表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
88/149

溟孔龍

 深淵の怪物と都市ガレテの戦いは満月が半月に成る期間までも続いている。


 決して楽な戦いではなく、昼夜問わず襲いかかってくるのが辛いところである。

 加えて深淵の怪物も成長し進化しており、強く賢くなってきている。

 死人も多く出ており、深淵の怪物へと変身してしまった人達も少なからず存在した。


 なかなか状況が好転せず、行き詰まりのような重い不安感がみんな滲み出していた。

 削がれていく安心、狭まる安全が何よりも辛かった。

 これからもまだ続くであろう戦いと悪循環の渦が戦士達を絡め取る。


 しかし、そんな時だからこそ、諦めずに必死になっている奴が目立つ。


「なぁ、疲れないのか? そんなに頑張って」


 労りによる気分を紛らわすための質問ではなく、他と違うお前に単なる疑問が出てくる。


「ん? それは最近子供が生まれたからだ」


 まだ若そうな見た目だが、若さから生まれる根拠の無い自信ではなく、人類の半分以上が明確に共感できる理由であった。


「今までは親や兄弟、姉妹が自分の家族だった。この家族と自分の子供と妻の家族の違いがわかるか?」


 決して迷いのない強い瞳と何かを期待するかのような力のある笑みでそう聞き返される。


「…………ふっ、そりゃあ、カッコつける度合いだな」


 彼にも子供がいる。

 既に手の内からは離れたが子供である事は変わりはしない。


「うん、それだ。家族っていうのは己を曝け出せる関係でありながら、苦痛を隠して見栄を張る関係でもある。そして何よりも子供の前ではまは見栄を張りたい」


 無駄な行為だが、無駄ではない。

 疲れる関係だが、癒やしの関係だ。

 生命活動の上で必須ではないが、かけがえのない物。


「堂々とした姿で父さんは家に帰る。そのために家族にも関わる大事な仕事を残すわけにはいかないだろう」


 家族に示すがつく、カッコいい存在であるために頑張るのだ。


 感情ではない、これは正義だ。


「じゃあ、俺もカッコいい父親を生み出すために頑張るとしますか……!」


 彼は新父親の流儀に感化される。

 武器を握る手に力が入り、視野と視力が増えていく。

 神経回路に眩しく信号が走るようではあった。


「いや、子供が言葉を理解できるようになった時に『お父さんは怪物達を一人でなぎ倒した』と言うから、いらん」


 新父親の方は贅沢な夢を疑いもなく語る。


「遠慮すんな。どんなに泥臭くても、どうせ美化するんだからよ」


 経験と周囲の友が同じ事をしていたし、自分の父親も大人なって思えば自分が子供である事を良い事に究極に美化をしていた。


 そして、自分も己の血と汗の結晶は薄汚れたクリスタルだったが、宝石の王様ダイヤモンドに塗り替えて罪悪感皆無で子供に話した物だ。


 妻の呆れ顔が懐かしい。




 ◆◆◆




 人魚(マーメイド)の赤子が光を集めるように手を伸ばし重心を前の方へと移動させていた。


「あう、あう」


 重心が前へと移動する事により、現在母親が抱えているため、倒れるように母親の腕の中から溢れおちてしまう。

 母親はそうならないように抱え方を変えたりなどをして防ぐ。


「あっちはお父さんがあなたを守るために一生懸命戦っているのよ〜」


 母親は我が子が手を向ける方向に何があるか教える。


「ぅあぁ」


「ほら、お父さんにがんばれ〜って」


 赤子の手を優しく掴み、小さく手を振る。

 柔らかな若芽の産毛のような優しさが包まれていた。


「わぁんあぁ〜」


 理解しているようで、理解していなさそうだが、母親はその声だけで満足をして口に微笑みを作る。


「偉いねぇ……」


 泡が包み込むように優しく手を離す母親は我が子が見ている方向を見て憂いと悲しみを顔に映す。


「あら、奥さん。心配そうな顔をしているわね」


 壮年の海人(シーマン)の女性がゆっくりと泳ぎながら新母親の顔を見てやってくる。


「えぇ、やっぱり心配ですもの」


 心なしか顔を下へと向けており、拭いきれない不安という物が纏われていた。


 都市ガレテ程、深度が浅くなれば陸の者と同じように顔を上に向ける事が意気を上げる事となる。

 完全に光が届かない深度になれば、下へと顔を向ける事が意気を上げることである。


「私も心配よ。でも、私達に直接できる事は少ない」


 壮年の彼女も新母親と同じ方向を見ながらも不安は纏っているが、決して揺れない芯の強さのような物がある。


 事実だけを語る彼女は虚無感のある事実に中身を吹き込むような声であった。


「ですけども、何か力になりたいです」


 家族が戦っている。

 少しでも家族の生存率を上げるために努力することは当然のことだ。


「フフッ。……あなたは、まだまだそのレベルじゃないわ」


 壮年の彼女は過去を懐かしむように気品を持ちつつ快活に笑う。

 母親とはいってもまだ若く青葉を十分に広げている新母親にはまだ早いのだ。


「どういうことでしょうか?」


 当然の正義に待ったがかかったため、不思議に思う。


「この子は生まれてどのくらいたったの?」


 今は眠っている赤子を起こさぬように水流を作らずおもむろに覗き込む。


「一ヶ月手前くらいです」


「本当につい最近みたいね」


「えぇ」


「まだ、やる気で行ける時期ね」


 次に除き込むのは新母親の顔であった。

 新母親は深海の底のように見えないけど底はあると知っているような壮年の彼女の瞳に戸惑いのような物を覚える。


「えぇっ、と」


「子育てで辛いのはこれから。これから始まるのはどんな場所どんな時でも遠慮なく大声で泣き始めるわ」


 悲惨と反省の過去を伝える事を使命とした伝道師のような口ぶりで先程の妙な迫力とは別の迫力が纏われていた。


「それは一応知っていますが」


 新母親も既に睡眠時に泣き叫ばれる事は経験している。

 確かに突如叩き起こされるような爆音は辛いが、我慢できる範囲であるため特に深刻な問題だと思ってもいない。


「……真の疲れは常に見えないの。今の内に休んでおきなさいね。そうしないと……」


 一息つくように溜めが意図せずに作られる。


「そうしないと……?」


「自分が化け物になっちゃう」


 お化けが出てくるように、やや大げさに笑いながら言う。

 先程の水が溜まって破裂しそうな重苦しい雰囲気から一転して虹を描く青空のような晴れ晴れとした空気が壮年の彼女から漂う。


「は、はぁ」


「つまり、何が言いたいのかと言うと。休める時に休みなさい。子育てはまだこれから、夫は夫で勝手にやる気を出しているわ。あなたの仕事は子供を健やかに育てる事、それだけを真っ当すれば良いの」


 壮年の彼女は経験者らしく余裕のある口調と態度で教示をする。

 夫は放っておいても適当になんとかなる。

 子育ては心身共に疲労が溜まるから、休める内に休め。

 数年後にやってくるイヤイヤ期を思い出すと目が遠くなる。


「辛い時は家族とか何かに頼りなさいね。」


 その言葉を最後に壮年の彼女はその言葉を言い終わると、新母親の横を通り過ぎて行く。


「……はい」


 新母親はまだ実感は持てないが、先輩のアドバイスを己の中で反映させる。


「あの、ご教示ありがとうございます」


 お礼の言葉に壮年の彼女は振り返らず止まらずにどこか若々しく手を軽く振る。




 ◆◆◆




 武器や兵器による爆音と気合の大声と悲鳴の叫び声が戦場を支配する中、歌姫が歌声のような美麗な音響が響き渡る。


 音は空気中の四から五倍の速さで伝わり、響きが戦場に行き渡ると深淵の怪物達は地に伏せていく。


 だが、一部の深淵の深淵はすぐに目を覚まして進撃と同化を再び続ける。

 次は複雑に組み合わされた見えざる波動が海中に伝わり効果を生み出す瞬間鋭利な刃物が擦れるような棘のある音が生み出される。


 その音が生まれる時、超瞬間的な水圧の差が生まれ眠りの蓋が被さっている深淵の怪物の体が真っ二つに切られる。


 波動が海中を迸り、深淵の怪物の体を砕いていく。

 逆に兵の体を癒やし活性化させ、回復を早めていた。


「やっと、楽になり始めたか」


「あぁ、最近の仕事も奴らの死体処理だし。これは勝ちが見えてきた気がする」


「お前、帰ったらなにする?」


「また、その話かよ。泡道の整備員に戻るだけさ」


 泡道とは膜に包まれた海水の水流方向を定めたホースのような物であり海中での道路の役割をしている。

 陸のように皆が歩けは道になる理論は海中では存在しない。

 そして道は移動の効率化が目的であり、海中は三次元的な移動が基本になる。

 海の宙に作られた道が泡道なのだ。


「都市住まいのお前が羨ましいわ。俺は普通に農民戻りで海草育てるよ」


「いや、泡道の整備員もあんまり楽じゃないぞ。たまに変な奴いるもん。入れませんつっても一人くらい良いじゃないとか言う奴がさ。こういったバカの対応もしなきゃだし」


 泡道は海底文明では必須だ。

 血管と同じ物だ。


「確かに。こっちは作物を荒らす害魚を追い払えば良いけど。人相手じゃ、めんどいな」


「基本的には無いけど、たまにあるからな」


 このような雑談が戦地の兵には珍しくなかった。

 司令部の方もこのような雑談が無くなる程にまで余裕が無くなる事は防いでいた。

 誰も喋らない軍など、敗北必至で破滅的だ。


 だが、一般兵が談笑しているこの時の司令部は誰もが絶句していた。


「は? 都市ナスカマイヤの崩壊?」


 都市ガレテから離れた場所にある守護神ナスカマイヤが守護する都市が崩壊の連絡を受けたからだ。


「いや、なんで? ナスカマイヤ様は?」


 長距離間での相互連絡をする魔術道具(マギアエルガニーノ)の前で整理がつかない困惑に司令部自身が戸惑っていた。


「亡くなったぁ!? しかも、原因は深淵の怪物の主!!」


 更に悲報の極みとも言える報告も受け冷静にはいられない。

 司令部が全員絶句を更に重ねたような信じられない顔をしていた。


「で、今。どんな対応しているんだ?」


「都市その物を封印したと」


「そして、原因の深淵の怪物の主はどうした?」


「わからない、か……。……………探索を頼む」


 強力な不安要素が現れ、解決方法も思索状態で怒りさえも沸いて来そうな状況に暴れそうになった時、また一つ連絡が入る。


「──巨身が現れました! 龍型の巨身が!! 見える大きさでも我々の要塞よりも圧倒的に大きいです。」


 絶望の底へと叩き落してくる報告が耳に入り全てを否定したくなる。

 そして、次々と龍型の巨身の特徴が知らされる。


「質問。深淵の怪物の主の特徴は?」


 都市ナスカマイヤの深淵の怪物の主の特徴と現在確認された龍型の巨身の特徴が一致した。


「諸君、深淵の怪物の主である【溟孔龍(バハムート)】がこの場に現れた」


 冷静さを失って、絶望に浸された淡々とした事務的な声で深淵の怪物の主の名である【バハムート】東の大陸にある大国の文字で現すと【溟孔龍】の事を伝える。


「感じる通り【溟孔龍(バハムート)】は

 普通の兵器や宝具では勝てませんので、例の自爆兵器を使います」


 あらゆる選択肢は【溟孔龍(バハムート)】の威圧だけで取り除かれて、最終の最終の道だけ残された。

 そこには葛藤も無く、どんなバカでもこれしかないと納得してしまう。

 引き算だけで一を零にしてくださいという問題が出たような物だ。


「ということで。はい、マニュアル通り作業開始」


 城壁要塞には最終手段として城壁要塞を全て糧、贄にして行う自爆兵器がある。

 厄介で絶対に倒すべき時に使う切り札のような物だ。

 ただ、この自爆兵器は高位存在を確殺できる威力を備えているため、非常に威力が大きすぎるのだ。

 そして、この城壁要塞は都市ガレテと遠く離れていなく、ガレテに自爆兵器の二次被害が出る可能性がある。

 なので、都市ガレテの方との連携が必要な兵器である。


 城壁にいる兵達はガレテへの避難の音が鳴り響く中、時折後ろを振り向き海溝部を見る者がそこそこの数がいた。


 視界を支配する圧倒的な彩りは海の広大さを思わせる程の想像の埒外の大きさであり、海の深さを思わせる光を魅了する漆黒の体表であった。

 加えて海の美しさを表すような紺碧色の光の筋が泡の艶のように放っていた。

 蛇のような細長く深海の超水圧にも耐えられるように固い鱗と甲殻に覆われた体表に鯨と鮫を複合させたような特徴的なヒレが何枚も生えており、生物としての格を上げている。



「おい、俺達が最後だぞ。んなもん見てないで、速く! 来い!」


 自分ここに有らずと言わんばかりの呆けた兵士の肩を指揮官が肩を掴み、怒鳴るように避難を促す。


「……」


「おい! 聞いているのか!?」


 手を引っ張り、避難用の泡道へと体を向け足を前に踏み出す時に掴んでいる手の感触と温度が変わる。


「!!」


 振り返ると同時に掴んでいる手を切り落とす。


「お前はもう敵か……!」


 落ちた手は青白い触手のような物だへと変わっており、呆けていた兵士は深淵の怪物へと変わっていた。


 顔面は消え失せ、花粉のような物を振りまく花弁に置き換わっており、体には穴のような模様が描かれ中心部は光を放ち始めていた。


「ここでお前を殺す!」


 敵を処理する責務とかつての仲間を手に掛ける罪悪感を混ぜ合わせた悲壮の意思を体中に漲らせる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ