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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第四章
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欲深き向こうのもの

「二人の英雄に感謝をします。そして、どうぞお気をつけてください。二人が行く先は我々も詳細がわかりせぬゆえ」


 ガルト州の州境にある城塞都市にてユーハとルアザはいた。

 正確には城塞化している都市であるガルト州の間の関所だ。


 ユゥグトゥスから貰った許可証には少し条件があった。

 それは兵役である。

 城塞都市の近くにいる軍では被害が大きい魔物が報告にあがっていた。

 その魔物の処置として正直死んでも良い英雄級の個人戦力をぶつけ処理させるのがユゥグトゥスの狙いであった。


 ユゥグトゥスの思惑通りにユーハとルアザは魔物を討ち倒して兵役を終了させた。


「いえ、こちらもお世話になりました」


 ユーハは笑みを浮かべ返答をする。


「お世話になったのはこちらですよ。では、汝らに神々の祝福を」


 ユーハとルアザは頷き城塞都市の強固で巨大な門をくぐる。


 そして、二人は走り始め、馬よりも少し遅い程度のスピードで走る。


 そしてルアザが被るフードが風で靡き、中身を見せる。

 ルアザはフードが取れたことにより、日光が肌と瞳を射し眩しそうに目を細める。

 フードを被り直し、ユーハと共にガルト地方へ向かう。


 しばらく走って風切り音で聴覚が麻痺し始めようとするときに、ユーハは止まり上を見る。

 ルアザも同様に視線を上に移動させる。


 透明な怪鳥の群れが空を飛んでいた。

 そして、その後ろには透明鳥を追いかけ回す翼がついたワニの群れがいた。


「よし、ちょうどいい。あれを今夜の晩飯にしよう。じゃあ、頼んだよ」


 ルアザは小さく頷き、ユーハは地面に生えている食用の植物を探しに行く。


 ルアザは弓矢を構え、一匹透明鳥に向かい撃ち落とす。

 そして射抜き落ちた瞬間、空鰐に食われる。


「……」


 納得の動きをされつつも、釈然としない。

 せめて矢は返して欲しかった。


 もう一度弓矢を構え、今度は油断しないで魔術と併用して射る。

 無数に透明鳥は飛んでいるため、ある程度狙えば当たる。


 そしてルアザの矢が透明鳥に刺さった瞬間ルアザは宙に張る細い糸を掴み地面へと引っ張る。


 矢に魔術で製作した糸をつけていたのだ。

 空鰐が追ってくるが、それも折り込み済みで風の魔術で透明鳥の群れの中の空気を軽く乱す。


 その風の流れを察したのか空鰐は群れへと向かい飛んで行く。


 そしてルアザは透明鳥ではなく血色に染まった鳥に素早く止めをさして、食料を獲得する。


 そして、空鰐が追ってくる前に遠くに離れる。


「根菜や新芽を取ってきた。そっちも良い感じじゃないか。透明鳥の羽は装飾品として価値が高いから綺麗に残してあるようで良かった」


 適当な日陰でルアザは鳥の内臓や血、羽などを処理していると、ユーハが様々な植物を持って来ていた。


「透明鳥は半分燻製にして、保管しましょう。一応、食料は豊富にあるとはいえ、備えはしていた方が良いと思いますので」


 作業しながら、処理方法を語る。


「そうしよう。食料はかなり日持ちするから、放置していても大丈夫だから」


 ユーハもルアザの案に賛同する。


「っ……」


 ルアザの体に思考を揺らす悪性の付与魔術がかかる。


 これは時折やってくる、ユーハの試し事であった。

 今日は色々と区切りがついた後、しばらく何も無くただ地面を静かに駆けただけなので、気の緩みが無意識に出ていた。

 今は作業に集中しているため、ほんの僅かに外への意識が疎かになってもいた。


 そこをユーハは的確なのか謀ったのか呪いを打ち込んだ。


「次は弾いてね」


 今行っている作業を中断して解呪したが、ユーハが求めているのは前提として呪いはかからないという境地だ。

 せめて、反射的に解呪するくらいまでにはなって欲しいのだ。

 あ、やべ、と思った時点でお前は死んだと思わなくてはいけない。


「はい……」


 そもそも、そんな高い目標に設定したのはルアザなのだから文句は言えない。


 心の中では言い訳を腐る程吐いてきたが。


(たしかに油断していた。でも、少し前に油断皆無な戦闘モードに入ってたはずだが、当たり前のように呪いをかけてくる。能力的にまだ未熟だからかかったと言うが、それは仕方ないだろう、まだ育ってないのだから。あらゆる面に置いて、意識外の隙を狙って来るから対応しようが無い)


「次は弾けたね」


(危なかった)


 常に纏うオーラとフォースの揺らぎや脆い場所を正確に通してくる。

 その脆い部分に意識を回せば、他の部分は疎かになり突破される。

 妥協は許さない適確な判断に則る完璧な結果を作ることでレジストの成功だ。


「……どうでしょうか? 少しは成長したでしょうか?」


「成長? アハハハッ」


 ユーハはその質問に笑う。

 嘲笑しているようで、本当に喜んでいるようにも見える。

 ただ、それ以上は語らなかった。


 実際は成長しているが、ユーハはそれを体感させないように工夫をしていた。

 精神方面を更に強くするためだ。

 結果がともわない実感の無い鍛錬から生まれる焦燥感、無力感、やる気の低下を耐えさせるためである。


 あまり心配はしていないが、陰鬱になっているなら様子を見て修行方法を変えるつもりだ。


「試しに聞いてみただけです。気にしないでください」


 特に変わらぬ声質でそう言った後、作業に戻る。


 そして、夜に備えて見張りを交代しながら寝る。


 ガルトの夜は既に魔物の巣窟になっていた。

 既にガルトの夜は安息を失い、暗夜ではなく闇夜へと変わってしまったのだ。

 恐れの象徴である闇が活性化している。


 それを知った二人は昼のうちに眠りを取り、夜は警戒し行動する方策でガルト地方を進んで行く。


「空が朱色に染まり始めた。隠密重視で行くぞ」


 ルアザは若干緊張を含みながら頷く。


 太陽が影を伸ばし始めた時に二人は準備を完了させ、これからは気の緩みを許さない魔境の地へと出発する。


 オーラとフォースを利用し自然と溶け合うようにオーラをフォースに混ぜこみ気配を歪ませる。


 黄昏時がやってくる。

 東から闇が満ちて、西の光を沈める。

 魔の時間がやってきた。


「っ!」


 ルアザの足に強い抵抗が生まれ、転ぶ前に足を止める。

 周りの植物が凶悪な雰囲気を持ち伸び、巨大化してルアザの足に纏わりつく。


 ルアザは強引に引きちぎり、難を逃れる。


「一瞬だけ結界で足場を作って進むと良い」


 僅かな時間でも魂力を操作すれば気配が出るが、まだ対応できる量と質であるため、安全重視で行く。


「グゥオオオオオオオオ!!」


「リィピャアギャアアアアアン!!」


 草むらの影に埋もれ、夜中の中でも鮮明に捉えられる二体争い合う巨大な猛獣を隣に二人は、うんざりした顔をしながら通り抜けて行く。


 頭に響く巨大で甲高い鳴き声を高頻度で耳に入っているため、二人は若干頭痛を引き起こしていた。


 ユーハが持つ絶対的な力が疼いてくる。


 そして、しばらく進んで行くと、人工物らしき物が見える。


「ユーハさん。たぶんアレは家ですよね。少し行ってみたいです」


「少し気分変えで行ってみようか」


 草をかき分けながら、二人は家が多く見かけるようになっている。

 草木が低くなり、膝程の高さになると全貌が明らかになる。

 ここは一つの村であった。


 建造物だった物がそこらにあり、小さいが人と人との距離が近い村であったと窺える。


「廃村してからどのくらいの時間がたったのでしょうか?」


 今にも雨を降らせそうな分厚いが月を覆い隠しているため、微かな光も存在しない暗闇の中で気配察知している。

 視覚に頼らずとも、村に漂うのは永遠の静けさと寂れて崩れ、まだ形があるため空虚感があった。


「見た限り、十年以上はたっているだろう」


 吹く風が寂しく残骸を散らす。

 そして、風が吹いた時にルアザがつけている月玉の耳飾りが淡く光ったその時、着火するように村の中に青白い揺らめく光が出現する。


 ルアザは慌てて耳飾りを外して、懐の中に仕舞う。


 カタカタと固い物が細かく衝突する音がそこら中から響き渡る。


「〈中身は死んだアンデッド〉か」


 幽玄な掠れた青白い灯火。

 生者の世界の理には無い火の色と形。

 それすなわち、死者の世界の火。


 そして、死者の理が境界を越えてやってきた。


「虚理階層が物理階層を侵食されてはたまらない、今のうちに排除しておこう」


 虚理階層。

 物理階層と真逆な世界が広がる階層。

 虚構が現実になる霊体の階層。

 いわゆるあの世である。


「そうですね。向こうの者には申し訳ないですが」


 虚理階層へ行く方法は一般的に物理階層の自身から離れることである。

 そして、虚理階層から物理階層へ行く方法は物理階層に自身の器となる物理階層の物体を得て宿ることだ。


 虚理階層からやってくるのは大抵、魔物と定義される存在だ。

 物理階層は強力な自然法則によって平和が保たれているが、虚理階層はそういった法則が曖昧で平和とは言い難い状況だ。

 そこにいる住人も一言で言えば荒くれ者だ。


 そんな奴らがそこそこ平和な物理階層にやってくる。

 しかも、虚理階層から見れば物理階層はまた死んでも良い程魅力的に映る。

 なにせ、元々生きていた世界なため、物理階層に行けば生き返ると言っても良いから。

 それ以外にも物理階層は感じるということができる。

 温かい、冷たい、匂う、痛い、眩しい、聞こえるという圧倒的な刺激を得られる。

 向こうの者は鮮明に確かに強烈にと感じられる感覚は麻薬と同等の快楽と中毒性をもたらす。


 人間の霊体がやって来た場合、繋がりの深い人間の遺骨に自身の霊体を宿らせ動かす。


 先祖の骨がどこぞの誰かに乗っ取られる、盗人と判断されて排除一択だ。


「自己都合でこちらに来てもこちらが困る。ほっとくと、どんどんこちらに来るからな。侵略行為だ」


 虚理階層は物理階層を欲しくて欲しくてたまらない。


「仕方ないか。僕達が困らなくてもその次来る人が困りますからね」


 青白い火を瞳とする動く骸骨がルアザとユーハを囲む。

 二人には背中を合わせて武器を構える。


 ルアザは腕を失っているが、オーラで自身を強化してフォースで補助をする。

 正確性はまだ戻ってはいないが、動く骨に正確性などいらない。

 必要なのは正しい判断だ。


 そして、ユーハが剣閃を飛ばすと同時にルアザも周りの石を浮かばせ衝撃を放ち高速で吹き飛ばす。


 二つの攻撃は多少魔術で強化された、ただの骨に当たり穴を開け、骨格を砕く。


 作業のように骨を砕き、二度と動けないようにする。

 遺骨の持ち主には申し訳ないが、遺骨が悪利用されたら生きている我々が困るので破壊させてもらう。

 大事なのは心だ。


 殲滅という名の弔い作業は終わる。


「死体処理がされていないとこうなるんですね」


 この世界の死体処理はこういった事を防ぐために燃やして灰にするのだ。

 現在二人は砕かれた骨を集め、塵へと変えている。


「難儀なものだ。一応戦う前に何か伝えたい事があるかもしれないと、中身の霊体と少し話してみたけど、ダメだった」


「やっぱりですか? 僕も少し会話してみようと思ったら、支離滅裂な言葉だったんで、知識通りの特徴だったんでやめました」


 一応、過去に優しい心の持ち主の魔術師が〈死んだアンデット〉相手でもコミュニケーションができる魔術を開発している。

 ちなみに《死んだアンデット〉会話魔術を開発した魔術師は死者と話せる事に期待をしていたがほとんどの〈死んだアンデット〉は会話が不可能だというのがわかり、ショックであった。

 魔術の成功がわかったのは幸運にも一番最初の〈死んだアンデット〉が普通に会話ができたからだ。


「いつのまに結構難しい魔術を習得していたのか」


 複雑な術式で構成されているため、難易度は高めの魔術だ。


「基本ロゼリアにいる時は暇でしから、〈死んだアンデット〉会話魔術は興味深いため、憶えました」


 もし、死んだ親と話せたら素晴らしい事だと思い憶えた魔術だ。


「そういえば、ロゼリアで術式を書いていたな」


「実際使ったのは今回で始めてですけどね。問題無く使用できて良かったです」


 黒い景色でも明るい声が響く。

ユーハ式修行方法。

常に抜き打ちテスト。

成長しなきゃ、精神も摩耗するよ。

成長しなかったら、精神が成長するよ。


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