【空間】と【時間】
お待たせしました。
今章はターニングポイントです。
どうぞお読みください。
首都ロゼリアから旅立ち、一ヶ月がたった。
ガルト地方まで、まだ道のりは遠いが、ユーハとルアザは慣れているため苦もせずに進んでいた。
そして、現在は空は暗く星空へと移行しており、影が太陽ではなく月と焚き火で伸びる時間帯へと変わっている。
パチリと焚き火から火花を散らす時に焚き火の少し離れた場所で熱心にユーハがルアザに教示していた。
組み手を解き、ユーハは告げる。
「君は少し想定しすぎているな」
「どういうことですか?」
「そうだな。理詰めしすぎているとも言える。自分の能力、状態、周囲の状況から総合的に最判断した最適な動きが多い。そして、あらかじめ予想し、対応策を思い描いていた動きも良くする」
言葉だけを見るなら、褒めているような表現ばかりだが、実際はルアザの欠点を突いている言葉である。
「頑張って戦えば勝ちやすいけど、君がこれから戦うのは頑張っても勝てない相手だ。今の状態の最高はこれからの最低だ。基礎、基本とも言えるな」
戦う前に前提としていることや、現状況に戦法を左右しており、その場で状況を自ら切り開こうとする戦法が薄い。
そんな常識的で驚きもしない戦い方は決して圧倒的な上には届かないとユーハは言っている。
「いいか、自分が考えていることは相手もどこかで考えているんだよ。そして、相手の思考にズレが生じるのが一番多いのは実行しているときだ。君に必要なのはその固い頭を柔らかくしなさい。アドリブができていない」
優秀なもの程、大きな問題に立ち向かう時、入念な準備を施してきている。
というか当然。
だが、同じくらい準備した優秀対優秀の場合互角になってしまう。
勝敗を分けるのは実力がぶつかり合った瞬間である。
その瞬間に相手の思考を欺き、越えた方法を取れた者が勝利を得られるのだ。
「あと、一番最初の行動が悪い。一撃か二手、三手で相手を倒せるように」
勝負の劣勢は最初の一手目で決まりやすい。
上手く行けば、一瞬で流れと主導権を手に入れることが可能だ。
「はい……」
予想以上にダメ出しをされ、ルアザは今までの努力が否定されたような気分に陥る。
それも全て正論であり、何が足りないのか正確に指摘するため文句は言えない。
「じゃあ、実際、頭を柔らかくしてみようか」
ルアザの頭を掴み、思考の動きを少し変える。
少し脳を弄っただけだ。
そして、頭が柔らかくなったルアザはどこか困惑した様子であった。
「なんか、処理する情報が増えた気がします」
脳内に違和感を感じ、ざわつく思考に気を取られる。
「その増えた情報は君が今まで排除してきた情報だ。その情報を十全に扱えればもっと強くなると思わないか? 頭の柔らかい人ってのは無駄が無いんだよ」
「うーん。少し混乱して逆に弱くなりそうです」
混乱しているようではまだ、情報と向き合って対話しておらず、頭が固い証拠だ。
「今回は無理矢理そういった状態にしているからね。本当は自分で切り替えるものだから。自分でちゃんと切り替えができるようになったら、良しとしよう」
「……コツとかあります?」
説明が曖昧過ぎてルアザは理解しようとしても、迷いが生じてしまう。
「そうだな。……光を嗅いで、音を感じ、匂いを味わい、刺激を聞き分け、味を見る、というのできたら合格ラインだ」
「なるほど、方向性はわかりました」
多角的に見ろ、ということだろう。
そして、ルアザの頭を元に戻す。
「修行方法についてだが、派手な動きをしてみるのが良い。じゃあ、早速だけど地面に手ついていいからバク転とかやってみ」
そう言い、膝を曲げ伸ばすとクルリと綺麗な安全性のあるバク転をする。
ルアザもそれに習いバク転をするが、そもそも普段そんな動きをしないため、地面に手がつき少し危なげであった。
「普段使わない筋肉や神経を使うので、確かに視野が広がりますね」
少し頭が冴えた感覚を覚える。
頭が冴え澄んだら、感覚も同じように冴えて来る。
新しい扉を開いたような感覚に似ている。
「こういった、華のある動きは見栄えだけの物だと思うかもしれないが、それなりに基礎を固めないといけないし、かなりの技術力を要するから、意外とためになる。何よりカッコいいからモチベーションにもつながる」
「一歩間違えれば怪我しますね」
「そうならないように、基礎を固めてね」
最終的に一番重要なのは準備であると暗に伝えられる。
基礎を増やし、高めることはできる事を間接的に増やすことだ。
ルアザは基礎能力は高いが、そこで満足せずに常に成長させ続けなくてはならない。
大技とか、難しい事はユーハが教えるため、今はまだ深く考えなくてもいい。
ルアザはユーハの言葉にコクリと頷く。
「そして、圧倒的な上に勝つための攻撃力が足りない問題だ。戦いとは守るものではない、攻めるものだからな」
ルアザは岩を切り裂けるだろうが、鉄は切り裂けない。
鉄の体を持つ相手に対して、撃退手段が無いのだ。
「そうですね。僕にはそういった攻撃力が異常なまでに高い技というのは少ないですしね。それに深究の魔神との戦いでものすごく後悔しました」
ルアザには雷魔術を扱えるが、雷の魔術は数秒の溜めが必要であり、方向性を定めるのにかなりの労力を要する。
繊細に力で抑え込む魔術なため体力を使う。
方向性が定まらず放った場合、自分の方へと電気が向かい即死を一番気をつけなければならない。
「そうだろう。攻撃力を上げる方法は大きく分けて二つある。一つ目は筋肉とかをつけるなどの方法で持続的に攻撃力を上げる。二つ目は必殺技などの方法で瞬間的に攻撃力を上げる。君にはどちらも習得してもらう」
そうして、ユーハは目の前の空間の一点を指で突く。
それと同時に突いた周囲に拳サイズの球状結界
を作る。
「?」
「この世で扱える最も上位に位置する属性は【時間】と【空間】だ。この二つの属性組み合われば次元の壁でさえ超えられる。これもそろそろ黒くなるはずだ」
そう言うと、手の上に浮かせている結界がそこに穴が空いたように漆黒に染まる。
三次元的な認識が難しくなるほどだ。
「これは?」
「空間の穴。これに何か触れると……こうなる」
木の棒を差し込むと、差し込んだ部分が音もなく消滅した。
「最強ですね。ちなみにこの穴の先はどうなっているんですか?」
漆黒の穴が恐ろしい深淵の穴に見えてくる。
「奥は無い。強いて言うなら次元の壁がある」
「二次元的な存在なんですか?」
球体の穴なため、二次元というのは少しおかしい表現だが、奥行きは無いと言うからそう判断する。
「三次元になりきれない二次元がほぼ無限に重なっているかんじだな。薄い紙が何枚も重なっているけど構成されているのは紙にすぎないため、完全な立体とは言いきれない。でも見た目は立体、不思議だね」
空間が無い場所の空間というのは次元が一つ下がるのだ。
この世界を三次元だと定義すれば、穴の先は平面の世界二次元世界なのだ。
「じゃあ、この穴を解放してみようか。なんで木の棒が消滅したかわかるから」
ルアザと自身に結界を張り、空間の穴の結界を周囲一帯までに広げる。
次の瞬間、大気が空間の穴を中心に急速に渦を巻き、地表が捲れ吸い込まれていく。
周囲の光も熱も奪い、周りが暗くなり始める。
そして、塵は輪となり高速回転をする。
「これは、世界の修復効果だ。こうやって周りの物質を吸収して穴を埋めているのさ」
先程の木の棒の消失原因は吸収されたからである。
「全く、修復される気配がないんですが」
まだ、回転速度が加速する渦を見てルアザは不安げな表情でユーハに現状の事態を聞く。
「そういう風に穴を開けたからな。これは難しいことではない。まぁ、そろそろ戻そうか」
次の瞬間、穴は消え渦によって荒れた周囲だけが残っていた。
「見ての通り、空間に干渉するというのは、膨大な力を得られる。そのぶん扱いは難しいし、間違えればさっきの永遠に吸収し続ける穴へと変わる」
「なるほど、わかりました」
ユーハのどこか迫真な厳しい口調にルアザは昔、親から魔術を教えてもらう時の心得を教えてもらったことを思い出す。
「空間を操ることができれば、基本的に場所と距離に縛られなくなる」
ルアザはシャナと親達がどこかへ出かける時の事を思い出す。
あの時は精霊のすごい力で納得していたが、今思うと空間を操っているのだろうと、悟る。
「最強ですね」
「あぁ、機動力と破壊力という点においては他の追随を許さない。空間の上に乗っている物を耐久性関係なく壊せるからな。そして、【空間】に対抗でき、【空間】よりも上位に位置する属性【時間】とはどういった物か教えよう」
ルアザから見れは時間を操るなど、既に神の領域へと堂々と居座っている同然であった。
しかも、いつものように当たり前のように言うのではなく、若干の威圧がある言い方のため、少しルアザは禁忌に触れているのではないかと躊躇いの感覚を覚える。
「……」
「時間とは万物を動かす圧力のような物だ。心臓無しで流れる血液みたいな物だ」
「エネルギー的な物なんですか?」
「熱とかそういったエネルギーじゃなくて、運動エネルギーとか位置エネルギーとかに近い存在だ。海は流れているだろう? あの流れを世界レベルまで広げた感じだ」
世界は海。
固い場所もあれば、柔らかい場所もある。
それを分け隔ても無く、等しく動かす力それが時間だ。
「時間も空間もそうだけど、干渉して操るの非常に大変だ。特に動いている時間は。これから時間の魔術を使うから、時間がどうなったか当てて見ろ」
そう言い終わると、ユーハは適当に歩き始める。
一秒後には歩く速度は倍へとなり、二秒後には更に倍へと変わる。
そしてユーハは止まる。
ルアザは今のユーハの歩きを時間の加速だと判断したが、耳に入る音も早くなっていることに気づく。
「時間の遅延ですか?」
「当たり。君の周りだけを時間の流れを遅くした」
ユーハが石を投げてくるとルアザに近づけば近づくほど石は遅くなり、落ちないのが不思議であった。
難なく石を掴んだルアザはなるほど、と頷く。
「妨害や呪いで遅くしたのではなく、法則的に遅くしたのか」
空間は上にある物を全て平等に捻じ曲げ、時間は下にある物を全て平等に変速させる。
「でも、空間にも言える事だが、狭い範囲内でしか使えない。時間なんて自分の時間を操るくらいしかできない。今みたいに自分の外側の時間を操るなんてかなり疲れるし、キツイ」
空間も時間もとにかく不変に近しい物だから、それを変えるには非常に労力がかかる。
慣れれば良いと思うかもしれないが、短距離を全力で走ると同じ理屈で使うたびに体力を大幅に消耗するのだ。
「小技しかなさそうですけど」
少なくとも今の発言では空間も時間も大技は非常に困難だと予想させられる。
「うん、大技ができるように頑張ってね。どんな物を鍛え、使え続ければ上達し辛い事も平気になるから」
求められるのは地道な努力であった。
心のどこかで楽に短期間で習得できる事を期待していた自分がいたため、若干の落胆をする。
だが、小技でも十分な効果を発揮するため、自分の中で折り合いをつける。
「……時間と空間の大技っていったいなんなんですか?」
逆に大きな労力をかけた末の技を知りたかった。
目指すべき目標にもなり、大いにこれからの鍛錬に助かる。
「良いだろう。見せてあげよう我が極技を」
その言葉を待っていたと言わんばかりに腕を組みそう言い放つ。
そして、息を一つついた後、時間と空間を操る神技が放たれる。
〈自由な空の鳥籠〉
空間は突如、捻り巻いて更に曲がる。
高熱の硝子、金属を加工するように空間を意のままに一瞬にして混沌の形状へと変わる。
黒夜に漂う光が錯乱して濁り、景色が淡い灰色に変わる。
〈暴龍の大河に岸辺の稚魚〉
瀑布の底のような場所へユーハは歩き始め、躊躇いも無く体を入れる。
だが、入れた瞬間ユーハの輪郭を描くように夜の線が描かれユーハは空間と同じようにひしゃげる事は無く悠々と進む。
そして帰ってきて、術を解くと空間が捻り極めた場所は形容のし難い事になっていた。
地面が空中にまで伸びて、空洞である部分や、何が起きたのか宝石らしき物が見えていた。
形も中身も法則など存在しない渾沌そのものを象っていた。
そして、ユーハが通った部分だけ人型のトンネルができていた。
「最初の技は〈自由な空の鳥籠〉と名付けた。空間を好き勝手に操って、あんなふうに滅茶苦茶にできる」
空間操作の超効率化した魔術だ。
空間を粘土のように操ることができる。
「次の技は〈暴龍の大河に岸辺の稚魚〉という技で、防御の技だ。周囲に時間を超加速させた二枚作る。ここで肝心なのが一枚とは逆向きに二枚目の時間の方向を設定する。すると二層の間はほぼ時間停止している場所が出来上がり、何も侵入させなくなるんだ。空間がおかしかろうが周囲の絶対法則はこの魔術の使用者だから関係ない」
二つの物が同じ速度だが、方向は向かい合う形で逆になりぶつかると作用副作用の効果は無視してちょうどプラマイゼロで止まる。
だから、何もかも停止して一定以上の停止した何が積み重なったら上下の超加速空間に削られどこかへ飛んでいく。
周りの時間を直接止めれば良いと思うかもしれないが、世界の時間を止めるのは頭痛がする労力が必要になる。
更に、ただ周りの時間を止めて、何も考えずに時間停止を解除すれば止まっていた空間は恐ろしいことになる。
「どの技も素晴らしい物ですね。僕はこういった決定的な力も求めていましたよ」
深い笑みを浮かべて拳を強く握る。
空間、時間、次元などの設定は深掘りしないでください。
ファンタジー世界だということを思い出してください。
作者も次元とか空間とか少し調べましたが、さっぱりわからないので。
ただ、時間魔術については説明しておきます。
まず、大まかに時間の加速、遅延の二つが時間魔術です。
この二種類の組み合わせの数で時間魔術は応用となります。
時間停止に関しては直接世界時間を止めることは非常に力が必要です。
作者は時間の事を流れる大河だとイメージしております。
大河の流れを止めるには干上がらせるか、せき止めるしかありません。
どれも非常に労力がかかります。
時間停止の魔術はそれなりの仕組みがなければ、成功しません。




