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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
零章 ルティーア編
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深淵の町

 魔王が終焉譚を綴る数十年前に現在の世界が保存しているエネルギー総量が増えた。


 数字的に表現すれば無量大数以上の数字の後ろの数桁が少し増えた程度だが、エネルギー保存の法則という絶対摂理が成り立たない現象が起きた。


 つまり、無から有が生まれた。


 別にこの現象は珍しいわけではなく、有から無となる事も起きるため、世界総量は増えたり減ったりをしている。


 今回はいつものように素粒子以下の微かな量が増えたのではなく、高位存在一つ分が増えた。

 それも高い知能がある高度な生命体であり、魂階層で生まれた極めて特殊な存在であった。


 存在は目覚め上へと意識を向ける。

 かの存在の誕生は海流が滝のように流れ落ちる深淵の大穴と呼ばれる世界一深い海の穴底であった。


「……」


 果てしなく、想像の範囲外のような力が深淵の怪腕となって底から存在の力の一端が漏れ出す。

 だが、その闇は恐怖を感じさせるような圧迫感は漂わせず、警戒心を含んだ優しさを持つ闇であった。


 深淵の大穴の近くにある深海の町──ラテマアにて。


「それでね。あそこのお店の海林檎(ブルーアップル)がとっても美味しいの」


「へー。行ってみようかな」


 海中をゆっくりと泳ぎながら笑い声が人魚(マーメイド)が舞う。

 海中だから、三次元的な動きができる


「現在ミ・ラート第四通りの泡道は点検中ですので、入れませーん」


 海の中でも陸上と同じように生きられるように進化した人種の一つである海人シーマンが泡道の出入り口の前に立ち、立ち入り禁止の看板を浮かせている。


 少し郊外に行けば、彼ら海の人種達の主要食料である〈赤積実〉と呼ばれる赤い実がついた海葡萄のような植物が多く茂っている。


「あんた! 忘れ物だよ!」


「ん? あんがと」


 いつも通りの町並みが続く光景であった。


 そして、前触れも無く底から海中が漆黒に染まる。


 町を覆う光をもたらす結界が淡く包み込まれる程、光を魅了するような闇であった。

 町にところどころ生えている発光能力のある海草が目立ち、その光景は地上にある星空のようであった。

 美しい光景とは裏腹に青色の世界が黒色へと変わり町の人々は皆、騒然とする。


 同時に高位存在である彼女が垂れ流す力の気配を人々は感じる。


 ラテマアの町の会議にて深淵の大穴から強力な気配が漏れ出させている高位存在について話し合っていた。


「町長、こちらから歩み出て接触をはかるというのはどうでしょうか?」


「いや、何が起きるかわからない接触は避けるべきだ。今は様子見の時期だろう」


 積極的に関わって早めに事件解決をする派と慎重になって観察と監視をするべき派の二つの意見に会議は割れていた。


「せめてでも、深淵の大穴の変化などは調べるべきだ。私個人の意見としては高位存在は調べないが、環境の変化などの影響を調べるべきだ」


「では、調査隊のような物を派遣すると?」


 町長の鶴の一声で割れていた会議が一つにまとまる。


「なるほど、確かに今やるべきことは原因を探ることではなく、影響を調べることですね」


 老若男女の議員は一つの方向性へと向かう。


 ラテマアの近くに得体のしれない高位存在が現れたため、ラテマアの町長は調査隊の派遣を決めて深淵の大穴へと遣わす。


 この町が深淵の大穴の近くにある理由は宗教が関係している。

 高位存在を擬人化させるわけではなく自然そのもの崇めるという曖昧で原始的か宗教があった。


 海を崇める宗教なのだが、海の果てしない広大さを崇めるのではなく、海の無限を現すような深さを崇めるタイプの宗教である。


 故に深淵の大穴が近くにあるのは宗教的には良い場所であり、穴があるから少し強めの海流が作物を育てるための栄養が豊富に流れてくるため、農業的には非常に立地が良い場所でもある。


 他にも鉱物資源や生物資源などの様々な深淵の大穴の恩恵を受け平和で満たされた町であった。


 だからこそ、深淵の大穴の変化には敏感であり、詳細に知るべき事項であると深層意識に刷り込まれている。


 結成された調査隊は深淵の大穴へと潜り泳いで行く。


 深淵の大穴は深淵と呼ばれるように限りなく底が深い場所であり、深い穴であるため独特の生物、生態系や地層構造が作られている。

 学術的にも価値が高い穴であった。

 なので、調査隊も普段学術調査をしている学者達が使っている道を使い順調に泳いでいった。


「今、鯨の声が聞こえなかったか?」


 巧みに水流を手足の如く操る一人の海人(シーマン)が周りを見渡し、耳に入った情報を確認する。


「どれ?」


 尾をクネクネと曲げる人魚(マーメイド)は耳を澄ますと僅かに響く甲高い音が聞こえるのを確認すると、軽く驚きながら海人(シーマン)と目を合わせ頷き合う。


「だろ?」


「おお。けど、ちっと懸念が出たぞ。まだ調査隊がいるのは浅い階層だぞ。もしこの音が最深部までだったら相当力を持った高位存在がいるってことだ」


 深淵の大穴の水深は吹雪の源である雲を軽々と突き抜く山の高度を水深に変えたくらいはある。

 基準点をラテマアの町にすると成人男性約六百人を縦に積み重ねるくらいは軽くあるだろう。

 まぁ、その先もあるのだが。


 世界屈指の超深部に潜む高位存在に人魚(マーメイド)の彼は光が一切届かない深淵の大穴に怯え始める。


「それを調べるのが、調査隊の仕事だろ」


 正論に満ちた一言であった。

 大人である彼らは責任という物を知っている。

 調査隊に入ったからには多少の危険は乗り越えてでもラテマアの町のために情報を伝達する義務がある。

 仕事の誇りと責任が取り込まれるような闇が満ちる深淵の大穴に潜る調査隊の勇気の炎の源であった。


「そうだな。頑張んねーと」


 滲み出す不安を押しのけ人魚(マーメイド)の彼は下を向く。


 陸の者達は進む意志を見せた時の形容として顔を上に向けるが、海の者達は顔を下に向けるというのが進む意志を見せる事だ。


「魔物だ! 皆構えろ!」


 深淵の大穴の中部になってくると攻撃的な危険生物達が住む領域となっている。 

 そのため、危険生物達から見れば降りてきた人々は格好の餌である。


 ヒレがクラゲの触手に置き換わったような大きな眼球を持つ魔魚が調査隊の非戦闘員の学者に襲いかかろうとするが、横から鋭い槍の一突きで仕留める。


「学者殿達は真ん中に」


「わかった」


 学者達も慣れたように戦闘員を邪魔させずに後ろに下がる。


「脱水の準備できました。いつでも行なえます」


 水を結界の外側に放出する結界が展開される。


「よし、脱水結界始動」


 調査隊の隊長が発動の許可と命令を出す。


 海の人種は地上でも生きられるが、ペンギンが海での活動に最適な進化を遂げたように、海の人種達も海中の方が活動しやすく、住みやすいのだ。


 急速に結界な内側の上部の海水が抜かれて行き、巨大な魚程すぐに跳ねることしかできない存在へと変わっていく。

 このように弱体化と行動制限をなして、有利な態勢を作り魔物達に止めを刺す。


 深淵の大穴からは危険生物が登ってくることも多いため、減らしておいて損は無いのだ。


 そして、死体の処理を徹底的に行う。

 深海は光が届かないため、音や臭いで物事の情報を得る。

 そのため、強烈な臭いの原因となる死体は処理に気を使わなければならない。



「怪我人や体調不良者はいるか? 少しのことでも言えよ。互いに確認しろ。我々の命は繋がっているのだからな」


 集団行動での行動基準は最も足が遅い者だ。

 そして、感染するタイプの異常を持っている場合はすぐに治療をして隊員全員の体を調べなくてはならない。


「大丈夫です」「特に異常は感じません」「このまま行けます」


 魔物に襲われても恐怖が孕んだ声色は無く元気な声で全員が報告をする。


「全員無事だな。そして、これからのルートだが学者殿と話し合い、本来のルートから少し外れ別のルートへと変更する。詳しく理由はデーレ学士殿が話す。どうぞ」


 女性の海人(シーマン)デーレ学士が隊長の前に立ち説明し始める


「はい。我々が計画していたルートを外れる理由は、まず第一に危険から逃れるためです。先程の魔物の急襲の中にいた、とある魔物の種類が本来なら壁際では無く比較的に大穴の中央部に生息するものなのです」


 隊員達の胸中に不安が誘う。


「これがとある魔物なのですが、見ての通り小さいです」


 鯵サイズの生命力溢れてビチビチと暴れる魚を持ち説明を続ける。


「これは深淵の大穴に住む大型生物の主な餌にもなっています。つまり、これを追って大型の生物も近くにいる可能性が大きいので、なるべく危険は回避したいです。だからルートを変更します」


 小型の餌を追う中型を餌とする大型となるように連鎖的に危険が近づく可能性が少なくない確率で起こるため、現在のルートである壁際のルートから外れる事を選んだ。


「ルートについてだが、事前の打ち合わせをした海流が最も強いルートにていっきに進む。誰一人はぐれないように固まって移動する」


 隊長がこれからの道のりを話していると、隊員の一人が手を上げる。


「質問があります」


「なんだ? 言ってみろ」


「帰りのルートはどうするのでしょうか。帰りは海流に逆らう事になるので、通常通りの壁をつたって登るというのは難しくなりました。ですのでどのように帰るかここで詳細に決めるべきかと」


「安心をしてくれ。深淵の大穴にも海流が登る場所があるだろう? そこを行きと同じような形で通る予定だ」


 深淵の大穴は流れ落ちる海流の方が多いが、流れ出す海流も存在はしている。

 出入りの海流の差分はどこに行ったかと言うと、まだ解明できてはいない。


「わかりました」


 質問をした隊員は納得して頷く。


 そして、潜水を再開する。


 荷物を中心に固まった調査隊は下方向に流れる大河とも言える海流に乗り下っていく。


 様々な力が入り混じる海流では無く、極めて一本の力の方向が強い海流であった。


 ただ、隊員達は若干ながら不安と恐れを抱いていた。


 現在調査隊は僅かな光も発しておらず、完全な暗闇に包まれていた。

 光を発さない理由は光に誘われた凶暴な危険生物の脅威から避けるためである。

 あるのは海の種族の優れた感覚と感知魔術のみから得られる情報。

 それでも彼らが最も頼りにしている情報収集器官は光を利用する視覚であった。

 目を開いているのに目を閉じている時よりも真っ暗な視界に目を背けたいが、どこを向いても同じ景色であった。


 調査隊の隊員達は互いの心臓の鼓動が鮮明に感じられ誰もが不安をはね除けようとする強い鼓動がわかり、調査隊は一体感を生み出している。


「中和術式使用」


 隊長が海流の流れを中和して一種の浮力のを作り出されることにより、その場で移動をさせずに固定させる魔術の行使を命令する。


「「「……」」」


 本来なら隊長の命令を復唱して間違いが無いか、確認するが音も出さないように黙って中和術式を展開させる。


「消音結界使用」


 学者の一人が隊長の命令に沿って結界内から生まれた音を結界境界部にて消滅させる結界を広げる。


「これより、潜水限界を越える」


 潜水限界とは海の人種が健康に潜れる限界深度のことである。

 潜水限界は個人によって変わるが、大まかな深度はわかっている。

 潜水限界を越えると低深病と、呼ばれる身体異常を訴え始めるのだ。

 あまりにも重い水圧の中を泳ぐ疲労と魔術器官の負担、底に集まることにより濃縮された毒物の吸収による害などが主な原因である。


 陸上で言うと、高山病に近い立ち位置と症状である。


「魔術器官、体調に違和感を感じたらすぐに言え」


 魔術器官とは魔術的な効果を生み出す身体器官のことだ。

 心臓が血液を循環させるように、魔術器官が属性を操作し術式を組み立て身体活動などを補助する。


 海の人種は魔術器官は液体支配や水圧や光が少ない深海などに適応と対抗をする魔術器官だ。

 この器官があるから、海の人種達は海中を何一つ障り無く自由に水中を泳げるのだ。

 不具合をきたしたら、海中では致命的にまずい。




今回は過去編である零章です。

長めの零章になります

5章はまだ先です。

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