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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
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尊重と仲間

 目が覚めたサリアスは起き上がり、レイムの外を覗くと二人の視線に気づき、目が合う。


「おはようございます。サリアスさん。よく眠れましたか? 疲れていたのですね」


 ハントは変わらぬ微笑みをサリアスに向け軽くを手を振る。


「民間人。こいつとはどういう関係だ?」


 セミナは驚きと怪訝な表現を浮かべサリアスをいつでも守れるように武器を構える。


 サリアスはレイムから抜け、二人の前に降り立つ。

 まずはセミナの質問から答えるべきだとサリアスは判断する。

 英雄セミナは真面目で自他共に厳しい人だと聞いているからだ。


「私と彼との関係は、一時的な協力関係です」


「どういうことだ? お前は何をしている?」


 守るべき民間人が敵である深淵の怪物と手を組んでいる状況に微かな敵愾心が生まれる。


「……簡潔に申しますと、深淵の怪物となってしまった私の家族と再び一緒に暮らすために、協力をしております」 


 サリアスはセミナの僅かな表情の変化を読み取り、若干の怖気が生まれるが自らが決断を下し選択した道のりだからか、怯まずに自分の正直の答えを出せた。


「深淵の怪物の家族というのは、どこにいる?」


 サリアスはセミナの冷静な態度と予想以上に変わらぬ口調に焦りが生まれる。


「あの、……私の家族をどうするつもりなのでしょうか?」


「それはお前の答えによって──なるほど。承知致しました」


 あまり期待のできない返答により落胆するサリアスはセミナがどこか上の空となって真面目な口調で返事をしていることに気づき不思議に思う。


 そして、ハントに目線をやると、レイムとサームを見詰めていた。


「話をつづけようか。で、肝心のどのような方法で深淵の怪物になった家族と一緒に暮らせるようにするんだ」


 核心部分がついに来たと、サリアスの心臓に嫌な印象が残る一拍が走る。


「それは……」


「サリアスさんが我々と同じ血族になる、という方法ですよ」


 一番大事な場所でハントが突如、口を挟んできた事にサリアスは驚きと困惑が生まれる。


「ハントさん! 何を!?」


 余計な口出しをされ、慎重に言葉を選びながら説明する物を直球で言われたため、声を固くさせる焦燥感がサリアスの体を支配する。


「貴様、裏切りか!」


 セミナから発される思わず目を瞑りたくなる鋭い威迫にサリアスは更なる焦りが生まれ、弁明をしようとするが、説得できる言葉が生まれない。


「違いますっ! 私はただ、元のように家族と共に暮らしたいだけなのです。決して裏切りなどという反逆の意思は持っていません」


 まるで言い訳をするような早口で自分の願いを必死になって語る。


「奴らの仲間になる。それは裏切りに値するぞ」


 否定ができない正当な評価に反論の声が出ず、口の中にセミナの言い分を否定する味が味覚を染める。


「英雄ユーンベクルよ。それは彼女の正しい願いを貶めていますよ」


 助け舟であり嵐の海を作り上げる一手がハントによって作られる。

 サリアスも混沌としそうな展開に頭を抑えそうな憂鬱になりそうであった。


「思想は否定しないが、行動が罪だ」


 皮肉のように言われたハントの言葉に穿つような貫通性を持つ視線を向ける。


「いいえ、罪では無いですよ。仲の良い家族といつものように暮らすための行動は」


 子が親と暮らしたくなるのは必然的な物であり、災害時や何か大きな害き巻き込まれた時は特にそれは顕著となる。

 それが罪というのならば、家族の絆そのものの完全否定となる。


「中身がお前達の仲間になるということだ」


 セミナが許せない理由は敵である深淵の怪物の手を掴み、更に同じ存在になるということだ。

 仲間が敵の仲間になる。

 それだけで許せない物である。


「仕方ないじゃないですか。それしか方法は無いのですから」


 ハント達【溟孔龍(バハムート)】の眷属である深淵の怪物達に元に戻す権限も力も無いため、必然的にサリアスが深淵の怪物になるしかないのだ。


「仕方ないで、お前は犯罪を起こす事を許容するのか?」


 餓死しそうで食べ物を盗めば捕まるように、許されないのだ。

 量はどうあれ、正当な方法で己の財を蓄えた物を不当な方法で奪うなど、正当者の為にならない。

 常に法律は正しい者の味方だ。


「サリアスさんは何も被害も損害も引き起こしていないので、その例えは適用されませんね」


 前提としてサリアスは法律を破っていないため、罪になる事は無い。


「罪無き一般市民が恐れと害を与える要因が一つ増えるのだぞ。政府と市民がそれを許すと思うのか?」


「要因とは?」


「理不尽な侵略者が一人増える事だ。それともなんだ? 自分達は侵略者では無いと言うのか?」


 町を破壊し市民を己の仲間に強制的な変えてしまう。

 壊して奪うこの所業は侵略者と評するとしか言いようが無い。


「失礼な。侵略者などという下劣な物ではないです。崇高な世界平和のためですよ」


「では外来種か。私達に関わるな。二度と近づくな」


「尊重するのでは?」


「なぜ、私が個々に尊重し合う事で平和を得られると言ったのかわからいのか」


「わかっていますよ。個々の尊重は常に互いが尊重し合わないと成立しない平和です。確かにそれも我々の目的と同等なとも言える物です」


 ハントもセミナの思想も否定してはいなく、称賛をしている。

 常識的にも道徳的にも考えて、正しい答えだからだ。


「ですが、現実的には非常に困難でしょう。実現までの間に多くの被害が生まれてしまいます」


 素晴らしいと笑みをうかべながら称賛はするが、ハントは憂いにより生まれた陰のある笑みを浮かべる。


「私はそれを許せない! もちろん多少の許容はしますが、英雄ユーンベクルの理想は許容できない……!」


 奥歯を噛みしめるように質量が含んでいそうな力強い声を発した。


 セミナは納得したように静かに目を瞑る。


「理想主義ということか……。そんな事は! わかっている!」


 目を大きく見開き、燃え盛る炎のような強烈な気迫を放ちながらハントに近づいた。


「理想を諦めてしまったら、高みへと至れない! 高みには真なる平和がある! お前のような支配するような平和の紛い物ではない!」


 想像できる最高の頂き、それを目指さずにして途中で止まるような平和は価値があるのか。

 真の平和とは恒久的で個々が確立しており、対立も無く皆がみんな協力しあう関係が世界全体に定着することだ。


「無理ですよ。実際に我々の事を否定している時点で」


 冷徹に現実を告げるだけであった。


 セミナはこちらのセリフだともう一度声を大にして言いたかったが、この討論は同じ話を巡り回るだけであるため意味の無い物だと悟る。


「分かり合えないか……。最初から期待はしていなかった。話を戻そう。──いない!」


 サリアスの罪について話をしようと視線をハントから外し、サリアスに切り替えようとしたが、サリアスが先程までいた場所から痕跡も無くいつの間にか消えていた。

 完全に気配が無く、過去の光景を思い出しても何時消え去ったかわからない。

 これは決してセミナが愚かで見逃したわけではない。


 視界内に収めていたはずの物が消えた。


「貴様! 何をした!」


 ハントに無理矢理でも吐かせるため、ハントを縛り付ける魔術を使いながら勢いよく詰め寄る。


「彼女には、離れてもらいました。貴方は私が敵と認識している限り、彼女を罪人にしてしまう。それは見過ごすべきことではないですから」


 縛りの魔術を弾き、セミナから距離を取りながら僅かに不敵な笑みを浮べながらセミナを足止めする。


「そうだ! それの何が悪い! 彼女は裏切りという罪を犯した!」


 宝具、〈白砂型描(ミィンセーユ)〉と硬化の魔術と併用しながら伸びる砂が硬結化し鋭い槍となり、ハントに襲いかかる。


「貴方達の正義のために、彼女の覚悟を消すは非常に惜しい」


 サリアスの決断と覚悟。

 ハントは表には出さなかったが、共に協力し合う関係が築けた時は暖かな白熱感が体を充満させた。

 涙の熱が体全体にまで広がったような質熱感溢れた感激が生まれたのだ。

 是非とも心良く血族にしたい。


「正義を遵守しなくてはならない!」


 砂化と硬化の魔術を巧みに使い分け、変幻自在に砂を操り、ハントを追い詰めて行く。


「同感ですね」


 セミナはハントという悪人が正義を利用しているようでハントの一声一声が怒りの燃料に置き換わる。

 どんな理由が有ろうとも罪は打ち消される事は無い。


「罰を与え、己の罪を自覚させ、更生させるのだ。まだ、情状酌量の余地はある」


 罪は消えないが、生まれた損害とこれから生まれてしまう可能性を無くす事は可能だ。


「やはり、貴方も高尚な人だ。さすがは【軌清】セミナ・ユーンベクル」


 清く正しい道を通る尊敬すべき人物としてセミナは有名だ。

 ハントはセミナが持つ動じぬ強さに感銘を受ける。

 サリアスの決断の先にいる人物として拍手喝采に値する。


「……通告しよう。【溟孔龍(バハムート)】の封じ込めに成功した。言っている意味がわかるな?」


 正確には封じ込めが失敗しそうになっているが、多少の嘘も今の戦いには必要だ。

 動揺の隙を狙い確実に戦闘不能をする。


「完全ではないので、まだ何とかなりますから問題ありません」


 セミナは【溟孔龍(バハムート)】の封印状況をハントが知っている事に内心小さく驚いたが、【溟孔龍(バハムート)】の眷属であるため不思議ではないと、すぐに察する。


「楽観的だな。不完全とはいえ、確実に進んでいるぞ」


「かの存在はいつでも解放できますよ」


 互いに自分が崇める神の力を信じているからこそ、恐れは無く目的に向かい進み続けられる。


「だが、私にもお前に構ってられる程の余裕は無い」


「あなたを倒しすぐにでも【溟孔龍(バハムート)】の再び加勢に行きましょう」


 水流が渦巻き衝突音が響き渡る。

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