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ばあちゃんの思い出  作者: 石枝隆美
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第二章

ばあちゃんの思い出 第二章  石枝隆美


 五


 夕食の時間になり、私たちは二階のディナールームに行った。夕食は洋食、中華、和食から選ぶことができ、私は母と同じ和食を選んだ。テーブルに料理が運ばれてきて、母はスマホで写真を撮って、「これ、お父さんの遺影の隣に飾ろうかね。」と言っていた。悠太と彩芽は洋食が運ばれてきて、オムライスなどを食べながら、彩芽が「おばあちゃん、このオムライスも美味しいよ」と言って、少しおばあちゃんの皿に乗せた。母は嬉しそうにもらい、「このお米一粒一粒に生産者の思いが込められてると思って食べるんだよ。」と言って食べていた。料理を食べ終わると、みんなお腹いっぱいになって、足取りが重くなった。少し部屋で休んでからお風呂に行くことになったが、母は館内を散歩したいと言い、私もついていくことになった。

「お母さん、旅行楽しめてる?お父さんはいないけどさ。」

「楽しいよ。お父さんもきっと一緒に来てるさ。家族と一緒に居るのが好きな人だったからね。」

「そうね。」

 それから、お風呂に入り、内風呂や露天風呂、サウナを堪能した。私はサウナが好きなので、水風呂と交互に入り、母と彩芽とはお風呂の中では別行動を取った。

 おばあちゃんと彩芽がお風呂から早く上がり、お風呂を出た休憩所で私を待っていた。

「ごめん、遅くなって。」

「今ね、おばあちゃんにバイトで要領よくサボってばかりいる後輩が許せないってことを相談してたの。そしたらね、おじいちゃんもサボるのが得意でね、よく隣の家の人のところに行ってはおしゃべりをしてきて収穫が遅れることがあったんだって。でもおじいちゃんは社交的だから他の農家さんと仲良くする術を知っていて、農家は隣近所の農家さんと仲良くすることも大切なことだから、誰もおじいちゃんに文句を言うものはいなかったって。

「そうそう。そのサボってばかりいる後輩もどこか良いところがあるんじゃないかいって話してたのさ。」

「うん、その後輩もお客さんからの受けが良くて、後輩目当てで来る常連のお客さんもいるよ。」

「そうだろう?悪いところばかり見ないで良いところを見てあげるのも先輩の役割じゃないだろうかね。」

彩芽は母のアドバイスを聞いて納得したようだった。


 六


 お風呂から上がり少し経つと、皆んな眠気が襲ってきたようで、布団に寝っ転がり、電気も最低限の明るさにした。私は母とまだ話したいことがあったので起きていた。母もまだ眠れないらしく、外をぼーっと見ていた。

 窓の近くの小さなテーブルと椅子が2脚置いてある場所で、母と話した。

「お母さん、私も相談があるんだけど。」

「澄子もかい。」

「最近ね、子供達が自分の世界持つことはいいことなんだけど、私の存在が必要なくなっちゃったような気がして、むなしいのよ。心にポッカリ穴が空いた感じで、お母さんもそんなことなかった?」

「あぁ、あったわよ。あなたが高校に上がるくらいの時かな。ちょうどそんな気持ちになったことがあって、でも私も農家で忙しかったし、一日考えたら次の日には忘れてたわ。子供の成長は早いからね、学校を出たと思ったら就職して結婚してって、家を飛び立っていく時がくるのよ、否応なく。でもあなたの存在が消えるわけではないし、子供達にとってあなたはいつまでも親よ。」

「そうだね。」

「子供達がこれからの人生で悩んだり、苦しんだりした時に支えになってあげなさい。そうすれば、いつまでも親子の縁が切れることはないわ。」


 七


 旅行から帰ってきて、母は父さんのことを少し吹っ切れた様子だった。前より、活動的になったし、ぼーっと遠くを見つめることもなくなった。


 買い物から帰ってきて、夕飯まで時間があったので母と少し話すことにした。母は居間で最近ハマっている服をリメイクする裁縫をしていた。

「お母さん、お父さんのこと、まだ思い出して悲しくなったりする?」

「そうね、思い出すことはよくあるわね。お父さんとは長く一緒にいたから色々なことがあったわ。澄子が田舎から都会に出るってことになった時、お父さんと一度だけ喧嘩したことがあったのよ。澄子を都会に出すのは心配だってお父さんは言ったわ、でも、私は澄子の人生なのだから好きなように行かせてあげたいと思って、そこで意見が食い違ったの。」

「喧嘩なんかしたことあったんだ。」

「すぐに仲直りしたけどね。それからね、澄子が生まれた時は本当に嬉しかったのよ。自分の分身ができるっていうのはこうゆうことなのか、自分より大切な存在ができるってことなんだと納得したわ。お父さんと二人で二人三脚で澄子を育てて、大変なこともあったけど、初めて喋ったとか、ハイハイしたとか些細な我が子の成長が誇らしくて、頼もしかった。お父さんとの思い出はたくさんあるけど、澄子に関係することが1番思い出深いわ。」

「私もそんな関係に旦那となれるかな。あの人、接待ゴルフばっかりでこのごろろくに話してないし。」

「澄子が会話する時間を作るのよ。会話を多くすることが何より夫婦円満の秘訣だと思うわ。」

「そっか。」

「…お父さんの死は悲しいことだけど、死ぬってことは自然なことなのよ。この世に生まれた以上、生き物は死が訪れることは決まってる。でもそれまでに自分の人生を輝かせることができたら、死ぬことも少しは怖くなくなるんじゃないかな。私はいつまで生きられるかわからないけれど、笑って生きていきたいわ。」


 私は母の前向きな気持ちを聞いて、安心して、自分も新たな一歩を踏み出したくなった。

「短期のアルバイト試しにやってみようかな。ブランクがあるから自信はないけど。」

「元々働いてた人だもの。すぐに勘を取り戻せるわよ。きっと澄子が社会で働いて、生き生きしていたら、子供もそれに共鳴して、活発に過ごせると思うわ。相乗効果よ。無理は禁物だけどね。子供が幸せそうに生きていたら親は嬉しいように、子供も親には幸せになって欲しいと心のどこかで思っているものよ。私も家事やなんか手伝うから安心して。」


 その二週間後、私は短期のアルバイトに行くことになった。アルバイトに行くのに、バス停で待っていて、ふと遠くを見ると、ビルの隙間に虹が見えた。何かいい兆しなのかなと思い、口角を上げて笑顔を作った。


 


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