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ばあちゃんの思い出  作者: 石枝隆美
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第一章

ばあちゃんの思い出 第一章  石枝隆美

 

 一


 私は母と旦那と娘と息子との五人で暮らしている。最近、母は人生がつまらないと愚痴を言う。父が亡くなって3年になる。父は家族を何よりも大切にしていた人だから、母にとってはとても良い旦那だった。いつも連れ立って旅行に行っていたし、母が食べたいものを言うと、すぐに買い出しに行って、自分で料理するような母に献身的な父だった。母はそのせいもあると思うが、父が亡くなってから、「お父さんはやってくれたのに。」が口癖になって少しわがままになってしまった。たまにお墓参りに行っては、「農家をやっていた頃に戻りたいな」と言って、過去を羨んでるようだ。そんな母に生きがいを見つけて欲しくて、シルバー人材センターに登録してはどうかと持ちかけたことはあるが、本人の腰が重くて、なかなかやる気を示さない。私は、中学2年の息子と高校2年の娘を持つ母親だが、最近は息子は剣道の部活、娘は飲食店のバイトに忙しく、子供が充実した生活を送っているのは良いことなのだが、少し寂しさを感じている。


 二

 

 母が買い物から帰ってきた。買い物は一緒に行くこともあるが、あまり一緒に居すぎるると喧嘩になるので、程よい距離をお互いに取ることにしている。私が母に買ってきて欲しいものを頼み、母はそれと、お父さんの仏壇に供えるものを必ず買ってくる。それが母の買い物のルーティンだ。

「澄子、今日特売の卵、売れきれだったわ。」

「あら、そう。残念ね。お父さんのお供え物は買えた?」

「買えたわよ。お父さんパンが好きだったから、チョコとクリームのパン買ってきたわ。今日は午後から晴れらしいから、お墓参りにでも行こうかしら。」

「あぁ、久しぶりにいいんじゃない。お父さんも喜んでくれるわよ。」

「澄子も行くかい?」

「あ〜今日は悠太の剣道の大会だから、応援に行かなきゃいけないから行けないわ。」

「そうかい。悠太は剣道で根性ついてきたかい?」

「だいぶ、強くなったわよ。順位も上がってきたし、練習するのが楽しいってこの前も言ってたわ。」

「私も若者に負けてられないね。墓参りでも行って足腰鍛えてこなきゃ。」


 三


 私は母が健脚なうちに、色々なところに連れて行ってあげたいと思う。一緒に住んでいるのが親孝行といえばそうだが、これといった親孝行はそれほどしたことはない。父が亡くなって、母を見ていると、どこか父がいないことに気持ちがついていっていないような、ぼーっとどこか一点を見つめて、つまらなそうにしている時がある。それを見ていると、どうにかしてあげたいなと思うのだ。

 

 私が悠太の試合の応援から帰ると、母が家の観葉植物に水をあげていた。

「お母さん、墓参りどうだった?」

「うん、どうってことはないけど、行きたいと思ってたから、スッキリしたよ。」

「そう。ねぇ、今度家族みんなで父さんと一緒によく行った明宝苑に行かない?一泊二日で。」

「あら〜行きたいわ。連れて行ってくれるのかい?」

「うん、最近旅行行ってなかったからさ、気分転換にみんなでリフレッシュしようと思ってさ。」

「いいわね。楽しみにしてる。」


 夕食の時間、家族でご飯を食べながら、旅行の計画をしていることを報告することにした。

「悠太、彩芽、来月の土日のどこかで明宝苑に旅行に行くことにしたから、空けておいてね。あなたも仕事、来月は出張とかあるの?」

「来月はないから大丈夫だよ。」

「そう。じゃあ大丈夫ね。」

「お母さん、早めに予約しておいてよね、バイトの休み取るの、店長早めにシフト表作っちゃうから、早く言っておかないといけないの。」

「わかったわ。悠太はどう?」

「練習試合がある日があるから、それに被らないようにして欲しいな。」

「そうするわ。悠太の剣道の試合はもう決まってるから、それを外した日にして、予約は明日にでも取ろうかしら。」

「うん、それがいいんじゃないか。」

「明宝苑の料理はとっても美味しいのよね〜年寄りには優しい和食もあるしね。」

「おばあちゃんお気に入りだもんね。」


 四


 旅行に行く日が来た。私は母と旦那と自分の着替えと旅行費用をリュックに入れた。家の戸締りをして、旦那の車に乗り込むと、車の中はギュウギュウ詰めになった。元々四人乗りの車で、母が引っ越してから車を買ってないためだ。私と旦那が前に座り、後部座席に母と悠太と彩芽が座った。途中、お腹が空くといけないので、軽いお菓子を持ってきた。悠太は食べ盛りなので、分けたお菓子をすぐに食べ切ってしまった。

「母さん、あとどのくらいで着くの?」

「一時間くらいよ。いつものソフトクリーム屋さんに寄るから、もうちょっとかかるかな。」

 ソフトクリーム屋では母は父さんの分のカップアイスも買い、満足そうにしていた。でもすぐに溶けてしまうので、父さんの分のアイスは家族でじゃんけんをして誰かが自分のと二つ食べるということになった。そして私が勝ってしまったが、二つは食べれないので、悠太にあげた。母は、悠太に「おじいちゃんがくれたと思って食べるんだよ。」と言っていた。ソフトクリーム屋からは綺麗な山なみが見え、家族で山なみをバックに写真を撮った。それがいつもの定番の写真で、5度目になる。


 明宝苑に着くと、ホテルの人が部屋まで連れてきてくれた。部屋にはまんじゅうが人数分皿に置かれていて、アメニティーグッツも充実していた。アメニティーグッツは家でも使いそうなものは頂くことにしている。部屋からは湖が見え、これもまた絶景だ。今日は晴れていたので、湖面がキラキラ輝いていた。






 





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