オーラとフォース
「他にも編み出した極技はあるけど、それはまたいつか教えよう。次に教えるのはオーラとフォースだ」
「オーラ? フォース?」
「これは、遥か東の方に仙術と呼ばれる魔術があるんだ。ん? あっちだと霊術かな。まぁ、どちらでも良い。話を戻そう。その仙術を二つに割って改良したものがオーラとフォースだ」
「つまり、その仙術を使いやすいようにした物ということですか?」
「そういうことだ。そして、君に嬉しい情報を与えよう。十中八九オーラとフォースの才能があるということを」
パチパチと拍手しながら、そう言う。
だが、ルアザは喜色の笑みを浮かべつつ理由が聞かされていないため困惑していた。
「嬉しいですけれど、なんで才能があるとわかるのですか?」
「君の固有魔術に関わっているのだよ」
固有魔術とはこの世界こ構造物であるならば、持っている固有の術式のことである。
この世あらゆる物は持っており、そこらの石にもある。
「固有魔術ですか」
固有魔術については知識として頭の中に入っているが、期待はしていない。
固有魔術はそもそも発動方法がほとんどわからず、わかっている方法も複雑で死ぬしかないような鬼畜な物ばかりだ。
仮に血流を逆流させることにより発動する固有魔術があるとする。
もちろん死ぬ。
そういった物ばかりだ。
「なんと君は魔眼を持っている……というのは嘘で。固有魔術を知るということはその人物の魔術的な素養、性質をだいたいだけど知ることができる」
固有魔術は一人一人違うが方向性のような物はあるため、その人物の魔術的な性質がわかる。
風の魔術が得意なら、貴方の固有魔術は気体操作に関わっているでしょう。
魔眼などの術式が組み込まれた身体部分はとてもわかりやすい固有魔術だ。
魔眼の場合は固有魔術が眼球を媒体に発動するように術式が組み込まれた結果の事だ。
目は魔術を使う上での必須な道具なのだ。
「ルアザ君。君の固有魔術は世界との融合だ」
ルアザの固有魔術。
効果は使用時、使用者の身体を世界と同化する。
「とは言っても使った瞬間、世界の一部になって死ぬけどね」
海に水一滴垂らしたような物だ。
水一滴というのはルアザであり、海は世界の事だ。
海から見れば水一滴など、無いも同然だ。
「仙術の説明をしよう。仙術は自然の力を操ることが可能だ。極めれば天候さえも変えることができる。そして、仙術を扱う人物達を仙人と呼び、自然と一体化を目指す超人達だ」
「なるほど、自然と関わりが深い僕の固有魔術は仙術を元にしたオーラとフォースに普通以上の素質があるということですか」
「その通りだ。真面目にやっていれば、順当に力はついていく。早速オーラとフォースについて教えようか。まずはオーラからだ。見てて」
ルアザの魂感はユーハの内側から膨大なエネルギーが体外へと出ていることに気づく。
「それって、結構まずいですよ」
内側から出ているのは体を構成する属性の一部だろうと予想した。
ただ、体内から取り出しているため、生命活動に多少の影響があるのではないかと、ルアザは懸念する。
「それを補うためのフォースだ」
ユーハの周囲から属性がユーハに集まっているのを感じる。
その属性をユーハが吸収するように取り込み始め、体内と体外の属性が循環する。
そして、属性の循環が大河のように雄大になっていた。
その大河の恩恵を受けたユーハは高位存在と同等の存在感を放っている。
ユーハは属性の流れを操り、ルアザへと纏わせる。
「こ、これは!」
何の属性かはわからないが、体の疲れが和らぎ若干体が熱くなっていた。
だが、それよりも体に漲る力と呼吸一つであらゆる養分が体に入ってきており、単純にパワーアップしたと感じる。
ユーハは流れる属性の大河を突如加速し始め、自身に凝縮していく。
そして、手刀を構え地面に向かい軽く振るうと地面に手の厚さ分の一線が描かれる。
そして、纏う属性の塊を散らし、普段の雰囲気へと戻る。
「これがオーラとフォースだ。オーラは自分の属性を外側に引き出す物でフォースは周りから属性を集める物だ。潜在的に眠る力と自然と環境の力を操り恩恵を自身にもたらす。二つで一つの技だ」
ルアザはユーハが属性操作している時に注目をして、早速その属性操作を真似し始める。
「こうですかね?」
ルアザは体の底から熱く感じ、成功したということをなんとなく察する。
だが、ただ真似をしているだけのため、ゆっくりで何の属性を操っているかわからないが、成功した。
「うん、過程飛ばして結果に至るとは思わなかったけど、概ね成功している。それをもっと効率的に素早く行えば良い」
ユーハの話を聞きながら、フォースにも手を出し始めるが、自分の物ではない属性を操り、術式化せずにするのは難しく少し手間取っていた。
「ん? あ、こうか。うん、来た」
オーラを周囲の属性に混ぜ込むことにより、周りの属性と一体化してフォースの成功も確認する。
「素晴らしい。思った以上の才能だ。楽で助かる」
教える側としては沢山の事を教えてあげたいため、なるべく理解と習得速度は速ければ速い程良い。
なにかに執着して偏る執念深い者なら、あまり多くの手札は教えないが、ルアザは拘りという物が少なく、倫理的な思考をしているため、心配せずに様々な事を教示できる。
「ですが、集中していないとできませんね」
オーラとフォースの維持が今の練度では精一杯であった。
疲れた様子は見せないが神経が少し摩耗したようだ。
「これから、オーラとフォースを維持しながら旅をしてもらうから。二週間あれば慣れる、一ヶ月あれば習慣に変わって無意識にオーラとフォースを使っているようになっている。細かいところはその都度言うから」
ユーハとしては地道な事を嫌がらないルアザから考えて建てた修行計画だ。
オーラとフォースは身体能力強化の効果があるため、最初は苦難を覚えるが、必ず努力の分に見合う効果を得られると確信している。
「わかりました」
ルアザも特に文句も言わずに了承する。
本音としては旅は基本的に暇なため、丁度いい暇つぶしだ、と考えている。
「ちょっとした応用を教えようか。まずはオーラからだ。オーラというのは自分の中にある潜在的な属性を引き出し操る属性操作法だ。オーラを一定のところまで練度を上げれば病気などとは無縁な体へと変わる。オーラはそういった健康的な効果が高い。更に極めると毒でさえも解毒できる。早速だけど、これ飲んで」
ユーハは手のひらから生み出した紙とその上に乗る粉を渡す。
「なんですか、これ?」
「少しお腹の調子を乱す即効性の毒さ。君がこれを飲んで、俺が治すから、どういった要領で解毒するか感じて欲しい」
ユーハは適当に知識面を教えた後、身をもって実践させる方法を取っていた。
耳や目だけに入る情報よりも多くの器官を使って得られる方が多いため、量と質も備えた情報を知ることができる。
それは物事の理解の速さと深さに繋がるのだ。
「……信じますよ」
治ると保証されていても体に障害を煩わすため、気分は良い物では無かったが、意を決して腹痛の粉を胃袋に入れる。
「大丈夫、大丈夫」
軽く言っているからルアザは少し心配になると同時に腹部全体に痛みが走り叩く。
「……………あ、…………ぁ、…………あ」
思った以上に急に激痛が来て、腹を手で抑え無言の悲鳴を上げる。
思い出すのは子供の頃食べてしまった毒芋であった。
その時受けた衝撃と同じ物がルアザの内臓を叩く。
耐えられるけど苦しいが一番辛い。
「よーく覚えてて」
「……」
ルアザのお腹に手を添えてルアザの体内属性に干渉し始める。
ルアザは心臓が移動したかのような悍ましさを感じる程の異物感を感じるが、専門家に治して貰えるせいか不思議と安心できる感覚であった。
医者がやる事なら全面的に信じられる感覚に近い。
「よし、解毒完了。いずれ毒の種類も増やして自力で治せるくらいの技術はつけるから覚悟しておいて」
中毒、致死毒など想像するだけで鳥肌が立ちそう毒を接種させられる可能性がある。
治る保証はあっても恐ろしい。
十中八九、寿命を減らす。
だが、体を壊してでも強くなりたいと言った身からしたら、断るなどできない。
「はい……」
少しルアザはユーハの視界に顔が入らぬように振り向くと、目蓋に溜まっている液体を拭き取る。
「じゃあ、次行こうか。フォースは自然、環境に働く属性を操る属性操作法だ。エネルギーとか力とかを操るから少しイメージが難しい。体内の属性を減らすオーラを補い新たな属性を供給するのが主な役割だ。オーラだけだと疲れるからね。持続性を上げるにはフォースが必要だ」
オーラは体内に蓄えている栄養を使っているような物なため、普通に使うと疲労困憊になり回復も遅くなる。
「そのフォースの周囲の自然を操る技としての応用技は属性の適応だな。例えば炎の力をフォースで身に宿せば炎の力を得られる。見せてあげよう」
ユーハは手のひらの上に火球を浮かばして、フォースを使うと火球は一瞬盛り、輝くと同時にユーハの体に火が纏うように走り、消失する。
そして、ユーハは焚き火の方へと足を進ませ、なんとなんの躊躇いも無く焚き火の中へ足を入れ、焚き火の真ん中で立ち止まり火炙り状態になる。
「ちょっ!」
ルアザは思わず声を出す。
「問題は無い。熱さは感じるけど、痛みは無いさ。これがフォースだ。自然との一体化とも言える」
火傷する様子は見せず、服や靴も焼ける臭いはしない。
「なるほど、属性の動きからにしてオーラとも関わりが深そうですね」
火を宿す時にオーラの使用に気づいていた。
「フォースと普段使う魔術を併用すれば、効果も威力も上がるだろう」
「良いですね。僕は少し体が弱いので、助かります」
「あ、そうだ。君の病気だけど、やっと原因がわかった」
その一言にルアザは少し目を見開く。
「本当ですか?」
「本当さ。原因を教えようか。体を構成する物が違うから、ズレが生まれる。そのズレが突如やってくる脱力感と疲労感の理由だろう」
「体を構成する物質が違う?」
「もしかしたら、君の過去に死にかけた状態があって、何らかの方法で復活したという感じの物があるんじゃないの」
「……。(アレか)」
ユーハの推測は概要事態はほぼ正解なため、ルアザはバツが悪そうな顔をして心当たりの記憶を蘇らせる。
背骨を含めて全身の骨を折り、動けなくなった時に這い寄る炎が身を包んで瀕死状態になってしまったことを。
何故か最後に起きた後、体が戻っていた事が現在でも疑問に思っている。
記憶に深く刻み込まれたトラウマが発狂という形で口から出そうになるが、口を抑えて喉を強く掴み口の中を少し噛み切る。
「……話を続けて良い?」
突如、表情を歪めたルアザは苦しみを抑えるようにした行動をする。
その行動にユーハはルアザの最も掘り出して触ってはならない過去を触ったと認識した。
「……大丈夫です。続けてください」
とてもじゃないが、大丈夫ではない青い顔色をしているが、ユーハは話を続ける。
最終的には眠らせれば良い。
「復活方法なんだけど、新しい別の肉がルアザ君の欠けた肉体を補完した。だが、それは人間の肉では無いからあくまでも擬似的に補完して再構成させたのだろう。そして、今まで誤魔化していた悪影響が少し前から表面下に現れはじめたというわけ」
いくら似せようが偽物は偽物だということだ。
「治療法とかはあります?」
「体を全部取り替えるくらいしかない。君の体の擬似肉の割合がかなり高いから、取り除いたら体は穴だらけで死ぬだろう」
「今まで飲んでいた薬ではダメなんですか?」
「渡していた薬は、そんな状態を無かった事にしているだけだから、根本的な解決はしていないから延命治療にすぎない」
不治の病だということにルアザは絶望感に満たされる。
「どのくらいの時間が残されているかわかりますか?」
「早くて四年後、遅くて十年後くらい」
「わかりました」
最低でも二十歳まで生きて行ける。
だが、二十歳で死ぬのは速すぎる。
四年後の未来なら十分予想できる範囲だ。
だからこそ、鮮明に死の恐怖が感じ取れる。
「落ち込むな。必ず治療法を見つけてみせるよ」
「何かできる事はありませんか?」
自分の事だから自分で何とかしたい。
全てユーハに任せる事は恥ずかしい事だ。
「健康に良い生活をしてくれれば良い」
「わかりました。健康的な生活を心がけます」
何もできない自分を呪いたくなる。




