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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
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心の柱を折る不安

 息を荒げて必死になって泳ぐ人魚(マーメイド)が後ろを振り返ると、巨大過ぎて口の中に収まらない鋭い牙を持つ人サイズはある魚が彼女を追っていた。


「こ、来ないで……!」


 有効な手札が存在しないため、抵抗ができぬ彼女は、ただ全身全霊をもって尾を動かす以外に取るべき方法は無かった。


 獲物である彼女にとっては障害物となる固い水を掻き分け、狩人である肉食魚は獲物の状態を把握する情報の水を読み取りながら、追いかける。


 彼女は全力疾走をずっと続けており体力減少と比例して速度も低下していく。

 人は長い時間、動き続ける事は得意だが、瞬間的に力を出すことは苦手としている。


 だが、自然界の大半の生物は瞬間的な力を効率よく引き出せるように体が最適化されている。

 それは常に命のやり取りをしているからだ。

 速く、攻撃的になっているものは常に生態系ピラミッドの高部に立つこと場合が多い。


 人に鋭い爪はあるか? 

 NO。

 剛刃の歯はあるか? 

 NO。

 極みつけに固い皮膚も鱗も毛も無い。


 自然界的な一般評価は脆い弱小生物。


 自然界で霊長類だから大丈夫だとか思わないようにしよう。


 人類が繁栄できた理由の一つでもある抜群に優れた頭脳を体力不足を理由に十全に扱えていないのが、彼女の現状であった。


「!」


 後ろを振り向かずとも、魚の気配を強く感じる程にまで近づいた時に唐突に魚の気配は消えると同時に星月を唐突に消したような真っ暗な暗闇に辺り一面が包まれる。


 彼女は何が何なのかわからず、自分を陥れる恐怖が思考内から生まれる前兆を感じ、既に自身を狙う魚はいないのに泳ぎ続けた。


(あぁ、いやだ。なにも考えたくない。安全な場所なんてどこにもない!)


 髪を振り乱し、余計な体力を使うというのに腕を必死になって前に出して、一秒でも速く希望を掴もうとしていた。

 僅かな光など一切存在しないが、彼女が諦めない限り希望はあり続けるのだろう。


 そして、突如先程の魚の気配がまた出現する。

 その大きな口を今正に彼女の頭を挟もうとしていた。

 その時、鯨のような基本高音質な音色に低音質の波長が乗った音が届く。


 鳴き声の波動が彼女を噛みつこうとしている魚の姿を変える。

 鱗の光沢を無くし妖精種へと変化する。

 深海魚のつまらない色彩を反転させるように淡く明るい色へと変わる。

 残ったのは輪郭のみであった。


 霊的な存在となった魚は彼女に接触できず勢いそのまま彼女を通り過ぎる。


「な、なにが……」


 確実に食い殺されると思っていたはずなのに予想の斜め上を行く不思議な出来事が起きた。


 妖精になった魚は生きる階層が変わり彼女の視界から消える。


 闇の中に彼女だけが残される。


 魚が周囲を見渡す時のように頭を左右に動かし周囲を探る。


「ここは」


 背負う鞄の中から数種類の砂が入ったビンを取り出し、中身の砂を使い術式を組み立て燃焼反応を引き起こす。

 そして、光の部分だけを増幅させ、簡易的なランプを作る。


 光の指向性を操り上下左右に光線を回す。

 光が当たるような壁や地面などはなく、光は奥に進めば進む程、水中へと溶けて行く。


「そういえば声が聞こえた」


 鯨の音色と共に闇の空間へと塗り変わった。

 この鳴き声は彼女を救ったと同時に新たな世界を作ったため、彼女は鯨のような鳴き声に安堵と希望を見出す。


 胸中に潜む危機感を撫でられるような反感を生む怖気を抑え何かしらの変化を警戒をする。


 心臓の高鳴りが収まった時に簡易ランプの光に波紋が広がり波紋の出現先に光を向けると、空間の穴のような物が出現していた。


 光が若干波立っているせいか、漆黒の穴なのに光の源流のような見た目の穴であった。


 彼女はその穴のような円に光を集中させ覗き込む。




 ◆◆◆




 マーク・カイカ学士だった魚を見つけた隊員は周囲を探索していたら驚く。

 なぜなら突然、視界の光度が上がったからだ。

 半月程度の明かりの景色が満月程度の明かりへと変わり、明確に影を視認できるようにな明るさが視界に広がる。


「ぐぁっ!」


 隊員の目には急な変化についてこられず網膜を焼かれないように目を細め眼球に入り込む光量を調整する。


 すぐに瞳孔を狭め、適切な視界へと変える。

 適切な視界の奥に大型の魚を捉える。


「また、凄まじい見た目の魚か」


 実は探索していて魔魚マークのような見た目をした形容し難い外見をした魚をよく見るようになった。


 今回で三回目の出会いであり、最初は悍ましい見た目に身を竦めたが、今となっては珍魚の認識となっており、笑いと興味を誘う対象になっていた。


 だから、この隊員は嬉々として怪魚に近づいていく。


「うーんおもしろいな。この精神を掻き乱すような見た目、目を離さずにはいられない」


 子供が茶色の排泄物を見て喜ぶ様と一緒であった。

 危ない物程、近づき理解したいという冒険心溢れた自由な思考が隊員の頭を巡っていた。


「あぁ、この調査隊に入って良かった。こんなワクワクするような事が起きるなんて予想だにしなかったからなぁ」


 隣を泳ぐ怪魚の表面を軽く叩きながら愉快な笑みを浮かべる。

 怪魚は隊員の行いを嫌がるように尾ビレを隊員の頭にぶつける。

 隊員は苦笑しながら、叩くのを止める。


 笑って目を細めていた顔の筋肉を緩まし、顔を上げると遠くに人影のような物が現れ、目を凝らすと仲間の海人(シーマン)であることを確認する。


「ん? あれは、ついに発見! おーい俺だ、アマンだ! 探したんだ、…………ぞ」


 跳ねるように手を振るこの隊員──アマンは陽気な声と共に歩みよると驚愕に精神を支配される。

 思考停止と爆破が同時に起きたような幻覚を及ぼす衝撃が走った。


「え、ちょ、どうなって、なんで?」


 アマンの視界に捉えた仲間の姿が全く別物に変わっていた。

 足二本は生えた下半身には変化は無いが、大事な上半身が無かった。

 だが、下半身と上半身の境界部分からは鮮血に染まった骨肉は見えず、血管や骨の断面図をそのまま写し取ったような感じであった。

 それに重心のズレなど無く生気は満ち溢れている動きをしていた。


 それに、歩き方が上半身が無ければできない可動をしていたため、その前提条件からアマンは一つの可能性が脳裏に浮かぶ。


「……見えないけど繋がっているかもしれないな」


 アマンは試しに下半身に近づき、上半身があるであろう空間に手を伸ばしてみる。

 結果は何も接触せずに虚空が存在するのみであった。


「どうなっているんだ。どういう理屈で血が漏れ出ていない」


 骨盤辺りの断面を覗き込み、生命活動が明確に鼓動として見える中身に唸る。


 アマンは何を思ったのか指で肉を軽く触れる。

 毛先に触れるように力を逆に抑える程度の力加減で触れた。


 次の瞬間にアマンは股を蹴られ悶絶する。


「! ! ! !」


 声が出なかった。

 痛みを無くしたいと思うよりも、男として最も大事な部分を案じる憂いるの思いの方が強かった。


 悶える激痛の中でも明るい視界の中に唯一の変化であり、現在のアマンと同じように激しく暴れていた。


 同時にどこからか、爆発で声を出したような絶叫が聞こえてくる。


 そして、痙攣をしながら下半身は倒れる。


「……すいませんでした。二度とやりません」


 アマンは悟った。

 この下半身は理屈はわからないが、しっかり上半身が存在しており、倒れている下半身と結合していることは理解した。


 そしてアマンは体の中身を触ってしまい、この下半身の持ち主は突如として腰辺りから絶痛が生まれるという事態を起こしてしまった。


 体の中身は繊細で脆いというのが基本だ。

 生物が固い鱗も強靭な皮膚を外側には持つが内側に鱗を生やしている生物などいない。


 麻酔無し、予兆も無いため、覚悟も無しで体の中を触られるなど本当にショックで魂が口から抜け落ちる。


 故にアマンは激痛を代償に謝罪をして、反省をした。


 股間を支配していた痛みは元の位置に収まり、起き上がる。


「とりあえず、こちらの存在を相手に伝えよう」


 アマンは下半身をノックするように小さく叩くと、起き上がる足に顔面を蹴られ顔を抑えながらうずくまる。


「なんで……」


 蹴られた場所を擦りながら真っ直ぐと立つ下半身を恨ましげに視線を向ける。


 下半身はアマンの方に向き、地面に文字を書き出す。

 アマンはとりあえずこちらの意図は伝わったようで胸を撫で一安心をする。


『調査隊の隊員だな? そうなら、右足を触れ、違うなら左足を触れ』


 立ち上がった下半身は足を動かし、歪な文字だが、ギリギリ読める字を地面に書いた。


 明確な意思が伝わり合い、アマンは休ませた心臓を僅かな興奮により再び強く働かせる。

 しかし、この興奮により元々高かった気丈が上昇していく。


 アマンは下半身の右足を触り、仲間であることを伝える。


『合流をしたい。この下半身は一度ここに置いておいて、お前は大きく動いてくれ。そうすれば居場所がわかる』


 調査隊各員一つずつ所持している同型種魔術道具(マギアエルガニーノ)方角指標の遠ければ遠い程、中に入っている玉の動きが大きくなるという性質を利用して特定の人物の居場所を調べる事が可能なのだ。

 三角関数に則り計算すれば距離がわかり、場所も正確な情報を求め出せる。


「オーケー、と」


 アマンは仲間の右足をもう一回触り了承する。


 そして、なるべく変化がわかるように走って下半身から距離を取る。


 地面を力強い蹴りにより舞い上がる砂がアマンの足を絡めても全力疾走と水泳による生まれる一種の解放感がアマンの足と魔術器官を軽くさせる。


 アマンは何事にもポジティブな性格をしているとはいえ、現在の状況は極めて特殊で不安を靡かせる環境に包まれているため、気を重くしていた。


 揺れる背中を支えてくれる仲間がいないというのは非常に迷い、光が見えない悩みを常に頭蓋骨の中で回すことしかできなくなる。


 だから、恐怖が帯びる不気味な下半身だけとはいえ、頼れる物であり、助けてやろうとする気概が溢れ出す。

 心が支えられるというのは正にこの瞬間なのだろう。


 時折、不安を思い起こさせる鯨のような鳴き声が聞こえる。


(十分離れたから変化も大きく取れただろう。帰ろう)


 再び恐怖の感情が思考の表面部を侵食し始め、アマンはその侵食に喰われる前に仲間の下半身の元へ帰ろうとする帰巣本能が働く。


 目の前の光景が微かな陰りの幕を落すような感覚を覚える。

 アマンはその陰の幕が壁のように感じられ、きびすを返す。


 振り向き背中を逆に向けた瞬間、振り払っても取れない視線で刺すような気配を感じる。


「……」


 再び重くなった頭を重力に従い、若干前かがみの態勢になったアマンは更に強烈になった帰巣本能で足を動かした。


 行きと同じように素早く泳ぎ駆けるが、足取りは行きの軽快さは失せており、心臓は強く拡縮しているのに血液が上へと昇れなく足で溜まってしまっているような重苦しさが纏っている。


 それでも、希望である仲間の元に帰ろうとする恐怖に反抗する力が足に灯されていた。

 主に柔らかい砂で構成された深海の地面に沈む足を上へと引き上げ、魔術器官が悲鳴を上げる岩のような水圧の中でも魔術器官を稼働量を上げ、かき分ける。


 アマンは深淵の大穴の静かであっても強力な環境下での行動しやすくするコツを無意識に掴み始めており、帰還の速度が微小に上がって行く。


 そして、明るく陰りのある視界の中に静かな佇む二本の棒のような物の輪郭をアマンは視認する。


 アマンに取り憑く重圧がこの瞬間に波が引くように失せて行き、なぜか体のバランスを崩しアマンは走行中に態勢が不安定になり転びそうになる。


「あっぶね〜」


 水中だからこそ、すぐに止まれバランスを取り戻した。


 既に薄く見える距離にまで仲間の下半身の元に帰れたので、足取りは緊張感は無くゆっくりと普段歩くように向かう。


「え、!?」


 現実を疑うような光景が視界に映される。


 仲間の下半身の姿が、異様な形に変わろうとしていたのだ。

 まだ原型はあるが、既に貝のような甲殻物が足に生えており、目を離せなかった。



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