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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
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私は、選び、進む

 時は遡る。


 新母親が壮年の彼女と共に民議会へと向かった時だった。


 そして、民議会のリーダーである議長から話しが出た。


「皆さん。生活の向上のために、我々が把握している住民地域にいる深淵の怪物の殲滅を提案します」


 生活環境は深淵の怪物以外にも普通の危険生物などが揺蕩う亡都ガレテは危険が見える場所に転がっている。


 故に前々から民議会と住民は危険を取り除き安心安全な領域を作りたいと思っていた。

 しかし、反対意見として危険に近づく方がもっと危険なのではないか、という意見もあった。

 故にすぐさま危険を排除できなかった。


 それでも、根本的な解決をするには危険を排除しなくてはならない。


 だが、排除するには危険がある。


「排除をするというのらば、皆さんの協力が必要です。ですが、命が失われるかもしれないとても危険な事です」


 議長は強制的に警戒心を持たせる鋭い気迫がこもった眼光を放つ。

 そして、少しの間の置くと議長は住民達を見回し、再び声を出す。


「危険だからこそ、これは皆さんが考えて我々の行動を決めてもらいます。住民投票によって」


 民議会は重要な決定をする場合、直接民主制を取る。

 皮肉にも頑張れば数えられるくらいの住民しかいないからだ。


 少し住民達が騒がしくなるが、話し合っている内容はこれからの住民投票についてである。


 そして、議長の後ろから色違いの旗を持った議員が歩いてきて議員を中心に左右に分かれる。


「皆で協力しあい危険を排除するという事を承認する人は右の旗へと集まってください」


 議長は住民から見て右の方へ手を向け、右旗の議員はわかりやすいように軽く旗を振るう。


「危険な事はせずに現状維持を承認する人は左の旗へと集まってください」


 左の旗も右の旗と同様にする。


「三分の二以上の住民が集まれば、集まった方を民議会並び住民の皆さんの方針として決定します。投票をしない方もこの方針に決定します。時間は半日までです。では開始!」


 開始の声と共に議長は台から降り、中立の位置で静かに住民投票を見守る。

 民議会の主要議員は純粋な住民による意思を乱さぬように投票権は無く中立の立ち位置につくようになっている。


 会場は騒がしさで大きく盛り上がりを見せていた。


「ついに、ついに来た! あいつらをぶっ殺す機会が、ついに……!!」


 大切なものが失われたため、報いを与えたいという気持ちである復讐心が光が輝くような力強い喜びを表している者もいる。

 そして、彼は早速、排除派へと走る。


「お前を守るためだ」


「やめてよ、お父さん。お母さんも長生きして欲しいって言ったじゃない」


「いや、お父さんはもう決心したんだ。長生きできるように祈ってくれ」


「やめてって言ってるでしょ!! 何回言えばいいの!! 私、私……お父さんまで死んじゃったら…………うゔぅ、ゔぅ」


「少しでも、お前から危害を加えるものを遠ざけたいんだ」


「私、私……お父さんまで死んじゃったら…………うゔぅ、ゔぅ」


 誰かのためにと願い、行動に移る人を涙を流してまで止める思いある者もいる。


「深淵の怪物を倒すなんて無理に決まっている! 過去の経験を忘れたのか! 蹂躙されたあの時を!」


「でも、お前のおふくろさんのお墓を守れないぞ」


「だからこそだ。矮小な俺らは刺激しないように静かに住むべきなのだ」


「それもそうか」


 記憶に刻みつけられた経験と光景は感情を越えて本能が深淵の怪物に対抗するのは危険だと、強く訴える。

 どんなに心を震わせようが、根源的な弱肉強食による恐怖が心の柱をへし折る。


「フフフ、我々は還るべきなのだ。海の主の元へ【溟孔龍(バハムート)】様の元へと」


 淡い悦に浸る顔を見上げ黒き巨体と幽玄な霊光を放つ龍神を仰ぐ者もいた。


 そして、まだ悩む者も多くいる。


「奥さん、貴方はどうしますか?」


「そ、うですね。 (家族は深淵の怪物。非排除派一択たげど) 」


 家族がウミウシのような深淵の怪物に変身している新母親は悩む姿勢を見せていた。


 視線を周りに一巡させ、現在の情勢を見る。


(排除派が多い……)


 右方は多くの人溜まりができており、誰もが戦いの覚悟を示した気迫ある鮮烈な雰囲気を放っていた。

 不安を抱えた人はその気迫に当てられ、覚悟の炎が点火し右方へと移動するものも多い。


(……この流れはもう止められない)


 精神的な部分で非排除派は既に負けがある。

 人というのは明るく熱い方向へと無意識に向かって行ってしまう物だ。


「少し考えさせてください」


 時間稼ぎの言葉しか出なかった。


 内心では非排除派に行く事は決定しているが、願い通りにはならない無駄な行為であると予想できる。

 しかし、何か行動に移さなければ必ず家族は殺されるであろう。


 右方を見ると、多くの人々は復讐や決意が込められている。

 もうスタートラインは越えてしまったとわかる。


「……きっとこの投票で我々の運命が決まるのでしょうね」


 壮年の彼女は左右に首を振り、運命の先を見るように遠い場所に視線をやる。


「はい、私にも運命の分岐点である事がはっきりと見えます」


 新母親も壮年の彼女の言葉に同意する。

 二つに分かれた大いなる道が空間に敷かれている。


「でも、運命の道は二つだけではない。細く渡り辛い道もあり、もしかしたら大きな道に飲み込まれる運命を辿るのかもしれない」


 淡々とした声で大事な事を語る壮年の彼女に新母親は耳を傾ける。


「まぁ、二つの大きな道も渡りづらい道だけどね」


 細くないだけであり、道の質自体に差異は少ない。


「私は故郷をただ静かに暮らしたいから、無駄であろうとも非排除派へと行くわ。それが私にとって後悔の無い選択だからね」


 壮年の彼女は新母親から背を向け、いつの日か同じように手を振りながら、人混みの中に溶けて行くように選択をした道を通る。


「後悔の無い選択……」


 顔を下に向け、己の後悔となる物は何か探す。

 熟慮を重ね、結論を出しても表情は晴れはしなかった。


(後悔の源は当然、家族。家族を守る選択肢というのはどちらなの?)


 どちらも後悔するのが目に見えており一向に選ぶ事ができない。

 左方に行っても負ける事は予想でき、最終的には後悔をすることになる。

 欲しいのは後悔の無い過程よりも後悔の無い結果だ。


 新母親は少し気分変えを目的で人の群れの中から抜け出す。


「……」


 大きめな石に尾を置き座り込む。

 群れ中では隠していた憂鬱な表情を表す。


「……家族と一緒に暮らせていければ、それで良いだけなのに……!」


 最近まで当たり前であった事を願うが、叶わない現実に悲しみと怒りにも似た悲壮の思いを握りしめ、外側に吐き出す。


「贅沢な事を言っていないのに、なんで!? なんでよ!?」


 物質を多く要求する豊かな生活を求めてはいない。

 家族がいる充実した生活を求めているだけだ。


 支配を象徴するように揺蕩う【溟孔龍(バハムート)】を刺すような視線で睨みつけてしまう。

 取り乱し後は感情を落ち着かせるように目を瞑り心拍を落ち着かせていると、挨拶の声が聞こえる。


「──こんにちは」


 目を開け、細目で横にいる人物に瞳を向ける。


「何用ですか?」


 鋭い目付きと同様に思わず剣先を向けるような声がでてしまった。


「これは気分を害してしまったようで、お嬢さん申し訳ありません」


「お嬢さんじゃないです。結婚をして子供を産んだ奥さんですから」


「重ね申し訳ない事を、謝罪致します。許していただけると助かります」


「気にしてはいないですから。それで、改めて何用で?」


 軽い口調でありながら品性のある言い方が残る印象がある人物に向き直り改めて問う。


「少し意見を聞きに来ただけです」


 悩む様子は無くスラスラと口から紡がれた言葉に新母親は疑念を抱く事無く観察するように少し見つめた後小さく反応をする。


「そうでしたか。それで何の意見を聞きたいのですか?」


「この投票に対しての意見です」


 新母親は予想していた通りの物を求められたため、特に大きい反応を見せずに自分の意見を述べる。


「どちらも危ない道だと思っています」


「確かに破滅的な方向へと向いていますが、排除派の方はまだ希望があると思いませんか?」


 排除派は安全と安心を求める意志が強いため、崩壊したガレテでも光を失わずにいられるから希望がある。


「えぇ、排除派は未来へと進もうとしており、その意志は素晴らしい物だと思っていますよ」


 冷静に考えても排除派の方が期待を持てる。

 今だけを生きられれば、それで良いという者が多い非排除派とは違うからだ。

 停滞よりも進歩の方が良い物だと納得できる。


「じゃあ、なぜ右方の排除派へと行かないのですか」


「……」


 ──家族が殺される可能性が高いから。


「……負けると思いますから」


 脳裏に浮かんだ明確な言葉を水面には出さぬように中身の無い泡のような仮の理由を水面に浮き上がらせる。


「フフフ、排除派の彼ら彼女らもそんな事、承知のはずです。でも諦めきれないという思いが爛々とわかりますよ」


 遠くから見ても排除派は強い不安の気配を感じるが、それ以上に鮮烈な熱の気配が大きく放たれている。


 その熱は新母親には非常に共感できる熱であった。

 自分も家族の未来のために噴火するような熱を吹き出したからだ。


「貴方のように」


 刹那の溜めのような時間があった後にこの言葉が呟かれる。


「!」


 唐突な図星とも言えるような自分の思惑が見抜かれたような感覚が走る。

 新母親は首を勢いよく向けて驚きで大きく目を見開く。


「なぜ、そう思うので?」


 自分のプライベートスペースにいつの間に入り込んだ人物に警戒心の含んだ重苦しい声で逆に質問をする。


「私は心を読めるのです」


 笑みを浮かべながらする発言はとうてい信じられるものではない。


「……そもそも貴方は何者で?」


 信じる値しない発言から、先程の質問については諦め素性を知ろうとする。


「あ、これは申し遅れました。溟孔教の教祖をしておりますハント・サリスです」


 丁寧な口調で教祖らしく上品さが含んだ自己紹介を行う。


「溟孔教?」


 新母親にとって聞いたことのない宗教名であった。


「フフフ、よくぞ聞いてくれました! 溟孔教とは主神【溟孔龍(バハムート)】を崇める宗教なのです。皆さんが深淵の怪物と言っているのは、かの存在の家族であり使徒なのですよ」


 陸の生き物が地面を得た時のように興奮気味な説明をするが、突然の説明に新母親は戸惑いで上手く飲み込めずにいた。


「はぁ……」


 とりあえずの認識として【溟孔龍(バハムート)】を崇める新興宗教である。

 崇める対象として不足は無いが、大多数から恨まれている存在を崇めるのは正気かどうか疑う。


「あなたは今困っている。どうやったら家族と一緒に暮らせて行けるか? と」


 新母親は心を読まれているか、どうかはわからないが、自分の内心を悟られていると確信し、それを前提に判断をするようにする。


 顔付きから困惑の色は抜け、氷のように張り詰めた色を塗り替わる。


「そうです。このままでは、家族は殺されてしまうのが鮮明に想像できる。私はそれを防ぎたい」


 決して揺れる事の無い毅然とした態度で本音を語る。


 溟孔教の教祖は慈悲深い微笑みを浮かべながら、新母親の言葉に頷く。


「えぇ、存じております。我々は貴女をただ救いたいと言う純粋な気持ちで言います。貴女の家族を救えますよ」


 確かに聞こえた希望の声が。

 新母親は大きく目を見開くと、すぐに目を閉じる。


(そんな上手い話が…………でも、唯一の方法)


 暗闇の中に眩く達成感と安堵感が音符となった音響が響き続ける。


 ──貴女の家族を救えます。


 甘美な誘いは何が目的かは知らないが、己を騙ろうとしているのかもしれないが、このチャンスを逃したら次は無いのかもしれない。


「目的は何ですか?」


「ただ、貴女を救いたい。家族を大事にする者は主の加護と奇跡を受ける資格があるのです」


 不安要素しか無い提案だが、その不安要素を押しのける程の圧倒的な力がある希望がそこにある。


「…………貴女を信じます」


 睨み向けるような強烈な眼光を解き放ち、ハントの目を穿つ。


「えぇ、信じ合う事が大事です」

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