ドルイドの里
数週間程ザレト森林奥部を歩き、そろそろクラウの書いてあった事を疑いが生じ始める。
そんな時に二人は僅かな違和感をとある石に感じ取りよく見ると人工物と思われる加工物を見つける。
二人はその加工物の正体を察する。
広大で強力な結界を維持し基点とする結界石であった。
「罠かもしれない、調べよう」
ザレト森林にも魔族がいなかったわけではなかった。
それらを撃退する結界である可能性があり、それが自分達にも効果を生む可能性もある。
それを危惧してどういった用途の結界かを調べる。
「幻惑系の結界だな。まぁ、特に問題は無い」
この幻惑結界を中和する魔術を使用しながら進めば良い。
言うのは簡単だが、実行するのは難しい。
ルアザにはまだそこまで魔術技術が無いため、ユーハに糸をつけてついていく。
まず最初にユーハが結界の内側へと入り込むと、空間に飲み込まれるように姿を消す。
ルアザはその光景にいつの日かの親が何処かへ出かけて行く時の光景を思い出し纏わりつく不安感を覚える。
ルアザはその不安感からいち早く離れるように焦りを伴いルアザも慌てて結界の内側に足を入れる。
ルアザから見れば明らかに大木の真ん中をユーハは躊躇いも無く進み大木にぶつかる事無く歩いて行ける。
壁と言える木は全て幻のようであり、本物の木も多くあるため、どれが本物の木か識別できず疑心暗鬼が生じるがユーハは一切の迷い無く進んで行く。
そして、しばらく歩いているとユーハが立ち止まる。
後ろに背負う長剣を手に掛け、鋭い目つきで周囲を見渡す。
ルアザもそれに見習い、周囲を警戒する。
「誰だ。姿を現せ。…………3・2・」
カウントダウンと同時に攻撃魔術の準備をすると、木の後ろから民族衣装のような物を着た仮面をつけた人物が姿を現した。
「……」
ルアザがユーハの後ろから首を伸ばし仮面の人物を見ようとする。
「お待ちしておりました。ルアザ様」
確かめるように仮面の人物はルアザに首を向けると、少し震えた後、跪き頭を下げて言う。
「さ、様? というかなんで名前を知っているのですか?」
当然の疑問を投げかける。
「【王の光剣】とエウレアから聞いておりませんでしたか?」
「クラウからここに行けとしか、聞いてないです」
「そうでしたか。【王の光剣】の言った事は合っております。我々についてきてください。詳しい事はそちらでお話し致します」
「わ、わかりました」
ついに訪れた親と自身の秘密の根源が目の前までやってきた。
不安感はあるが、興味感の方が強い。
ここまで来たのだから退く事はできない。
不幸な事が起きようとも、既に遠い昔に覚悟はしている。
落ち込みはするだろうが、折れたり屈したりはしない。
「あの、ガルトで何が起きたのか知っていますか?」
「……魔神達が一同に集まり、眷属を引き連れてこのガルトを暴れ回り、現在もそれが続いてる状況です。そんな時にルアザ様がついに我々の元へやってきた事は感涙の極みです!」
最初は声を暗く感情を感じないが、最後のルアザについては声に喜色と希望に満ち溢れた声で話す。
「な、なるほど。(思った以上に自分は彼らにとって重要な存在なのか……)」
ロゼリアで現在のガルト地方について集めていた情報と似たような物である事はわかった。
そして、森の中に存在する小さな集落が見えた。
小さな集落とは言っても高度な魔術を使用している事がわかり、ルアザとユーハは驚きで口を僅かに開ける。
「つきました。ようこそ、ドルイドの里へ」
そして、入口の前には集落の規模から推測するに集落の住人全てが集まり並んでいた。
仮面の人物の歓迎の言葉と同時に住人達も歓迎のの言葉をかける。
「「「「ようこそ、ドルイドの里へ」」」」
住人達の中央から、少し派手な仮面をつけた老人が出てくる。
「お待ちしておりました。ルアザ様。我々は貴方を歓迎致します」
「感謝します。少し話したいことがありますので、会話の機会を設けられませんでしょうか」
「わかりました。早速、里長の家で話しましょう」
ルアザはユーハと別れ、ルアザは派手な仮面の老人についていく。
そして、他の家よりも大きい建物の中に入り、二人は座る。
「あの、クラウ、クラウ・ソラスと我が母親であるエウレアについて知っている事を教えていただけませんか?」
「ルアザ様。我々に敬語は結構でごさまいます。貴方様の思うようにお喋りください」
「わ、わかり、わかった。あと、なぜ私の名前を知っている?」
懇願するかのようにお願いされるため、ルアザ本意ではないが普段喋る口調で話す。
「では、改めましてドルイドの里の里長の位に就いております。好きなようにお呼びください」
「よろしく」
「まず、ルアザ様のお名前についてですが、約五年前に【王の光剣】とエウレアが里に訪れ、ルアザ様の事を知ったからです」
「そうだったのか」
やはり、推測通りガルト地方へと向かったことを確認する。
それと同時に次々とあらゆる疑問が水中の泡の如く浮かび上がってくる。
「突然ですが、ルアザ様は【王の光剣】とエウレアについてどのくらい知っていますか?」
「うーん。……二人共、既に亡くなっている。奴隷の経歴があり、私を育ててくれた親という事しか知らないな。何か隠しているようだったけれど」
エウレアについては苗字をただ聞かされていないだけかもしれないが、小さな頃に母親の背中辺りに奴隷紋のような物があった気がするため、とりあえず奴隷と推測しておく。
クラウについてはユゥグトゥスから聞いている。
「二人は里へ訪れた時はルアザ様と再会したあと、全てを話すと言っておりました。ですが、何もお伝えしていないようですし、何かあったようですね。よろしければ教えていただけませんでしょうか?」
ルアザは話すべきか迷う。
そもそも、彼らをどういった者か知らずに信用はできない。
だが、自分の事について知り得ない事を知っており、親の事を詳しく知っている。
多少のリスクを取って情報を得るべきだろうか。
だが、少し考えて見れば騙す理由は見つからない。
「……ルアザ様もここまでの長い旅でお疲れでしょう。まだ時間はあります。今日はここで終いにしましょう」
ルアザの疑い深い性格を見抜いたかのように、里長はそう提案する。
「疲労で少し頭が回らないから助かるよ」
「お連れの方もここで泊まるといいでしょう」
「ありがとう」
ルアザは個別の部屋に案内された後、座り込み、倒れるかのように横になる。
「何かを期待されているのだろうか」
文字通り圧倒的な自分に対しての敬意と忠信を向けている。
自分の父親はドルイドの里と深い関わりがあるようだ。
母親に対してはあまり、関心を感じないようであるし。
「何者だ?」
──本当の父親は。
思考の海の底へ潜ろうとした瞬間、扉の向こうに人の気配を感じため、すぐに姿勢を直し、思考の海を泳ぐのをやめる。
「やぁ、ルアザ君。どうだった? 知りたい事は得られた?」
「いや、まだですね」
「……そうか。自分にとって大事なことは焦る事なくゆっくりと吸収しながら知ると良い」
ユーハはそう言うと、まるで何を確認し終わったかのようにすぐに去っていく。
ルアザは気分転換しようと思い、外へ出かける。
「怪しすぎる里だな」
誰にも聞こえぬように口内で音を留める。
里の人々は一人漏れなく仮面をつけており、常識を身につけた今から見ると異様な光景であった。
だが、あの仮面は魔術を使用する上で補助してくれる道具に近い物だと見抜いている。
(精霊魔術の儀式道具かもな)
精霊魔術は一見、目的不明な物を使用する場合が多々ある。
「これは、どういたしましたか? ルアザ様」
ルアザが外に出てきたのに気づいた一人の里人が朗らかな声と共に話しかけてきた。
「少し気分転換をしようと思ってね。どこか、良い場所を教えて欲しい」
「わかりました。景色の良いところを知っております」
里人は心良く案内をしてくれる。
そして、里全体を上から一望できる高い位置にある崖へと案内される。
ルアザは崖の淵に座り、足を空中へとぶら下げる。
「この里は童話の中にある森妖精人に似ている」
自然を上手く利用した住居と配置からドルイドの里の感想をそう言う。
今のところルアザは都市で住んでいる森妖精人しか見た事は無いが、多数の森妖精人は深い森に住居を構えているらしい。
「環境が似ているので必然的に近い形になるのでしょうね」
(彼からも情報を集めてから里長と再度、対談しよう)
状況も二人っきりで誰もいないため、一対一でゆっくりと話せる。
「そういえば、里を案内した人も里長も貴方もなんで私の事をルアザだとわかったの?」
里長はルアザの親二人から伝えられたと言っていたが、名前だけではなく、特徴も伝えたと思われたため、それが気になった。
なんとなく予想はつくが。
「白すぎる色と世界一の美人だと聞いておりまして、その特徴を体現したのがルアザ様です」
ルアザはロゼリア守護神達の中でも最も美しいと言われる三人、ヘラ神、アテナ神、アフロディーテ神を偽り無しそのままの形で作れられた彫刻を見た。
この時ルアザはこう思った。
──自分の方が美人じゃないか?
確かに美人だけど、自分よりは下だと評価していた。
もちろん口には出さなかったが。
三柱の女神は容姿に関してはなかなか尖った性格をしているようだから。
「なるほど、確かに自分の事だ」
白すぎる。
アルビノという色が無いから白く見える。
世界一の美人。
今のところ見てルアザよりも顔が整った者はルキウスが近いだろう。
タイプが違うため比較しずらいが。
ルアザはロゼリアで常に容姿の事を褒められ、妬まれた。
客観的な目線で良い評価を何度も貰えば嫌でも自分の容姿に自信がつく。
「始めてルアザ様を拝見させていただいた時は、ルアザ様は我らを救う希望だと確信しました」
感動で涙を流した時の声のように声は魂と共に震えており、湿っている。
「なぜ、私が希望だと?」
ただ容姿が美しいだけでは希望とはなり得ない。
希望は誰もが信じられる権威と力が必要だからだ。
「それは、ルアザ様が我らの守護神ダーナ神族の直系子孫であり、唯一の生き残りだからです」
感極まったように希望である根拠を言う。
「…………………!?」
衝撃的な情報が舞い込んだ。
あまりの衝撃に情報を取得し理解しようとするが、思考が回らず停止してしまう。
自分の血筋が驚くべき物であったのだ。
極たまに高位存在と人間が交わり、半分高位存在という超人が生まれることがある。
人間大好きで好色な高位存在はよく半神の子を生み出している。
だが、そんな存在は珍しいとかそうなレベルではない。
オッドアイで生まれるくらいの一世代にいるかいないか、というレベルだ。
神の子孫はその神と非常に強い繋がりがあり、時々超人が生まれることもある。
直系は初代の子から、途切れる事無く祖先である神を敬い、祀っているため、多大な加護をその身に纏い、超人が生まれやすい。
ただの赤い血は持たない貴き一族だ。
現在はその貴き一族はロゼリア帝国の各州の総督の一家として統括させられている。
「……ありがとう、良いところを教えてくれて。気分転換になった。少し里長と話してくる」
ルアザは笑みを浮かべながら、立ち上がると崖を飛び降りる。
気分転換にはなったが、また新たな迷いの悩みの種が芽吹く。
(ダーナ家……。知っている。ガルト地方の総督一家。つまり過去は王族として扱われていた最高位の血筋だ。クラウがこの情報を危険視したのもわかる)
自分は実力を持っており、一定の実績を取り多数の人々から信用を得られれば、ガルトの総督一家の末裔だと名乗れる。
実際に事実なため、調べらでも構わない。
ガルト地方の奪取の旗頭になり、巨大な力が集まる。
全て上手く順調に進めばできる事だが、遅かれ早かれガルト地方の奪取はやらなければならないため、可能性としては高い方だ。
ルアザは王子様でした。
テンプレな王道路線ですが、ルアザは色々盛りすぎているのでこのくらいが丁度いいのです。




