毒蟻 対 人間三人
「虫けらがぁ!!」
光芒を描きながら飛ぶ蛍を超高速にしたような形で宙を舞うルアザに向かい白い巨身は私怨が籠もった拳を突きだす。
空気を切り裂き高速で突き出される拳を難なく避けて腕に降り立ち斬撃を加える。
白い巨身の肌はまるで虫に刺されたり噛まれたりしたような赤く腫れた傷跡を多く残していた。
雷がミミズ腫れのように広がり内部まで腫らす。
雷の木を伸ばし成長し続けている時に白い巨身のもう一つの手が叩き落とされる。
巨身サイズの虫叩きをされてもルアザは虫ではなく知恵ある人間なため既に避けていた。
それと同時に虫のように潰したと思わせて、無事であるという怒りの貯蓄が貯まっていくようにして避ける。
次に呆けている土葉の巨身に飛び移る。
土のように柔らかい体だが、高い柔軟性のある体をしており雷の魔術が聞きづらい巨身である。
土葉の巨身はルアザが乗り移ったことをすでに認知しており、体を震わせる。
「飛んで火に入る夏の虫とは正にこの事」
言葉と共に土葉の巨身が勢い良く回転し始める。
遠心力が働き土葉の巨身に乗っている物を全て吹き飛ばす。
これだけで巨身にとっては攻撃になる。
巨身は高位存在の中でも圧倒的に大きいものことを言う。
その大きさを活かすという思考は必要は無い、全ての行動が破壊行為に繋がる。
「耐えろよ」
手に口がある手口の巨身が土葉の巨身の行動を甘いと判断し手の口から氷結の息吹が吹く。
ルアザは適当に遠心力をフォースで受け流しており、何言も無かったように土葉の巨身の上に立っていた。
猛威が渦巻く凍てつく風がやってくるのをルアザは逃げようともせずに輪廻の息吹とフォースを準備して待ち構えていた。
両手に剣を持ち片方にはオーラと繋がり、もう片方はフォースも繋がっていた。
輝きさえも持ちそうな氷結の息吹が土葉の巨身の肌を舐めると同時にルアザにも襲いかかってくる。
だが、フォースの剣が氷結の息吹を吸収しルアザの周囲は涼しいくらいの温度へとなる。
吸収したぶんの冷気を宿し始め限界まで溜めたら、オーラの剣が振るわれるとマイナスの空気を大きく切り裂く。
ルアザは切り裂かれた空気の狭い隙間を飛ぶ刃に続いて駆ける。
烈風を越えた鋭利な刃は手口の巨身の手を傷つける。
痛みで怯んだ手口の巨身を氷結の力が纏われた斬撃が振り落とされる。
「これだけやって指一本だけか」
瞬きの合間に手口の巨身の指が完全に凍り、斬撃の衝撃で切れ込みを入れると真っ二つに割れる。
「グゥゥッ!」
手口の巨身は手を抑え苦しみの声と共に大きく後退する。
巨身には先天的な巨身と後天的な巨身がある。
後者は単純に成長による物だ。
前者は生まれた時から山河に匹敵する大きさを持って生まれた存在だ。
三体の巨身は先天的に生まれた巨身であるため、生まれながらにして最強であった。
雲は掴め、皮膚は山肌、大地を興す、常に上から目線。
だから、敗北の証拠である痛みに慣れていない。
隙が生まれた瞬間をルアザは決して見逃さず、手口の巨身に向かう。
白い巨身も土葉の巨身もルアザへと手を伸ばすが、ルアザは迅速に巧みな経路で避けて行く。
魔術で自身の体を加速しているルアザを見て、巨身も魔術を使う暇は無いが、魂力で引っ張る。
魂力の引力はルアザを捕まえるが、もう既に遠くへと移動しているため薄く小さな力であった。
ルアザは魂力の抵抗を感じるが、無理矢理振り切り突き進む。
「〈雷霆槍投〉!」
短い溜めだが、安全だから溜められる大技を放つ。
鋭い雷鳴を響かせる光の槍が手口の巨身の額を貫き柔らかい中身を焼く。
手口の巨身は討たれた。
討った瞬間ルアザの後方から巨身サイズの炎の渦と積乱雲の渦が襲ってくる。
ルアザの対応はまず、炎の渦は危険すぎるため、積乱雲の渦の方へと移動しながら結界と風の壁を生成する。
そして、後ろに下がりながら回転の中心点の近くまで移動し、渦の回転速度、方向と同じように回る。
一見単純のようだが、かなり困難である。
比喩無しで積乱雲を凝縮したような威力の風だ。
渦は回転の理があるが、実際は無視できない千差万別の力が入り乱れる混沌とした環境である。
最も巨大な力である回転の力にだけはに逆らわず相対速度をゼロにしながら受け流す。
混沌の風の流れの弱いところを見極め、無かったら張った風の壁などを使い一時的に耐えるなど臨機応変に対応する。
ユーハからルアザは力の流れについての技術を深く学んでおり、高い才能と多く努力のお陰でルアザは柔軟かつ堅固な質の高い実力をつけていた。
そして、雲の暗闇の中から薄く弱々しい場所から脱出する。
(本格的な連携してきたか)
実際にルアザの思い通り、巨身二体は息を合わせて魔術が放れたため危機感を表す。
だが、危機感を剥き出しにしたのは巨身も同じ事だ。
多少厄介な虫けらだと思っていた存在が仲間を一人撃ち抜き殺されたのだから。
ルアザが巨身の方へ向き直ると一瞬だが体を硬直させてしまう程、恐怖に染まっていた。
だからこそ恐怖で固まる体を滾らせ、いけ好かない奴でも仕方なく協力をする。
(でも、所詮は付け焼き刃だ。隙はある)
普段仲の悪い人達がきっかけがあったとしても始まり一本から高度な連携ができるはずがない。
明らかに巨身という異次元なサイズを利用した単純な戦い方しかしない。つまり
戦い方という物を知らないため、適当に逃げ回っていれは相手の攻撃は当たらないし、防げる。
逆にこれを自覚しているはずである巨身二体はどう対応してくるかがルアザが警戒すべき物であった。
強者であった自分が危機感を覚え嫌でも成長しなくてはならないという一種の衝動が自分の才能のを突き動かす。
ルアザは対応しきられる前に巨身を倒さなくてはならない。
(連携も複雑な物は無理だ。単純な物しかできないだろう)
土葉の巨身は隣の白いの巨身に意識を向け、何が得意か知ろうとする。
自分以外の存在を理解しようとするのは始めてだった。
新鮮な感覚が土葉の巨身に
(連携は当然シンプルになる。だが、シンプルは強い。それが俺達の強さの源だ)
巨身はどの種族、生命体の中でも飛び抜けて高い基礎ステータス。
それを今改めて自覚する。
「おい、お前は後衛で戦え」
土葉の巨身は白い巨身よりも一歩前に出てぶっきらぼう伝える。
「お前が前衛ということか。……良いだろう。乗ってやる」
白い巨身としては前衛を譲る事は釈然としなかった。
なぜなら前衛は己の肉体を使い、削ることが多い。
前衛で重要な基礎ステータスがまるで土葉の巨身に負けたように感じられるからだ。
だが空気を読んで前衛や後衛という言葉を使うあたり、互いに冗談無しの雰囲気を感じ取ったのだろう。
「今すぐ、ここから引きなさい。見ただろう? 私が短い間で貴方達の仲間を殺した事を」
巨身二体に向かいルアザが高圧力そのものような脅迫の声を拡声の魔術に乗せて降伏を促す。
「そいつは我々の仲でも一番弱いだけだ」
「雑魚一匹程度でいきがるなよ、弱小生物が」
不敵な笑みらしき物を浮かべながら巨身二体は己の鼓舞と同時に挑発をする。
ルアザは明らかな挑発には乗らずに、冷たい雰囲気を隠さなくなった。
優しくは無い警告だが、終わりから逃れられる事が可能なのに自分に大言壮語を吐ける程の気概があるのだから、今ここでこの二体を討ち倒す。
(この二体は自分だと思おう)
覚悟の一歩が成長の階段を登り始めた。
巨身の一歩で。
何もしなくてもルアザが立っている階段の段数にまで手が届く巨身が一歩だけだが近づいてきた。
その一歩は何十段も上がって来たと同じ事だ。故にルアザは警戒をすると同時に踏み台にしてやろうと意気込む。
普通に成長の階段を登っているのでは遅い。
「本当の終わりを覚悟しておいてください」
ルアザは空中に壁状に結界を張り、足をつける。
輪廻の息吹がルアザの体を強化して一本の槍のように突く。
ルアザが震えるような蹴りで結界が割れる音と共に高速で飛矢のように宙を駆けていく。
土葉の巨身はルアザが通るであろう場所を狙いタイミング良く腕の大振りをする。
当然ルアザは土葉の巨身の予備動作に気づいているため、難なく途中で曲がり避ける。
そして白き巨身はどこにルアザが移動したかを確かに確認をして拳を突き放つ。
当初ルアザを殴ろうとした時は予測した撃つという形だが、今回からは確認してから撃つという形に白き巨身は変えて来た。
眼前に迫るルアザは避けるという判断を下す瞬間、己の行動について強く思うところがあった。
「何も変わらない……!」
適当な方向に素早く動いて回避。
確かにこの行動に移れば安全かつ確実だ。
しかしこれではいつも通りである。
回避とは一時的な逃走だ。
攻撃に逃れる事に成功したら、その攻撃はどこへ向かう。
もし、後ろに守り救うべき対象がいたらどうする?
これから戦い続ければ崖っぷちまで追い詰められ、絶体絶命な状況に陥った場合があるだろう。
もし、回避できる程の隙間が存在しなかったらどうする?
自分の安全を取れない厳しく痛い状況が必ず訪れる。
諦め楽になりたいと自分の内側からも精神攻撃をが加わる辛い時こそ──。
「──立ち向かうしかないだろう」
後ろにある大切な存在は傷一つ無く守りきり、前に襲いかかってくる魔は退け祓う。
そして、振り返る時は笑顔を。
後ろにも横にも活路がないのなら、前にいる敵がいる場所が活路だ。
敵よ、お前は活路の門番だ。
楽という感情は軽いから、警戒が湧かなく気にもしないが瞬間的な極めて短い時間では重くなる。
ユーハが教えて、これからのルアザが大事な事は武器が交わり合う瞬間の最適な選択肢だ。
先程ルアザは流れるように回避を選択しようとしたが、これは癖だ。
癖は弱点にしかならない。
できる事が少なければ、できない事を突かれやられる。
今ここでルアザはできる事を増やす。
今回は絶対に失敗してはならないという余計なプレッシャーは存在しない。
比較的に安全に習得と練習ができる機会があるなら実行をするのだ。
「怖気ついたか!」
白い巨身は先程まで避けられていたルアザに向かい大きく笑みを浮かべながら拳の勢いを増す。
「それを乗り越える」
真っ直ぐと見据えた声と視線を持ち意気込んではいるが、視界いっぱいに白い壁とも言える拳らしき物が既に回避不可能な距離にで迫っているのだから当たり前に恐怖を感じている。
恐怖は思考を硬直させてくるが、ルアザは恐怖をきっかけに思考の原動機を回転させる。
固まる思考を無理矢理動かす事により生まれる僅かな頭痛が火をつけるような感覚にルアザは襲われるが、すぐに理性の水で消火して冷やす。
深究の魔神と相対して自分を止めるという思考さえも浮かばなかった非常に危険で多くの選択肢を奪うという状態に陷ってしまった。
はっきり言って弱体化していた。
先程の火がついた感覚が深究の魔神との相対したときの感覚に非常に近かったため、すぐに対応できたのだ。
経験による学習と反省をし、次に活かすを実行するという優秀ならば当たり前の事を実行できルアザは笑みを浮かべる。
冷静に思考を回すルアザは少し高度を落としながら後ろに下がり、巨身の腕が伸び切る僅かに力が緩んだ瞬間を狙う。
(当たらん……!)
白い巨身は焦る。
握った手に小さな衝撃が走らず、殺ったという確証が手に入らないということに。
故に白い巨身の脳内に選択肢が生まれる。
変化を起こすべきか、現状のまま続けるかの二択が。
「そのまま行け! いるぞ! 奴はいる! 止めたら殺す!」
明確な確証を持った土葉の巨身の怒りにも似た叫びは白い巨身の迷いの霧を晴らす風となる。
晴れ風の力を更に強く握りしめ、振り抜こうとする。
ルアザの思惑通りにいかず、予想外が起きるが、これを対処しなくてはユーハの言った通り最低限の戦いしかできない。
(ここでか! だが、やる事は変わらない!)
最低限は最重要だ、ベースだ作戦だ。
最低限の上に最高がある。
(今行う最低限を最高の形で全うする。それが最高ということだ)
最高は過程、最低が目的。
そして、ルアザの最低は白い巨身の手を使用不可能にすることだ。
過程《最高》は後ろに下がりながら白い巨身の指に攻撃を行い全ての指を切り削り落とす。
雷電を高出力かつ瞬間冷凍レベルの冷気を付与して雷の速度で冷気の波を伸ばし細胞を壊す。
そして元々の空気の温度は膨大な熱というエネルギーとなり輪廻の息吹に吸収させ雷撃と冷気の威力を上げる要素とする。
魔術もここでレベルアップをする。
電気の速度を冷気に利用する高等な付与魔術。
さすがに電気の速度そのものは無理だが、冷気は瞬間的に万物を凍らせるようになる。
その分、エネルギーを使うがルアザには輪廻の息吹があるため問題はない。
そして、ルアザの剣が残像を残しながら無数の剣閃を放ち巨身の手を削る。
後方に下がるとは言っても無限に下れるわけでは無い。
だから、ルアザはこれ以上伸び切らないというところまで待って反撃を開始したのだ。
超電力の電撃で焼かれ破壊された細胞に瞬間冷凍の波動が襲いかかり、剣撃で砕かれるを超高速で繰り返される。
一見単純だが、砕く場所もどこに力を加えれば多く効率的に砕けるかを一瞬で見分けなければならないため大変な作業である。
魔族の軍勢の中で同じような事はしていたため、迷いが少なく判断が速い。
速さに伴い攻撃の速さも上がっていく。
「ギャァァァうぅあァァァ!!」
「よし!」
白い巨身はあまりの痛みに空気を破壊するような叫び声を上げ、ルアザは叫び声の中でも鮮明な声で喜びの声を上げる。
だが、土葉の巨身は白い巨身を巻き込む気で円錐状にした拳をルアザに突き放つ。
それを見たルアザは特に表情は変えずに尖った先端部分に剣を引っ掛けて受け流す。
柔らかく着地した後土葉の巨身の腕を駆け上る。
ここで土葉の巨身が行うべきことは必殺ではなく、確実であった。
ルアザには槍程度の尖った攻撃は柔らかく対応できてしまう程の実力はあるのだ。
土葉の巨身の眼前に雷を迸らせる槍を握った砂粒のような大きさの人間が己の視界を全て支配していた。
二度目の〈雷霆槍投〉が放たれ、選択を間違えた土葉の巨身も討たれる。
手口の巨身同様に大きく怯るんだ白い巨身は迫るルアザに首を大きく切れ込みを入れられる。
ルアザは正面から三体の巨身に完膚なきまでに完全勝利を収め、見事に踏み台へと変え成長の階段を多く登った。
(彼らも変わっていたのだがな)
自然の粒子となって還って行く巨身達を見て目尻を下げ目を細める。
(間違いなく彼らは輝いていたのに……。敵か味方で分かれるだけで暗くさせるとは、罪深いものだ)
己と同じ成長の輝きを間違いなく照らしていた巨身達に今更ながら親近感を覚える。
「されど、敵と味方だ。自分は常に正義あるものの味方だ」
世の中は複雑だと再認識をする。




