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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
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名前を聞ける

 ハントから溟孔教の教義として『互いに信頼し合う』について新母親は意見を求められた。


「私はその教義に賛同しますよ。『互いに信頼し合う』。あらゆる人間関係において最も重要な物であり、全ての良善な人間関係には信頼、信用があります」


 家族には生まれながらにして、最高の信頼関係を築かれており、子供は親の言う通りにするのは親を十全に信頼しているからだ。

 親も子供に大きな期待をするのは、子供は愛おしいから、莫大な費用がかかっても高みへと至らせるのだ。


「しかし、『お互いに』という部分が非常に困難です。一方が片方を信じても、もう一方が信じない、という場合が多いからです。これは家族関係でも言えます」


 親は子供に躾けをする。

 だいたいの躾けは子供にとっては邪魔としか言いようがない存在だ。

 そして、どちらも己の意思の理解し合う事の無い対立で子供は親を憎しみ敵だと思い込む。

 だが、親から見れば己の失敗を子供には継がせたく無い。

 今しかない、成功をさせるには今しかないのだと、退く事は無く、更に子供の警戒区域に踏み込む。

 親の心子知らずとは正にこの事。


「信頼を得た後も大事です。信頼は人間関係において、しょせんはスタート位置に着いた程度の物です」


 信頼はあらゆる関係において基礎、基盤部分を構成する物体だ。

 故に大部分を占めている。


「信頼とは減る物であり、相手の事を考えない侮辱的な発言や行動は信頼の値を大幅に減らします。常に一定の完璧を求められる」


 信頼は壊れない、友情や愛情は無限だと勘違いしている人物が多々現れる。

 相手の事を顧みなく徐々に信頼が削れて行き、失望されるかもしれない。

 もしくは因果と因果が組み合わさった一つのきっかけで砕け散る関係もある。


「わかりました。『お互いに』は素晴らしいが、とても困難な物だと。私も同意見です」


 幸せを生み出す物は大抵、大きな労力と費用を求められる。


 ハントも形だけの薄い微笑みを固めながら、じっくりと己の意見と新母親の意見を擦り合わせていた。


「ですが、難しいからと、歩み寄る事を止めてしまえば、わだかまりは消えず、私の目的である血族が増やせなくなる。故に溟孔教です」


 微笑みは消え、手を強く握りしめ決意の眼精を宿し、自信ある固い足を地面に擦り付ける。


「やはり、私は正解だった」


 次は確信によって作られた輝くような口を作り、水中に楽しげな声が漏れ出す。


「それでも、難しさは不可能と言っても良いと思いますよ。絶対的な条件がありますから」


 気分を害すのを微かに申し訳なさそうに、理想を追い求めるハントを後ろから掴み現実的に立ちはだかる壁を知らせる。


「例えば、私は理性と自分という個さえ失わなければ深淵の怪物になっても良い。しかし、深淵の怪物に変わる時はどんな存在になるか選べない。これが解決しない限り実現不可能でしょう」


 ハントの言う事は一聞すると共感と納得を誘うが、新母親は毅然とした態度で確認するように自分の要求を述べた。


 いくら理想的で納得できる目標を作っても、需要者にも譲れない結果のような物があった。


「……確かにその問題は今の所、解決の出口が見えないから不可能だと思われるでしょう」


 話を遮る事無く聞いており、先程の閃きある表情は既に溶けているが、残滓のような本質的な物は表情に残していた。


「その口振りだと、希望はあるので?」


 新母親は正直、希望は無いと想像していたが、予想外の言葉が出てきたため内心小さく驚いた。

 だが、ハントの言葉は新母親にとっても直接的な利益が出るため、無意識的に微かに口角を上げる。


「えぇ。……それは【溟孔龍(バハムート)】に直接掛け合い、直談判をするのです。かの存在も立派な知性がある事はわかっていますから」


 全ての根源に話を通すことにより、どんな姿になるか、という選択権を得るのだ。


「成功するのでしょうか?」


 だが、必ず成功するとは限らない。

 あくまでも作戦を言っただけだ。


「成功させるのですよ」


 あらゆる決定権をもっているのは【溟孔龍(バハムート)】である。

溟孔龍(バハムート)】が動かなくては何も現実は変わらない。


「では具体的に内容を詰めて行きましょう」


 新母親はハントに近づき導くように指を差す。


「そうしましょう。(やはり、私は彼女と近づいている。そして、この案が達成できたら飛躍的に血族を増やすことができる)」


 心を共有し、守り守られ、支え合い、高め合う血族が順調に増えそうで思わず歯を見せる笑みを浮かべる。


「そういえば、貴女の名前は?」


「名前? ……サリアスです。改めてよろしく」


「少しは信用を得れて嬉しい物です。やはり、信じ合える関係こそが全人類が目指すべき物」


 ──だから、我々と同じようになるべきだ。


 ハントはハハハッと軽く笑い、確信の力強い拳を再び作る。




 ◆◆◆




 サリアスはいずれ見える襲来から自分の家族の守るため、家族を溟孔教の拠点に匿う事にした。

 そのため、サリアスとハントは高速で泳ぎ向かっている。


 だが、家の姿が見えた時は二つの樹木とクラゲを合体させたような物が家の天井を突き破っていた。


「やぁ、ハント。見てくれ、不完全な血族を完全なる血族になった姿を。この姿は新しいんじゃないか?」


 そして波で揺らされたような形となってしまつまった家の玄関の前にハント以外の人型をした深淵の怪物が愉快げにそこにいた。


「何をしているのですか? タリーア」


 サリアスと話す時とは違い、若干声質が崩れた声であった。


「んー、それはだな。偶然にも血族の気配を感じたから、挨拶のついでに覗き込んだら。なんか知らんけど、血族なのに血族になりきれていないのがいたから、俺達と同じに変えてあげたんだよ。そして、真の姿としてアレになったわけ」


 ハントの質問に気軽に答えたタリーアはハントとサリアスの元へ近づくと、サリアスを見て不思議そうに目を軽く見開く。


 サリアスは暗く深い瞳のタリーアに見つめられ、困惑の表情を見せる。


「彼女は誰だい?」


「彼女はこの家の女主人です」


「ほう! それじゃあ、あやつが言っていた妻か! ならば、同じ血族にしてやろう。嬉しいだろう?」


 タリーアは早速とサリアスに手を伸ばすが、途中でハントが手を掴み、気だるげ混じりに静止する。


「前、私が言ったでしょう。相手の事を理解もせずに、無理強いな変化を押し付けるのは止めろと」


 何度も注意をしているような発言だが、疲れてはおらず真っ直ぐな目をタリーアに向けていた。


 タリーアはハントの固い程真面目な気配に苦笑いして手を落とし苦笑いをする。


「ごめん。でも、結果的にはお前も彼女を血族にする予定なのだろう? 今、俺が変えても変わらないはずだな」


「失礼ですね。私の家族を勝手に変えといて、謝罪の言葉一つも無いのですか?」


 あまりにも無遠慮な発言にサリアスは怒りを現す。

 タリーアの行動は今すぐ無惨な半殺しにしてしまいたいが、そこまで怒りに染まり切ってはいないため、理性の壁で怒りの波をくい止めている。


「喜ぶべきだぞ」


「タリーア…………!」


 笑顔で即答をするタリーアにハントは重く殴りつけるような声でサリアスの血管が切れる前に注意をする。


「いや、冗談だ。申し訳ないね。でも、君の夫と息子君は不安定な状況だったから、安定させるためにはこっちの姿の方が良い」


 全く罪悪感は見えないが、ハントが鋭い目つきでタリーアを静かに見つめているため、少しは謝罪の言葉を出した。


「夫とサームが不安定!? どういうこと!」


 サリアスはタリーアに驚きの声と共に詰め寄る。


「えぇとね。まず不安定だと何が困るかと言うと、どんな存在になるか予測不可能なんだよ。生命維持の器官が歪んだ形で完全してしまうから、最悪死んじゃう事もあり得るのだよ」


 不安定というのは可能性が増えるということだが、大抵は危険な方面へと向かう状態を指すことを不安定と言う。


 タリーアは同胞がそんな見ていてハラハラするような状態であったため、善意を持って深淵の怪物へと変わるように促したのだ。


「そうでしたか……。とりあえず命を救ってくださりありがとうございます」


 深淵の怪物になってしまった崩れ落ちる絶望感と高い確率でやってくる死から逃れた引き上がった救済感に挟まれる。

 ある意味サリアスの心情は不安定であろう。


「理解してくれて何より。そういえばハント、何しに来たんだ?」


「端的に言えばそこの二人の保護です」


 ハントはサリアスの家族の二人に指を差す。

 早速サリアスとハントは二人の元へと向かう。


「君は我々の血族にならないか? 君の家族も我々の家族になったのだから君にとっても良いはずだ」


 向かう途中にタリーアがサリアスにハントと似たような提案をした。


「それは」


「タリーア、私は選択権のある平和的な血族の増やし方を目指しています。後で詳しく話しますが、とりあえずこの二人の移動を手伝ってください」


 サリアスとタリーアの間にいるハントがサリアスの心情を慮り、代わりに対応をする。

 サリアスはタリーアの印象は良くはないと予想したためだ。


 三人は地面に降り立ち、見上げる


「植物系ですか」


 海草にしては硬さがあり、簡素な作りになっている深海の植物が複雑さを得たような非常に華やかで綺麗と思える印象がある。


 紫と白の調和感を纏う、クラゲを上下逆転させた形の大きな花が幹らしき頭頂部に開いていた。


「俺達の中でも力はある方じゃないか?」


「それは言えますね」


 二人は新たな血族に歓迎をしつつも、珍しい姿に波に揺れるように唸る。


「レイム、サーム。こんな姿になってしまって……」


 レイムとはサリアスの夫とのことであり、家族が目の前にいるのに何も喋らない二人にサリアスは孤独感に近い悲しみを覚える。


 サリアスは静かに二人の幹に近寄り優しく撫でる。

 やはり海の植物らしく若干のヌメりはあり、クラゲの触手のような葉はゆらゆらと海流と共に踊る。


「ねぇ、何か言って。何かしてよ。……あの時のように」


 倒れ込み、魚の尾を倒壊した家の床に座りこみながら、過去に埋まった宝物を引き上げるような声で嘆願をしていた。


「「」」


 本気で願いを星に願うように震えや揺れの無い瞳をサリアスは二人に向けているが、二人はどこ流れる水と言わんばかりに変わらず佇んでいた。


「……わかったわレイム。私、アナタ達の元まで行くのに頑張るから、応援してね。レイムも引き続きサームの事を頼むわよ。サームは結構色んな物に興味が引かれるから気をつけてね」


 客観的に見れば独り言を言っているようだが、隣から見ると、まるでサリアスの目の前に誰かがいるように感じられる。

 海流も心なしかサリアスの目の前の空間を避けている。


 この瞬間は極めて自然的だが、幻覚を覚えさせるような不自然を含ませた形容し難い光景であった


「……では引っ越しましょう。サリアスさん、この家は完全に倒壊すると思うので離れてください」


「……はい」


 サリアスは後ろに下がり二人のから離れる、そして、ハントの隣に浮き、改めて夫と息子を見る。


(お墓のようね)


 亡んだ都市は少し俯瞰して見ると、異様に哀愁を感じ、不自然に巨大な植物が生えている光景に不謹慎にもそう思った。


 彼女にとってはそれほど家族と遠く離れてしまったようだ。


 ハントとタリーアは家を挟むように並び、結界でレイムとサームを包み込む。

 そして、二人は地面に手をつけると、家の周辺が激しく揺れ、地割れを起こす。


 そして、少しずつ割れた場所が浮き上がり、砂が舞い上がり流れ落ちる。

 砂の断層が崩れぬように結界で包まれており、徐々にレイムとサームは浮き上がり、完全に地表の上に出る。


「タリーア、慎重にですよ」


「わかっている。お前もしっかり前を見ろよ」


 二人は視界には入らないが、互いに声を掛け合いゆっくりと浮かせたレイムとサームを移動させる。


 サリアスは家があった跡地を上から見つめる。


 愛着のある場所であるため、物理的に消えたが、家の輪郭が視界の中に写っていた。

 そして、目を閉じ目蓋の裏に今までの暮らしの光景が再生される。

 耳を澄ますと鼓膜の表面から音声が浮かび上がる。


(もうここは帰る場所ではない)


 サリアスは目を開け、静かな跡地を見て悲しくなるが、押しつぶされるわけでもない。


「私の帰る場所は家族がいる場所だからね」


 家族がいれば強くなれる。

 それが自分だから。

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