表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/39

第十九話 ちょっと桃瀬さん!? ダメですよ、そんな事尋ねては!




◆◇◆




 シャドウレコードへの報告を経て、グレイスさんへの連絡での相談により、僕の中にあった悩みはある程度は解消される。


 お姫様がどうのこうのという勝負への具体的な解決方法は見出す事は出来なかったけれど、グレイスさん曰く、そんなに過激な事はしてこないとの判断だった。


 まさか僕が知らず知らずの内に、桔梗院さんを圧倒していたとは……この事はこれ以上意識してしまうと、僕自身の身が持たなくなってしまいそうになるので、早い所自分自身の身体に慣れるしかない。




 でも、どうしてなんだろうか、僕はただ周りに悩んでいる事を話しただけなのに、今では気分がスッキリとしている。解決するのに時間が掛かりそうな問題なのに、メイさんもグレイスさんも、親身になって話を聞いてくれていたし、僕がこんな話をする事を何処か待ち望んでいたかのようにも感じてしまう。


 これが前にグレイスさんが言っていた、男の頃とは違う視点による物なのだろうか、身体の変化によって、気分も随分と変わっているのだろうと考える。


 桃瀬さん達との外出も無事に終わり、夕方頃には家に帰って、メイさんが家にやって来てそのまま夜中になる。


 メイさんから今日は一緒に寝ましょうと誘われて、色々相談に乗って貰った僕はそれを了承すると、何処か目を輝かせたようなメイさんに薦められ、彼女の用意した動物の着ぐるみのようなパジャマを着る事となった。


 メイさんは茶トラ柄の猫のパジャマを着ていて、僕は白いうさぎのパジャマを着ている。そのままグレイス様にも見せましょうとメイさんに言われ、携帯端末で写真を撮られたりを経て、僕は寝室で、メイさんに今日の出来事を話している。




 待ち合わせ場所で桃瀬さんに服装をやたらと褒められた所から始まり、上田さん達や南野さんと吉田さんと合流して商業施設が立ち並ぶ場所へと向かった。


 お昼を食べる為に立ち寄った場所で、僕と吉田さんが食べる量を上田さん達に驚かれ、桃瀬さんが食べる量には呆れていた。


 その後は、各々が僕にお勧めしたい場所に皆で行き、吉田さんは可愛い洋服や小物が置いてある店を紹介してくれて、興味津々な中島さんが吉田さんと意気投合し、桃瀬さんや上田さんが僕に似合いそうな服を妄想して目を輝かせていた。


 桃瀬さんと南野さんからは、新しく出来たゲームセンターを教えて貰った。僕はこういった場所には今まで来た事が無く、見る物全てが新鮮だった。


 僕と吉田さんは他の皆の遊ぶ姿を見る側で、桃瀬さんから何かやりたい物は無いかと尋ねられると、クレーンゲームのぬいぐるみが可愛いと思ったので挑戦してみた。結果は全然取れなかったけれど、お金を使い過ぎるのも良く無いと思い、また別の機会に挑むことになった。


 上田さん達には甘い物のお店を紹介され、立ち並ぶお菓子はどれも美味しそうであった。桃瀬さんがあれこれ注文する中、僕と吉田さんは甘い物に興味を持ちつつも、そんなに食べられないと話し合って、それぞれの注文したお菓子を半分ずつ分け合う事にした。


 そんな吉田さんの姿を、身長差のある下橋さんが大層気に入り、僕と一緒の写真を撮られ、お店を出る頃には随分と愛でられていたりもしていた。


 こうして僕は、学校で初めて出来た同年代の友達に連れられて、様々な場所を紹介して貰った。また何か気になるお店を見つけたら、一緒に行こうと約束をして、桃瀬さんと一緒に最初の待ち合わせ場所まで戻って行った。




 僕の話が終わり、静かに聞いていてくれたメイさんは、僕に微笑みながら話し掛けてくれる。


「入学してすぐに多くのお友達が出来て、大変仲も宜しそうで安心しました。潜入任務とは別に、こうやって仲の良い関係を築き上げるのは、桜様の今後にとっても良い事になると思います」


「うん、僕もこんなに楽しい事が出来るなんて、思ってもみなかったから、つい大事な調査がある事を忘れてしまいそうだったよ。気を付けなきゃね」


 楽しかった事とは別に、大事な事もあるのだと気を付けようと心掛けていると、メイさんがそっと僕の頭を撫でて来た。


「調査も大事ですが、私は桜様の事も大事です。それはレオ様や他の四天王の方々も同じ事だと思います。不安な思いをなさるより、まずは笑顔でいて下さい」


「でも、それだと報告する内容が変になっちゃったりしないかな? レオ様達をがっかりさせないか心配だよ」


「大丈夫ですよ、桜様は桜様のままでありのままにいて下さい。それがこの作戦を成功させる重要な部分ですから」


 僕の頭から手を放し、メイさんが部屋の明かりを消しに立ち上がる。僕は横になり、眠る体勢に入る。


「桜様、明日は丸一日私と一緒に過ごしますからね。のんびりと過ごして身も心も休めましょう。それでは、お休みなさいませ」


 寝室の明かりが消え、メイさんが僕の側に戻って来る。僕が僕のままという意味は良くわからないけれど、メイさんはあまり調査ばかりに気を取られるなと言ってくれる。


「うん、わかったよ。明日は一緒にゆっくりしていようね。午後からの食材の買い出しも一緒だよメイさん。それじゃあお休みなさい」


 メイさんにそう伝えると、途端に意識が眠りに入っていく。明日の事を思いながら、僕は眠りに就く。




◆◇◆




 メイさんと一緒のゆっくりとした休日を過ごし、また一週間学校での生活が始まっていく。


 先週で今の悩みに結論を出して、スッキリとした心持ちとなって桃瀬さん達との関係を築いていく。


 僕一人では抱えられない状況になった時には、まずは報告をする事の重要性をそれをする側になって改めて再認識して、此処まで何事も無くお昼休みの時間になる。


 僕は教室にて、吉田さんや桃瀬さん達と一緒にお昼を食べる準備をしている。桃瀬さんと南野さんは購買へと食べ物を買いに行っていて、僕は吉田さんと土曜日の話をしながら彼女達の机を並べて帰りを待っている。


「それでね日和さん、私が勧めたお店の店員さんが『あの可愛い子は一体誰なの!?』って日和さんの事凄く気にいっちゃって、また今度も来て欲しいって言ってたよ」


「そ、そうなんですか? あのお店の小物、可愛らしいのが多かったですし、また今度一緒に見に行っても良いですか?」


「ホント!? やったぁ! 桃瀬さん達が帰って来たら、またお店に行く予定を考えようね。えへへ」


 僕がまた行ってみたいと話すと、吉田さんは大喜びして楽しそうにしている。お店で気に入った小物があったので、僕はメイさんの分も合わせて購入し、リップクリーム等を入れたポーチに付けて今朝教室で吉田さんにも見せてみた。


 それを見た吉田さんは、少し気恥ずかしそうにして、彼女もこっそりと購入していた僕とお揃いの小物を付けたポーチを見せて来たので、二人して笑いあったりもした。


 桃瀬さんは自分には可愛らしすぎるという理由で、小物は購入しなかったけれど僕達の姿を見て、やっぱり自分も買っておけばと、激しく後悔していたので、また今度行く時に同じ物が残ってあれば良いのだがと思う。


 二人で先週の思い出を楽しく話していると、不意に廊下から僕を探すハッキリとした声が聞こえて来た。




「失礼、この教室に日和 桜さんはいませんの? わたくし、桔梗院エリカが新しい勝負内容を思い付きましたので、来て差し上げましたわよ!」


 声のする方向に顔を向けると、吉田さんよりも小柄な背で、青紫色の髪の毛を左右に結んだ碧い瞳の少女がいる。その姿と名前には見覚えがあり、すぐ側には影野さんという名のこちらも見覚えのある少女もいるので、間違いなく先週出会った桔梗院さん本人だった。


 


「桔梗院さん? 私とまた勝負をするつもりなんですか?」


 僕は思わず廊下にいる桔梗院さんの方に向かう。彼女も僕の姿を確認すると、教室の中に入って来る。全員はいないが、それでも教室でお昼を食べようとしていたA組のクラスメイトは残っており、僕達が口に出す勝負という単語に興味を持っている。


 桔梗院さんを知らないクラスメイトは、彼女の容姿を見て可愛らしいと口にしていて、噂程度に多少は知っているクラスメイトは僕の事を気にしていた。


 何時の間にか吉田さんも僕の後ろに着いて来ていて、桔梗院さんの事を知らないのか、僕に彼女が誰なのかと尋ねて来る。


「ねえ、日和さん? その子は一体どうしたの……? もしかして新しく出来たお友達なの?」


「誰がお友達ですって!? わたくしと日和さんはそんな穏やかな関係ではありませんわ!」


「ひゃあっ!? ご、ごめんなさいっ!」


 吉田さんの問いかけに、桔梗院さんは物凄い剣幕になりそれを否定し、それに驚いた吉田さんは怯えた様子で、僕の後ろに隠れてしまう。


 すっかり怖がってしまっている吉田さんに説明をして落ち着かせようとすると、桔梗院さんからも僕に尋ねられる。


「なんですの? そちらの子、随分と親しげにしていらっしゃるようですが、まさか先日お話していた日和さんの従者の方かしら? 貴女といる分には見目は相応ですけど、随分と臆病でいらっしゃるわね」


「吉田さんは従者というような関係ではありません。れっきとした私のお友達なんです。普段身の回りを支えて下さってる人は私よりも年上で、学校にはいませんから」


 吉田さんは僕の友達だと説明する。吉田さんもそうだと言いたげな顔で大きく首を縦に振っていたら、桔梗院さんは目を見開いて驚いてしまう。




「そ、そんな……!? お友達ですって!? 一体どのような高度な策を用いてその子を陥れたというんですの!?」


「陥れた訳ではありません。私がお弁当を用意して来たら、一緒に食べようと吉田さんが誘って来てくれたんです。それで、お互い話も合うので自然と仲良くなりました」


「そ、そうだよ、日和さんは私が誘ってそれから仲良くしてくれたんだよ。でも、私が日和さんの従者になってお世話をするのも楽しそうだね」


 吉田さんの興味は僕の従者の方へと向き、一人想像を楽しんでいる。僕もメイさんのような家政婦の姿になった吉田さんを考えていると、桃瀬さん達が帰って来た。


 戦利品である、今日のお昼ご飯を大量に詰め込んだトートバッグを片手に持った桃瀬さんは、桔梗院さんの姿を見ると、後ろから彼女に一気に距離を詰めるように近づいた。




「あーっ! 桔梗院さんじゃない! お久しぶりね、元気にしてた? 貴女に会いに行きたかったのに、彰に止められてたからずっと我慢してたのよ?」


 笑顔で両手を上げ、ハグをしようとする桃瀬さんを、驚いた表情で躱す桔梗院さん。すかさず影野さんが二人の間に割って入って行き、桃瀬さんは静止を受けてしまう。


「申し訳ありません、桃瀬様。エリカ様はそのような距離感で接される機会に乏しかったので、貴女の事は少々苦手意識が御座いまして」


「ええっ!? そんなぁ……! ごめんなさい桔梗院さん。私またやらかしちゃってたみたい……」


 桔梗院さんを庇うように頭を下げる影野さんに、彼女達を見て、やらかしてしまったと謝罪する桃瀬さん。


 桔梗院さんは、ふんっと鼻を鳴らし、桃瀬さんにそっぽを向けている。一連の流れを廊下で見ていた南野さんも教室に入り、僕達に状況の説明を尋ねて来た。


「チュンちゃん、また暴走しちゃったの~? 日和さん以外の他の子にもそんな事してたら何時か全員に愛想尽かされちゃうよ? それで、こっちの子は日和さんの知り合いなの?」


 僕は桔梗院さんとの関係を聞かれ、先週の生徒会室での出来事から勝負を挑まれている事を、吉田さんと南野さんに説明する。途中でトートバッグを机に置きに行った桃瀬さんも説明に加わって、二人は困惑しながらも納得する。




「お、お姫様としての対決なんだぁ……私も、桃瀬さんと同じ意見でどっちもお姫様で良いんじゃないかなって思うけど……」


 僕と桔梗院さんを交互に見る吉田さん。桔梗院さんの圧力に若干怯えながらも、単語の意味には興味津々であり、目はどことなく光り輝いている。


 それでは納得がいかない桔梗院さんは、吉田さんの意見に不満そうな顔になる。


「ですから、それではわたくしが納得出来ませんの! 仮に二人になったとしても、それは徹底的に競い合って勝敗が付かなかった時のみの話ですわ!」


「ひゃいっ! ご、ごめんなさいっ!」


 吉田さんはまたもや僕の後ろに隠れてしまう。それを見た桃瀬さんは、先程の従者話の方に興味を惹かれていた。


「それにしても吉田さんが日和さんの従者かぁ……ドレス姿の日和さんは簡単に想像が付くし、その隣で甲斐甲斐しくせっせとお世話をしてるメイド姿の吉田さんかぁ……凄く可愛らしいわ……そして、それを護る騎士の私。うん、アリだわっ!」


 自身の妄想を膨らませ、架空の王国の一員に吉田さんを加える桃瀬さん。密かに闘志を燃やしており、これからの生活に対してまた一段とやる気を出していた。


「やれやれ、明後日の方向に向かってるチュンちゃんは放って置いて、それで、桔梗院さんだっけ? 今日は日和さんに一体どんな用件で来たの? まさかこれから一緒にお昼を食べる為に来た訳じゃないんでしょ?」


「そ、そうでした。確かここに来た時には新しい勝負内容を思い付いたと言ってました」




 南野さんが僕の代わりに桔梗院さんへ尋ねる。そういえば、A組に来て最初に勝負内容を思い付いたと言っていたので、息を呑んで身構えると、桔梗院さんは何処か偉そうに踏ん反り返って僕の方を見てくる。


「うふふふ……そうですのよ、日和さん。今週の体力測定でどちらがより優れているのか決着を付けましょう!」


 自信満々に勝負内容を告げる桔梗院さん。今度の勝負は体力測定だという。ただ、その内容について桃瀬さんが疑問に思ったようで、桔梗院さんに問いかける。


「ちょっと待って桔梗院さん。体力測定でどうやってお姫様を判別するの? 二人の護衛を務める私やそっちの影野さんなら、満点は出るでしょうけど」


 桃瀬さんからの指摘に、桔梗院さんがたじろいでいる。其処にすかさず影野さんが彼女のフォローに入る。


「エリカ様は適度に身体を動かす事が、美容目的を見てお姫様として理に適っているとお考えです。過度な筋肉はイメージにそぐわないと思いますので、柔軟性や瞬発力等の要素で競ってみるのはいかがかと」


「そ、そうですのよっ! お姫様たる者、何時如何なる時でも神経を使う者! 当然体力は備えておくべきですわ! 何も筋力だけを見ている訳ではありませんの!」


「うーん……そう言われればそうかもしれないわねぇ……どう、日和さん? 自信はあるの?」


「何言ってるのよ、チュンちゃん! 日和さんは朝起きた時と夜の寝る前にはストレッチをしてるってこないだ聞いたじゃない」


 桃瀬さんからの確認に、南野さんが意見する。確かに身体の柔軟体操は行ってはいる。けれど、それが柔軟性に繋がっているのかどうかは、実際に測定してみない事には判別しようが無い。


 僕がそう思っていると、それを聞いた途端に桔梗院さんの表情が変わっていく。




「そ、そういえば、日和さんは日々そういう事は欠かさずやっていると、前回の勝負を取り止めた時に耳元で聞かされましたわ……忘れておりました……」


「あっ、そういえばそうだったわね。それに日和さん、高校に入る前までは運動自体はやってたっぽいのよね。……武志さんみたいな身体に憧れてたって言った時は、生きた心地はしなかったけど」


「あはは、でも私運動はしていても、それが身体に効果があったのかどうかと言われますと、正直微妙な所ですけれど……恐らく体力測定自体はあんまりいい点数は取れないと思いますよ?」


 僕がそう言って自信が無い事を伝えると、女子達の視線が一斉に僕に向く。僕達の話を聞いていたA組のクラスメイトの女子達も、変わった物を見るような目で僕を見ている。




「え、えっと……? 皆さんどうしたんですか? 私、何か変な事でも言いましたでしょうか……?」


「効果があったのかどうかって、あるに決まってるじゃない! 日和さん自分のスタイルの良さ、少しは自覚して!?」


「良いなぁ。日和さん、ストレッチだけでも今度教えてよ? ご飯あんまり食べられなくても、気にする時もあるんだよぉ~……」


 南野さんと吉田さんが泣きつくように、僕に近寄って来る。吉田さんの突然の身体事情の告白に釣られてか、他にも数人の女子達に僕がやっているストレッチの内容を尋ねられる。




 僕が高校に入る前までは運動をしていて、尚且つ林田先輩の身体に憧れている旨の話をした桃瀬さんは、桔梗院さんに詰め寄られていた。


「ど、どういう事ですの!? 日和さんはそのような事をしていたとは知りませんでしたわよ!? それに、あの大男の武志様のような身体に憧れを持っていらっしゃるだなんて、本当なんですの!?」


「どういう事も何も、日和さんって細いから、武志さんみたいな逞しくて頼れる身体に憧れがあるらしいのよ。私だって、無い物に憧れを抱く気持ちは良くわかるし、過去の辛い思い出も知ってるから、日和さんが惹かれるのも無理も無いのよ。だから、せめて身体を鍛えたい時には私が相談に乗るって話もしてあるし……」


 桔梗院さんは、そんな桃瀬さんからの話を聞いて、恐れおののいているように見えた。そして、僕に顔を向ける。


「や、やはり、今回の勝負も取り止めにいたしましょうか! 日和さんが、あの武志様を目標にしていらっしゃるだなんて、……わたくしは其処まで力強さを求めてはいませんから!」


「ですが、エリカ様。柔軟性を求めてストレッチを日々行うのは建設的かと思われます。エリカ様は身体が硬いのですから、其処は日和様を見習うのが宜しいかと」


「影野!? このような場で言わないでくれる!? ……でも、まあ、それには同意ですけど」


「わ、わかりました。結局勝負は今回も取り止めにする訳ですね。私も正直な所自信がありませんでしたし、無しという事になって安堵しています」


 今回は変な方向に話が進んでしまった感じがするけれど、それでも運動能力には自信が無い僕にはとても助かる結果となってしまった。筋肉痛を治すのに能力を使用するのも、結局は体力は消耗するので使いたくは無かった。


 無かった事になったとはいえ、話自体は済んだので桔梗院さんが疲れた表情でC組に帰ろうとすると、不意に桃瀬さんがとんでもない事を尋ね出した。


「そういえばなんだけど、この前は身体測定で勝負をしようと持ち掛けて来た訳だし、桔梗院さんの結果はどうだったの? 私にだけこっそり教えてよ?」


「ちょ、ちょっと桃瀬さん!? ダメですよ、そんな事尋ねては! それに私との前回の勝負内容を皆さんに知らせないで下さいよ!?」


「あっ……ご、ごめんっ! うっかりしてた!」




 僕はびっくりして、急いで桃瀬さんを止めるも既に遅く、A組の女子達の視線が桔梗院さんに向く。


 教室内には数人の男子もいたけれど、彼等はその話にはついては来れずキョトンとした顔をしているが、女子は僕の身体測定の結果を知っているので、勝負名目が名目なだけにその視線には容赦が無かった。


 僕も恥ずかしいが、桔梗院さんの方がもっと恥ずかしい目に遭い、彼女の顔はみるみる内に赤くなっていく。


「そ、そ、そういう所ですわっ! 貴女ってばどういう神経してますの!? わたくしに恥をかかせて勝負を起こさないようにしようと思っているのかしら!? で、ですが、桔梗院家の者はこれ位の事では負けませんの! 日和さん! また今度勝負内容を考えますので、それまで待っていて下さいまし!」




 A組から駆けるように飛び出して行く桔梗院さん。影野さんも僕達に一礼した後、すぐさまに教室から出て行った。


 普段なら、ここで女子一同が桃瀬さんにツッコミを入れる所になるのだけれど、全員桔梗院さんを見ていたので何とも言えない表情になりつつ静まり返っていた。


「ねえ、チュンちゃん、日和さんとの勝負って内容どっちが決めてるの……?」


「どっちって、前回も桔梗院さんだったけど……? なんでも彼女曰く、お家の事情もあるけど女のプライドを賭けて日和さんと勝負をしたいらしいのよ」


「ええ……? じゃあ、さっきのはチュンちゃんが悪いけど、結果的には悪く無いのかなぁー……? 能力者って大変なんだね」


 南野さんが桃瀬さんに問いただして事情を聞くと、またもや微妙な空気となってしまう。


 僕は教室の時計を確認し、既にお昼休みの三分の一が経っている事に気が付いたので、急いでお昼を食べようと無理矢理この話を流す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ