溟孔龍vs英雄セミナ
水中の揺れが現れ、その激しい振動が地面にも伝わり海中海底共に共振し破壊的な流れが生みでる。
「■■■■■■■■■■■■!!!!」
更に【溟孔龍】の鯨の悲鳴のような鳴き声が破壊的な波を押しのける。
二段構えでやってくる強烈な衝撃にサリアス、ハント、タリーアは驚き、対応が急かされる。
「結界は作らないで! 流されます!」
「わかってる! 流れを整えて中和する!」
【溟孔龍】の声が混ざっているせいか上手く水流を調整できずに四苦八苦している。
「上を!」
サリアスは影の大きな変化から、上に視線を上げると急激な水流の中、大きく目を見開き二人に伝える。
「間に合わん。皆、俺に近づけ!」
上から【溟孔龍】の巨躯があまりの大きさに浮力が働かずに落ちてきており、このままでは潰されてしまう。
そこでタリーアは強力な第二形態へと体を変化させサリアスとハントを保護をしようとする。
タリーアは二人が自分に捕まったのを確認すると、己の体を第二形態に移行させる。
体は海草が生えるように巨大に膨れ上がり、海草のような物は絡み合い硬質化する。
ここに要塞のような薄緑の人型の巨躯が現れた。
優しく二人を海草のような無数の腕のような触手が抱き込み。
サームとレイムも腕の中に抱き込み密着させる。
地面の揺れと同調し地面を強く蹴った。
そして、水の抵抗がなるべく影響されないように先頭部は尖り、水を効率的にかき分けて行く。
更にハントが水流を押し出し、その反作用による推進力と共にタリーアは速さを持ち加速して行く。
一定の速さまで来ると、水がタリーアを包み込む速度より突き進む速度の方が上になる。
そうすると、速度を出す上で最も邪魔であった水の抵抗が消え更なる加速を生み出せる。
そして、タリーアは空気中の音速を越えて、弾丸よりも速くなる。
だが、全長がkm単位でも足りない大きさを持つ【溟孔龍】は横幅も規格外の大きさを持つ。
刻一刻と体を暴れさせながら落ちて行く【溟孔龍】の影の範囲からタリーア達は抜け出せていない。
タリーアは特に色濃くなっていく影に焦りと更なる加速をハントに求める。
だが、ハントはタリーアの身を案じこれ以上の速度を出さなかった。
水の抵抗は薄くなったが、以前としてほとんど壁のような固さになった水をタリーアが全て受け止めているため、確実にダメージを受けていることは予想できた。
だから、これ以上の速度はタリーアを大きく傷つけてしまうため出せなかった。
「ある程度は再生できる。やれ!」
今潰されて圧死するよりも多少の痛みは伴うが、生き残る道を選ぶ。
ハントはタリーアの決断に沿い、水流だけではなく、直接的なエネルギーを放出し運動エネルギーをプラスさせる。
繊維か力づくで引き千切れるような音がタリーアの脳内に響くが、タリーアは恐れもせずに更に体を圧縮し衝撃に強くさせる。
そして、【溟孔龍】の影から抜け出し上へと進行方向を情報させ、徐々に減速いき、安全な速度になると、三人を開放する。
「痛っってぇ………!」
人型に戻ったタリーアは体のあちこちに負傷の跡があり、タリーア自身も目を強く瞑り辛そうにしていた。
「大丈夫ですか?」
サリアスがタリーアの身を案じ近づく。
「大丈夫じゃないけど、治る傷だから大丈夫かも」
タリーアは痛みに堪える中でも掠れた笑みを浮かべ、己の回復を最中に促進しているのだ。
「タリーア、お疲れさまです。今は休んでいてください」
ハントは意思無き植物となったレイム、サームを結界で包み込み、浮遊させながらタリーアを労る。
「あぁ、すぐに回復するから、気にするな。それよりもアレを」
痛みな細くなった目から覗く視線は【溟孔龍】の方を向いており、油断は無かった。
「……何が」
【溟孔龍】が初めて致命的なダメージを受けたような様子であった。
今までは悠々と大地が浮いているように宙を泳いでいたが、今回は釣られた魚のように体力を顧みない動きをしている。
「まさか、あの【溟孔龍】が」
ハントは驚きを隠せなかった。
強力な深淵の怪物が神と崇める超常的な存在が崩れ落ちる様は衝撃的すぎて目を離せない。
「ついに都市の守護神が動きましたか」
高位存在に対抗するなら同じ高位存在が最も頼りになる方法だ。
そして、守護神ガレテの死亡から、必ず他の守護神達が動くはずだとサリアスは予想していた。
(辺り一帯は吹き飛ぶでしょうね)
【溟孔龍】は巨身だ。
動くだけで、環境や自然に大きな変化をもたらす大いなる存在だ。
サリアスは守護神達の勝利を祈りつつも、現在の願いが叶えられなくなってしまう懸念が頭の中に浮かぶ。
【溟孔龍】があらゆる鍵を握っているのだから、【溟孔龍】を倒して全て解決には至らない。
守護神側が勝利したら、十中八九深淵の怪物は全て狩り追われるだろう。
それら自分の家族も同様に。
視線は微動だにしなくとも、サリアスの胸中は重い脈拍が渦巻いていた。
◆◆◆
亡都ガレテも所属していた都市同盟連合の中央部にある広い海底に八の高位存在が佇んでいた。
八の高位存在は都市同盟連合の各都市の守護神である。
しかし、本来なら全員で十二の数は存在していたが、四柱は既に亡くなった。
ガレテ、ナスカマイヤ、ワアーズ、トピュヤテイは自然に還り去った。
そして、高位存在に囲まれる一人の凛々しい美貌を携えた女性が覚悟ある瞳を宿していた。
「この私、セミナ・ユーンベクルが必ずや【溟孔龍】を食い止めます。その間は神様達は例の準備をお願いします」
強力な武具で武装した都市同盟連合の筆頭の英雄。
英雄セミナ・ユーンベクルが守護神達の力を借り単騎で憎敵である深淵から訪れた【溟孔龍】と相対をする。
「わたし達の大部分をセミアスに宿す。頼むわ」
単騎である理由は八の守護神を分離させた力の固まりをセミナに宿すためだ。
【溟孔龍】レベルになると、戦うのに一定の攻撃力が必要になる。
数では高い攻撃力を作れない。
「豊穣を齎す海神達よ! 我が身に剣英を咲かし! 大いなる守護の力を纏わせ!」
鮮烈な喝のある声と共に十一の守護神達はセミアスを中心に渦巻き、神と言わしめる力を纏わせる。
鎧は水と融合し、限りなく水の抵抗を無くす。
持つ槍は赤く淡く鮮やかに染め上がる。
白い色と帯の形が見える程に加速した水流の流れが龍の如く渦巻いていた。
「では、皆様。後は頼みます!」
セミナが何の変哲もない海中を通るだけで泡道ができる程の速度を出す。
白い帯を生み出しながら海中で揺れる巨大な黒い何かの元へと向かう。
「……」
【溟孔龍】は何か急速で近づいて来ているのに気づく。
だが、自身から見れば微生物同然の大きさである。
莫大なエネルギーは感じるが、上位者である自分に勝てる見込みは無い。
と、思っていたら、目が潰れた。
「■■■■■■■■■■■■!!!!」
【溟孔龍】の中心部は暗い瑠璃色で外周部は碧青とした宝石のような瞳が砕けた。
生まれてから初めて襲いかかる激痛に【溟孔龍】は苦しみを少しでも逃がすため、のたうち回る。
海上に巨大な水柱が上がり、その有様は瀑布が逆から落ちて来ているような光景であった。
巨大な津波となって落ちて行く海水は海面に叩きつけられ海震を引き起こす。
「まだだ!」
セミナは【溟孔龍】赤槍を地面に突き刺すと、巨大な重力が働き【溟孔龍】を落下させようとしていた。
【溟孔龍】は巨大すぎるため、ある程度範囲の体が落ち込むと、引きずられるように他の部分の体が落下する。
頭部を順に背から尾と海を割り、押し寄せる水流の壁を左右に作りながら。
セミナの霊鎧は液体支配能力がある。
この能力により、どんなに荒れ狂った海流の中を普段通りに泳げる、操れる。
魔術器官を術式で補強し、強い水圧への耐性を引き上げる。
赤槍の穂先に大量の水が渦巻き圧縮される、あまりにも大量の水が圧縮されすぎて、沸騰しているが、結界で更に物理的な圧力をかける。
水球を包む強固な結界を徐々に水流、水圧の支配率と共に薄くさせる。
そして、完全に支配した時に水球は勢いよく広がり、刃の形状へと変える。
「〈水断刀〉」
巨大な刃は【溟孔龍】の首を狙い振り落とされる。
固体とも言える水圧の固まりとなった超極薄の刃が【溟孔龍】を襲うが、【溟孔龍】の黒鉄のような甲殻にはかすり傷も負わなかった。
それならばとセミナは〈水断刀〉を細く長く伸ばし、【溟孔龍】の体に貼り付ける。
液体支配を消し、膨張する水圧を解放する。
長く巻き付いた圧力によって生まれた縄は一斉に爆発を引き起こし、無数の泡が【溟孔龍】に内部によく伝わる拳を打ち付ける。
【溟孔龍】が鳴いた。
破壊の泡は吹き飛び、海中に衝撃波が吹く。
「波神ハークライよ。嵐の狂気に快晴の平常を」
詠唱がセミナに宿り憑く波神ハークライが聞き届け、【溟孔龍】の鳴き声を打ち消す。
「鉄神ケンジャルよ。燃える有機よりも変わる無機へと大地を変えろ」
【溟孔龍】に肉が鉄へと変化する呪いの波動を返すが、【溟孔龍】には何一つ影響を及ぼさずに時間を与えるだけであった。
潮が夕暮れに染まり始める。
(来た……! 回避不可能な強制的に深淵の怪物へと変える技が!)
潮汐の呪いはセミナが憶えている中では最も警戒すべき一つの物だ。
周りが日に焼けるように青色の海が沸く。
【溟孔龍】が発した物は海の色が赤き夕暮れの茜色から暗き夜の黒色に変わる。
そして、黒色に完全に変わると、強制的に深淵の怪物へと変身させる物だ。
時間はかかるが、確実に相手を仲間にできる絶対的な物である。
「安心しなさいセミナ。私達の加護がある。そう簡単に深淵の怪物にはならないわ。落ち着いて戦いなさい」
頭の中に響く守護神が一人メラトリオが赤黒い不安と真っ黒な恐怖に染まり始めるセミナを支える。
「はい。ありがとうございます」
抵抗しようも無い事態により、心拍は痛い程強くなったが、全てを託された英雄としての気概を取り戻す。
(時間はまだある! 一気に仕留める!)
赤槍を我が身を宿すように構え、尾が水を叩く。
セミナの周りを回る白い帯が更なる加速を促し、【溟孔龍】へと鋭い刃先を激突する。
赤槍が持つ攻撃力を物語るように悲惨な音が衝突時に奏でられた。
潰れても衝撃は多くは逃がせず、大部分の致命的の一撃は一身に受けるような音が。
赤槍は【溟孔龍】の固い甲殻に突き刺さっていた。
でも、【溟孔龍】はあまりにも巨大だ。
肉まで貫通せずに甲殻の最外側部の比較的に脆い部分につき刺さっただけだ。
甲殻の厚さだけで百m単位はある。
たかが、人一人分の長さしかない槍では直接的にはたいした意味は持てない。
だが、これで良い。
(まだ、【溟孔龍】は油断している。今がチャンスだ)
「はぁあ!」
覇気ある気迫が込められ手で赤槍を掴みむと、海水が泡立ち始め、電気分解を引き起こし始める。
そして次の瞬間に赤槍は青い雷光に包まれて、大電力を纏い、放射する。
甲殻は急激な燃焼反応が起こる。
海水というプラズマに変える物が余る程あるため、太陽に匹敵する熱が生まれ、【溟孔龍】の甲殻と鱗が少しずつだが、炭化していく。
海水が沸騰し、瞬く間に液体から気体へと状態変化が引き起こされ、水蒸気爆発も起こる。
水蒸気の噴火により、海面に穴が開いた。




