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第二話 知りませんよ! そんな事! 僕だって見た事無いんですから!




 その後、一体どうやってメスにされるのかとか、一番懸念している四天王としての情報は他に無いのかとか、そもそも学校に潜入するうえで入学試験は大丈夫なのかとか、レオ様を除きノリノリに話を進めようとする四天王達を相手に、僕はこの作戦について出来る限り質問した。




「はぁ……本当に僕についての情報は存在してないんですね……ううっ、ぐすん」


「まあまあ、これからいっぱい作戦に出るんだからすぐにでも嫌っていうほど注目されちゃうかもしれないわよ? だから泣かないでその事だけ考えましょう。きっとこれから面白くなるわ」


 グレイスさんが泣きそうな僕を慰めてくれる。この人は僕に優しいのはいつもの事だけれど、雰囲気が更に柔らかくなったのは気のせいなのかな?


 この作戦、色々不安ではあるが、僕が参加すること自体には不満は無い。


 少し頭が冷えると、僕自身のつまらないプライドで会議で騒いでしまい少々恥ずかしくなる。四天王になって今まで表立って活動はしてこなかったのだから、僕の事を良く知るシャドウレコード内での扱いとそれ以外で評価が変わるのは当たり前の話だ。


 戦闘面以外では努力はしてきたつもりなのだ。部下達も表に出られない事で僕に不満を漏らした事は無いし、まだ若い僕をやっかむ人も組織内にはいない。


 本当に戦闘面以外でも実力が無いのならレオ様達だって僕をこんな側に置いて面倒を見てくれる訳が無い。


 今回の作戦で、ようやく僕は自分が主体の表向けの任務が与えられたのだ。これを機会に、シャドウレコードの四人目の四天王はちゃんと実在する工作戦が得意なやり手の新星だと、外に向けてアピールするのだと気合を入れ直す。


 レオ様がひねり出すように思い出した情報以外、本当に僕についての出回っている情報は無いらしく、悲しくなって泣きそうになるのをグレイスさんに慰められ、落ち着いた所で他の質問への答えを聞く。




「それでレオ様、僕が実際に向かう学校とはどんな所なんですか?」


「あ、ああ。ザーコッシュ、そうだったな。表での調査の際そこの部隊が既に入学に関する情報も入手してある」


 そう言ってレオ様はタブレットを操作し、机にガンバルンジャーが通う学校の資料を表示させる。


「俺もざっと目を通して多少幾つか条件があるのを確認したが、ザーコッシュなら問題ないと判断した。後でお前の部屋の据え置き端末にデータを送っておく」


 僕達はそれを眺める。資料には『希星高校』と学校名が記載されており、表の部隊によってこの学校であるのは確定済みなのだという。そして、レオ様が指し示した条件を確認する。


「もしかして、特別能力者入学枠という項目ですか?」


「ああ、その条件なら出自が特殊なお前でも今から応募は可能だ」


 特別能力者入学枠。この学校はピースアライアンス公認で若くて優秀な能力者を保護する名目でこのような入学枠を設けている。そのお陰でガンバルンジャーは学校に通えて僕もこの制度を利用して潜入を行える。


 入学試験についてはこんな議題が出る時点で予め計画が進められ、潜入する人間が問題だっただけで僕が選ばれた事により問題は解消されたそうだ。この後自室に戻り、ネットから学力試験を受けてもう一つ心理テストも受けるのだという。


 僕は生まれつきとても希少な能力を二つ扱える。一つは【回復能力】。対象の傷や怪我や病気に対して治癒の力を与えたり、生命力や抵抗力を高めるといった能力だ。一か月前の隊員達の負傷の件を知っていたのは、僕も治療に関わったからだ。


 この能力は扱える人が少数で、更に習得難易度が高く、需要に対して全く供給が追い付いてない希少な能力なんだとか。僕はまだ初歩的な部分しか習得出来ていないが、この能力ならばよっぽど学力が酷くない限り大丈夫だろう。


 もう一つの能力は【強化付与】。回復能力より更に希少らしいけれど、この能力は使用しても恩恵を得られる人間はごく少数しかいない。


 戦闘力が低い僕が僕自身に使っても大して効果が無い上に、無駄に疲れるだけという結果しか残らない。ただ、レオ様や他の四天王達みたいな戦闘力が高い人に使うと絶大に効果を発揮する。


 けれど過去に一度だけレオ様の役に立てる方法を探していた時、この力を発動した際に僕が三日三晩寝込む事になってしまって以来、レオ様から封印されてしまっている。


 今も尚この能力は使えないので、僕は回復能力の能力者としてこの学校に入るようだ。


 一般的で数も比較的多い能力者なら普通の入学枠で入学試験を受ける事になる。高水準の能力者で戦闘力も保有しているガンバルンジャーは全員この枠だろうと思うと、それだけで彼らと同じ土俵に立つという意識が芽生え、たちまち気合が入る。


「うふふ、まだ入学までひと月以上あるっていうのにすっかり気合が入っちゃっていいわねぇ」


「はい、敵は強敵のようですし、僕はようやく自分の活躍する機会を与えられるんだと思うとやっと皆さんのお役に立てて嬉しいです」


 気合が入った僕の顔を、グレイスさんが微笑みながら見ている。潜入する場所はわかったので、気になっている事を尋ねてみた。


「所で出回っている情報だと少年なのは判明しているようですが、それを打開する為にメスになるっていうのは一体どんな方法なんですか? 脳波で動く特殊なロボットでも用意したりとか、周囲に幻術をかけたりとかするのでしょうか?」


 ここの部分だけはどう考えても何もわからないので、僕は自分で思いつく限りの方法を用いて潜入を行うのかと尋ねるものの、イグアノさんは不敵な笑みをしながらゆっくりと首を横に振っていた。


「そういう手段もあるのは考えましたが、それらはどれもバレた時のリスクがありますザーコッシュさん。君のリスクが一番少ない方法を私とグレイスで思いつきましたので、多少君にも頑張ってもらう事になりますが、少し日にちを頂ければ準備は出来ますよ」


 一番謎の、僕をメスにするという話は、グレイスさんとイグアノさんが異様に乗り気になっており、何やらレオ様にこそこそと耳打ちをした後、三日時間が欲しいとの事だった。


 その事で何故かレオ様が一番動揺している様子で、心配になった僕はレオ様に何か良くない事があってはならないと思い、様子を伺うと顔を赤くしながら何でも無いと言い、二人に許可を出して強引に会議を終わらせてしまった。




 作戦会議が終わり、僕たちはそれぞれ会議室から出る。


 僕はすぐさま自分の部屋に戻り仮面を外しきっちり着込んでいた服を緩め、前もってレオ様が入学用の準備手続きを済ませていた希星高校という学校が用意した試験を受ける。


 僕は自室にある端末の電源を入れ、画面を軽く操作し送られて来たデータを確認して、学力を測る筆記試験や人格等に問題が無いように用意された心理テストを受けた。


 筆記試験はランダムに音声付きの映像と共に質問が表示され、制限時間のうちに記入する仕様になっている。データ毎に問題の内容が異なり、実際に音声と映像を聞いて確認しないと解けない仕組みの問題形式になっていてカンニングするような時間は無い。


 試験を終え、心理テストも続けざまに終わらせ、データがすぐに送信される。用意されている表向けの組織の回線を経由して僕の情報は送られるので、この場所が特定される危険は無い。


 ひと段落着き、後はグレイスさん達の準備が終わる予定の三日まで待つだけだ。


 その後は特に何事も無いまま、僕は約束の日を迎えた。




◆◇◆




 三日過ぎ、僕は組織内にある指定された場所に向かった。


 そこはイグアノさん指揮下の科学実験室だった。ドアを開けると何故かイグアノさんではなく、にこやかに微笑むグレイスさんが待っていて、モニター越しに会議室に座っているレオ様達の姿が映っている。


「待ってたわよぉ、ザーコッシュ君。ようやく準備が終わった所でね、無事にこの日を迎えられてよかったわぁ」


「この部屋にはグレイスさんだけなんですか? レオ様達は何故モニター越しに?」


 きょろきょろと部屋を見渡す。電気が点いてないので、中は薄暗くちょっと怖い。そんな部屋にグレイスさん一人だけがいる。


 ぼんやりと光る壁に備え付けのモニターからは、レオ様達が僕に挨拶をしてきたので僕も返事をする。


「これからやる事に、ザーコッシュ君がちょーっと恥ずかしがるかもしれないから電気は消してたんだけど、まあ流石に暗すぎて危ないかしらね。ごめんね」


 そう言ってグレイスさんは部屋のスイッチを押し、電気を点ける。照明が点き部屋が明るくなり辺りを見回しても、使用用途が良くわからない機械が置かれている以外は特に恥ずかしい物は無さそうに見える。


「来たところ早速で悪いけど、まずはこれに着替えて貰える? あ、後もしかして危ないかもだから仮面や下着も外して貰えるとありがたいわ」


 そう言って渡されたのは、病院で入院する時に治療用の機具を着脱しやすくする為に用意される患者衣のような物だった。仮面を外すのはともかく、下着まで脱いでこれを着るのはそんなに大それた事をするのだろうか。


「あの、グレイスさん……もしかしてこれから手術とかやっちゃうんですか? まさかメスになるってそういう事なんですか!?」


 思わず不安になり、モニターに視線を向ける。ウルフさんは良く分かって無いのか首を傾げている、イグアノさんはただただニヤリとしているだけ、レオ様に視線を向けると慌てて狼狽え身振り手振りで改造手術ではないことを伝えてきた。


「ち、違うぞ! ザーコッシュ! 決してお前の身体を切り刻むような物理的な手術などではない! ただ……なんというか、グレイス曰く痛みは無いらしいが、身体のあちこちに特殊な装置を着けるらしく、まあ、その……なんだ……」


「詳しい話は、それに着替えてからよ。ただ本当にレオ様の言う通り、痛い事はしないから心配しないで、まあどういう訳かは後で教えてあげるわ」


 グレイスさんは着替えない事には話をする気は無いらしく、仕方が無いので僕は渋々ながらも着替える事にした。


 実験室の隅に着替える為の部屋があるのでそこに向かう。仮面を外し、備え付けられている鏡にふと顔を向けた。


 毛先に淡く桜色を宿した白みを帯びた柔らかな銀髪に、目を細めても尚も大きく丸い金色の瞳。不安なのか少し眉も下がり気味で、男としてはかなり頼りない顔をした僕の顔が鏡に映る。これからどうなるのかため息を吐くと鏡に映った僕の顔が更にしょぼくれてしまう。


 余り鏡ばかり見ていると更に元気が無くなりそうだったので、僕はササっと衣服と下着を全て脱いで言われた通りに患者衣を着て外に出るのだった。




「言われた通り着替えましたが……これから一体何をするっていうんですか?」


 普段僕は常に仮面を着けて四天王としての業務に務めていた。レオ様達や、僕に近しい部下数人には素顔を晒した事はあるけれど、ここ数か月は自室等のプライベートな場所以外ではずっと仮面を着けていたので、こうやって僕の日和 桜としての顔を周りに見せるのは久しぶりで、なんだかとても恥ずかしくなってつい顔が熱くなってくる。


「久しぶりにザーコッシュ君じゃない、桜君の顔を見たけどやっぱり前見た時と変わらなくってよかったわぁ。ここまでやらせといて男前な感じに成長してたらどうしようか不安だったのよね」


 数か月前と変わりが無いと言われて軽くショックを受ける僕を他所に、僕の頬に手を添えて優しく微笑むグレイスさん。


 確かに育ち盛りなのに僕の身体は余り逞しく育たなかった。お腹とかムニムニしてるし、腕だって細い。とても貧弱な身体なので余り見ないで欲しい。


「うん! これだけ可愛いなら、余裕で行けちゃうわ! 男の子なのにここまで華奢なら身体への負担も少なそうだし、メアリーちゃん! 早速やっちゃって!」


『ギョワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「ふぇっ!? な、なんですか!? うわぁ! 何この触手!? か、絡みつかないでよ!」


 部屋の奥の扉が突然開いたかと思うと、僕は突然グレイスさんが呼んだメアリーちゃんとかいう謎の触手生物に両手両足を拘束され身動きが取れなくなってしまう。


 表面がぬるぬるしてて生温かく、ぐにゃぐにゃ動くのでとても気持ちが悪い。


「グレイスさん! なんですかこれ!? ちゃんと説明してください!?」


 グレイスさんは満面の笑みを浮かべ、部屋に置いてあった機械のスイッチを押した。


 不気味な起動音を鳴らし始めた機械はどこからか薬品の入った巨大な注射器を取り出したかと思うと、触手に針を刺して中に入っていた薬品を注入し始めた。


『ギャギャギャギョオオオオオオオオオオオ!』


「うふふ、桜君この子はメアリーちゃんって言ってね。最近の生物研究学で誕生した触手生物らしいのよ。名前の通りこの子は女の子でね、お肌のつややスタイルなんかを良くする分泌液と触手マッサージが得意な美容目的で作られた子よー」


 そう説明するグレイスさん。メアリーちゃんと呼ばれた触手は更に動きを活発化させ、腕や脚だけではなく脇腹や腰元にも絡みついてきてくすぐったくなる。


「わひゃ!? ぐ、グレイスさん、この触手身体中にっ、まとわりついてぇっ! と、止めてくださいよぉ!」


「駄目よ桜君、このメアリーちゃんがこの作戦のキモなんだから我慢してね。大丈夫よ、すぐに気持ち良くなって上手く行くから」


 触手はそのまま僕の全身に絡みついていき、遂に吸い付くように僕の敏感な部分に貼りついていき、今まで感じたことのない刺激を与えてくる。


「な、なにこれぇっ! ダメ、ダメですっ! グレイスさん! こんなの僕嫌です! レオ様! 助けてください!」


 今までモニター越しに見ていたレオ様達、突然行われた僕に行われた痴態を目にし、レオ様は眉を寄せ、顔を赤らめつつも僕に申し訳なさそうな顔をして目をそらし、椅子から動かずにじっとしている。


「済まない、ザーコッシュ……いや、桜……本当に済まないがこの作戦、今後の為に絶対に失敗する訳にはいかないのだ。事が終わればお前の為に必ず責任はとる……」 


 この作戦を決行したレオ様は僕を助ける気は無いようだ。役に立つ為ならなんでもやる覚悟はあったけれど、触手塗れになって恥ずかしい目に会う覚悟は全く想定の中には無かった。


 そうしている間にも触手はまるで興奮するかの様に僕の敏感な部分へ刺激を続け、恥ずかしさと恐怖心で顔が熱くなり、視界が滲み思わず出る声も上擦ってしまう。


「ぼ、ぼくはぁっ、いつか皆の役に立ちたいと思ってぇ、やっと、その時が来たんだってぇ! そう思ってたのにぃ、それがっ、こんなのってぇ! ああっ、ひぃぁっ! ぼっ、ぼくの身体へんですぅ! ふぁっあっ、やだぁ! 何これぇ! だめですだめですっ!? やだやだやだぁあっ!」




 数分に渡り、触手から出てくる分泌液によってじわじわと僕の身体は溶けるように熱くなっていき、身体の感覚がどんどん柔らかくなっていくかのように変になっていく。


 僕の身体に何かが入ってきて、お腹の辺りで何かが勢いよく出ていったような気がする。


 何が起きているのかわからないまま、そのまま思考まで徐々に鈍くなって来る。僕の身体はこれからどうなってしまうのだろう。


 頭や身体がどんどん熱くなり、もはや泣く事も嫌がる事も出来なくなっていき、触手は満足したのか僕の身体でうねうねし続けている。


「はぁっ……もうやぁだぁ……ぼくの身体にぃ、かってに何かしないでくださぃ……うぁあっああ……」


「ごめんなさいねぇ、桜君。もっとサクッと行けると思ってたんだけど、まさかこんなに官能的になっちゃうなんて……レオ様達に今の姿を見せるのは流石に桜君が恥ずかしいだろうから、モニターの電源は落としておいてあげたわ」


 グレイスさんだろう人の声がする。もう何が起きてるのかわからない。


「メアリーちゃんが張り切り過ぎちゃったのか、イグアノが用意した薬が強すぎたのかわかんないけど、私が用意した患者衣すら引っぺがしちゃって、思ってたよりも桜君が凄い事になっちゃったから、慌てて電源落としたわよ」


 べりべりと音がして、手足が触手から解放される。そのままふわりとグレイスさんに抱きかかえられた後は、意識が遠のいた。




◆◇◆




「う、ん……あれ? ここは……」


「あっ、気が付いたのねぇ。良かったわぁ」


 何だか重たい瞼をゆっくり開け、部屋の明るさに目が慣れるまで数十秒。


 寝ながら首を動かすと見慣れた風景、ここが僕の部屋だと気が付く。その横には普段の戦闘服とは違い、落ち着いた雰囲気の洋服を着たグレイスさんがいた。


「グレイスさん、どうしてここに……」


「桜君をメアリーちゃんから引きはがした後、気を失ってたから私がここまで運んで来たのよ。ついでに身体がべっとべとだったから綺麗にするのに色々確かめちゃったわ~」


 グレイスさんはそう言って笑みを浮かべながら自身の頬に手をあてる。まだ意識がぼんやりとしていて、その行動の意味がよく理解出来なかった。


「そうですか……僕は一体どれ位意識が無かったんですか?」


「大体半日くらいかしらねぇ、だから今はもう深夜になってるわよ。もしお腹が空いてたりしてても、食堂は閉まってるから今日は我慢してね」


 あれから半日は寝ていたらしい。そしてどうやらアレは実際に起きた事のようだ。そうなのかぁ、半日も寝ていたのかと思いながら、グレイスさんが言った事を反芻してると、頭の中であれ? っと引っ掛かることがあったので尋ねる。


「グレイスさん、さっき僕を綺麗にする際に色々確かめたって言ってましたけれど……それってどういう意味なんですか?」


「んふふ~、そんなに気になるなら自分で確かめちゃったらいいんじゃない? 自分の身体なんだし気になるわよね~。着せる物無かったから裸に布団かぶせてる状態なんだけど、今は()()()なんだし私は気にしないわよ~」




「は? えっ……? えええっ!?」


 グレイスさんからの思いがけない言葉に意識がパッと目覚め、勢い良くガバっと起き上がる。


 その勢いで頭の周りにふわりと何か糸のような物が舞うので、手で掬うとそれは伸びた僕の髪の毛だった。


 髪に触れる手に目線をやると、胸の辺りが膨らんでいる。小ぶりながらも確かに揺れ、恐る恐る触ると柔らかい感触があり、この二つの膨らみは僕の胸だと言わざるを得ない。


「はぁああっ!? えっ? えっ?」


「この部屋、手鏡ならあるけど、大きな姿見が無いのよねぇ。自分に無頓着だった男の子だと洗面台で寝癖が無いか位しか確かめないのねぇ。はい、手鏡」


 キョロキョロと辺りを見回すような仕草をしたグレイスさんから、手渡された手鏡で僕の顔を確かめる。


 そこには髪は長いけれど僕と同じ髪の色をして、金色の瞳を大きく見開く裸の少女がいた。視線を下に向けると鏡越しに胸が見えてびっくりしたので、姿だけ確認してすぐにグレイスさんに手鏡を返すと彼女は不意に笑い出した。


「あはは、もう、何その反応。貴女の身体だって言ってるのに何でそんなに驚いちゃうのよ。これからは毎日お風呂だったり、着替えだったりで自分の身体を鏡越しで見ちゃうのよ? 別に誰かの裸をのぞき見してるんじゃないんだから見慣れて落ち着きなさいね()()()()


 意識が完全に覚醒した僕に、わざわざ桜ちゃんと呼び方を変えるグレイスさん。この態度とさっきまでの説明で、僕を完全に女の子として扱おうとしている。


「グ、グレイスさん……この女の子は本当に僕なんですか……髪の色や目の色は僕と同じだから本当なんでしょうけれど……じゃ、じゃあ色々確かめたって言うと、まさかこの下も……?」


 ゆっくりと布団の上から下腹部から太ももの付け根まで手で身体を触り確かめる。お腹の感触や太ももの感触はしたのだが、ある部分の感触だけ綺麗に消失している。


 僕は恥ずかしいのでグレイスさんの位置からじゃ見えないように、恐る恐る布団を捲り中を確かめる。


「無い……! 綺麗に消えてる……」


「ホントに綺麗よね、桜ちゃんのそこ。正に穢れを知らない無垢の段丘にある乙女の花園が綺麗に咲き誇ってるって感じだったわ~。処理しようとすると結構大変なのよねぇ、羨ましいわぁ」


「ちょっ!? な、なんですか! そんな意味の分からない表現は! まさか、グレイスさんここも確かめたって言うんですか!?」


 オブラートに包んだような包んでないような独特な表現で、僕の大事な部分の評価したグレイスさん。


 僕にとってとても恥ずかしくて隠したかった事が、この人には全部知られてしまっているので、僕はもうどうしようも無くて布団で顔を覆うしかなかった。


 僕の反応を見て、色々大人なグレイスさんはどうやら地雷を踏んだと察してしまったらしく、困った様な声で申し訳無さそうに話し掛けて来る。


「この作戦は色んな懸念要素を排除する為に、まず桜ちゃんの身体を完全に女の子にする所からスタートするんだから、それは当然ちゃんと大事な部分が女の子になってるかも調べたわよ。ただ、まあ、最初から裸になっちゃってたから確認する前から髪の毛とかムダ毛とかは見えてる訳だしねぇ……」


「言いたい事があるならハッキリ言ってください……」


「うぅ……ごめんね桜ちゃん、お姉さんこの作戦が始まる前々から貴女の事で気になってた事があってね、ほら、桜ちゃんの髪の色ってかなり特殊じゃない……? だからね、その……下の方もそうなってるのかなぁ、ってさー……」


「知りませんよ! そんな事! 僕だって見た事無いんですから!」


「男の子の頃からそうだったなんてとても珍しいわねー……そ、それだったら他のムダ毛もあまり無かっただろうし、いやーほんとに処理の手間が省けて羨ましいわねー……何なら女装でも行けたんじゃないかしらー……」


 どうして大人の女性にこんな事を一々説明しなければならないのかわからず、恥ずかし過ぎてもうそんな話は止めて欲しいと布団で覆ってた顔をグレイスさんに向ける。


 すると、グレイスさんは途端に慌てた顔をし始め、僕に謝って来るのだった。


「って、だからその顔やめてってば桜ちゃん……ほんとにごめんなさい……メアリーちゃんに絡みつかれてた時もそうだったけど、貴女って素顔でそんな顔するととっても心にくるものがあるのね。新発見だわ……」


 そんな顔って、どんな顔だろうか。不意に出てる僕の顔なんて僕には見えないからわからない。


 グレイスさんがとても困った顔になるって事は相当強力なんだろうけれど、多分意図しては出せない。


 人によってはどうかはわからないが、僕にとっては恥ずかしいものは恥ずかしい。心の中ではまだ若いからこれからかもしれないと思っていたけれど、グレイスさんの反応からして多分今の時代の子だと、この年でそうだったならば、今後ずっとそうなんだろう。


 益々恥ずかしくなって、泣きそうになる。


「ああ、もう、そんな顔しないでってば桜ちゃん。お姉さんが悪かったってー……そんなに恥ずかしいならさあ、じゃあ桜ちゃんもお姉さんの恥ずかしい所を見てみる……? それでお相子って事で許して?」


「見ませんよ!」


 胸を寄せ上げるように腕を組んで、人差し指を口元に当て目元を細めて誘惑するように突拍子もない提案をしたグレイスさん。


 乗り気は無いので、僕はきっぱり断る。


 ふと身体が裸なのを思い出し、自分の身体を見る。やっぱりまだ恥ずかしさがあるけれど、別の恥ずかしさが上回り少し慣れてきた。


 このままじゃあ風邪を引きそうだと思い、どうしたらいいのかグレイスさんに尋ねると、女同士になった記念に裸になって一緒に寝る? とか言い出してきたので、僕は頭を抱えてしまった。

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