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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第四章
78/149

回天之力

 復活をした魔神の王と油断の無いユーハは相対する。


 二柱は剣を構える。


 二本の剣はどれも至高の一振り、故に同じ形となる。


 早速二柱は互いに飛びかかり、金属がぶつかり合う音を響かせる。

 その響きを増幅させ、刀身に細かな振動を作り出し少しでも切れ味を上げる。

 必要とあらば響きを更に増幅させ空気に大震動を与えて衝撃波を生み出す事も可能だ。

 それ以外にも細かな波動を生み出して様々な現象を起こす事も可能だ。

 実際にユーハと魔神の王は剣が当たる度に放射線であったり、量子的な波動だったりと、様々な波動を放っていた。


 流水のように互いの攻撃を受け流し、崩れる氷河の如く怒涛な攻撃を行う。


 方や生まれた時から世界の頂点に居座る絶対王者。

 方や生まれなど幾億の数を経験した無限の永遠者。


 どちらが優れた存在かは一目瞭然だ。


 困難を乗り越える経験の数が優れた者を決める。


 妙齢を重ねたユーハの斬閃が魔神の王の体を切り裂く。

 ユーハは喜ぶような表情をせずに的確な次の行動に移すと、剣に重なる幾万の剣が出現する。


 魔神の王は不思議な気分に襲われる。

 自分の思い通りにならない、自分がそう願い、動き、形にするのは常に容易いはずなのに形とならない。

 どんなに繊細な調整もどんなに大胆な芸当もできる漆黒に見える体が動かない。


 眼前には二万九千六百七十二枚重なった一振り約三万枚の攻刃が向かっていた。


 ──ひっ……。


 刃の嵐に切り刻まれる。

 肉体に巻き込むように途切れのない連続的な動きをするため、魔神の王は挽肉を回転させて更に細かくされたような状態であった。


 そして、魔神の王の再生が停止した瞬間辺り一面が暗くなる。


 太陽を掴むような黒い巨身の拳が振り下ろされていた。


 ユーハは約三万の刃を解放し拳をみじん切りにするが、空一面を覆い尽くす巨大な手には三万では心許無く、すぐに再生される。


 だが、再生される一瞬の時間でユーハは幾億の刃を作り出した。

 拳は幾億枚におろされて雲が散るようにバラバラな残骸を残す。


 だが、残骸が急速に膨らむと爆音と共に衝撃波を辺り一面に放つ。

 烈風が吹き地面を剥がすような風圧の中、気配を消した魔神の王が空気から生えるように現れ剣を突く。


「無駄な事を」


 烈風を射抜く刺突を最低限の動きで避けして腕を獲物に飛びかかる蛇のような魔神の王でさえ、残像を見えてしまう速度で貫く。


 崩壊の呪いが魔神の王を侵食し風化するように輝きは褪せて行く。

 ユーハの攻撃の一手、一撃は必殺と言っても良い程の高い攻撃力を持っているが、あまりにも簡単に魔神の王を貫けた事に違和感を持つ。


 今の貫手は速度重視の重さの無い突きであったため、違和感は疑問を抱かせる情報へと変わる。


 脆い、弱い、遅い、下手。


(全力を出してないな)


「引きずり出してやる」


 消滅寸前の魔神の王の体を掴み取り固有魔術の〈権限所持インターフェース〉を使用する。


 〈権限所持インターフェース〉の効果は使用者が認識できる別の物に接触ができる効果だ。

 自分の影響力を伸ばすような効果を持つ。


 説明した通り単純な効果なため、応用範囲は自分以外の全てと言っても良い。


 この魔術はあくまでもあらゆる物を接触する程度の力しかない、そこから先は使用者の実力が委ねられる。


 だが、今回の使用者は無数の世界を渡り歩いて来た神如く存在だ。

 接触した瞬間に支配するなど、容易いことだろう。


 魔神の王の欠片と繋がる大元を見つけ出し自分と結びつけあらゆる手段を用いて出てくるように促す。


 余裕で世界を傾ける程の力の集合体である事はユーハも理解している。

 力の王にして魔の王とはこういった存在なのだろう。

 それでも引き出す、恐怖を覚える程の膨大な力は己の意思によって統一がなされているはずだからだ。

 この相手への信頼が更に力を込めて引きずり出す要因となる。


 釣りを行うように痛みという餌を用いて魔神の王の本体を深海から釣り上げる。


 ユーハがいる別位相世界は当たり前だが、壊れてしまった。

 エネルギー許容量が足りなく、表現するなら破裂したのだ。


 ユーハは五次元の並行世界に逃げて世界の崩壊に巻き込まれるのを防いだ。

 ついでに世界の爆発に指向性を持たせて指向性の先には釣り上げた魔神の王を置き破滅の光線と化した世界を喰らわせる。

 世界一つを材料とした贅沢な一本の矢をユーハという弦で弾いたのだ。


「さて、死んだか?」


 現在いる並行世界は何があったのか、生命は滅んでおり地肌をカサつかせる乾いた風しかなかった。


 風を感じ休んでいると巨大隕石が降ってくる気配を感じたため、視線を向けるだけで宇宙へ戻す。


 だが、宇宙だと思った物は魔神の王の肉体であった。

 先程の巨大隕石は壊れた世界の欠片である。

 空が混ざるような異様な変化が生じ、青空に星空が合わさり混沌の空へと化す。

 混沌の空に線を引くように一粒の底の見えない黒色を纏う魔神の王が降りて来た。


「……強い」


 魔神の王は事実を確認するように呟く。


「強いな。本当に」


 魔神の王が呟くたびに立ち昇るオーラが増える。


 ユーハも対抗するようにオーラを練り上げ潜在的な力をため続ける。


「思い出した。木っ端微塵に割られた時を」


 淀み凝縮された怨念に満ちた声が灰色の煙となって響く。


「ここに誓おう。あの三柱を殺す」


 魔神の王の剣は長く伸び刀身が枝分かれするように横に複数の刀身が生える。

 次の瞬間、魔神の王の剣が残像も残さない素早い振りを行う。

 ユーハは間一髪で避けるが、反撃の余裕は無く後方に大きく転移して距離を取る。


 ユーハは現在、自身の体を戦闘態勢へと改造している途中であるため、守りに徹し時間を稼ぐ。


 自分の深部の階層に接触して単純に基礎ステータスを引き上げる。

 付与魔術による単純な身体強化では、いずれ破られてしまう。

 魔術を行うため回路を最適化し、反応速度、情報処理速度、全体的な力、耐久性を最良化していく。


 それには僅かな時間がかかり、負ける事は無いだろうが、傷を負う事はあるだろうと、ユーハは予想している。


 魔神の王熾烈な攻撃と同時にユーハは無数の罠と妨害を行い足止めをする事が今やるべきことだ。

 もちろん反撃の隙があればそのチャンスを逃す事なく掴み取る。


 自身と違えの無い幻影を作り出し、まどわせようとするが、斬刃が渦巻く魔神の王の剣に散らされ、縦の両断が大地を割り、的確にユーハの本体を狙う。


 ユーハは大地を割り続ける斬撃を手で弾き適当に反らして難を逃れるが、魔神の王はユーハの横に転移して首を断ち切ろうとする。


 現れた瞬間にユーハも一刀両断にしてやろうと下からの鋭い切り上げを行い魔神の王の横腹を切り飛ばす。


 思った以上に硬くなっていたため浅い太刀筋にユーハは現在の魔神の王の認識を修正しながら、上空に転移する。


 空間に複数の蜘蛛の巣が組み合わさったような大きな複雑なヒビ割れが入り、ユーハは全身が空間と同じように網目状に割れ血塗れとなる。


 ユーハは自身の体を情報状態へと変え、空間的な転移では無く情報的な転移へと変える。


 予め置いておいた転移点に自身のデータを送り込み再構築をする。


 だが、魔神の王も転移点の存在は知覚していたため、ユーハが体を再構築している大きな隙を見逃さなかった。


 情報の配列が乱され実体化ができず、それに加えて情報を喰らうウイルスのような物が入り込みユーハの体は溶けるように形を失っていく。


 灰のような濁った液体に変わり果てたユーハの残骸から突如剣を持った手が生えて魔神の王の体を貫こうとするが、魔神の王は当たる箇所に穴を開けて回避する。


 魔神の王は空間を突き破りながら、ユーハの残骸を踏み潰そうと重力加速度を増加させて足を勢い良く落としいた。


 魔神の王の足裏が摩擦熱で真っ赤に変化している時にユーハの残骸から艶を鈍らせるような重い光が眩む程に放射される。


 光のエネルギーが重力によって外へは出ずに空間の凹みに従い光は転がり落ちて行く。


「完成だ……」


 荒波のように揺れるエネルギーの竜巻の中心部に魔神の王の殺意に満ちた拳を正面から掴み取るユーハが満足げに呟いた。


 重力は解放され光が飛び散り、星々のように煌めく。


 魔神の王は興奮するように次なる攻撃を仕掛け鋭く技ありの連撃を繰り出した。

 一撃が星を砕く拳をユーハも同じ型で連撃を行う。


 金属のように硬い二人の拳がぶつかりあうたびに周りの煌めきが鳥が舞うように踊る。


(弱点は無い、これが完全体か。至りの境地ここにあり)


(自身の存在を維持するために、自分と全く同じ構造になるとは、驚きだ)


 魔神の王は最初から最高の体を持たなければならなかった。

 そうしなくては自分の存在を維持できずに普通の高位存在として甘んじていただろう。

 だが、魔神の王は運良く最高の体を有していた。

 最も肝心な命に関わるところで運を発揮させていたのだ。


 ユーハは数え切れぬ程の世界を渡り、知識と知恵を無限に蓄積していった。

 蓄えられた経験と知識は全知万能と言える程にまでになった。

 特に魔術や魔法などのある世界ではその能力と権能を十全に扱える。

 そして、今回の転生では魔術がある世界。

 しかも仕組みは化学に近く、ほぼ無限のパターンのある組み合わせだ。

 相性抜群の世界だろう。


 煌めきが舞うたびに天地も踊り、二柱を崇めるように世界全体が二柱を讃える。

 世界の運命を左右する儀式のように世界が演舞を行うのだ。


 二柱の上にある物の存在は許さない事をあらわすかのように空島は落ちていき、大地は二柱の戦いを邪魔をしないように硬くなる。


 互いの拳が胸を貫き死亡するが、五次元から死んでいない状態と入れ替える。


 六次元に干渉し龍型の巨身として生まれた世界線へと変え、二柱は空を舞う。

 精神階層が巨大な龍の形状へと変わり、外側の階層も精神階層に合わせて変化をする。

 どちらも蛇のような翼が生えていない龍のタイプであり、絡み合うように互いを万力で締め付け圧死させようとする。

 鉄の鱗は割れ、その破片が刺激となり充血した箇所は破裂する。


 長い尾が鞭のようにしなり、肉を裂き骨を砕く。


 鋭い牙で首に齧り付き噛み千切ろうとする。


「グゥォォォォォォォォォオォォオ!!」


「ガィァァァァァァァァァアァァア!!」


 震天動地な雄叫びが空に雷光閃く暗雲を呼び、海に起立と前進の号令がかかる。


【破壊】の属性が付与された滅びの落雷がユーハを狙い無数に落ちる。


【土】の属性が付与された空さえも凍らせようと伸びる氷角が魔神の王に向かう。


 ユーハの体が裂かれ木っ端微塵となり、魔神の王の体は穴が空き、氷の枝が伸びる。


 構築の概念である【創造】の属性の力により、指定された形へと変化をなす。

 ユーハと魔神の王は大陸を覆う程の巨体の体から複数の首を生やし多頭状態となりユーハは時間を超加速する光線を吐き、魔神の王は万物を壊滅させる破壊光線を吐く。


 距離や角度、速度などの要因で息吹の勝負で負ける首があり、風化で塵になるか、分解されて塵になる。


 そして、世界自体が二つの息吹に耐えられず地平線を中心に真っ二つに割れる。


 その時の衝撃でユーハは態勢を崩し、光線の軌道が必然的に変わり、体を世界と同様となる。


 大きく裂けた体から溢れる光が漏れ出し体が崩壊と同時に放射された光が四散することなくユーハを包み込むと無傷の龍の体に戻る。


「間違えた!」


 ユーハは追撃をしてこずに姿を消して世界全体に結界が広がり続ける光景を見て龍の鬼のような瞳を大きく見開き後悔に満ちた雄叫びを上げる。


(いや、少しでも領域を取れば)


 ユーハは龍の体を結界に変え大きく広げる。

 人の体に戻ったユーハは残された選択肢を必死に掴み取り、鈍い切れ味の可能性だが、武器は手に取れたため、なんとかできる。


 大きく広げた結界は魔神の王の結界により破壊されるが、それは時間稼ぎの第一層であるため本命の狭い第二層を構築している。


 魔神の王の手のひらの上である結界内に安全地帯を作り出す事に成功したユーハは少し安堵した後にすぐに気を切り替える。


 早速魔神の王が自陣の領域内に変化が生まれる。

 ユーハの領域の周りごと崩れる氷が割れるように今もなお、開き続ける深い亀裂の奥底に最初からいたように出現する。


 開く亀裂が閉じユーハの領域ごと押しつぶそうとする。


 転移ができないユーハは這い上がろうとするが、一定の距離上昇すると元の位置へ戻され、結界の形も左右の壁の形へと変わっている。


 ユーハは同時に現在いる位相を基準とした未来の自分が消えていることに気づく。


「過去を変えたな」


 原因はすぐに推察される。

 このループも過去を組み替える事で〈権限所持インターフェース〉対策で綻びが生まれにくくなっているのだろう。

 因果も変えて本来は結界が地盤ごときに変形するはずがないが、因果を変えるより変形したという因果と結果を押し付けたのだろう。


 現時点ユーハがいる位相の後ろにある過去を可能性を潰すように組み替える事により自分の可能性である未来が消失しているのだ。


 だが、いくら過去を壊しても現在いる並行世界は変わらない。

 別の並行世界が生まれるだけだ。


 ユーハは対応策として領域内の過去に接触して世界一つ分の全ての情報を集める。

 その情報から新たな過去世界を作り現在いる世界と繋ぎ合わせ過去の改変と同時に現在いる世界の改変が行われるようにする。


 今までは過去改変しても現在は改変されないが、今回は改変したら過去、現在、未来共に改変されるようにした。


「間違いを無くして互角状態に戻すか」


 失敗した過去を無かった事にして、因果が変わりその因果に辻褄が合うように世界は変化する。


 魔神の王も突如、支配領域が減った事に気づき原因を探り、早速ユーハが作った過去を破壊しあわよくば現在のユーハを殺せる事を期待するが、領域を奪い始めているユーハであった。


 なぜ繋がった過去が消されても現在も未来も消滅しないかというと、複数の並行世界を利用しているからだ。

 蜥蜴の尻尾切りのように改変過去世界の影響を途切れさせたのだ。


 全てを思うがままに変えられる。


 過去も未来も現在も全ては戦場であり武具だ。


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