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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第四章
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魔王の終焉譚

「フィオナ、少し邪魔な虫が入ったから、黙らせてきた」


 無傷無壊の健在な姿のユーハが笑みを浮かべながら、リーペの城の謁見の間にいるフィオナの前に戻ってくる。


 疲労で鈍くなった様子は無くいつも通り確固とした余裕に満ちる雰囲気を纏わせてフィオナの前に立つ。


「そう、うるさそうな虫だったわね。……決めたの?」


「あぁ、決めた」


 フィオナの掲示した選択肢はどちらも強い覚悟を必要とする物だが、ユーハは軽い。


 フィオナもそんなユーハを見て、小さく微笑む。


「そろそろ終わりにしようか」


 選んだ選択肢はフィオナの殺害。

 だが、ユーハはそこに一つ付け足す。


「でも、君も僕を殺してくれ。僕一人だけ残るなんて無理だ。それに少し疲れたから」


 フィオナが隣から消えたら何を支柱してこれから生き続ければ良いのかがわからない。

 無限に続く転生は地獄そのものとなり、全てを破壊するまで止まらない破壊神となる未来が訪れるのは明確だ。

 ユーハはそんな未来要らないため、ここで終わらせたかった。

 もしかしたらフィオナが死因なら輪廻転生が終わるかもしれないからだ。


「うーん。……ユーハも頑張るし、私も最後くらいは頑張る」


 フィオナもさすがに悩みを抱えるが、ユーハの要求はユーハにとっての救いでもあることを理解し、了承する。


 成功するか不安が湧き上がるが、それはユーハも同じだ、ある意味心が通じ合っている。


「長い旅だったなぁ」


 剣を研ぎ、これまでの人生を振り返る。


「そうね。ユーハの故郷の村から出て長い旅だったわ。フフフ、あの時からアナタはずっと私についてきたわね」


「仕方ないだろう。何をやらかすのが心配だったんだから」


「もう、大丈夫だって」


「世界壊しているから説得力は無いな」


 ユーハは『やれやれ』と嘆きのため息を吐き、フィオナは『まぁ、いいじゃないか』と明朗に笑う。


 やってしまった物は仕方ない。

 世界を滅ぼすは仕方ないでは済まされないが、責任を取る方法も無いため、仕方ないのだ。


「なかなか、良い感じの死に方ね。愛する人と共に死ぬ。昔はよく劇で恋愛物見てたっけな」


 恋愛は人を狂わせ、大きな変化を生む。

 実際自分もそうであったし、一層恋愛物の物語に嵌る。


「感動的だな」


 今の状況はまるで物語のようであった。


 長く連れ添った男と女が暖かな陽射しさす廃墟に鮮やかな色と黄昏の如く魅力を付与している。

 朽ちて行く二人に相応しい世界観であった。


「アハハ。でも、アナタが言っていた事は『貴方を殺しても私も死ぬ!』って狂人の役が言っている事と同じよね」


 フィオナはおもしろい事に気づき、いつものように気分良さげに笑う。


「感情が含まれているということは否定はしないが、別に狂っている訳では無い。ちゃんと考えた末に答えを出した」


「良かった」


 いつも通りのユーハの冷静で真面目な回答にフィオナは安堵する。

 もし、ここで感情に染まりきった声を出していたらとてもじゃないが安心できない。

 逆に無駄に感情を無くした機械のように導き出した声であってもだ。

 ユーハの僅かな変化を見逃す程、狂気にそまりきってはいない。


「最後だけど後悔することは無いの?」


「後悔はこれまでの特異点達かな」


 懐かしそうに表情を緩めるが、僅かながらも罪悪感が含んでいる。


「たくさん地獄に誘い落としたね」


 喉で笑いながら、人聞きの悪い事を言う。


「地獄ではない、運命の穴だ」


「波乱万丈のね」


「まぁな」


 今までの特異点は言葉巧みに荒波渦巻く運命へと導き誘った。

 誰もがユーハを信じて覚悟を決めた表情をして穴に自ら身を投げ入れる。

 教唆と同じ行為なため多少心は痛むが、せいぜい罪悪感程度の痛みなため他人事のような形だ。

 なるべく良い結果にしたのだから、少しは責任は取れているはずだ。


「……今回の特異点はかなりキツイだろうな。贖罪として何か送るか」


「最後の置き土産と言った物かな」


「そんな物だ」


 並行世界から生きているハトラを呼び出し、一冊の本の形へと変える。

 ハトラはユーハがこの世界に生まれ落ちてしばらくして作った存在だ。

 目的は便利な駒扱いなどもあったが情報収集の役目もつけていた。


 ハトラは世界のあらゆる事を知っているはずだ。


 故にこの本は世界のあらゆる事を記した万覧書だ。

 そのままでは情報が箇条書きになるだけの大変読みにくい物なので読みやすいように手を加えた。

 情報量に本の厚みと広さが合ってはいないが、そこは次元を変えれば無限に記せる。


 ハトラの精神は消してあり情報収集だけ能力を残したから、いつの時代でも扱える。


 表紙も少し特殊な金属などを使うなどしてデザインを拘った一冊の本とおまけで腰につけられるように鎖とフックをルアザの元へ送る。


「さてと、……やるか」


 剣が研ぎ終わり、良く切れる得物を握りしめる。

 そこに覚悟などという不要で無用で不必要で邪魔な力みを生む物はいらない。

 これは自分より圧倒的に巨大な敵や成し遂げなければならない大いなる試練などに挑戦するわけでもないからだ。


「……最後にキスしない?」


「構わない」


 フィオナの顔を改めて見る。

 華やかな花を思わせる妖艶な美しい顔は相変わらずで、生命の証でもある酸素を多く含んだ明るい赤い髪に深い知性と浅い悪戯心を感じさせる緑の瞳を持つ自分の魔女。


 ユーハの顔を改めて見る。

 少し張りつめた凛々しく精悍な顔は相変わらずで、火を着火させれば炎が昇りそうな炭を思わせる黒い髪に孤高の狼が持ちそうな月浮かぶ黄色の瞳を持つ自分の英雄。


((相も変わらぬ顔))


 ユーハはフィオナの唇に無痛無臭無味の毒が塗られている事に気づく。

 蠱惑的な艶めかしい魅力の香りを豊潤に漂わせる魔女の唇であった。


 フィオナはユーハの持つ剣を見る。

 鈍い光沢を靡かせる鋭い切れ味を持つ剣である。

 歴戦練磨を体現した傷は勲章と言える程の英雄の名剣と言っても相応しい。


 ユーハがフィオナの顎を優しく触れ互いに目を瞑る。


「「愛してる」」


 唇が重なると同時に鮮血が重なる。


 互いの口内は生命を燃やす熱で溢れた真紅の水が混ざり合う。


 背中を貫通し胸を貫き、二つの心臓を射ぬく。


 痛みは無い。


 痛みは消える。


 自分達の熱だけが重なる、体を交え合うよりも一体感に満ちた感覚に浸かる。

 性快楽という異物の無い、純粋な愛情に満ちた心が温まる幸せであった。


 垂れ落ちる血液が黄昏時の影のように伸びる。


 崖縁に枝木を大きく伸ばす樹木に実る橙色の光の香りを放つ実が数多の星覗く川流れる谷底へ落ちていく。


 これにて、とある魔女と英雄の物語は閉幕です。


 完




 ◆◆◆





 夜の天の川に落ちた実を光を飲み込む大魚の大顎の如く魔神の王が喰らう。


 魔神の王は長年追い求めていた伝説の黄昏の実をついに見つけ出しその実を口にした。


 伝説の実に相応しい溢れ出る果汁と引き立つ香りに魔の王は爆発的な絶頂に打ち上がる。


 進化の秘宝を取り込んだこの大魚はもう陸上では飛び跳ねることしかできぬ下等の魚類のような何もできない存在ではない。


 星喰らい、光は腐り、闇黒い威明放つ絢爛贅麗の花が咲く。


 魔神の王改め魔の王が暗夜と共に光臨する。


 ガルトの謁見の間が闇に染まり、美しく壮大に染め上げ飾る。

 要塞の役目は消え、新たに生まれる艶めきは光を惚れさせ己を飾る一部となる黒曜の城へと変化する。

 黒夜城の完成だ。


「我が眷属共よ、集まれ」


 魔王の無限に溢れ出す墨汁のような影が起き上がり、その身を受肉させ、頭を垂れて跪く数多の魔神達と悪魔達と魔物達が現れる。


 今広がる光景は魔族から見れば力があるという証拠だ。

 普段は自己中で騒がしい魔族が音の原因も生み出さず静寂を作り出すということはそれだけの力があるという事だからだ。


 闇のように静かに蠢く。

 これを如何にして高度に体現させるかが魔族の実力者の程度を決める。


魔王の正義(ミカルエ)御身の前に」


 三対六翼の翼をできる限り小さく畳んだ美麗な顔貌を持つ魔神が代表して報告をする。


「我の正義はなんだ? 言ってみろ」


「自由と力であります」


 魔王の正義(ミカルエ)の即答は魔族の存在意義にして絶対意志である。


「ここ最近、不自由であっただろう?」


「はい」


「喜べ。楽しい時代がやってくる。自由と平等が誇る大いなる楽しい時代がな」


 その言葉を聞いた地面に向く魔王の正義(ミカルエ)の顔は涙を流しそうに瞳に水を蓄え、感動の賛美を放っていた。


 魔王は玉座から立ち上がり開眼する。

 フィオナとユーハを組み合わせたような明るい凛々しさの中に惑わす影のある幻光が纏う容貌と容姿を際立たせる。


「まだ笑っているか?」


 波紋を生み出す一滴の雫の声が響く。

 同時に波が風を巻き起こしながら水面を疾走する。

 闇を払うような光の吹雪ような何かが。

 変革を感じる次代の風が。


「己の意志が現実に反映しない不自由な思いをするものよ、機会が来ないから己の力が扱えないものよ」


「我も汝らと同じだった」


 かつて、圧倒的な力を持つ属性、新たなる神が生まれた。

 かの神は知性を持ち、己より先に生まれた三神と同じように己を世界に組み込もうとした。

 そうすれば、先の三神のように世界を我が物にできると思ったからだ。

 決して異物の無い純粋な思いでの行動と選択であった。


「抑える事ができない真に無垢な意志と力が異物が砂利のように混じる汚れた意志と力によって砕かれても、不敵な笑みを失わない者共がいる事を知り、通じる」


「今も淵にいながら笑みを浮かべる汝らに与えよう」


 魔王は拳を床に叩きつけると床は砕ける事なく揺れる。

 波動は力を衰える事は無く世界へと広がる。


 この瞬間、魔王から解放の波動が放たれ世界中に封印された一般的には魔神と呼ばれる悪なる存在の封印が解ける。


「自由に。在るが儘に。力を振るえ。生まれる抵抗が汝らを襲うだろうが屈するな」


 厳かな声で静かに前奏曲を奏でるように静かに語る。


「後悔無く生きろ。満足するまでもがき続けろ。それが全てを失っても世界を滅ぼすこととなってもだ」


 演説するかのように迫力が噴火の如く放たれる。


「霊長なる古きもの共よ聞け」


 天に顔を向け、青葉のように生気溢れる揺らぐことはない瞳が天の彼方へと視線を固める。


「創造と破壊を司る星神(ルシフェル)が宣言する」


 かつて、第四の神として、始まりの【魂】属性として生まれ、世界に新たなる始まりを与えた大存在が大きく見開いた双眸で天を見上げ口を開ける。


「お前たちの審判を終わらせることを!」


 天に浮かぶ雲は雷光を轟かせ魔王に向かい落ちるが、魔王が放つ雷光以上の轟く気迫によって返され雲は大きな穴を開ける。


「最後の審判を!」


 勢い良く手を広げると右には神々しい音響を描く光が生まれ、左には禍々しい波が収束する恒星が生まれる。


 右から生まれる黒い影と左から生まれる白い影が魔王の体を包む。

 そして、門が開くように影は分かれ、先の世界が見える。

 先の世界は魂階層の向こう側である創世の階層。

 概念と属性が支配する世界の初期に近く根源の世界であり審判を行う裁定者が居座る位階だ。


 魔王は審判の門の先に立っており、不敬でありながら婉然とした笑みを浮かべていた。


 平和な法が蔓延る時代は魔王の意思により終わりを告げる。


神龍(ウロボロス)! 巨神(パンゲア)! 神霊(オゾン)! お前たちの創世記は(魔王)の終焉譚に変わる!」


 創世記を綴る三柱の神々の位階へと至る鍵を手に入れ扉向こうに足を踏み入れた。


 無数の世界を渡り歩いた永劫の転生者であるユーハの強靭な魂と数多の世界を滅ぼしたフィオナの不滅の器を我が物とした魔王は終焉譚を綴りはじめた。

ユーハとフィオナの物語はタグ通り『なるべくハッピーエンド』ですね。




これにて第四章は終わりです。

読者の皆様にはこれまでご覧になっていただき感謝致します。

感想、ブックマーク、高評価をいただければ作者のこれからの執筆活動の励みになります。

次は五章です。そろそろヒロイン候補出そうかなと考えておりますので。お楽しみに



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