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◆プロローグ
数多くの草花が育ち、豊かに緑織り成す森の奥。
ここは国境にありながらも、どの国にも属さない。
そこには強大な魔力を持つ魔女がいた。
魔女は月光のような髪と黒子ひとつない艶やかな肌をしており、誰もがその美しさだけは賞賛した。
ただし、その美貌からは想像しがたい、軍隊も太刀打ちできない強さを誇っていた。
魔女の機嫌を損ねれば国が滅ぼされかねない。それ故に、魔女は敬われてきた。
国王や皇帝が常に魔女の森へ贈り物を届けさせ、不興を買わないように気配りを欠かさない。
長年それを繰り返してきた結果、魔女は有り体に言って高飛車で傲慢だった。
しかし、そんな魔女ルシエンヌは、ふとした時にその魔力を失ってしまったのである。
これは、魔力を失くした魔女の物語――。