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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第三章
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天は惑い、魔は進む

 ユーハは自身の固有魔術の発動を切る。


「ふぅ、危ない所だった」


 焦るような物言いだが、声には波は無く比較的に冷静であった。

 そして冷たく静かに佇む瞳を眠りにつくルアザへと動かす。


(なかなか、過激な事をする子だ。本当にヒヤヒヤする。この自身に向ける思い切りの良さと冷徹さは危険だ)


 ルアザ自身から聞いた行動にユーハはそう評価する。


(はぁ、今までの特異点の中でも深いタイプだな。……面倒だ)


 鈍く、気が重い息を吐く。


(運命の流れについて行けずにルアザ君はいつか死ぬな。やっぱり鍛えてやらないといけないか)


 やらねばならぬ物は基本的に嬉しい物ではない。

 やる気というよりは義務感という物で行動しなければならないからだ。


(まぁ、改善すべき点は言えば直してくれるし、技術を教えればすぐに学ぶというのは、これまでの付き合いでわかっているから、楽な方か……)


 才能が無い奴を一定の基準まで引き上げるのは非常に時間と労力がかかる。

 時間と労力は教える方もある。

 学ぶ方は労力にコストが偏るが、教える方は時間にコストが偏る。

 特に得られる物は少ないのに時間だけ削られるのは嫌な気分だ。


「ルアザ君も自分を大きく信頼してくれている。その期待を裏切るのは気分が悪い。それに久しぶりの特異点だ。未来が広がっている」


 得られる物は共に未来だ。

 ユーハにとってはそれは財宝の山や圧倒的な力よりも価値があるものだ。




 ◆◆◆




 目が覚める。


 長く寝て鈍い体を起こし、息を吸う。


 精神階層とは少し違う空気の味と香りに安堵を覚えるが、右腕の感覚が無い事に気づく。

 熱さも冷たさも圧力も何もかも。

 どんなに意思を強く命令しても動かない。


 魔術で動かすが、土や石を操作する魔術を使っているように重く扱いづらかった。


「やぁ、おはよう」


 ドアの向こうから、ユーハが笑みを浮かべやってくる。


「おはようございます」


 ルアザは立ち上がり、笑みを見せた。


 ダラリと骨が無くなったように下がった右腕をユーハは見て、意を決して言う。


「右腕切り落とすかい? 痛みは無いようにするから」


 夢現界で提案していたことを言う。


「……お願いします」


 このままあっても壊死して毒になる。

 本音は繋げていたいが、命よりも大事というわけでもない。


「わかった」


 少し準備した後にユーハはルアザの右の肩から指先を体から切り取り、治癒する。

 そして、ルアザの要望で腕を半永久的は冷凍状態にしてもらい妖精の鞄に入れる。

 妖精の鞄も容量が不足し始めたの感じ、ルアザは少し感慨深くなる。


「ありがとうございます」


 垂れた袖を隠すようにルアザは外套を纏う。

 元々、首の肌さえ表に出さない服装であるため、少し異様である。


 切り替えるように起床後のいつもの動きをする。


 髪を束ねる時、両手ではないとやりづらいが、魔術で代用して綺麗に縛る。


「新しい腕についてだけど、聞く?」


「聞きます」


「ガルト地方にヌァザという義手をつけた神がいるんだけど、接触して義手について聞き出せればなんとかなるかもしれない」


 触りくらいは聞き出せればユーハは自力で完璧な義手を作れる。


「なるほど」


 その提案に納得し、頷く。

 しかし、懸念がありユーハもそれを気づいているようであった。


「君も知っていると思うけどガルト地方の現状を鑑みるとヌァザ神が生きているとは限らない。そこを留意してほしい」


 ガルト地方は崩壊状態だと言うのにガルト神達に何もアクションが無いからだ。

 ユーハもルアザも内心、あまり期待はしていかった。


「はい。あと、行きたい場所があります。ガルト地方にあるザレト森林と州都リーペです」


 ユーハは悟る。

 ルアザ君はついに自分を深くまで信用し始めた、と。


 ルアザいわく、推測だが、ガルト地方に自分の事に関することがあると。

 なぜ、ガルト地方とは真逆な場所に居たのか疑問に持つが、ルアザは自身の事について探られるのは少し嫌う。

 そして、それ以上の情報を開示しなかった。


 ユーハ自身も似た感覚と性格を持っているため、それ以上聞こうとしなかった。


「そう、わかった。一緒に行こうか?」


 一応確認しておく。


「そうですね。できればついてもらえませんか?」


「いいよ」


「ありがとうございます」


「じゃあ、話は少し戻るけど、ヌァザ神の無事か否かの情報を得るために、なるべく早めにロゼリアを発とうと思う」


「賛成です。ロゼリアで十分に準備して出発しましょう」




 ◆◆◆




「喜べ。ガルト地方へ行ける許可が出た。ユーハ殿とルアザ君の二つだ。これを関所の兵士のところに渡せば行けるから、大事にしろよ」


 ユゥグトゥスから二つの証を渡されルアザは大事にそれを懐にしまう。


「たしかに受け取りました。ありがとうございます」


 ユゥグトゥスはルアザの右腕に目が行ってしまい、ルアザもそれに気づき少し乾いた微笑を出す。


「その右腕の事を聞いてもいいか?」


 遠慮がちに言う。


「まぁ、少し無茶しまして。切らざる得ない形になって今至るという感じですね」


「うーん。頑張れとしかいいようが無いな」


 可哀想だとは思ったが、それはルアザのためにはならないと考え、この言葉を選んだ。


「大丈夫じゃないですけど、大丈夫です」


 長く垂れ下がる袖を少し見せながらどこか明るい声質で、悲しみを含まないよく通る声であった。


「まぁ、君は運命の渦中にいる。君なら新しい腕も見つかる事だろう」


 ルアザはユゥグトゥスの謎の信頼と興味に少し戸惑いはあるが、気持ち悪い物ではなく、後押しになるような期待であった。


 そして、二人はしばらく話す。



 ◆◆◆




 長い木と短い木が当たる音がロゼリアの郊外に響き渡る。


 しばらくすると、短い木の音が鈍くなり、次の瞬間には大きな音をたてて青空へと吸い込まれる。


「やっぱり力が出ない」


 落ちた木剣を拾い、ルアザは自分の左腕を確かめるように指を沿わせる。


「それだけでも、十分だと思うけどね」


 親しみやすい声で長い木槍の構えを解いてルキウスは励ます。


 ルアザとルキウスはなんやかんやあって仲良くなり、タメ口で話せるくらいの親密度になったのだ。


 現在二人が行っているのは簡単な模擬戦のような物だった。

 ルキウスが最初提案して、ルアザも現在の実力でどのくらい戦えるか知りたかったため、了承した。


「いや、これは結構大事なことさ。左手だけだと剣筋もブレて力がしっかりと伝わらない」


 単純に斬りつける攻撃も受け流す、受け止める防御などの基本技が全て劣化したような感覚であった。


 特にルアザはブレずに真っ直ぐ正しくを形にした正確さをうりにしているため、致命的だと言えた。


 左手一本だけだと、剣の重さに腕が耐えられず柔軟な動きができなくなり、体力の減りも速くなる。


 ルアザにとって今の剣はナイフよりめんどうな扱いにくい武器となっていた。


「当分の間は純粋な魔術師に転職する予定だ」


「たしかにそっちの方が色々と良いかも」


 それはルキウスも賛同する。

 半分以下の実力さえも出せない剣士になるより、剣士の容量を魔術師としての容量へ移した方が今は生存率が高くなる。


 ルアザの肌を一切見せない影のある魔術師特有の身を隠すような服装を見ながらそう言う。


「まぁ、粗方の状態はわかった。今回は付き合ってくれて感謝するよ」


「いや、僕の方から提案したことだ。その思いは結構さ」


「そう? ……そろそろ行かなくては」


 ルアザは自身の影の位置を見て、時間が来るのを気づき別れの時が来るのを告げる。

 ルキウスと出会ってもう二週間程たっていた。

 ロゼリアにいる時期は数ヶ月にものぼる。


 ルアザもロゼリアは差別が無くて心地よく、留まりたい気持ちでいっぱいだが、自分の目的を思い出し心地良い思い出を振り切る。


 ルアザは外套についているフードを被り、ルキウスに笑顔をニコリと浮かべる。


「髪、出すようになったんだね」


 ルキウスはルアザが被るフードの中から首の両隣から垂れる水のように煌めいた髪を見てそう言う。


「そういえば、そうだね。しまった方が良いかい?」


 ルキウスの言葉にまだ理解ができないルアザは困惑しつつも笑みを崩さなかった。


「いや、今の方が良い。始めて見た時よりもね」


 ルキウスは最初ルアザを見た時、怪しさ満点であったため、内心かなり警戒していた。


 そして、ルアザが自分の姿を見せた時に驚いた。


 自分と同じ性質をもった姿に。


 ルキウスの容姿は女と見間違える程、可憐で中性的な見た目をしている。

 この特別、唯一さの長所短所を理解してくれる人物はいないと思っていた。


 幼馴染のリナでさえ、本当に理解してくれているわけではなかった。


 そんな時に現れたのが、ルアザという果てしない美貌を持つ、自分と同じ一種の到達点にいる存在であった。


 性別を勘違いされるという同じ悩みを持ちながらもルアザはそれを活かし更に自分の魅力を引き上げた。


 ルキウスはまた驚いた。

 自分はかってに沈んでいく黄昏に対して、ルアザは自分の意思で昇っていく黎明であると、感じ取った。


 我々二人は似てるようで似ていない、近いようで近くない。


 そして、試合で負けてルキウスはルアザに尊敬の念を抱いた。


 だが、ルアザにも悩みがあった。


 ルキウスと同じような美貌と中性的な物ではなく、別のタイプの悩みである。


 大理石の粉のような純白に雪のような透明度の高く、生気を感じない白に鮮血その物を瞳に宿した紅の瞳を持つ事である。


 そして、それが忌み子呼ばれる存在の特徴と一致していた事である。


 黎明の彼は眩しかったが、どこか暗さがある事を気になっていた。

 その原因が差別だとわかり納得した。


 差別とは否定、迫害だ。

 少し話してわかったが、理不尽な不幸を生きていたのか、少しルアザは常に謙虚で陰りのある声質であることに気づいた。

 それは見た目にも現れ、フードを被ると直接素肌などの表面的な部分は見えなくなる。


 ルキウスはもったいないと思った。

 ルアザは太陽に近い輝きを放っている、それを隠すなどもったいないと。


 だからこそ今回髪だけでも出してくれてルアザはまだ一つ完璧に近づいているのだと嬉しくなったのだ。


「君がそう言うなら、そうしよう」


 ルアザは自分の髪を触り、少し笑みが喜色に染まる。


「そうしてもらえるとこちらも嬉しいさ」


 二人は恋人みたいな事を言っているが、どちらも正真正銘の男である。


「では、この出会いに感謝と再来を」


「この別れに応援と次なる縁を」


 ルアザとルキウスは互いに祝福の言葉を言い、別れる。


 暖かく爽やかな風が草花を靡く。

 この風がまた吹く時を。



 ◆◆◆




 ロゼリア守護神達の固有空間オリュンポスにある巨大な神殿がざわついていた。


 なぜなら、神殿の部屋の一つにロゼリアの大神達が一同に揃っているのだから。


 その部屋には主神ゼウス、海神ポセイドン、戦神アレス、美神アフロディーテ、守護神アテナ、伝令神ヘルメス、太陽神アポロン、月神アルテミス、闘神ヘラクレス、と代表される神々を含めて冥界の者までいた。

 冥神ハデスとその妻ペルセポネも参列しており、一部の巨身を除いてロゼリアの神々がこの場にいた。


「ご無沙汰しております。皆様」


 その中に不相応な存在であるセレンがいた。

 上品な笑みを携えて、神々に挨拶する。

 神々は無言でセレンを見つめ、頷く。


「久しぶり。セレン」


 ヘルメスは司会進行役なので少し離れた場所におり、親しみやすく手を振りながら挨拶を返す。


「ヘルメス神も、お久しぶりです」


「では、始めようか。これより報告会と会議を始める」


 始まりの宣言をすると、まだ緩んでいた空気が引き締まる。


「では、最初は神官達の代表のセレンから」


「はい。神々の皆様方には日頃からお世話になっております。前日の夢現界事件、悪魔憑依事件の解決にお力添えをしてくださいまして、誠に感謝いたします」


 まずは挨拶と感謝を述べる。


「そして、非常に心苦しい事ですが、皇帝陛下並び、皆様の加護により作り出された防護機構が悪魔達に突破されてしまいました」


 皇帝に張られた結界がいい例だ。

 皇帝の結界はロゼリア守護神達が協力して張られている。

 毒は浄化し、あらゆる攻撃を防ぐという間違いなく最も頑丈で高機能な防護結界だ。


 だが、その結界の内側に敵が侵入した。


 結界の内側へと行く方法は単純に力で勝負するか、結界の術式に穴を開けるかのどちらかだ。


 力の場合は絶対に神々が感知するため、そちらの可能性は排除される。


 残ったのは術式の隙間を通る事だ。


 だが、ユーハなどの一部例外を除き、外側からの侵入は不可能と言っても言い。

 最後に残ったのが結界の術式設計者である神々の中から手引きした者が現れ、自分が担当している部分だけ他の神々にはバレずに術式を変えて侵入させたという方法である。


「「「「……」」」」


 その報告と情報に重苦しい雰囲気が部屋の中に漂う。

 神々は理解している、我々を気遣ってセレンが遠回し言っていること。

 そして、悟ったことを。


 悟った事に関しては十中八九、上位層の神官達が気づいているが、公開すれば混乱が生まれる事は容易く想像できるため、厳重に隠している事を。


 その重苦しい空気を切り裂くゼウスの声が出てくる。


「認めたくない事実だが、認めなければいけないことだ」


「それは……!」


「皆、覚悟を決めよ」


 覚悟を決めた厳しい現実が次の言葉と共に告げる。


「我々の中に裏切り者がいるということを」


 その言葉と共に神々は三者三様の動きをした。


 悲しそうにしたり、顔を顰めたりと単に負の感情を表す者、誰が裏切り者か探るように視線を回す者、特に反応もせず堂々としている者と別れる。


 疑心暗鬼が生まれ、ロゼリアの守護神達は僅かな綻びが生まれる。


(ユーハ殿から、皇帝陛下の隣に悪魔がいると聞かされた時は驚きました。しかし、本当にこれで良かったのでしょうか?)


 セレンが花畑が広がる夢現界からの脱出方法はユーハが来たことである。

 そして、ユーハが今回の裏切り者の件を伝え、去っていった事を思い出す。


 ◆◆◆




 闘技大会選手達が飛ばされた夢現界にて、塔の頂上に二人の魔神がいた。


「とりあえず、後は量産体制に入れば良い」


 三つの頭、四本の腕を持つ深究の魔神がそう言う。


「ありがとう。そういえば、モルモット捕まえられた?」


「いや、右腕だけ。その右腕もこの有様だ」


 ルアザの右腕だった物は長い間、炎で焼けたような爛れた腕であった。


「これは、これは」


 なかなか、見応えのある腕を見て唸る。


「全く、貴重な素材なのに罠のように腕がかってにこんな形になってしまって、本当にムカつく」


「なんで、全身取ってこれていないのかい?」


「ヤバい人間がいて、そいつに殺されかけたから逃げてきた」


「人間如きにお前は負けたのか?」


 魔神にとって人間とはそこらの石や小動物などと同等な存在であり矮小でありながらも、おもしろい反応を見せてくれる遊び道具にすぎない存在だ。


 だからこそ、人間相手に逃亡してきた深究の魔神に屈辱ではないかと、聞く。


「たぶん、アレは我らが父上と同じ例外とかそういうのだ」


「なるほど」


「まぁ、そんな事はどうだって良い。お前の友達は皆殺しにされたけどいいのか?」


 友達とは物理階層の体を持たない悪魔達のことだ。


「あぁ、アレね。別に深い意味は無い。邪魔だな〜、って思ったからついでに殺した」


 愉快に奇怪に笑いながら言う。


「お前がそれで良ければ何もいわぬさ。しかし今回の物語の終着点はお前にしては雑だな演劇の魔神と呼ばれているお前が」


「今回は練習みたいな物さ」


「なるほど、これから始まる我らの時代に備えていると」


 二柱の魔神は互いに笑みを浮かばせる。

 我ら魔の一族の栄光の未来がもう目の前だからだ。


「でも、無意味に人間達を煽るのは楽しかったよ。あいつら少し煽っただけで統制を失ってこの塔に登ったよ。何もないのに」


 ルアザ達の精鋭チームが調査に向かっている時に塔の攻略に向かわせた原因は演劇の魔神が適当な姿で混ざり込み、きっかけを作ったのだ。


「それわかる。人間達って希望っぽいの置いとくと、かってに群がるから、滑稽すぎて笑ってたよ」


 希望というよりは獲物を誘うための餌に魚みたいに食いつくマヌケさに嘲笑をせざるおえない。

 人間は自分達を動物の中でも上位に置いているが、本質は何も変わらない。

 それを自覚しないでいることに愚かとしか言いようが無い


「そろそろ研究の時間だから、では、これにて。次会う時は父上の前だろう魔王の癒し(ラファルエ)


「あぁ、またその時だね、魔王如きもの(ヨルエ)


 魔王の癒し(ラファルエ)はこの夢現界から消える。

 そして、魔王如きもの(ヨルエ)から黒い閃光が当たり一面に向かい放たれる。


 これで、塔の夢現界は消えた。

これで第三章は終わりです。

読んでくださりありがとうございます。

よろしければ、感想、高評価、ブックマークなどをしてくいただければ、今後の執筆活動の励みになりすので、お願い致します。


明日くらいに零章の続きを出して、また四章を書くために間が空きます。

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