無双境地
続く戦いの中、世界は壊れた。
世界がまた滅んだ後、また別の世界へと移動していた。
そして、また滅んで、滅ぼして、また移動。
これを何度も繰り返し、世界そのものを武器や盾にしていった。
未来の数だけ過去の数だけ世界もあるため世界などいくらでもある。
属性の組み合わせの数以上にあるのかもしれない。
価値のある貴重な世界だけを避ければ良い。
世界を粘土のように使う事も二柱にとっては名前など存在しない当たり前の力。
酷い事をしているように認識できるが、それは立ち位置の違いによる認識の差。
限りなく高次元で深階層に立つ二柱にとってはあらゆる物が矮小となる。
優れた絵画を書くときは何度も絵を消して、やり直し、書き直したりしているだろう。
それと全く同じだ。
そしてとうとう二柱は未来はまだ未定な時間軸上で最も先にある最も新しい世界へとたどり着く。
二柱レベルになると未来などいくらでも千里眼以上に見えるから未来の限界に近い位相にいた方が良い。
未来が多くあるということは観測できる情報が増えるということであるため、戦争と同じように自分の情報はなるべく少ない方が良い。
最先端の世界だが、世界を飾るための植物や海の位相の波動が届いておらず、光で構成された世界であった。
「ついにここまで来たか。なぁ、お前はなぜ力を求める」
何も存在しないつまらない世界を一瞥しながら、戦いの中芽生えた疑問を問う。
「なぜ力を求めるか、か……。それは欲しいと思ったからだ。成長したいというやる気が出た。だから、求める」
剣を重ね合いユーハは魔神の王を間近で改めて見ると、妙に目を離せなくなる迫力が魔神の王にはあった。
心を持つ存在であれば、熱意とも言えるやる気の有無がある。
ユーハが魔神の王から目を離せなくなる理由は熱意により生まれる生きた輝きが美しいのだろう。
「どんな存在にも負ける事はありえないのに?」
間合いを調整しながら、近づいて離れるを交互に繰り返し、剣戟に大きな波を作り敵を揺らす。
「クックック。それは敗北宣言か?」
魔神の王はその波を打ち消すように近づいたら自分も近づき、離れたら自分も離れるを行いユーハの思惑通りにはさせない。
「追い詰められているのは実質こっちだからな」
ユーハと魔神の王は持つ背景や状況や実力が違い結果的には互角の状態となっている。
実力的にはユーハが上だが、状況的には魔神の王が勝っている。
「お前を乗り越えた瞬間は我が栄光が約束される。そして、我が徐々にお前を攻略しているのがわかるぞ」
不敵な下から這い上がり下剋上をしてやろうという気概に満ちた愉快な声であった。
「それは見誤っているな。こちらにとってはこの戦いはただの時間稼ぎにすぎない」
上にいるユーハは下から上がって来る魔神の王に脅威を感じなかった。
なぜなら、切り札はまだ持っており限りなく世界の頂点に立つため互いに成長の余地は何かきっかけがなければ大きく離れる事は無い。
相手を叩き落とすしか実力の差を生み出せないが、そんな隙を晒し、晒しても対処できぬ程にまだ余裕は失ってはいない。
どちらも結果的には完全な拮抗状態であった。
「またそれも一興。我は今楽しいのだ」
一つでも間違いを選択すれば即死という命をかけたやり取りは新鮮感に満ちており、命が失うという危機感はストレスには感じず、逆に美味く盛り上げるスパイスと化している。
賢者の三神以外で最も長く生きている魔神の王は身につけた知恵と実力が十全に発揮されるのは初めてだった。
気まぐれに眷属を生み出して、多少はマシになったが、何も生み出さない、何も減らさない、虚無的な生に支配されていた。
「俺はめんどうだ」
重い曇り空のような態度でそう言う。
早く死ねとも伝えているが、魔神の王の行動は変わらずに愛するユーハに近づき、さみだれ斬りを放つ。
「何事も楽しめ。魂を震わせろ。自分に喝を入れてみろ」
敵なのに敵を応援し、アドバイスするような発言にユーハは怒り覚えて来る。
ここまで極まった命のやり取りなど、御免被る。
何事も楽しめ? 趣味無いのか貴様。
「死を初めて経験させてやる。楽しめよ」
鼻で笑いながら、魔神の王の発言から考えたどちらもメリットのある案を行う。
「フフフ、できる物ならな」
大きく弾かれた魔神の王はユーハがついに切り札を出してくるのを確信し、予想する。
十中八九、自分と同じ切り札であることを。
ユーハは手の中に周りの光から物質を構築しその中にある【魂】属性に核分裂による爆発と同じ仕組みで小さな【魂】をぶつける。
〈魂の解放〉
爆発が起きる。
ただの爆発では無い、無限に光が膨張するとか言う低次元な爆発では無く、絶対的な理の支配から解放された爆発だ。
暴君の圧政から解放されて喜びを弾けさせる民衆のような爆発が、魔神の王の強靭な肉体を削り取る。
魔神の王が再生に時間をかける明確なダメージを与える。
魔神の王は失った体力を取り戻すように、胸に穴が空き、明々と輝く【魂】属性の玉を作り出し心臓が跳ねるように玉は震えると、艶も照り付かない黒い玉へと変わる。
〈魂の支配〉
引力が発生する。
どんなに速く移動する物も皆平等に周囲にある全物質が渦も巻かずに真っ直ぐに黒い玉へと集まる。
強力な引力にユーハは逃げ切れずに腕一本が引き伸ばされて千切れる。
「やはり、【魂】属性の領域にいるか」
ユーハは多少労力をかけて腕を作り上げる。
「そうだ。歓迎しよう我が位階へ」
胸を閉じて、腕を広げる。
【魂】属性。
かつて世界は形が無く属性という概念体の塊であった。
そこに【魂】属性が現れ世界を傾けた、世界の危機第一回の原因でもある。
神霊、巨神、神龍の三神は大きな塊であった【魂】属性を破壊してバラバラにした。
そして、【魂】属性には周りの属性を自分に集めるという引力を持つ性質があった。
【魂】属性が周囲の属性を繋ぎ止める核となり、一定の密度と大きさを持つとそれは物質と呼ばれる塊となった。
空気中に舞う埃が核となり、雨や雪になるように。
形が無い世界に形を与えた属性が【魂】属性であり、【魂】属性の階層が生まれその階層を魂階層と言う。
だが、【魂】属性は元々一つの属性であった事もあり、元に戻ろうとする性質が生まれた。
この副産物により【魂】属性を活性化させ周りの【魂】属性と共鳴し物質や属性に影響を与えられる現象が生まれた。
そして知恵ある生命体がこの属性や物質の影響を与える現象を自らの意思で起こせる事を確認した。
なぜ、意思だけでそんな現象を起こせると言うと魂階層は最も深く存在するが、少し特殊な階層であり、全階層に魂階層が重なっているからだ。
これは形がある物は全て【魂】属性を持っているためである。
意思もまた形となる。
これが魔術の起源だ。
そして、ユーハと魔神の王が行った技〈魂の解放〉と〈魂の支配〉は魔術の根源である【魂】属性そのものに干渉する、魔術で可能な事の最終地点だ。
最も深い階層で最も高い次元の術だ。
魔術の深淵を覗くばかりか、手中に収めたのだ。
「自分が初めてか? 同じ立ち位置に立ったのは」
「いや、正確にはつい最近、小さいが我と一緒な存在が生まれた。だが、微生物同然の力しか持たぬため、対等とは認めない」
十数年前に魂階層生まれの生物が誕生し、魔神の王を含めると世界で二体目だろう。
魔神の王は微生物と表現するが、一般的には神級の高位存在並みの力は持っているだろう。
「同族嫌悪か?」
煽るように微生物と神を一緒にする物言いをする。
「同族とも認めない。だが、可能性はある。その程度だ」
同じ星に生まれた存在だから一緒というのは流石に認められない差だろう。
それと同じ感覚だ。
魔神の王は実験動物を観察し評価するような僅かに興味を持っているようだ。
「だが、我はお前を対等と認める」
「わー、感激だぁ」
棒読みでバカにしたような声で卑劣な程、興味の無い本音が露わとなった反応であった。
ユーハは異世界を渡り歩くという全存在最高の場所を歩んで来た。
だから、所詮は形を与えただけの魂階層にいても光栄だとは大きく思えない。
魔神の王も世界にも愛情が無い冷めた心がユーハを著しく哀れに感じる。
「勝ち続けた敗者といわんばかりだな」
重いため息が〈魂の解放〉となるように魔神の王の手から放たれる。
爆発の威圧がユーハを襲う時にユーハは運動【魂】属性を止め完全停止させる。
〈真・絶対零度〉
止まる。
魂力の共鳴が互いに動くのを止め形ある物が今の状態に固定化される。
エネルギーの供与が止まる。
属性の波は止まり、ユーハの周りに近づく事は無かった。
「疲れるな……」
万物の運動が停止した中ユーハだけが無事な空間でユーハは精神を摩耗したかのように小さく弱音を呟く。
〈震・魂核頂熱〉
魔神の王は指を鳴らすと音響が魂力に乗り増幅する。
振幅は巨大化し周期も加速していく。
そして、究極の衝撃波を撒き散らさない〈魂の解放〉にはならないギリギリ物質を保てる莫大なエネルギーが周りに放射され伝搬される。
ユーハの〈真・絶対零度〉の伸びる凍結の領域と魔神の王の〈震・魂核頂熱〉の加熱の領域が触れ合い混ざり合う。
運動の停止の理と加速の理が混ざるとちょうどプラマイされ通常の状態が生まれる。
今現す状態が二柱の状態を表すようであった。
「一筋縄でいかんな。それに余裕は無い……名残惜しいがこの辺りで終わろうか」
魔神の王は周りの物質から【魂】属性そのものを抽出する。
己の体に取り込み戻し自分自身を強化し体の構成割合を【魂】属性に偏らせる。
加熱領域を無傷で通り抜け凍結領域に入る。
そして自身の周りだけ〈震・魂核頂熱〉を放ち停止解除がなされた空間を作り出す事によりユーハと相対する。
ユーハも【魂】属性を抽出して己の体に纏わせて絶対領域を作り出す。
「ここで終わりにしよう。全てを」
魔神の王が拳をユーハに向ける。
勝利を託す渾身の力を込めた全身全霊の握り拳であった。
ユーハは【魂】属性が渦巻く絶対領域に拳を粉々に砕こうとするが、【魂】属性が込められた拳をそう簡単に砕く事は不可能であった。
ユーハの最終防壁を貫けるか、魔神の王の最後の一撃を砕くか。
稚拙な最後に見えるが、ここまで来ると全てを吹き飛ばす大技は必要としない。
ただの強弱が結果を決める。
賢いユーハがなぜこんなにもリスクのある判断をしたかと言うと単純にこれ以上戦えば危険すぎるのもあるが、最も重要なフィオナの選択を決めたからだ。
早めに戦いを終わらせて感情さえも考えたフィオナに答えを伝えたかった。
だから、多少危険でも真っ向勝負に出た。
既に勝利の方程式は組み上がっている。
「我が勝つという結果でな!」
魔神の王は勝利の過程が見えている。
ユーハとフィオナを喰らい、更なる高みに至る瞬間を想像する。
鮮烈な期待感と活力が湧き上がる。
体に勢いを乗せる追い風が吹いている。
互いに啖呵を切り、真実へと変えるのみであった。
虚構の生まれぬ世界線を想像したのはどちらかだ。
まず最初に魔神の王の拳が砕け散る。
ガラスが割れるように【魂】属性を煌めかせて。
だが、これで良い。
割れた破片の形からユーハはどのようにして【魂】属性の壁を構成し流れているのかわかる。
どんな物にも短所はある。
自分の体をその短所を突く構成へと変えて勢いのまま突き進む。
それでも体は割れる。
何億年もの貯めてきた力がこんな一瞬で失っていく。
代償は高くつくが最低限の利益は得れている。
あまりにも減っていく力に精神的なダメージさえも受ける。
だが、ギラギラ煌めく自分の進む意思が回復し、永久機関ができたような晴れ晴れとした気分であった。
対してユーハは確実に迫っている魔神の王の必殺の一撃に恐怖を覚えるが、強靭な意志が恐怖を支配し、纏う壁が一層強固となる。
武器庫に残る最後に残った刃は削れ、背水の陣となった盾はへこみ薄くなる。
結果は言うとユーハの盾が一本の武器となった魔神の王の体を削り終わらせた。
ここまで来ると単に力の上下強弱で勝負が決まる。
ユーハの方が体力などの総合エネルギーや技術力の方が大きかった。
だが、魔神の王が負けた理由もある。
最後の勝負は技術力よりも総合エネルギーの方が勝因となる。
ユーハはもちろんこの展開を予想して魔神の王の力を削り取り調整していた。
相手を楽しくさせ、止まらせぬようにと。
概ね計画通りにいった。
魔神の王はユーハとの戦いの前にほんの僅かだけ、自身の欠片を隠していた。
小数点の後ろのゼロが何十個も続く程の割合を分けていた。
魔神の王の目的は至高の戦いではない。
もちろん戦いも楽しかったが、真の目的はユーハの魂を喰らうこと。
戦い自体は負けたと言っても良いだろう。
戦術ではユーハの勝利。
戦略では魔神の王の勝利。
ここまでのインフレはもう無い予定です。
本来ならもう少し技の応用や騙し合いをさせるような展開にさせるつもりだったんですが、ここまでの戦いに至ると、回避不可能な全体攻撃が基本になり単純な強弱で決まる戦いになってしまいました。
工夫で勝つというのは、工夫で補わなければならない何かしら欠点を持っているのでユーハと魔神の王には当てはまりません。
どっちも弱点は無く完璧ですから。




