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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
86/149

帰還せよ

 深淵の大穴から無数の巨大な深淵の怪物が登ってくる。


 水をかき分ける時に出る特有の詰まらせるような音を発しながら。


 深淵の怪物の気配は強烈な水圧により圧縮された空気が深度が浅くなる程、水圧が緩み空気が膨らむように登れば登る程、気配を色濃く膨らませる。


 ラテマアの町の人々は突如急速に接近してく怪物の気配にパニックに陥った。




 ◆◆◆




 魔王如きもの(ヨルエ)が崩壊したラテマアの町を歩いていた。

 三つの顔と四本の腕を持った姿で。


 暗いラテマアの町を静かに歩いていると、更に暗い影が落とし、一つの首が上を向くと大きな口を中心にタコのように多くの触手が生えた深淵の怪物に襲われようとされていた。


 触手が魔王如きもの(ヨルエ)を掴もうとするが、四本の腕が触手を掴み、少し触手を見つめた後に引き千切った。


 肉が裂く瞬間、驚愕する再生力て裂かれた部分と結合しようとするが、魔王如きもの(ヨルエ)の引き千切る速度は再生力以上の速度である。

 だから、結合するには間に合わず千切られる。


「「「少し落ち着け」」」


 四つの腕が蔦のように長く強靭に伸び触手の怪物を縛る。


 触手の怪物に近づき、また見つめる。


「「「あの子の端末化しているな」」」


「「「そして、どんどん侵食されていくというわけか」」


「「「こいつの侵食度はまだ、浅いようだし、戻せるけど、普通に戻してはつまらんからなぁ」」」


 魔王如きもの(ヨルエ)は少し唸った末に何かを閃いたかのように明るい笑みを浮かべる。


「「「フフフ」」」


 とある魔術が施されると魔王如きもの(ヨルエ)は満足そうに笑みを浮かべ、距離を取ると、触手の怪物は元の人魚(マーメイド)の姿へと戻る。


「「「理性ありきの化物はどんな結果を生み出すか楽しみだ。これをあの子が憶えてくれればきっと真似をするだろう」」」


 大人が才能に溢れた子供を期待するようにしていた。




 ◆◆◆




 青い海と認識できる深度に赤い線を海中に溶かしながら、泳ぐ人魚(マーメイド)が眼中に捉えた海の人種達が暮らす都市へと目指していた。


 水中いるため、血塗れ血みどろという事は無いが、肌が青白くなっていながらも外観、内心共に必死に進んでいた。


 そして、都市ガレテに到着すると、ガレテの民達は突如傷だらけの瀕死の姿で泳いできた人魚(マーメイド)に口と目を大きく開け驚天する。


 そして、その騒ぎを聞きつけて来た憲兵も民と同じように驚きながらも冷静に仕事に取り掛かる。


「大丈夫か!? 君!?」


 今にも力尽き海へと還りそうな人魚(マーメイド)の肩を掴み問う。


「わ、私は……ラテマアの者です」


 掠れた声が途中で力を取り戻しながら言う。


「ラテマア! 深淵の大穴のか!?」


 ラテマアの町はガレテとも貿易をしており、地理的にも貿易相手的にも有名な都市であり、町であった。


 故に友好関係を築いている所の住民が瀕死の姿でやって来た事に緊急事態が起きている事は明らかであった。


「速く、速く、逃げてください! 来ます、深淵の怪物が全てを飲み込む!」


 冗談の要素が全く感じ無い、命を振り絞った声で必死に訴えかけてくる。

 赤い警戒を促す命の輝きが燦然と放たれ、熱をも感じる異様な雰囲気に民も憲兵も唾を飲み込む。


 ラテマアの住民は恐れの焦燥感と伝えなければならない使命感が更に高まるが、体は既に死に体であり、一刻も速く逃し、一言でも多く脅威を伝えようとしていた。


「ラテマアは深淵の大穴から現れた怪物達に滅ぼされ、私は今も続く怪物の進行を知らせるためにここまで来ました」


 一言一言を喋る度に瞳の艶を薄くさせ、少しずつ視線が微妙にズレていく。


「深淵の、怪物達は、、も、ともと、はわ、れわれの、なか、まです」


 声を出すための体力は残り僅かとなったため億劫な途切れ途切れの口調へと変わる。


「おい! 最後まで言え! お前の仲間がどうなったんだ!?」


 憲兵がラテマアの住民の生き残りを強く揺らす。


 その揺さぶりが、ラテマアの生き残りにとっては建物が崩れ落ちた時の揺れと酷似しているように感じ、朧げな意識から鮮明な記憶が流れる。


『キャァアア!!』


 水の中だからこそ、よく響く轟音が耳をつんざき激しい混乱が更に加速する。


 崩れる瓦礫が水の抵抗でゆっくりと崩落するため、なんとか避けられるが、建物を壊した張本人である怪物がこちらに気づく。


 突起物が生えた二枚貝と大王イカを組み合わせたような外観をしており、太い触手が周りの人々を捕縛しようと、伸ばしてくる。


 人々は必死になって逃げようとするが進行方向には眼球が額の真ん中にある大きな口を持った四足の海獣の群れが現れた。


 人々は全員、突如現れた新たな敵に驚き、足や尾を止める。


『うわァァアァあ!! 嫌だ! 化物にはなりたくない! 放してくれぇ!』


 だが、次の瞬間には絶望へと抗う悲鳴が響き渡り、皆、悲鳴の方向へと首を向ける。

 一人の人魚(マーメイド)が胴体を触手に巻きつかれており、現在進行系で〈貝大王烏賊(アビス・アンモナイト)〉の元へと引きずり込まれていた。


 彼はこのまま引きずり込まれたら、死と同等な事になるため、涙を流しながら触手を骨を折れようとも殴りつけているが、人の非力な力では引きずり込む速度は変わらなかった。


『速く! 速ーぁぐ! 逃げてくれ! 俺がみんなを喰らう前にぃ!! 少しでも遠くまでぇ!!』


 彼は間に合わない悟り、死にものぐるいで仲間に最後の言葉を託す。

 せめてでもの抵抗だが、助からない身の自分が今最も願う事であった。


 仲間達は涙の波紋を残しながら仲間を見捨てて行く悲痛に耐え、再び進む。

 突如現れた理不尽な暴力と異変が体と心を傷つけた。


 鱗を削られようが、肌が裂けようが、今も追いかける畏れの化身から逃げるために。


 後ろを振り返れば、仲間が化物へと変わっている途中であった。

 既に化物の瞳は明確にこちらに狙いを定ましている。

 まだ残っている仲間の残骸から読み取れる心情は安心と狂気であった。


 鯨のような音が後方の深淵から奏でられる。


「襲来する怪物達は元々仲間です」


 一部の記憶が使命と活力を与えた。

 しかし、すぐに命の輝きは亡くなろうとしていた。


「怪物達が仲間? どういうことだ?」


 敵は味方と解釈できる言葉に戸惑いが生まれる。


「ごぇが、き、こえ、る」


 生命の限界寸前にラテマアの生き残りが何か認識する。


 次の瞬間、先程の掠れた存在感が嘘のように目を大きく見開き、虚無となりかけていた双眸は暗い光を落し、心臓の鼓動が加速する。


「な、なんだ? 大丈夫か!?」


 ──来た、きた、キタ。


 口が孤を描き始め、安心と信頼に満ちる。

 まるで自分を救ってくれる英雄が助けに来た時と同じような感傷で構成された小さくとも、印象に残る笑みが。


 ──そっちじゃない、こっちだ、同胞よ。


 静かに立ち上がり、慈悲深い賛美ある表情をして、周りに視線を回す。


「|●○◆●●◆◀★☆△▶《血族は多い方が良い》」


 別言語という人類間で通じる枠を越えて、猫や犬という別動物の声として発せられた得体の知れない声がガレテの人々を見つめながら言う。


 ──賛成。


 既に毒が体内にあるような不気味な違和感と強烈な不安がガレテの人々に募り、ラテマアの生き残りから距離を取る。


 スッと立ち上がるラテマアの生き残りは流暢に人の言葉を紡ぐ。


「さぁ、深淵へと還りましょう…………!」


 この明確な言葉と共にラテマアの生き残りは体を異様な形へと膨れ上がらせる。


「逃げ──」


 憲兵の言葉が深淵の怪物に飲み込まれ最後まで言えなかったが、ガレテの人々には十分に伝わったらしく、憲兵が言おうとした言葉通りの行動を移す。


 理解不能な事態にガレテの人々は逃げ惑うことしかできず、憲兵の無惨な姿が脳裏にこびりつき恐怖に思考が支配されていた。


 深淵の怪物となったラテマアの生き残りは逃げた人々の方向へと首をむけているが、追いかけるような事はしなかった。

 冷静な様子で静かに暗い海溝の元へと向かい潜って行く。


 都市ガレテの政府は調査隊を派遣した。

 調査隊は異常が発生したであろう海溝の縁で様々な記録を取っていた。


 闇に染まっている海溝に星空のような光景が有り、星の輝きは様々な色を放ち、彩る。


 美しく、手を伸ばしたくなるが、深淵の怪物が潜ったガレテの調査隊の一人が夜空に手を伸ばした事により、何かに引っ張られ引きずり込まれてしまう。


 打波の音で隠されるよう叫び声は聞こえずに海溝へと落ちて行く。


 しばらくすると、調査隊の一人が隊員一人が消えている恐ろしい事実に気づき慌てて調査隊全員に周知をする。


「何を言っているんですか? 僕はここにいますよ」


 しかし、行方不明になったはずの隊員が不思議そうな表情で存在を主張していた。


「えっ、アレ?」


 ごく当たり前におり、隊員達もおかしそうに彼を見ていた。

 自分だけが違う現実に自分が間違いであったと、混乱しながらも納得する。


「そんな事よりも僕、すごいものをみつけました。さっき少し下の方に潜っていたので、何かだ遮られて、僕がいないと勘違いしちゃうのも無理はありません。で、下の方へと潜ったら発見というわけです」


 微笑みを浮かべながら軽い口調でありながらも僅かな興奮が乗った声で海溝を指差す。


「安全だったのか?」


「大丈夫ですよ、僕が無事だったんですから」


 手をヒラヒラと振り、異常が無い事を示す。


「うーむ、行ってみる価値はあるな」


 特に何も変わらぬ素振りに不安などの思考が回る原因は生まれなかった。


「じゃあ、全員を誘って行きましょう」


 早速と言わんばかりに走って行こうとする海人(シーマン)の隊員を掴み、待ったをかける。


「待て。全員はダメだ。もしものことがあったら全滅してしまうからな」


 不可解な事を調べに来ているため、どんな可能性も否定できないのだ。

 そのため、警戒と慎重が重きに置かれている。

 偵察は多少の危険を冒すが、それは冷静に考えた上での行動と選択だ。


「……そうですね」


 何かを発見した隊員は冷めた声で小さく声を出す。

 叱られたからなのか、興奮の熱は落ち着いたのだろう。

 だが、喉の奥には悔しさが滲ませていた。


「じゃあ、お前と俺と適当な誰かで行くか」


 そして、適当な誰かを呼び三人で一緒に何かを発見した海人(シーマン)の案内で海溝を潜って行く。


「こっちですよ」


 笑みと共に先頭を泳ぐ何かを発見した海人(シーマン)が海溝の奥底へと向かっていた。

 星のような輝きが一層近づいており、手を伸ばせば掴めそうな程、近接感を感じていた。

 星海の魅力が銀河の渦のように壮大に感じる。


 そして、何かを発見した海人(シーマン)が二人の瞳が煌めく星海に支配されたのを見計らって手を差し伸ばす。


「あと少しです。さぁ、手を掴んで。共に行こう」


 慈悲深い婉然とした表情が星のような光と共に煌めく。


 手を掴んだ瞬間、星は歪み渦を巻きながら輝きを増大させる。

 光を宿した瞳孔は輝きを吸い取られるように暗みを宿し、体が透けていき霧のような曖昧な存在へと変わる。

 そして、三人は体を深淵の怪物へと変える。


 だが、一人が変異中に正気を取り戻し、自身の現状に気づく。

 そして取るべき行動は変容する意識の中でもすぐに導き出される。

 残り僅かの正常な魔術器官を駆使して特殊な波動を打ち出す。


「「「「!」」」」


 ガレテの調査隊メンバーは仲間の信号を受得すると、一斉に目を見開き海溝の方へと首を勢いよく回す。


 そして、互いに目を合わせると、すぐに荷物をまとめ一目散に都市ガレテへと向かう。


 海溝から遠ざかると体力的な問題で泳ぐ速度を落とす。


「『助けて』じゃなくて『近づくな』か……」


 ガレテ調査隊のリーダーが小さくとも険しい表情で呟く。

 受得した信号は極めて危険度が高く、近づくだけでも致命傷になり得る事を含んでいた。

 更にこの信号が出た時点で、政府に最悪の災害と伝え事が決定した。


「まったくもって不甲斐ない」


 調査隊としても得られた情報はただ危険と具体性が欠如した仕事失格の結果である。

 加えて隊員三人を失った。

 リーダーとしても調査隊としても責任は取らねばならぬ事になった。


 そして、調査隊リーダの上司に今回の出来事をレポートにまとめて伝える。


「無数の光が点滅していた、というのはどういうことだ」


 調査隊の上司は水紙に書かれた事を一通り読み終わると、気になる場所を質問をする。


「そのままの意味です。色々と予想はつきますが、今これを言うと固定概念になりかねませんので言いません」


 自分の思考やアイデアを他人に通じる形に変えると概念が無意識に固定化されてしまい、別の案が生まれにくくなってしまう。

 できる限りあらゆる可能性を想定しておいた方が良い。


「そうだな。これだは聞いておこう。敵の数は莫大か?」


「……敵かどうかはわかりませんが、多いでしょうね。光の数は千単位はありましたし」


 調査時の光景を思い出し、数えきれない程の数の光点に度肝を抜いた物だ。


「仮想敵と認定するとしようか」


 都市ガレテの安全と安心を及ぼかせている時点で敵と判断して良いが、慎重さは大事なため、実質、敵と想定して対応を行っておく。

 防衛力を上げ、いつでも対応できるようにしておく。


「九分九厘、高位存在が相手ですし、ガレテ様に協力を仰いだ方がよろしいでしょう」


「それもな」


 これから訪れる脅威にため息を吐かざるおえない。

 平和が侵されるというのは頭が痛くなる物だ。

すいません色々とあって投稿する暇が無く遅れました。

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