りの生徒達は目が追い付けず何が起きているのかがわからなくなっていき、僕も全く彼の姿を見る事が出来ずにいた。


 この状況をどうにか理解出来ているのは、彼等の戦術を把握している桃瀬さん達ヒーロー位しかおらず、その光景に思わず桔梗院さんが青峰先輩にどういう状況か尋ね、先輩は説明してくれる。


「景志さん達は本当に本気のようだな。鈴斗さんのエネルギーを取り込んで、景志さんが現場に急行する、そこに千里さんの操る風船で詳細な位置を三人で共有し、遥か上空から一撃必殺の強襲を仕掛けて標的のみを仕留めるのが、風見三兄弟の戦術なんだ」


「そんな事が可能なんですの……? 能力者同士で自身の能力を他人に追加で加えていくだなんて、それではまるで……」




 桔梗院さんの考えている事に、思わず僕も心当たりがあり内心で驚いてしまう。


 それはまるで、僕が持っているもう一つの能力のような強化の仕方であり、それを何のデメリットも無しに扱えてしまうという事実に言葉を失ってしまう。


 僕がそう思っていると、青峰先輩がそれは違うと首を横に振る。


「鈴斗さんの方は、あくまで同じ風属性同士による連携技なだけだ。要は景志さんに自分の風を威力が上がるように纏わせている状態であり、その間は常に鈴斗さんも能力を行使中になっている」


「それはそれで、そんな事が可能なんですのね……それでしたら今の内に鈴斗様の方へ攻撃を、と考えましたが、高速で飛び回っている景志様がそれをさせないと……?」


「ああ、ここが特殊な戦場だからそれが出来るのだがな。普段は千里さんの風船を身体に取り付ける事で、距離が離れていてもすぐに情報を共有している。その他の風船を四方に飛ばせば、千里さんならば近づいて来る敵にも報告出来るという訳だ」


「能力の詳細については理解出来ましたわ。それで、この状況を打開する方法が存在しますわよね? でないと、ただ焔様が不必要に景志様達を煽っただけになりますわよ」


「そ、そうよ! 別にあの時の事は教えなくても良かったじゃない! 許可を取って調べればわかる事だけど、今のままじゃただ焔がやらかしただけよ!」


 桃瀬さんもこの会話に加わり始め、桔梗院さんと一緒に打開する方法は無いのかと青峰先輩に問い詰め始める。


 先輩はそれには何も答えず、無言で右手の指で眼鏡の位置を直したかと思うと、ゆっくりと僕の方に顔を向けて来るのだった。


「焔と彰は俺達のお姫様から大事な物を貰ったんだ。今やれる全力を出し切る為に、景志さん達にも全力を出させたんだ。この勝負、真っ向から立ち向かい俺達が二人の護衛に相応しいという事を証明する為にもな」


「えっ……? わ、私が二人にですか……?」


 青峰先輩がそう言うと、それが答えだと言いたげな表情になり僕に笑顔を向けて来る。僕が彼等にした事なんて、ただ何事も無く今日を無事に過ごせられるように信じる位しかしていない。


 景志さん達の全力に、これからどう立ち向かっていくのかと赤崎君の方を見つめると、不意に彼と目が合った気がした。


 そして、ほんの一瞬ではあったけれど今度は赤崎君が僕に笑顔を見せてくれる。それは戦う時に見せる物では到底無いとても穏やかな笑顔で、何故だかはわからないが僕はその笑顔をどこかで見た事があったような懐かしい感じがした。


 僕がそれを詳しく思い出す間も無く、赤崎君は次の瞬間には元の顔に戻っていて、萌黄君に指示を出し始める。


「俺達も全力を出す! 彰、アレをやるぞ! 準備をしてくれ!」


「アレをいきなりやるのか!? でもアレってまだわかってるのは理論と方法だけで、結局何の検証もしてないよ!?」


「このまま迷ってたら、負けちまう! 時間が無い、俺に構わず早くやってくれ!」


 赤崎君がそう言って萌黄君に背を向ける。それに萌黄君は一瞬ためらった表情を見せるものの、両手に今出せるであろう最大限のエネルギーを纏い始めた。


「オッケー、こっちは準備出来た! それじゃあ行くよ!」


「わかった! 良し来い! ……っ、ぐぅっ!? ぐ、ぐううううおおおおおっ!」


 萌黄君が手に纏ったエネルギーは、赤崎君に目掛けて放出されていく。当然赤崎君はその衝撃に唸り声をあげ膝をついてしまい、ゲージも一瞬で二割程減ってしまう。


 その光景を見ていた生徒達や職員は悲鳴や困惑の声をあげ、桃瀬さん達もどういう事かわからず驚き、いつの間にか景志さんまでもが動きを止めてその姿を眺めていた。


 僕にも二人が何をしているのかは全くわからず、つい青峰先輩に尋ねてしまう。


「あ、あの! 赤崎君は一体何を……?」


「景志さん達が自分達の風を纏えるというのなら、俺達も同じ事が出来るのではないかと考えた。そして資料室で資料を調べてみると、とある能力についての文献が見つかったのだ」


 先輩は僕を安心させようとしているのか、自信に満ちた表情をしながら話して来る。桃瀬さん達はその顔を見て、勝機があるのだと確信して期待してしまっている。


 けれど、彼等が勝ちを確信すればする程、僕はとある能力という物がそれしか無いのだと感じられてしまい、背筋がゾッと寒くなっていく。恐らく情報として一部分のみがヒーロー支部に存在していて、そんな奇跡のような能力に大きな代償がある事なんて知る由も無いのだろう。




 膝をついてしまっていた赤崎君の全身には萌黄君のエネルギーも備わっていて、身体に電気を帯びていた。そして何事も無かったかのように立ち上がり、そのまま勢い良く地面を蹴って空中を駆けていく。


「な、なにぃ!? 赤崎の奴、俺と同じ事を!?」


「火の球を出しても当たらないのなら、自分に使って飛べるようにすれば良いだけだ! ただそれだけだと到底アンタには追い付けないだろうから、彰の能力も借りる事にした!」


 赤崎君は景志さんのように両脚に自身の炎を纏い、その勢いで空を飛び萌黄君の能力を利用して空中でも素早く動く事を可能にしている。


 素早く自分の下に接近して来た赤崎君に、衝突する寸前に身を躱す景志さん。そのまま素早く距離を取り、今度は景志さんが風の刃を生成して勢い良く発射するものの、赤崎君も即座に身を躱すのだった。


「なんだこれは!? くそっ、これはまずいぞ鈴斗ぉ! こうなったら萌黄だけでも渦で封じて、お前は身を守れ!」


 上空からの景志さんの叫びに鈴斗さんは即座に応じ、赤崎君に躱された風の刃の衝撃で出た土煙を自身に残していた能力を使い、またもや萌黄君を渦に閉じ込めてしまう。


 萌黄君はというと、最大限に使ったエネルギーの反動でまともに動けなかったのか、何の抵抗も見せる様子が無かったので、これで良いのかと桃瀬さんが青峰先輩に問いただしている。


「ホントに大丈夫なのよねぇ!? 彰の奴、一体焔に何をしたのよ!」


「あれは彰のエネルギーを焔に渡し、一時的に能力を強化するという強化付与という能力を疑似的に再現した物だ」


「強化付与……」


 嫌な予感は的中してしまい、そうであって欲しく無かった能力名が青峰先輩の口から発せられてしまう。


 回復能力よりも更に希少なその能力は、実際にはどんな能力なのかは僕が誰よりも知ってしまっている。


 先程の萌黄君のエネルギー切れは、恐らく付与した事による一時的な物であると判断出来る。彼は本物の強化付与の能力者では無いので、デメリットの効果は起きない筈だ。時間が経てば使った分のエネルギーは回復していくと思われる。


 ……なら、そのデメリットを受けてしまうのは一体誰なのかと考えてしまうと、身体に震えが来る。僕が今尚、レオ様にこの能力を封じられてしまっている最大の理由が強化付与の代償であり、僕が三日三晩寝込んでしまった時にシャドウレコードの皆がどういう心境だったのかを、今まさに理解するのだった。


 もしかしたら、疑似的な物であるという事なので、デメリットは無いのかもしれないと淡く期待したいのだけれど、原理そのものが強化付与の能力である以上、本来のデメリットよりも大きくなるのかもしれないという、不安の方が強くなってしまう。


 青峰先輩が半端に得た情報を語り、それを聞いた桃瀬さんや桔梗院さん達が勝ち誇ったような様子で僕に何かを言ってくるけれど、どうしてか今だけはそれらを聞いてあげられる程の余裕は僕には全く無くて、ただ赤崎君と景志さんが目まぐるしく動いているであろう結界の中を、見つめる事しか出来なかった。




 地上には渦の中にいる萌黄君と、その渦を持続させつつも、景志さんにも能力を纏わせている鈴斗さんがいて、空中に赤崎君も上がった為か、景志さんの戦闘スタイルも変わっていく。


 闇雲に高速で動き回るだけでは、反射神経も向上している赤崎君に何度も捕捉されそうになっているのか、偶に結界内に一瞬だけ姿が見えるようになり始め、ゲージには何のダメージは加わってはいないが体力自体は消耗しているようだった。


 景志さんが突如動きを止め、ようやくその姿がドローンに映される。同様に赤崎君も動きを止め、両者共に深く呼吸をしながら睨み合い状態になる。


「はぁっ……! はぁ……! くそっ、めんどくせえぞ赤崎ぃ! こうなったら男らしく、お互いこの一撃で決着をつけるぞ!」


 自分と同じ土俵にいつまでも立っていて欲しくないのか、決着をつけようと宣言する景志さんにそれに応じる赤崎君。


 僕はこの勝負の結果は最早どうでも良くなり、今はただ赤崎君の無事を祈る事しか出来ない。自分の立場は関係無く、強化付与の能力者として何事も無いまま模擬戦が終わって欲しいと願うが、代償についてはどうやって彼等に伝えれば良いのだろうかと、この後を思うと胸が苦しくなって来る。


 先輩達にその情報が間違っているのだと伝えたい。でも、それを言ってしまえばどうして知っているのか詳細を尋ねられてしまうだろう。そもそも何故そんな情報がこの支部にあるのかも、僕が強化付与の能力を持っているのかも全てが謎だ。


 互いの呼吸が整い始め、それを合図にそれぞれの能力を集中させていく。


「今日初めての野郎によぉ! 何年もこれで戦ってる俺達が負ける訳にはいかねえんだよ!」


 景志さんが両脚に纏った風を勢い良く放出させていく。その風圧に彼の側にいたドローンは飛ばされてしまう。


 負けじと赤崎君も全身から雷を放出させ始め、それがドローンに悪影響を与え、機能の一部がショートしたのだろうか音声が途切れ途切れとなっていく。


「――れないっ! もう――と――っ! けどまた――っ! ――今は――を――やれる力を――んだっ! だからこんな所で――かぁ!」


 赤崎君が何を言っているのかがわからなくなり、彼が叫ぶと同時にドローンが爆発音をあげていく。それが攻撃の合図となり、互いに消えたように駆けだして両者が激突する。




 結界内に衝撃が走り、空中では誰かが誰かの腹部に重い一撃を放った様子が見える。急いでモニターを確認すると、景志さんのゲージが消滅していた。


「嘘だろぉ!? け、景志ぃ!」


 鈴斗さんが絶叫する声が聞こえたかと思ったら、突如渦の中が光り出し巨大な雷の矢が高速で飛び出して来て鈴斗さんを貫いていく。


「何だとぉ!? ぐわああああああっ!」


 一人だけ無傷を保っていた鈴斗さんのゲージは雷の矢で一瞬で消え去り、渦が消えていき中から復活した萌黄君が現れる。


 空中では気を失ってしまったのか、ぐらりと落ちそうになってしまった景志さんの腕を寸前の所で掴んで地上に降りて来る赤崎君の姿があった。


 それを見て、支部長がガンバルンジャーの勝利宣言を行う。


「勝者! ガンバルンジャーの赤崎、萌黄コンビ! その実力を証明するに相応しい、実に見事な内容の模擬戦であった!」


「やったぁ! やったわよー! 焔達が勝ったのよ! 日和さん、桔梗院さん! 信じた甲斐があったわね!」


「一時はどうなる事かと思いましたけど、最後の一撃は素敵でしたわ! 彰様ー!」


 僕の後ろで桃瀬さん達の喜びの声が聞こえてくる。赤崎君達が勝ったという事は、ようやくこの模擬戦が終わったのだと理解すると、僕はすぐさま結界の側まで近づいて解除されるのを待つ。


 まだかまだかと、結界が解除されるのを待っていると、先に赤崎君が地上に降りて来て景志さんを地面に下ろしている。萌黄君と支部長が彼に近付き勝利を称えている会話をし始める。


 焦る僕の心の内なんて誰も知らないまま、皆が楽しそうに喜びの笑顔を浮かべていて、何も知らない萌黄君が僕が結界の前にいる事を赤崎君に知らせている。


 赤崎君は、多分僕を安心させようとして笑顔を見せたかと思うと、そのままぐらりと前のめりに倒れ込んでいく。




「赤崎君!? 赤崎君っ!?」




 突如彼の名前を叫ぶ女の子の悲鳴が聞こえたと思ったら、その声を発していたのは僕自身である事に気が付くのに一瞬、間が空いてしまう。それ位には動揺してしまう程に思っていた最悪の事態が発生する。


 そのまま赤崎君の名前を叫び続ける僕は、早く結界が解除されないのかと思わず叩いてしまう。数回叩いていると、やっと結界が解除され、勢いで転びそうになるのを寸前の所で耐えて、その足が自然と急いで彼の下へ向って行く。


 戦いの跡で、地形は大きくでこぼこになってしまい、途中何度も転びそうになりながらも、やっと赤崎君の所まで辿り着く。


 慌てふためく萌黄君と、急いで医務室の職員を手配している支部長の姿があり、僕も赤崎君の様子を確認する。


「ひ、日和さん!? 焔の奴、きゅ、急に倒れこんじゃったよ……! 俺が何度呼び掛けても反応しないんだ!」


「こ、呼吸はしていますか!? 意識が無いのでしたら、無理に揺り動かすのも危ないかもしれません!  あ、後は急いで装備を外して楽な姿勢に……!」


 せめて呼吸がしやすくなるように萌黄君と一緒に装備の一部を外し終えると、ようやく職員がやって来る。後は自分達に任せて欲しいと、僕は彼女達に優しく諭され気絶していた景志さん達と一緒に、赤崎君は医務室に運ばれていく。


「一体、焔はどうしちゃったんだ……日和さんも、まるでこうなるかのようにわかっていたみたいに急いでここに来たけど……」


 萌黄君がぽつりと呟く声を聞いていると、桃瀬さん達もこの場にやって来て、その顔は折角模擬戦を勝ったというのに、僕の様子を見て困惑していた。


「ねえ、日和さん。焔が空で戦い始める少し前から様子がおかしくなっていったけど、何があったの……? 知ってる事があるなら教えてくれる……?」


 桃瀬さんが何かを察してしまったらしく、口調は優しい物だけれどどこか真剣さも感じられる。


 こうなってしまった以上、僕には彼等に赤崎君の身に何が起きたのかを教える必要がある。適当にはぐらかすような非情さも無ければ、桃瀬さんの勘から逃れる術も無いし、何より赤崎君にはまだ聞かないといけない事もある。


 一体どこまで信じて貰えるかはわからないけれど、僕は強化付与の能力の事を皆に教える決意を固める。


「わかりました……ガンバルンジャーの皆さんと、それから支部長さんに、桔梗院さん、竹崎さんと風見さん達はこの事を知っておく必要がありますから……」


「成程、竹崎君もかね……わかった。だがここでは秘密の話をするにはあまりにも開放的過ぎるから、場所を変える必要があるようだ。それに、赤崎君達の容態も見ておかないとね」


 支部長がそう言うと、僕達は場所を医務室へと移動する事になった。

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