表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/39

第二十六話 桃瀬さんがもう一人いるみたいで妙な感覚になりますね




 吉田さんと南野さん達と再度展示スペースを見て回ると、自由探索の時間が訪れる。


 僕はなるべくヒーロー側が活躍した部分に注目しながらメモを取るべき箇所を二人に教えていて、次の自由探索に移る前に書き漏らしが無いか三人で何をどう書き記したのかメモを確かめ合う。


 その中でピースアライアンス側が活躍をすればするほど、過去に実在していたウェイクライシスの組織の衰退であったり壊滅が、展示されている文章の裏で読み取れた。


 逆に大規模な災害が起きた時や危険な敵対生物が確認された時には、ヒーロー側の懸命な人命救助活動を記載しているけれど、今度は逆にそれをきっかけにして新たなウェイクライシスの組織が誕生したりしているのを、僕はシャドウレコード内にて把握している。


 ピースアライアンスが管理する国の中で一般市民として生活を行う分には、ウェイクライシスの事は悪くて危ない人達の認識で良いのだろうけれど、実は組織ごとに掲げている信念や内情は、その組織に触れて見ない事には詳しくは知りようが無かったりする。


 例の何とか筋肉団の事も、シャドウレコードの情報部なら何かを把握出来ているかも知れないけれど、今の僕には若い女性に過剰に接触を強要する変な集団という事ぐらいしか知っている事は無い。


 それ故に、ヒーロー側の情報をより多く把握していた事を吉田さんに尋ねられる。


「日和さんって、ヒーロー達の事良く知ってるんだねー。私はニュースで知ってる名前のヒーローがたまに活躍してるぐらいしか把握してないのに」


「それは私の能力の事もありまして、扱える人の数が少なくて誰かに尋ねて教えて貰うという事も出来ませんでしたから、自分でもあれこれ調べていく内にこういう分野も知る機会があったんです」


 医療技術が発展していて、尚且つもしもの時の為に人命救助用に全ての人類に役立てて貰おうと情報を公開しているのは、こればかりは流石にピースアライアンスの方が徹底していた。


 仮にウェイクライシス側に僕よりも遥かに回復能力に長けた人物がいたとしても、身内以外には徹底的に情報を秘匿している筈だろうし、どのようにして集めた情報であるのかも想像が付かない。


 敵ながら安心安全かつ確実で信頼出来る情報源に頼らざるを得なかった事実に、つくづく本当に僕自身が悪者に全く向いていないなと内心で複雑な思いを寄せながら、二人に事情を説明する。


「へぇー、希少な能力者として生きていくのも、そう聞いちゃうとホントに大変なんだなって思っちゃうね吉田さん。ストレッチとかにも詳しいのも、とにかく手当たり次第にって感じだったんだ」


「うん、少しだけ羨ましいなって思ってたんだけど、やっぱりそんな話を聞いちゃうと私じゃそんなに努力出来るのかなって、考え直しちゃうね」


 思いの外二人には関心されてしまい、僕もそれにどう反応すれば良いのか困り笑って誤魔化していると他の生徒達も先生達のいる場所に集まって来る。この後一緒に行動するのであろう数人でそれぞれ固まりつつ話が注意事項の説明がされるまで待機している。


 生徒も集まり、ようやく説明がされる。クラス委員長として昨日の内に内容の方を確認していた僕は、騒ぐ事はしないようにしたり、入れない階もあるので注意するようにとか、お昼には食堂が開放されたり、施設で手伝いをしている生徒に会いに行く時には気を付ける事等、説明を聞いて頭の中で覚え間違いが無いか一つ一つ再度確かめていく。




 特に改める事が無いのを確認し終えたので、展示スペースから少し離れた通路で今後の自由探索で何処に向かうのかを三人で話し合う事にする。もう既に何処に向かうか決めた生徒達から、思い思いの場所へと数人単位で会話をしながら楽しそうに歩いて行くのが見える。


「自由探索の時間になりましたね。私はまだ何処がどのような施設なのか把握出来ていませんから、一度案内板を確認してから気になる場所を探したいですね」


「うん、そうだね。桃瀬さんがいてくれたら施設に詳しいんだろうけど、今日は別行動だもんね。南野さんは事前にそういう話を聞いていたりする?」


「いやー、チュンちゃん妙に変な所で真面目になったりする部分もあるから、そういった話は機密に関わるとかで今まで教えてくれなかったんだよねぇ」


 ひとまずは案内板のある場所に向かってからかと、尚もどうしようかと考えていると、南野さんの携帯端末が鳴る音がする。それを確かめると、彼女は突然何かを思い出したかのようにハッとした顔になり僕達の方を向く。


「そうだった、事前に上っち達から私達と合流して一緒に見て回りたいって話し合ってたんだった。二人も一緒に誘ってって話もしてて、急でゴメンなんだけど日和さんと吉田さんも一緒行かない?」


「上田さん達とですか。はい、私は良いですよ。こういう時ぐらいにしか他の組の人と合流して動く機会も無いでしょうから、なんだか楽しそうですね」


「うん、私も賛成だよ! 大勢の方が楽しいのはそうだし……それに、ここって広いから人が多い方が迷子になった時に見つけて貰いやすいもんね」


 南野さんからの突然の提案に、僕と吉田さんは互いに顔を合わせてから了承の返事をする。途中、吉田さんが小声になりながらキョロキョロと辺りを見ながら話す内容に南野さんがクスリと笑い出すものの、僕もここに来るまでに道に迷わないか何度も辺りを見渡していたのを一部の生徒に見られているので、一緒になって赤面するのを奇妙な目で南野さんに見られながらも上田さん達が来るのを待つ事にする。




 少しして、身長差もありそれぞれ違う雰囲気の見た目をした、仲良し三人組の見知った人影がこちらに近付いて来るのを見つけ、上田さん達がやって来る。着いた途端に上田さんは僕に近付いてきて桃瀬さんばりの距離感で接して来て、中島さんも仲良くなった吉田さんと楽しそうに話をしている。


「やったー! 久しぶりの生の日和さんだー。私達だってチュンちゃんみたいに間近で癒されたいのに、学校内じゃ会う機会無さ過ぎじゃない?」


「あ、あはは、お久しぶりです上田さん。なんだかこう間近で話されると桃瀬さんがもう一人いるみたいで妙な感覚になりますね」


「はいはい、その辺にしときなよ上っち? 幾ら寂しいからって突然そんな事されると日和さんも身動き出来なくなっちゃうじゃん」


 そう言って僕に抱き着く上田さんを引きはがそうとする下橋さん。中島さんもやって来て嫌がる彼女を宥めるように引きはがしてようやく僕は解放される。


「そう言えば日和さん達ってお昼はお弁当組なんだってね? 生憎私達全員、料理スキルを身に着ける機会が無かったもんだから、上っちもキョーコも相当残念がってるんだよね」


「チュンちゃんと春風は購買で辛うじて誤魔化してるそうだけど、流石に別の組の私達が同じ事して突撃するのは厚かましすぎるし、A組の他の子に迷惑だろうしさ」


 不満気な表情をする上田さんの両腕を抑えながら、中島さんと下橋さんがとても残念そうに自分達の心情を告白する。


 それを聞いた僕と吉田さんは学食を利用するのも考えたけれど、でもそれだと今度はあんまり食べられないからお弁当を持参している僕達が行くのは吉田さんもしんどいだろうし、僕だけが上田さん達と一緒になるというのも最初に二人で決めた約束もあってか、どうしたら良いのか困ってしまうと、それを見かねた南野さんが彼女達にある提案をする。


「やっぱりさ、折角仲良くしてくれる二人を、自分達が料理出来ないからってそれで困らせるのはなんか違う気がしない?」


「それはそうだけど、やっぱり私達も料理を覚えるべきってこと?」


「そうだよ! やっぱそれしか無いって! 日和さんも普段からやってるように、一人暮らしを始める時にはある程度自炊も必要なんだってば」


 南野さんが僕を一瞥してそう上田さん達に話す。それを聞いて三人も何だか決意をした目をしてシャキッと姿勢を正していく。


「そ、そうだよね……! 私達もいつか自立する時が来るもんね、そう言ってまずは家事から手伝えば今からでも一緒にお弁当を食べられる日が来るかもじゃん!」


「夏……には流石に無理だけど、が、頑張れば秋の終わり位までには二人にも見せられる物には出来そうだよね。私も吉田さんとはもっと仲良くしたいし」


「そうと決まれば目標も出来た事だし、期待して待っていてね二人共! 私達も自前のお弁当を持参して堂々とA組に来てやるわ!」


 そう新しい目標が出来た南野さんに上田さん達。僕達の為にそう言ってくれる事に嬉しさを感じて、吉田さんは僕以上に喜んでいた。


「うん! ありがとう皆! 私も日和さんも待ってるからね! もし、料理で知りたい事があるなら私達に何でも尋ねて来てよ」


「ふふ、良かったですね吉田さん。お弁当仲間が増えるのは楽しみです。私も期待して待ってます」


 そう言って微笑むと、より熱が入っていく上田さん達。けれど次の瞬間、何かを思い出したかのような表情になる下橋さん。


「あっ……でもちょっと待って、お弁当を作れば良いって話になったけどさ、この話チュンちゃんにもする……?」


 その言葉に一斉に固まる彼女達。その言葉がどういう意味なのか把握出来ていない吉田さんは首を傾げるが、僕は桃瀬さんの料理の腕前は壊滅的だったと本人からほんの一部話を聞いている。


 桃瀬さん本人の能力的に、何も教えずに隠し事をしていても勘の鋭い彼女にはいつか何か気づかれてしまうだろうし、かと言って一緒に料理を勉強しようと誘った所で、包丁を持つなと名指しで言われたその腕前は一体どのような影響を及ぼして来るのか想像が出来ない。


 言い出した手前からか、この話は自分達で何とか桃瀬さんに話してみると南野さんが僕達にそう言ってくれて、皆で何処を見学しようかの本題に移ろうかとした時、僕達の様子を尋ねに青紫色のツインテールを揺らしながらもう一組の見知った人物達がやって来る。




 この場にいる誰よりも小柄ながらも、その佇まいは背の小ささを感じさせない程にいつも堂々としている桔梗院さんは、これまたいつものようにすぐ側に専属の従者であり護衛役でもある影野さんと一緒に、移動しようと歩いていたら、丁度僕達を見つけたのかゆっくりとこちらに近付いて来る。


「偶然ですわね日和さん。ごきげんよう。吉田さんも一緒のようですわね」


「おはようございます桔梗院さんと影野さん、そちらは何処へ向かうかもう決めている感じなんですか?」


 互いに軽い挨拶を済ませ、僕は桔梗院さんに向かう場所を尋ねてみる。彼女は僕を見て軽く頷き行き先を話す。


「ええ、他の方からしてみれば少々ずるいと思われますかもしれませんが、家柄上、主要な施設等は事前に把握していますので、とりあえずは一階から順に見て回ろうかと」


 流石と言った桔梗院さんの家柄事情を聞いて、僕よりも上田さん達が大いに反応する。その反応に桔梗院さんは僕には他にも一緒に行動する人がいたのかといった顔をしている。


「おー、流石有名人のお家は凄いねー。ねえねえ、貴女ってC組の桔梗院さんだよね? 日和さんと並んでるとやっぱどっちも負けず劣らずで可愛いねー」


「あら、他にもお連れの方達がいらっしゃいましたのね。日和さん達の向かう先がお決まりでいないのでしたなら、ご一緒にどうかと誘おうかと思いましたけどその心配は必要ありませんでしたわね」


 上田さん達と桔梗院さん達はお互い初対面らしく、上田さんの問いかけにはそうだと軽く答えるともうこれ以上は僕達に話す事は無いのか、邪魔にならないように桔梗院さんはすぐにこの場を離れようとしていた。


 事前に決めているのであろう目的の場所に歩き始めようとしていた彼女達に、南野さんが声を掛ける。


「ちょ、ちょっと待ってよ桔梗院さん! どうせなら私達、一緒に行動しない?」


「えっと、貴女は……確か桃瀬さんのご友人の方でしたかしら?」


 以前僕に勝負を申し込む時に、桃瀬さんの側で仲良さそうにしていた所は見覚えはあったのだろう、南野さんに反応する桔梗院さん、けれど流石に名前までは把握しきれていないようで何処か歯切れが悪い。


 ご友人という単語を聞いて、自分が思っていた以上に覚えていて貰えていた事にうんうんと嬉しそうに首を縦に振る南野さん。そのまますかさず回り込むように桔梗院さんの前に出る。


「うん、そう! 私、南野 春風っていうの! チュンちゃんや日和さん達の友達だよ! さっき貴女に声を掛けたのも同様にチュンちゃんや日和さん達の友達なんだ」


 南野さんの行動に最初は驚いていた桔梗院さんだが、上田さん達も桃瀬さんの友達と聞いて次第に雰囲気が軟化していくように見られた。


 続けざまに上田さん達も自己紹介していき、その勢いに思わず面を食らった表情を見せる桔梗院さん。そしてそのまま興味津々の彼女達に囲まれ、入学式の時の僕のようにもみくちゃにされようとしていた所に影野さんの制止が入る。


「ちょ、ちょっと!? な、なんですのよ!? 桃瀬さんのご友人という方達は皆さんこうなのですの?」


「ですが、エリカ様。皆さんどうやら普通の女の子のようでございます。桃瀬様のような、油断しているとそのまま制圧されてしまいそうなプレッシャー等は特に感じませんでした」


「ええっ、チュンちゃんいつも密かにそんな物出してたんだ!? でも、日和さんは無抵抗に抱き着かれてるよ? それって成す術無いからって事?」


 影野さんの独特な分析によって、桃瀬さんの隠されていた秘密? が明かされる。道理で影野さんがいつも止めに入っていたのかと思いつつも、僕にも同じ事をしているという事はこのままではいつか僕は制圧されてしまうのではと考えてしまう。


 お昼になったら詳しく事情を聞こうかと悩んでいると、どうやら依然ハッキリと忠告した為なのかはわからないけれど、僕にはそのような物は向けていないと南野さんの指摘に対して影野さんの返答が来る。


 自分にだけそうなのかと桔梗院さんはすっかりと呆れた表情になり、僕達は桃瀬さんの奇妙な行動に可笑しさを感じてしまい、皆で笑い合うのだった。




 最初は見ず知らずの存在ならそのまま別行動を取ろうとしていた桔梗院さんだったが、桃瀬さんの友達という事を聞かされて、自然と打ち解ける事も出来たので予定を変えて僕達と一緒に行動してくれる事になった。


 一緒に来てくれる事に大喜びする吉田さんに、桔梗院さんは少し照れくさそうにしている。


「えへへ、良かった。今日は一緒に見て回ろうね桔梗院さん!」


「ま、まあ、場所が場所ですし、それに桃瀬さんのご友人という方達を無碍に扱う訳にも行きませんから、昼食の時間まではご一緒しても構いませんわ!」


「あれ? お昼に予定でもあるの桔梗院さん?」


 お昼までという言葉に、昨日予めしておいた予定を知らない下橋さんから尋ねられる。


 桃瀬さんがしておいたお昼の予定を説明すると、残念そうな表情をするが今日が初対面だからと納得する上田さんを見て、先に言った事について何か考えている顔になる桔梗院さん。けれどそれを口にするタイミングを掴めずに何処に向かうかの話に流れていく。


 まずは桔梗院さんの予定通りに一階を見て回ろうという話になり、移動する事になる。一階は迷わないように比較的に広々とした空間を取っており、各階の説明を行う電子案内板も容易に見つける事が出来た。


 展示スペースの他に見学に来る人達用の為に、普段ヒーローが身に着けている装備品の紹介コーナーや、実際にそれらを身に着けて屋外に設置された標的を狙うといった体験コーナーも設けられていて、そこには既に数多くの男子達が集まっていてとても賑やかそうにしていた。


 元は男である僕も、当然それを見て興味を惹かれない訳も無く、吉田さんから不思議そうな目で見られてしまう。


「日和さん、男子達が集まってるコーナーを凄く興味津々に見てるんだね。実はああいうのやってみたいとかあるの?」


「えっ? えーっと、実は、はい……以前はやはりある程度は自衛する技術もあった方が良いのではと思う事もありましたから」


 幾ら身体を鍛えようとしても全く効果が無かったので、せめて装備は上手く扱えれないのかと昔シャドウレコードで僕の部隊用に用意された物で試した事がある。


 その結果、マニュアルを読んで使い方を隊員に教える事には役立てれたけれど、僕自身の体格では装備の出力に振り回されて返って危険だとメイさん含めた部下達に説得されて諦める事になった。


 そんな経験もあったなと思い出してしまい、苦笑いしながら吉田さんに返事をする。上田さん達にも意外そうな目で見られながらも、一階のメインフロアは概ね回ったのだった。


「男子達が大勢いたから体験する余裕も無かったからか、案外早く見終わっちゃったね。次は何処に向かおっか?」


「それならチュンちゃん達ガンバルンジャーの所に行かない? 日和さんと桔梗院さんも一緒なんだし全員喜ぶよ」


「えー? ガンバルンジャーが普段どんな所で働いてるのかは気になるけど、いきなり行くのは向こうにも負担じゃない?」


 南野さん達が何処に行くべきか話し合う。上田さんはガンバルンジャーの所に行くのはどうかと提案するが、あまりいい感じの反応は返ってこない。


 それならばと南野さんが僕達の方に顔を向け、どうするべきかと話を振られる。


「ねえ、日和さんと桔梗院さんはどう思う? 私はもっとチュンちゃん達に余裕がありそうな時が良いと思うんだけど」


「そうですね、確かにガンバルンジャーは学校でも相当な人気ですから、今はここの場所のように大勢の生徒達で賑わっているのかもしれませんね」


 桃瀬さん達がいる階はどれ程の広さなのかは実際に行ってみて確かめてみないとわからないけれど、一階の賑わいぶりを見れば相当な人数は考えた方が良いのかもしれない。僕の意見に桔梗院さんも少し考えつつも概ね同意している。


「大勢の方達がいらっしゃる中でわたくし達が押しかければ、必要以上に気に掛けてしまわれそうで宜しくないと思いますわ」


 僕達の意見に上田さんもそれもそうかと納得をしてくれる。そこで対応の合間に見てくれる筈だろうという事で桃瀬さんの携帯端末に、僕達が一緒に行動する事になった旨を記載しつつ落ち着くタイミングを知らせてくれたらそちらに向かうとメールを送るのであった。


「オッケー、チュンちゃんにメール送ったよ。まあ、すぐには返事は出来ないだろうから改めて何処に向かおうかな」


 南野さんが手にしている携帯端末を見ながらメールを送れた事を僕達に伝える。上田さん達はそれに軽く返事をして吉田さんと一緒に案内板を見ている。


「うーん、学校にもあるような施設の名前ならどんな所なのか想像が出来るんだけど、専門的な単語ばかりで知ってる人に聞いて見ないとどんな場所なのか良くわかんないね」


「ホントだねぇ、あっ、吉田さんここの『生物資料室』とか『ヒーロー活動記録室』なんかはどう?」


「『ヒーロー活動記録室』は良いけど、もう一つの場所はどうなのさユリ……生物って一体何の生物のことなのさ?」


「それは主に地球外敵性生物と呼ばれる存在であり、我々に友好的な宇宙人や異世界人とも違って意思疎通が図れなかった生物達の事なのだよお嬢さん方」




 次に向かう場所を決めるべく、案内板を見ながらあれこれ意見を言い合う吉田さん達の背後から、僕達の発する声では無い落ち着いた大人の男性の声がする。


 声のした方に顔を向けると、そこには先程の真宮寺支部長がいて、その隣には竹崎さんの姿も見えており僕達と顔見知りの彼に視線を向けると軽く挨拶される。


「竹崎さんに、それに支部長さんですよね……? 一体どうしたんですか?」


「よう、日和ちゃん。それに他の皆も数日ぶりだな。お互い制服姿で会うのは初めてになるか」


 そう言う竹崎さんの姿は、以前ゲームセンターで見かけた私服姿とは違いきちんとしたここの制服姿であった。とは言えヒーローとして活動する戦闘隊員でもある彼の制服のデザインは多少違っており、体型に合わせた特注品になる。


 桔梗院さん達以外の他の皆は、挨拶の時とは違って個別で会う事は想像していなかったのだろう、支部長の姿を見てすっかり動揺してしまい後ろに下がって対応を僕達に任せてしまっている。


「驚かせてしまって申し訳無い、君達は桃瀬君の友人達と竹崎君に聞いていてね。それと護衛の件もあってどんな感じの子達なのか気になってこの機会に尋ねに来ただけなのだよ」


 そう言って、申し訳無さそうに困った顔をしながら謝罪する支部長。その表情は南野さん達の警戒を解くには十分と言っていい程に温和であり、彼女達の調子も落ち着いている。


 護衛の件と聞いて、今度は桔梗院さんが支部長を見上げながら彼に尋ねる。


「それで、わたくし達を直に見て真宮寺支部長はどのような印象を感じまして?」


「おや、君は桔梗院家の子だね。その堂々とした佇まいは華やかでいて、宝石のように輝く瞳にはそれに相応しい優美さも備えている。桃瀬君が仲良くしたいと意気込むのも理解出来るものだ」


 支部長はにこやかな笑みを浮かべ、悠々とした様子で桔梗院さんの容姿を褒め称える。


 唐突に褒められた桔梗院さんは驚いた顔になり、隣にいる影野さんにどうしたら良いのか助けを求めてしまい、支部長がそれを見て笑い出す。


「はっはっは、いや、ついヒーロー特有の癖で年甲斐も無く女の子を口説こうとしてしまった。これでは女房に叱られてしまうな」


 そう言いながらも全く悪びれた様子も無いといった雰囲気を出しながら、今度は僕の方に近付いて来る。


「君はもう一人の護衛対象の子だね。確か、日和君と言ったかね? ……ふむ、その独特な髪の色は長年ヒーロー活動をして来たが、今まで見た事が無いな……」


 近付いて来た支部長にまじまじと僕の髪を見つめられてしまう。けれどその様子は少し反応が変わっていて、彼程の経験豊富な人物ですら見た事が無いと言われ僕も対応に困る。


「えっと、その、私の髪は赤ちゃんの時から既にこの色だったと孤児院でも言われてまして……そんなに珍しいのですか?」


「不安にさせてしまったかい? 単色の髪の色ならば今まで見て来たのだがね、君の髪は見れば見る程不思議で幻想的な気持ちにさせられてしまうのだ」


 この真宮寺という支部長、先程も自分で言っていたけれど何だか様子がおかしく見える。一見すると凄く落ち着いているように見えるが、この感じはどこか入学式の時の桃瀬さんのような印象を受けてしまう。


 後ろで様子を見ていた竹崎さんが困った顔でため息をつくと、渋々といった感じで支部長に声を掛ける。


「その辺にして下さいよ支部長。俺もヒーローなんで気持ちはわかりますがね、桃ちゃんの友達相手にこれ以上やるのは不味いですって」


「た、竹崎君、私はそれ程までに気味が悪かったのだろうか……桃瀬君に聞いていた以上に日和君が清純で愛らしい少女な故に、少し羽目を外し過ぎてしまったな」


 竹崎さんから制止が入り、やり過ぎてしまったと支部長に頭を下げられてしまう。元Sクラスの目すらも完璧に騙せてしまったという事実に僕はこれを素直に安堵して良いのか、清純で愛らしい少女という言葉に完全に男らしさとは程遠い現実に落ち込みそうになってしまいそうだったりで、最早苦笑いを通り越して無心で愛想笑いをしてこの場を乗り切るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ