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魔女ルシエンヌの物語  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ「割れ得ぬ鏡」

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53/73

◆1

「うぅん……」


 ルシィは〈カラスとオリーブの枝亭〉の二階の一室で、鏡に映る自分の顔を眺めていた。

 柔らかく波打つ金髪の美女が写っているのだが――。


 目の色がほんのりと煌めいて見えた。

 目の色だけのことではない。ルシィは、自分の魔力が戻りつつあるのを感じていた。


 完全に戻ったわけではない。けれど、日増しに力を感じるのだ。今ならば軽い魔法くらいは使えるかもしれない。


 ためしに使ってみないのは、使ってみて空っぽになったら嫌だからだ。これが本当に自分の魔力なのかも自信がない。クリフからもらった魔力を勘違いしているのかもしれない。もう少し様子を見てみよう。


 この時、部屋の扉がノックされた。


「ルシィ、入ってもいい?」


 セイディだった。


「どうぞ」


 鏡の前で振り返ると、セイディが小さな小包を持って入ってきた。


「ルシィ宛てよ」


 小包がルシィに宛てて届く心当たりがなかった。はて、と首をかしげる。


「これ、王都の商店からみたいよ」

「王都? ……あっ、秤かしら?」


 クリフに買ってもらった、精密な秤だ。色々とありすぎてすっかり忘れていた。


「そういえば以前、秤を探していたわね」

「そうなの。すぐにはないから、用意ができたら送るって話になっていたのよ」


 ルシィは嬉々として包みの紐を解いた。油紙に包まれているのは小さな箱で、その中には本当に小さなミニチュアのような秤が入っていた。


「わぁ、ちっちゃい」


 本当に小人(レプラコーン)サイズだが、0.1グリムを量ろうと思ったら仕方がないらしい。金色に光る秤を箱にしまい、ルシィは満足して微笑んだ。


「クリフにお礼を言わないとね」

「うん。クリフ様、あれから毎日ルシィの顔を見に来るものね」


 ルシィがプロポーズの返事をしなかったせいだろう。

 毎日、物言いたげな目を向けてくる。


 あの一件があってから、シェブロンの町でルシィはクリフの恋人とされているので、他の男なんて寄ってこないのに。

 セイディはからかうように笑っているが、目がほんのりと赤くなっていた。


「セイディ、寝不足なの?」


 思ったままのことを口にすると、セイディは小さくうなずいた。


「う、うん。時々あるのよ。何か夢を見ているんだけど、朝になると覚えていなくて。でも、それは間違いなく怖い夢なの」


 セイディは孤児だ。それも、ハンナに保護された時は魔族の襲撃で町は半壊していた。

 火災や怪我人、怖いものはたくさん見たことだろう。もしかすると、親の亡骸も見ている。

 その心の傷が夢になって時折現れるのかもしれない。


「じゃあ、よく眠れる薬を作るわね」

「ありがとう、ルシィ」


 赤くなっている目で気丈に笑う。

 けれど、長年続いているのなら、わりと深刻かもしれない。



 完全復活とまでは言わないが、今のルシィなら、薬の効果も倍増させられる。むしろ、効きすぎて起きられないかもしれない。量を間違えないようにしなければ。


「ああ、そうだ、ハンナの膝の薬も作ろうかしら」


 町の外に薬草が生えている。取りに行けば作れるが、勝手に行くと怒られるだろう。ルシィはこれでも学んでいる。

 だから、トリスに頼むことにした。帰宅したトリスが一歩踏み入った途端に捕まえる。


「ねえ、トリス。薬草摘みに行きたいの。仕事の合間でいいから、町の外までつき合ってくれない? すぐ近くよ」

「……今度は何を作るの?」


 笑顔で警戒された。臭い薬は家で作らないでほしいと願っているのだろう。

 煮炊きにはまた領主館の庭を使うつもりだ。厨房の(レンジ)は使わないのに、とルシィはむくれた。


「セイディの寝つきが悪いみたいだから、よく眠れるお薬よ」


 それを聞くと、トリスの表情が変わった。


「いいよ。明日だな」


 つべこべうるさいことを言わなくなったのは、トリスなりにセイディを心配しているからだろう。

 それが兄弟愛からだとしても。


「ええ、お願いね」


 そんなやり取りをしていると、当のセイディが料理を運んでやってきた。


「今日はね、ホロホロ鳥の蒸し煮とサーモンパイ、アスパラガスのサラダ、クミンスープよ」

「あら、美味しそう」


 こうして、何気ない日常が過ぎていく。

 けれど、ルシィの魔力はやはり戻りつつあるのだ。着実に。


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― 新着の感想 ―
[一言] マイクログラム単位で物を図ろうとすると、風や大気の動きまで秤が感知してしまって、ほんと気を使うんですよね。 リアルでもレプラコーンがやってくれればいいのに。笑
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