バハムートとは如何に
「何ぃ!? 【溟孔龍】と直接交渉をする!?」
目を見開いて仰天しているのはハントとサリアスの計画を知ったタリーアだった。
「はい、そうです」
ハントはタリーアのあまりにも大きな反応に苦笑しながら簡潔に答える。
「本当に?」
タリーアはサリアスにも聞いてくる。
「本当です。まぁ、それしかないので」
「へー」
タリーアは腕を組み目を瞑ると何かを考えるように周囲を回り始め、結論を出したように目を開け笑みを浮かばせる。
「よし、俺もその計画に乗ろう。仲間にしてくれ」
太陽のような明るい笑顔と共にサリアスとハントの前に手を出した。
「構いませんよ。人手は多い程多いですから」
ハントもせせらぎのように軽く笑いながら、タリーアの手を取る。
そして、ハントはサリアスに首を曲げ、どうするか問う。
「よろしくお願いします。タリーアさん」
少し考えた末にサリアスもタリーアの手を取る。
サリアスはタリーアと少し話してわかったことだが、単純に明るい人であり、たまに少しズレた事をやってしまう人というのがタリーアの評価であった。
一番大事な悪人や敵対者というわけでもないので、ハントと同じように人手は多い方が良いし、特に断る理由も無いため了承をする。
「よろしくな」
タリーアは信頼を得れた事に少し嬉しそうであった。
「では、早速話しましょうか。【溟孔龍】とは一体何かを」
「ん? なんで【溟孔龍】について話すんだ? 俺達は何もわかっていないから無駄だろう?」
話し合う対象の知識は皆無で討論してもしょせんは全て想像によって形作られた都合の良い答えしかでてこないのだから無駄だとタリーアは判断する。
「想定案を出すという感じですよ」
話し合うというよりは提案をし合うという形であり、わからないからこそ想像の限りまで予想される事を増やすのは大事だ。
予防や防災に近い考え方である。
「そもそも【溟孔龍】とは一体なんですかね」
サリアスは【溟孔龍】に軽い恨みを持ちながらも強い興味が出てきた。
「そうですね。【溟孔龍】という呼称も貴方達がつけた物ですし、我々はその呼称を利用させてもらっただけですしね」
突如現れた存在であるため、元々、名前は無かった。
「【バハムート】の意味自体が【世界魚】でしたよね?。確かに【世界魚】と言われても間違いではない大きさです」
上を見上げると視界を埋め尽くす巨大な胴体がうねっていた。
漆黒の体表にところどころ光輝く妖精がコバンザメのように揺蕩っている。
地上の基本的に白い星とは違い、青赤緑黄など地上の星空よりも綺麗な光景が広がっている。
正に世界を包み込む宇宙のような大きさ【世界魚】の名に相応しい。
「たぶんだが、【溟孔龍】はある程度体の大きさを変えられると思うぞ」
「なぜ、そう思うので?」
「他の物体を別物へと変えられるからだ。俺達みたいにな。そして、俺達にも一部は姿形を変えられる者はいる」
他人を改造できるのだから、自分も改造ができるはずだという論理だ。
「そういえば、タリーアはもう一つの姿がありましたね」
「こっちの姿の方が色々便利だから、あんましあっちの姿は使わないな」
「もう一つの姿というのは?」
タリーアとハントの気になる発言にサリアスは興味本位で問う。
「まぁ、こんな感じの姿」
タリーアは腕を白を基調とした緑白い色に変え、体皮が植物の皮が剥がれるように何枚にも薄く分かれる。
サリアスは少し見開き納得をする。
確かに別の姿だと。
「動く枯れたワカメとサンゴを合体させたような感じになるな」
分かれた植物の薄皮のような者を巧みに動かしており、決して枯れているようには見えず、生命力が溢れている。
「こんな風に姿形を複数持っていたりする血族は少ないですが、そこそこいますよ」
「ハントさんは?」
「見た目は変わりませんけど、中身は変わりましたよ。こんな風に」
ハントは足元に転がっていた石を拾い、親指と人差し指だけでいとも簡単に粉砕をする。
「話を戻そうぜ。あの大きさにしたのはなんでだろうな?」
「……アレが本来の姿なのでは?」
「あのレベルとなると、自分の姿さえ自由自在だ。関係ないだろ」
「いや、あれ程の大きさを選ぶ方がおかしいと思います。もっと小さい方が便利ですから、知性があるなら、そのくらいはわかるはずです」
サリアスは前々から【溟孔龍】の大きさに疑問を持っていた。
十中八九、胴体の上部分が海面から出ていると予想できるし、あまりにも巨大すぎる。
「高位存在の巨身は圧倒的に規格外の存在です。巨身は体が大きすぎる精霊、龍の総称ですから」
大きさが最低でも山一つ分を条件にされている高位存在を巨身と呼ぶ。
【溟孔龍】は連山、山脈級の大きさを持っている。
「先天的な巨身ということですか?」
「たぶんですが、私はそう思います。偶然にも最初の姿が龍型の巨身であるだけかと」
「では、なぜ変えない」
「変える必要性が無いからなのでは? この世は弱肉強食です。【溟孔龍】は強者に位置する存在ですよ。邪魔なら壊して作り変えれば良いはずです」
壊され作り変えられた存在が深淵の怪物とも言えるだろう。
【溟孔龍】は自然界生まれだ。
弱肉強食が基本となっており、生まれたばかりの存在だ。
赤子の動きは激しい物だ。
「それもそうか」
タリーアは深淵の怪物となり例外は多くあるが、基本的に人であった時の常識を持って考えている。
「そもそもできないという場合はありませんか?」
サリアスは前提的にできない場合について上げる。
「……できるでしょうね。できない方がおかしい
」
僅かな間考えたハントは固定概念かもしれないが、やはりどう考えてもこの結論に達する。
魔術は万物を操る術である。
そして、そこらの石や菌さえも魔術を使用する権利は持っている極めて平等な力だ。
高位存在は魔術が異次元にまで届く程、力を持った存在だ。
同じ高位存在が使えないはずがない。
「何がしたいのか、わからないです」
サリアスは【溟孔龍】について話し合っていて、この感想を吐く。
突如現れた脅威、行う事は恐ろしく理解できなく不可解だ。
「そういえば、俺達はなんで血族を増やし始めたんだ?」
我々とは如何に?
なぜ、ここまで血族を増やす事に拘る。
違和感を感じない事を違和感を感じるように考える。
常識や正義を疑うような極めて実感の湧かない思考であった。
思考を回しているようだが、空気をかき混ぜているような感覚を覚える。
「そういえば、なんででしょうね」
ハントも思い出したように腕を組み唸る。
「知らなかったんですか!?」
サリアスは二人が目的の理由無しで深淵の怪物を増やしていた事に疑問に思う。
「いや、なんかそれが常識だと思っておりましたから」
喋り方や食べ方を疑わないと同じような感覚で血族を増やしていたため、この事を疑う自分が異常なのではないかと、逆に自分に対して疑いを持ち始める。
「理由なんて無いだろ。家族を増やす事は良いことだ。みんな寂しくなくなるし、争う事なく助け合える」
正義を全うする事に理由はいらない時と同じように深淵の怪物にとって血族を増やす事は正義なのだ。
実際に救済的な一面も強い。
「貴方達を生み出した【溟孔龍】がそれを望んだからでは?」
住む場所が欲しいから家を作ると同じように、作るのならば作る理由があるはずだとサリアスは考える。
「自分以外からでしか得られない物を求めたから貴方達を作ったかもしれませんね」
ハントとタリーアは目を見開きハッと口を開いた。
「……なぜ考えなかったのでしょうか」
「……そうだった。俺達は【溟孔龍】の眷属でもあったな」
今更ながら眷属になった事を思い出した。
「でも俺達はこの世の全てのために血族を増やそうとしていたはずだ。それなのにたった一つの個人のためにやっていたのか?」
だからこそ、今までの行動に強烈な違和感を持つ。
世のため人のために行っていた事が一つのためだけに繋がってしまうことに一種の拒絶感が走る。
この拒絶感は自分に対しても襲いかかってくる。
「いや、それはどっちも正しい物かと。バランスを取れれば良いと思います」
【溟孔龍】のためでもあるし、世のため人のためでもある。
どちらか選ばなければならないというわけではないのだ。
「それもそうか」
タリーアもハントの助言に納得し、自身の行動に深い安心感を胸の中に抱く。
「うーん、一度【溟孔龍】とよく話すべきでしたね」
「話そうと思わなかったのですか?」
サリアスは眷属なのに主とも一度も話していない事に驚く。
普通に考えて眷属であれは、定期的に連絡などをすると聞いているからだ。
「血族を増やす方が大事でしたから」
深淵の怪物達のぶれない信念と目指すべき物に心無しかサリアスは呆れる。
「【溟孔龍】は貴方達に何を求めているのでしょうね?」
眷属は主の手足とも言える存在だ。
しかし、脳からの命令は有るのか無いのかわからない。
「ふっ、それは血族!【溟孔龍】から見れば眷属を増やすためだ!」
先程、存在意義が揺れる不安を抱いていたが、タリーアは不安など一切感じさせない自信上々で快活な声を出す。
「それはいいですから、それ以外の案を出しましょう」
ハント、タリーアがいつも行くつく先が血族がなんちゃらであるため、つまらない討論になってしまう。
冷静な思考と血族絶対精神が直結しすぎており、サリアスから見れば深淵の怪物は危なっかしい。
「うーん、気まぐれとかもありますしね。なんせ生まれたてなんで」
生まれたての存在は種族問わず警戒心が足りなく、常に心の赴くままに冒険をする。
リスクはあるが高い成長を見込める質のある養分である。
「……生まれたて」
サリアスは自分の息子であるサームが脳裏に浮かぶ。
サームが常に求めていた物、そして一番大事な物、親が与えられる最高の物を思い出す。
そして、一つの答えに収束すると、それが【溟孔龍】が求める物だと確信を持つ。
顔を上げ自分が考えだした自信のある結論を声に上げる。
「もしかしたら! 【溟孔龍】は──」
その時だった。
「なんだ!?」
水中の水流が激しく波打ち、理の無い流れが渦巻いた。
実は零章 ルティーヤ編がここまで長くなるとは思わなかったです。
零章 ユーハ編も追加するか悩むところです。
作者的にユーハは物語構成的に重要な立ち位置についているので、深掘りすべきか悩んでいます。
外伝でも作りましょうかね。
ユーハとフィオナが今まで渡り歩いた世界での出来事についてなどの




