バロール戦
魔族の軍勢の真ん中に冷酷な表情で圧倒的な暴力を解き放ち、その暴力は一振りごとに鋭く、殺意が高くなっていく。
冥府を侵す魔族を崖の縁に立たせるルアザは遠慮なく突き落とし、世界の一部へと還らせる。
過去に何があるか知らないが、攻めて来たのお前らだから、容赦はしない。
過去を調べる気はあるにはあるが、もう既に遅いだろうし、ガルトの人々を裏切ってしまうことになる。
少なくとも全く関係のない沢山の人々の平和を滅ぼした時点で悪であると決定づけるには十分だ。
余裕は無いが、確実に成長し弱点が失せているのがわかり更に突き進もうとする。
「ルアザ君! 身を隠せ!」
英雄らしいよく通る声共に聞こえた命令にルアザはすぐに従う。
魔族の死体の下へと体を滑り込ませ、魔族が大きく隙を見せたルアザに刃を突き立てようとするが、死体が壁となりルアザを守る。
そして、しばらくするとルアザの周りは無音となり、生きた気配が消える。
数十秒ルアザは息を潜め何が起こったのか光が漏れる隙間から覗くと死屍累々な光景が広がっており口を開け驚く。
「傷一つ無く即死している」
小さく口の中で籠もるような声だが、驚愕に満ちた声であった。
ルアザは遠方まで感知魔術を使用しながら、何が起きたか情報収集をする。
周囲一帯の魔族達は全て地に伏せており、一部は生きている魔族はおり、ルアザと魔族の感知魔術を感知し合う。
魔族が動いたのと同時にルアザは外に出て、城壁の上まで退いていく。
遠方へと視線をやり、巨大な一つ目の目蓋を閉じて先程までルアザが荒らしていた場所に顔を向けている。
「さて、ルアザ君。まずはおめでとう、と言っておこう。そして、君は巨身三体とバロールと戦うのならどっちが良い?」
危険度という点から見れば前者の即死の魔眼を持つバロールだろう。
魔眼持ちの中でも特別な魔眼なため、対峙すれば莫大な経験値を得られる。
「僕は巨身三体と相手をしようと思います。バロール神とルー様は戦った経験があるので、僕よりも有利だと思います」
勝てるかどうかはわからないが、厄介な魔眼さえ防げれば危険度は大幅に下がるため、ルアザが戦っても良かったが、何と言っても勝利をしているルーに任せたかった。
自分個人の経験値よりも全体の勝利を優先することが現在の状況にとって最適であり目的であると判断したからだ。
特にルアザはまだ生きなければならない。
幽世から離れ現世へ帰ならければならない。
「わかった、バロールをまた討ち倒そう。巨身を相手する時は巨身よりも高い場所を維持すると良い」
気合の籠もった声でルーは二度目の魔眼のバロール殺しを行う事を決意し、ルアザに巨身を相手どるときのコツを教えると城壁を軽く砕きながら高速でバロールの元へと向かった。
「では、皆さん頼みます。頑張ってください」
ルアザは自分を見る兵士達に礼儀正しく小さく会釈するとルーと同じように、高速で相対せし巨身の元へと飛んで行く。
◆◆◆
ルーはバロールと本格的に対峙する短い間で即死の魔眼の攻略について考えていた。
バロールの即死の魔眼はあまりに強力すぎて長い時間溜めが必要であった。
何せ虚理階層と物理階層よりも深い階層にある生命階層に干渉可能な魔眼だからだ。
生命階層とは存在の維持を司る階層。
生命階層が崩れれば外側の階層は活動を停止させるであろう。
上の階層の柱であり内側の階層の補助でもある階層だ。
生命階層の内側の階層は精神階層である。
また遠い未来の言葉を借りるなら、生命階層がオペレーションシステム、精神階層がアプリケーションである。
そのオペレーションシステム──OSを破壊に特化した魔眼である。
「最悪、自爆覚悟で行けば十中八九道連れにできるだろう」
「辞めておけルーよ」
ルーが最終手段を覚悟した時にバロールがルーに向かい低い声が響く。
「聞きたい事がある。自然へと還ったのではないのか?」
瞳を見せないバロールは生前ルーに殺されガルトの冥界にて自然へと還ったと聞いている。
一度自然に還ったら自分という存在は完全に消滅する。
なのに死んではいるが、虚理階層で活動が確認ができている。
ルーは恐ろしい何かが関わっているのではないかと予測し、後ろにいる黒幕の情報を少しでも得たい。
「……」
バロールは口を少し開き、何かを言いたそうにするが目蓋と同じように重く閉じる。
「っ!」
ルーはバロールの目蓋の上にある筋肉が僅かに動くのを感知すると同時にバロールの背後に回ろうとした瞬間、バロールの巨大な目が開かれる。
開かれる前にルーは己を輝かせ周囲を真っ白に染める。
これだけで数万いる魔族の三、四割さは減らしだろう。
視界に入った瞬間、無差別に即死するような魔眼ではなく、視界に入った物を少しでも良いから認識すれば即死の魔眼が発動するタイプであるため認識させないことをした。
同時に灼熱の熱気がバロールを襲う。
常に太陽のような強力な全体攻撃を行う事にした。
「眩しいが、熱いが、ただそれだけだ」
バロールの口から呪いの言葉が紡がれ、周囲に呪いの粒子が広がる。
次に紡がれる付与魔術は温度の差を視覚上に表示させる物だ。
高熱の源であるルーははっきりと認識できるであろう。
形さえわかれば、全て殺せる。
「……腕を上げたな」
ルーは無数のデコイを作りあげ、本体を隠していた。
バロールは関心をして唸る。
囮に引っかかり無駄な力を消費するのは避けるべきだと判断した。
デコイが飛び合う高度よりも更に上空を飛ぶルーは槍を投擲するように構える。
〈雷霆槍投〉
ルーが投げた雷鳴一閃が重力と重なり下へと向かい突撃して行く。
バロールの輝いた艶のある綺麗な瞳のど真ん中落ちていくが一瞬にして目蓋が閉じられ、槍は衝撃だけを与え弾かれる。
「槍よ、戻れ」
苦しげな命令で槍はルーの手元へ戻ろうとするが、槍には超強力な呪いが付与されているおり、ルーは避けるように身を大きく反らす。
(歴戦の巨身は魔術も卓越している。油断も隙もない。たぶん避けられる事を予想しているから次に来るのは──)
ルーは視線を下に移すと、光に染まった景色ではなく、更なる強烈な輝きを持つ一条であった。
(──やはり、本命はこっちか)
極太の光線が今まさにルーへと襲いかかってくるが、ルーは笑みを浮かべていた。
「我は光神ルーだ。光は友だ!」
巨身に比べれば蟻粒以下の大きさの手を光線に向ける。
もうすでに目と鼻の先にある光線の先端部分から一瞬にして干渉し支配権を奪い取る。
そして壁とも言える程の巨大な光の攻撃性を無効化して日光のように不可視の光と変え空気に溶かす。
(防がれたか。だが、居場所はわかった。次に来る場所に目を開ければ勝てる)
暗闇の景色の中、静かに考えルーが来る位置を予想し始める。
(奴はハンデを背負っている。守る者というハンデが。故に大きく動く事はしない)
ルアザの方へと目を向かせればルアザは死亡する。
これは仲間の巨身三体も同時に死ぬ事になるが、ルーにとっては絶望的な被害でもある。
城壁の上には、貴重な兵士達がおり彼らも守るべき対象だ。
どんどん、予想地点が明確になっていく。
もう既に暗闇の視界の中には明るく未来の景色が写っている。
「長腕のルーよ。手札は少ないぞ」
皮肉が籠もったルーにとって図星であろうと思われる言葉を吐く。
バロールはわかっている有利なのは自分だと、今は攻め時であり分岐点だと。
予想通りに事が運んだら大胆に攻め、運ばなかったら現状が続くだけではあり損は無い。
バロールはそろそろ何かが来ると予感した時に予感の正体が姿を現し、何発もの玉が背中を穿った。
玉の正体はは都市からの援護射撃であった。
それも巨身の肌を破る程の強力な。
ルーが放つ光熱が一層増すと同時にバロールはルーがやってくるであろう場所へと腕を振るう。
予想外からの攻撃にバロールは次の行動へすぐには移せず、今は目蓋を開けるよりも腕を振るった方が速いと判断したのだ。
「安心しろ手札はたくさん持っているぞ!」
バロールの予想通りの場所へとルーはいたが、不敵で自信に満ち溢れた笑みを浮かべ穂先に強力な光線を伸ばす槍を振るっていた。
「グオォオオオ、お、オォ!」
バロールの太い腕に骨ま深い切り込みが入り、余裕そのものであったバロールの顔を痛みで歪ませる。
腕はズレ、地面へと落ちていく。
だが、痛みと同時に都市側に首を向け目蓋を開けるが、城壁の上には既に兵士達は一人もいないため魔眼を外した事になった。
あらかじめルーは射撃をした後すぐに隠れろと指示をしていたのだ。
ルーは最も厄介な見開いた魔眼に術式封入弾を投擲する。
着弾と同時に爆発を起こしバロールは目を抑えながら役立たずの魔族を押しつぶし倒れる。
後頭部を見せたバロールにルーは止めを刺そうと追うが、ルーは突如直角に地面へと向かい急速落下していく。
バロールの第二の瞳が開かれる。
後頭部に同じ即死の魔眼が現れた。
バロールの体からルーと同じように光が発せられ自爆したのではないかと思う程の衝撃波が放たれた。
地面に隠れていたルーは衝撃波と共に巻き込まれ上空に吹き飛ぶ。
ルーは恐怖と失敗に染まった焦燥感で支配されていた。
まだ魔眼は開かれているためだ。
倒れたバロールは後頭部を上へと向けており、上にある物は衝撃波で飛ばされた物が多数、空中を舞っている。
(まだ死んでないということは、まだ識別されていないということだ。何か障害物を……!!)
まだ定まらぬ視界を必死に明瞭にしていく。
自分の身を隠せる物は手が届く場所には無い。
自慢の槍は折れ、穂先の部分が自分の胸へと向かっている事にルーは気づき大きく息を吸いゼロになるまで吐く。
これから来る痛みを覚悟して、ルーは穂先を自身の胸に突き刺す。
「グホァッ!!」
血を吐き出し、穂先が真っ赤に染まるのがわかる。
(どこだ、どこにいる。…………アレか)
力無く目を瞑り、胸から鮮血を湧き垂らすルーをバロールは確認をする。
(隠れたか……)
即死の魔眼で生死を確認しようとした瞬間、瓦礫や魔族の死体が合わさったような物がルーを覆い姿を隠す。
魔眼の方も限界が訪れ、目を閉じる。
(もう一度だ)
先程のような溜めは必要としない巨大な衝撃波が再び放たれた。
魂力感知で本当に生きている事を知られる事を恐れたルーは瓦礫を組み合わせて最小限の結界で再度の衝撃波を防ぎきり、地面へと降りる。
ルーは口から血を漏らしながら胸から槍を引き抜く。
「アァ、ウグッ! アァ!」
空気に鮮血は触れると紫色へと変化し、禍々しい色へと変える。
精霊であるルーは持ち前の生命力で耐えたのだ。
ルーは赤黒く紫に染まった槍の封印を解く。
すると、ルーの血を吸うように紫色に染まり、折れた場所は癒着して真っ直ぐに直る。
「……すまない、クー・フーリン、スカアハよ。お前の槍を壊すぞ」
起き上がり、ルーを見つけたバロールは蟻を潰すように踏み潰そうとしていた。
ルーは異様な雰囲気を放つ槍のように凛冽の眼光を放ち、槍を投擲するように構え、紫色の光を槍から漂わせる。
「終わりだ」
槍に割れるような罅が入り始める。
〈光有り影有りの英雄槍〉
光が影を喰らい、影が光を喰らう。
相殺されずにエネルギーが重なり合い高め合う即死の槍がバロールの足を抉り貫く。
心臓に大穴を開け貫通した後、氷が砕け散るように煌めきを放ちながら花のように舞い、風に攫われる。
バロールは瞳を開けルーを見つめるがルーは突如倒れたりはしない。
これは終わりが確定した証拠だ。
固有魔術を発動させるには虫の息状態や致命傷を負った状態では不可能だ。
消滅する時でさえ意地を失わないくらいの強い心があれば発動は可能かもしれないが、バロールの意欲が尽きた顔と行動を見るかぎりそれは無いだろう。
「……見事」
激痛が走る胸の内部を何事も無かったように耐え
「なぜ復活した」
瀕死の重傷を負っていても力強い声で確認すべき事を確認する。
「……正確には復活ではない。再構築だ」
零になったものが一に戻る事を復活と定義すると再構築は零から一が生まれたと定義する。
「どうやって再構築した」
ルーが語りかけている時に再構築だと示すようにバロールの体は灰のように空気に溶けていた。
「それはお前達の敵だ。奴は魔王を助ける者と名乗っていた」
厄介な敵が出てきたと非常に面倒くさそうな顔をルーはする。
魔神級の巨身であるバロールを作り直せる程の力を持つ存在に。
「情報感謝する」
バロールは再び自然へと還った。
ルーは治癒魔術で胸の穴を治す。
地響きが唸る方向へと体を向けると、紫電と突風が入り交じる中でルアザと巨身が暴れていた。




