先導者の重責
ルアザは城の広場の前でヌァザの隣に堂々としつつも美麗な礼儀ありの高貴な立ち振る舞いでそこにいた。
「諸君、彼が今代のダーナ家家長であり王だ。我らの希望だ」
ヌァザが張りのある厳かな声でルアザの頭の上に金の冠を置く。
古めかしいと言えば聞こえは良いが、端的に見れば薄汚れた冠であった。
しかし、価値は並ぶ物は少ない。
ヌァザが活躍していた時代から続く長い歴史の中受け継がれ続かれた由緒正しい王冠だ。
汚れと傷は特色であり、熟成された酒が持つ独特な味と香りと似た性質だ。
生気溢れる若々しい者と懐古満ちる物が組み合わさった瞬間は礼厳な神聖さが生まれる。
決してただ美しいだけの装飾物では引き出せない輝煌ある魅力がある。
「新たな先導の光に祝福を!」
祝福を! と大勢の声が重なり続く。
そして、戦勝祝いと王位継承が完了の宴が始まる。
「ルアザ様、巨身三体も倒すなんて凄いです。さすがは、我らが光です!」
「ありがとう。もっと精進するよ。その応援は力になるさ」
余裕で爽やかかつ、感情の込められた熱い声で兵士の声に応える。
兵士から見れば今のルアザは燦然と輝く太陽と同じような物だろう。
崇め奉る神々しい美貌と困難を乗り越える実力に春風のような聡明で英明な口調。
王子様のような麗しさと王様のような威厳を両立させた人物、それが兵士達のルアザの評価であった。
兵士達は最初ルアザを見た時は、忌み子かよ、と気を落としたが、ルアザの活躍により評価は反転したのが現状であった。
「♪~♪……」
一通りやるべき事をし終わったルアザは城の屋上の縁に座りながら歌を奏でていた。
魔術の竪琴は所持していないため、鼻歌と魔術で擬似的に魔術の竪琴の音を発している。
そして、隣に別の歌が奏でながらファーレン、ヌァザ、ルーが酒瓶を持ってやって来た。
三人はルアザの横に腰を掛ける。
「エウレアが良く歌っていた歌だな」
ファーレンは懐かしげに目を細め、口の中にあふ酒を転がす。
「ガルトの音楽の一つであるな」
自然の雄大さを感じさせる静かで荘厳なガルト音楽。
幻想的な雰囲気を持ち合わせているのが特徴だ。
「我々の誇りだね」
美しい文化、それは培った歴史と平和の象徴だ。
ルーは音楽面にも一流だからこそ、価値を深く理解している。
「そうだ、ルアザ。州都リーペの城の中に図書室があるから、そこから何冊かガルトの文化系統の本を回収してくれ。もしかしたら、ガルトは一欠片も無く消滅する可能性がある。少しでも我々の素晴らしい文化を残したい。それが灰であっても。未来の者達に残しておきたいんだ」
ファーレンは星に願うように切実でありながら、儚げな明瞭な願いをルアザに託す。
ルアザは何も言わずに静かに頷き了承をする。
そして、ルアザは何かを思い出したように目を見開き、儚げな雰囲気を晴らす。
「そういえば、クラウから何かの鍵になるらしい石を貰ったんですけれどなんですか」
「石? えーっと、アレか。その石は州都リーペにある岩の欠片でな。王族の血筋かどうか、わかる物なんだ。で、今もうその岩は先の魔族との戦いで砕けているから、その石はなんの効果を持たないただの石だ。捨てていいよ」
特定遺伝子を確認できる石であり、既に王族の血筋と確認を取れているルアザには無用の物であった。
「なるほど」
「まぁ、クラウは可能性をたくさん残すタイプだからな。たぶん少しでもルアザの事に関してきっかけを作っておいたのだろう」
クラウは慎重な性格をしている。
手紙に重大な秘密の箱の鍵の事のように大切に書いたのも、ルアザがゴミだと勘違いしないようにしたのだ。
一見すればただの石だ。
少しでも、多くルアザは自身の正体を知るきっかけになり、ガルト救済のきっかけにもなれば良いと考えていたのだろう。
「ふーん。じゃあ、州都リーペに行っても僕に関しての情報は特に無いと」
「無いけど、さっき言った通り。色々回収しといて」
「わかった」
「ハハハッ。頼んだよ。今日は飲もう。無礼講さ」
ルーは酒を器に注ぎどこか愉快そうにルアザの肩に手を回す。
「お酒ですか……」
ルアザは差し出された酒を取り、水面を揺らしながら微妙そうに少し混ざりけがある声で酒を見つめる。
「なんだい? ルアザ君。もしかしてお酒は苦手かな?」
「あまり」
少し申し訳なさそうに頭を下げながら言う。
「大丈夫! 飲めば強くなって好きになる! 飲め!」
ルーは既に酔っているのか普段の落ち着いた雰囲気は無く気力が満ち溢れた元気な声でルアザの手首を掴みルアザの口に運ぶ。
「うぐぅっ」
無理矢理押し飲まされたルアザは酒を胃の中に落とす。
「アッハッハ。飲めるじゃないか!」
ルーはルアザの背中を愉快に軽快に楽器のように遠慮なく叩く。
ルアザは楽しそうに苦笑をしているが顔の半分は、面倒な奴に付き纏われた、と酒精香るため息を吐いていた。
「今はユーハ・オムニバスという人に色々な事を教えてもらっています」
若干肌を淡い赤に染めているルアザはほろ酔いになりながら、自分の現状を伝える。
「彼は僕にとって導き手と言ってもいいですよ。感謝の思いが尽きはしないでしょうね」
それからルアザはユーハについて詳しく語り始める。
言葉に表せないないほどのユーハの凄さを色々と言い回しをしながら一生懸命語る。
「そうか、そうか。そのユーハと言う人物には感謝しないとな」
「──待てよ。逆に疑問が浮かび上がるぞ。何故それほどにも力があるのに、ルアザをそんなにも助けるのか? 聞く話によれば魔神くらいは雑魚扱いだろう」
ユーハを持ち上げるファーレンとは対照的にヌァザは神妙な顔で意見が出る。
ルアザはその意見に目を逸らすようにどこかに視線を漂わせる。
「…………それは僕も思っています」
正面という、どこにでも無い場所に視線を固定させると、ルアザは苦味のある声でヌァザの意見を肯定する。
「最初の時は、なんて親切な人なのだろうと思っていました」
始めての出会いは自分と同じ旅人であり、成り行きで自分の過去について聞いてしまった人物であった。
無関係な人が自分の過去について少しでも知られるのはあまり好きではなかったが、彼は軽く絶対状態であった自分に最適は助言をくれたのだ。
その助言と一言はルアザに前を向かせ歩む意志を呼び起こさせるには十分であった。
それから目的地が同じらしいためわざわざ自分と共に旅をしてくれる。
いや、ルアザが付いていったに近い。
「旅の道中、あらゆる事を教えてくれました。自分が持つ病気についても対処してくれて、僕を守ってくれました」
本当に今思うと何故そこまでして自分を救うのかがわからなかった。
未だに何も恩返しはできていない。
もし、自分が女であれば『私を貴方に差し上げます』と言っていたのかもしれない。
「最近は直接的な力を無償で教えてくれます」
そして、ルアザはそこでどこか含みのある言葉を止める。
遠くを見つめていた視線は唐突に短くなりファーレン、ヌァザ、ルーへとほんな一瞬だけの僅かな間移動して戻す。
迷うようにルアザは目蓋を何度も閉じ開きをして、奇妙な様子をしていた。
ルアザは酒に目をやり、水面に写る自分の顔を見ると歪んで見えた。
歪み濁った自分を飲み込みルアザは落ち着き真顔になる。
そして、立ち上がり三人から離れるように空を歩く。
三人の方を向き小さく口を開け酒精を帯びせながら声を出す。
「ユーハさんは何を僕に期待しているのでしょうね。皆のように」
酩酊者のような蕩けた声で覚醒者のように明確な口調である。
ただの質問のようで切なる思いを淡く期待する願いに聞こえる事を言う。
「ルアザ……」
ファーレンはルアザの小さな不安を感じ取る。
皆という単語にルアザは明確な含みを持たせた。
「はぁ、これだからお酒は嫌いだ」
酔い覚めの魔術を使いルアザは頭に手を当てる。
お酒を飲むと理性に綻びが生まれるため、隠していた本音とも言える物が出てきてしまう。
自分の本音は周りに関しての不満や不安という物が多い。
「変な事を言いましたね。忘れてください」
普段の精悍でありながら穏やかな表情へと変わると安心させるようにニコリと煌めく笑みを見せて、空に座ると歌の続きを歌い始める。
ファーレン含めて三人は背を向くルアザは寂しく悲しそうに見えた。
歌声は姿と共に美しいが、孤高の幻想さを滲み出している。
ルアザは高嶺の花を超えて天上の花とも形容される存在だ。
生まれ育った場所もそれに関わってきているだろう。
◆◆◆
ルアザは自室に帰った後ファーレン、ヌァザ、ルーはルアザについて話し合っていた。
「たぶんだが、ルアザは無償で自分に力を与えられる事に関して罪悪感に近しい思いを抱いているのだろうな」
「数多の犠牲で産まれ生きていられるのを知ってしまったからな」
数字に表したら何万という人、物を犠牲にして積み重ねた守りの壁によってエウレアとクラウはガルトの悲劇から逃れた。
なぜ、実際は数えきれない程の数の犠牲を許容したのかと言うとルアザが将来的にガルトを救うという未来を信じ、それ以外の道が存在しなかったからだ。
そして、母、義父さえもルアザを守る壁となった。
「そして、無数の力と思いを託されている」
ユーハからは無量の技術にガルトからは無限の近しい力を与えられている。
そして、ルアザはどの技術も力も神如くの莫大な力があるが、全てを吸収し十全に扱う程の器量を持っていた。
実力は託された思いを背負い引っ張る程はある。
運命的とも言えるほど噛み合った希望。
ファーレンが描いた以上に理想的な展開だ。
「良くも悪くも真面目なんだろうな、ルアザは。全くエウレアのサボり部分は受け継いでないで、救済精神の部分は俺達二人を濃く受け継ぐとは。しかも、クラウの責任感の強さもまた強く受け継いで」
ルアザはエウレアとファーレンの優しさと正しさを心に、クラウの冷徹で絶対な行動方針、ユーハの知恵と力で構成されている。
ファーレンはルアザをそう評価する。
「まったく、親孝行者が」
嬉しそうだが哀しげに言う。
「今のルアザは色々と重い負荷がかかっている。その負荷が心を乱し、酔いが鍵となって本音が漏れ出たのだろうな」
皆の期待を背負う若い先導者。
聞こえは良いが、若い先導者にとっては大変な負担だ。
自分の事では無く他人の事のため、若者らしい根拠の無い自信は湧いてこず、自分の経験不足と実力不足を冷静に客観視できてしまう。
湧き上がるのは不安ではあるが、それは常に隠さなくてはならない。
重責、重荷、重圧を背負い、引っ張る。
「だけど、この程度乗り越えてもらわないといけない。ルアザ君が言った通り我々は期待しているし、せざるおえない」
ルーは厳しい事を言うが、自分もルアザと同じように数多の人々から期待されている。
不安の霧に包まれたとしても道を作らなくてをならない。
闇を切り裂く光剣となるのが理想的だ。
「我々はどれも王という名前の先導者を担ってきた。ルアザの気持ちもわかる」
ヌァザ、ルー、ファーレンと続いてルアザへと続く先導者の血筋。
そして、ここにいる三人はどれも最も大変な時に先導者となった。
「ヌァザ様、何かルアザにアドバイスをかけてやりたいですよ。自分は敗北の先導者ですから、あまり良い言葉をかけれないでしょうし」
没落する最後の王様という役目を全うしたファーレンに再興の王様を担うルアザとは役目が違う。
それにあまり良い終わり方では無かったとファーレンは自身の行いについて評価している。
「うーむ。我もルアザのような場合は少ないからな。ルアザの境遇はルー、お前に似ている。どうだ?」
内戦に近い形での王様であったため、ヌァザはためにはならない。
仲間内で争ってしまう程度の自分ではルアザには見合わない。
「逆境からの逆転というよりは、ほぼ最初から始まるから何とも言えないさ」
ルーは少ない勢力から大きな勢力へと変えた英雄型の王様だ。
一番境遇が似ているため、ルアザに良いアドバイスを伝えたいところだが、ルアザは零から始まるどころかマイナスから始まるのだ。
「初代に近い運命だな。何もかも全てをやるという点では」
「初代の宿命か。良い話はどちらかといえば少ないからね」
初代は苦労話が多い。
よく『偉大なる初代様の多くの働きと苦労のおかげで我々子孫は生きていられますから感謝しましょう』という話は多い。
「まとめると、ルアザは自分への膨大な投資を返すという強迫概念と救済の宿命を成し遂げる使命感が混ざっている状況か」
ファーレンは我が子が頂上が見えない果てしない山を登っていると認識する。
「難儀なものだ。色々と」
改めてルアザが弱音のような物を吐く気持ちはわかる。
「でも、やる気はあるのだから、なんとでもなる気がするね」
ルーはあまりルアザの事を心配してはいなさそうにしている。
英雄の香りを嗅ぎ取ったのだろうか。




