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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第三章
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不測の事態には奥の手を

 寝起きとは違うタイプ朧気であった。

 意識が掠れ、今にも霧散しそうな意識を激痛がかき集め、放射状に落ちていくルアザがいた。


 このままでは地面に激突するのはわかるが、体を動かすのも魔術を行うのも、難しい状態であった。


 だが、意識は取り戻している、まだ地面まで何秒かの時間はあるため体にかかっているリミッターが外れなんとかして魔術を行い衝撃を和らげる。


「ぐうぁぁ……」


 右の肩と腕の骨が折れるのを理解し、痛む体を少し休めたら、力を振り絞り立ち上がる。


「背骨が折れていなくて良かった」


 背骨が折れたら体が完全に麻痺して、動けなくなる。

 行動不可になった危険性は身をもって知っているため、不幸中の幸いだと僅かに喜ぶ。


 体の異常はないか探す。


 頭を強く打ったのか頭から僅かに血が垂れており、体中が打撲なのかわからないが、痛みが走るという決して万全とは言えない状態であった。


「速く、戻らなくては」


 まだ歪む視界を前に向け、動くたびに痛みが走る辛い体を動かし、足を前に出す。


「「「モルモット発見」」」


 三つの声と共に空から降り立ったのは三つの頭と四つの腕を持つ者であった。

 ルアザは突如やってきた存在に驚愕をするが、今は驚く反応をするほど体力は無く、現状への疑問感が内心を支配する。


「貴方は?」


「「「深究の魔神と呼ばれている」」」


「ま、魔神!? 魔神がなぜここに!?」


 みんなの敵の中でも、最も力を持つ存在である魔神だと名乗る存在にルアザは声だけは驚きに満ちていた。


「「「良いところに実験に適した体を持つのがいたから、君を実験道具にするため、捕獲にきた」」」


 魔神の実験。

 魔の実験。

 恐ろしい以外何も思わない。

 拷問同然の事をされるのが手に取るように想像できる。


「断る」


「「「なぁに、大事にするから恐れるな。さぁ、我が果ての礎となってもらおうか」」」


 三つの顔は変わらず、慣れた動きでルアザを捕縛しようと動き出す。


 ルアザは深究の魔神が何をするかわからないが、身の危険が迫っていることを悟っていた。


 四つの腕の中の一つが植物のように伸び蔦のようにルアザを絡め取ろうとする。


 ルアザは筋肉が直接打たれるような痛みに苦渋に顔を顰めながらも、体を動かし不規則な動きをする腕から、逃れる。


(次は避けられない……!)


 今の動きだけでも膨大な体力を使い、体が徐々に金属になっていくように体が重く、鈍くなっている。


 自身の状態を正しく知覚した。


「「「こらこら逃げるなって」」」


 子供が余裕を持って虫を追いかけ回すような口調でルアザを捕まえようと再び動き出す。


 退路はもう無い。

 正確に言えばあるが、崩れ去っている退路だ。

 必ず破滅する道を通るわけがない。


 横の道などなく、残ったのは大きくて広すぎる大きな道だ。

 つまり、目の前の魔神を打ち倒し、道の先にある希望の場所に行くしかないのだ。


 絶望的な状態で恐怖が意味をなさぬ程傷ついた体だが、ここを乗り越えなければ次は無いのだ。


 死にものぐるいでルアザは攻撃をしかけた。


「ハアァア!!」


 声を出し、数パーセントでも良いから体力を振り絞り左手片方の剣を振り落とす。


 恐怖と壁を切り裂く一閃にはその剣はならなかった。


「「「頑張った、頑張った」」」


 細い片手一本で受け止められた。


「……。(わかっていた。この一振りでは決して倒せないと)」


 鮮明に予想ができていた事だっため、驚く姿はルアザは見せなかった。

 片手で振った力無きブレまくりの剣が通じるはずが無いと振った瞬間わかっていた。


 だけど、今できる最大の攻撃方法であった。


 覚悟していた事のため、心は折れる事は無かったが、己の弱さに恨みと後悔が残る。


 またか、と。


 そして、剣は折られ強力な圧撃を喰らい、木に激突してそのまま吐血と共に倒れる。


 体を動かそうとするが、上から圧力らしき物に押さえつけられる。


「「「その目つき、良い素材になりそうだ」」」


 ルアザの鮮紅の瞳は深究の魔神の方へと向いており、諦観の様子は見せなかった。


 故郷での悲惨な最後を迎えたあの時と同じ事を起こすわけにはいかなかった。

 本能は起こりうる終焉の未来を写ろにし、眠りへと誘う。

 しかし、現実の否定を感情が訴え、現実の改変を理性が促す。

 悪に屈するな、不に負けるな、非を乗り越えろ、不屈であれ、と潜在的な自分が言う。


(こんな、状況なのにやる気が出る。不思議だ)


 奇しくも、あの時と同じ絶体絶命な状態だ。

 これを越えた先は、自分が求める物が得られるはずだ、と内心笑みを浮かべる。


(何か? 何か、ないか?)


 視界の中央は魔神を捉えているが、今意識を割いているのは周辺視野の方であった。

 打開策となり得る物を鮮明な意思と共に探す。


 上からかかる圧力を一瞬だけ対抗し、抜け出し、上空へと音を響かせる花火を打ち上げる。

 せめてでも救援を呼ぶ事にした。

 運が良ければ近くに誰かがいるかもしれないが、先程上げた物は危険だから来るな、という意味合いがある。

 来ても、何もできなさそうであり、巻き込みたくなかったからだ。


 深究の魔神はそれを止める事をしなかった。

 油断をしているという緩んだ目をしておらず、逆にルアザの一挙一足を逃さぬ鋭い目をしていた。


 その鋭さは急所に鋭利な刃が徐々に近づく恐ろしさを持たせている。


 そんな、目つきをしているのにルアザの行動をただ見ているだけであり、何を考えているか分からない。


 ルアザは自身に痛覚を麻痺させる付与魔術をかける。

 痛みは失せるが、生きる時間が減る事を自覚する。

 一秒後には死の時間がやってくると思うと、気が軽くなる。


 剣を作り出し重い体を持ち上げ、構える。


 この剣が自分を持ち上げたような感覚を覚えた。


 深究の魔神はまだ、何もしなかった。

 精神と意識を取り払われた人形ように不可解な印象がある。


 戦い方を変えなくてはならない。

 ルアザの戦法はあらゆる手段を用いて敵を倒す、手札が多い戦法だ。

 だが、今回は状態が酷いため、手札が機能しない。

 残った少ない手札で相手を倒さなければならない。


 こういう時は隠された切り札、奥義、必殺技という総合的に長所の方が大きい大技を使うものだが、ルアザにはそんなものを容易してはいない。


 大技というわけではないが、攻撃力が不足するなら雷当てて、倒してきたからだ。

 それにルアザは技は、隠すものではない、先手必勝で必殺技を入れろ、という考えを持っている。


 ピンチになる前に解決するという、どんな場面でも正しくほぼ正解な戦い方であった。


 だが世の中、予想外というものが意識の外からやってくる。


(多少非効率でも奥義を作るべきだった)


 不測の事態を考慮しなかった自分の合理性を疑いたくなる。


 ちなみに夢現界は精神階層だが、心の強さで何か影響を及ぼすわけではない。


(無ければ作ればいい)


 というか、作らないと死ぬ。

 が、できる事は剣を全力で振るう以外ない。


 だから、決断をする。


 痛みを思い出せ、焼かれる痛みを、炭化していく記憶を。


 恐怖が冷やすな、常識が止めるな。

 決断を熱くさせ、勇気を動かせ。


 冷やした先が後悔だったのだから。


 右腕に確実に使い物にならぬであろう悍ましい呪いを付与する。

 ほぼ都合の良い希望的な観測だが、自分は実験体、相手にとっては価値がある。

 その価値を自らの手で損なわし、あわよくば見逃してもらう。


 深究の魔神は始めて目を見開き、焦るようにルアザの目の前に移動する。


 その瞬間を狙い折れた右腕を無理矢理力を込めて殴りつける。


「「「モルモット如きが何をしている。使い物にならぬではないか」」」


 苛立ちに満ちた声でルアザの右腕を掴み、不要となった右腕を断ち切ろうとしていた。


 その時ルアザは大きな深い笑みを浮かべ、先に自分の右腕ごと切り裂いた。


 意識が飛びそうだが、痛みがまた意識を呼び起こし勢いのまま穂先を向かわせる。


「ハァァァァァァァァああぁあ!!!」


 トラウマを思い出し拒絶反応の発狂行為をしたかのような叫声を元に剣に熱を走らせる。

 風が熱を奪うが、すぐに新たな熱が供給される。


 決断とは、自分の身を切ることであった。


 だが、深究の魔神に剣が届いた瞬間、体が痺れ物理的、摂理的に硬直する。


 掠れる意識の中、ルアザは手首、足首、首に何かをつけられるのを感じる。

 今はもう意識の維持に精一杯であった。


 万事休すとなった時、深究の魔神の後ろに剣を上段に構え、振り落とそうとしているユーハがいた。


 腐っても魔神、背後き違和感を持った魔神はおもむろに首を後ろに向けた。


「「「!」」」」


 次元と共に魔神を斬る一撃が立ち昇るオーラと共に放たれた。


「逃げ足は速いな」


 残念そうに先程まで浮かべていた笑みを消し、ルアザを置いて魔神がいた空間に視線を少し向ける。

 右腕は無いが。


 当たった感覚はあったが、斬られながらも転移してこの場を離れたのだろうと、ユーハは予測する。


 そして、ユーハはルアザを改めて見ると、半死半生そのものだった。


 赤黒い血が流れる右腕は関節部を切ったのではなく、筋肉繊維と骨の砕けた断面が見える程の重要な場所を切り口から自分で切ったのだろうと予想できる。


 ルアザの人間離れした美の供給源である透き通る程の白い肌はところどころ鮮血に染まり、痣で青くなっており、淡く紫色に滲んでいる場所もある。


 雪の結晶は濁り、何の熱が原因なのか溶けようとしていた。


 相当危険な状態なため、治癒の魔術をかける。

 まずは痣跡や内出血などは消していき、腕の再生は精神階層では難しかった。


 物理階層ならば、人体の物質を作ってくっつければ良かったが、精神階層は物質的な概念が少なくい。

 そのため、新しく作るとかは難しいのだ。


 せいぜい切れ口を綺麗にして、少しの肉を作り止血するくらいしかできない。

 だが、それでも復活の可能性をユーハは施す。

 完全な消失よりはマシだ。

 この世界は魔術がある。


 まだ、この世界では二十数年程しか生きていない、ユーハはこの世界の事を知り尽くしているわけではない。


 ため息を吐いたときルアザが顔をユーハに向ける。


「本当に助かりました。本当に」


 最初の一声は儚く感謝の言葉であった。


 泣き叫んで目の前に神が現れる同然の安堵と津波のように押し寄せ感謝の言葉と表現を出したいところだが、極限状態て疲労困憊な体ではこの言葉だけがやっとであった。


 それでも、気が狂いそうな焼ける焦燥と感覚の全てを閉じたくなる暗黒の不安から解放された気持ちが籠もった声であった。


「遅れてすまない」


 ルアザに手を伸ばし、ユーハの口元は安堵するように笑み浮かべる。

 ルアザもその手を掴み引き上げてもらう。


 そして、ユーハはルアザを背負うが右腕がないため、気まずそうにする。


「右腕は持っていかれましたか?」


「あぁ、どこにも無い。ここが物質階層であれば、完全に完治ができたんだけどな」


「そうですか。……ちなみに精神階層で腕が無くなった場合、物理階層ではどうなります?」


「向こうの腕も同じ部分が機能しなくなって、最終的に壊死するから、切り落とした方が良い。再生させても、動くことはないだろう」


 精神階層にある自分、物質とは精神階層より下にある階層の物を動かすための機構である。

 遠い未来の言葉を借りるならソフトウェアだ。

 その下の階層をまた言葉を借りるならハードウェアだ。


 ルアザは右腕を構成するソフトウェアを削られた状態なのだ。


 なぜ、精神階層の物を再構築できないかというと、一人一つソフトウェアが違うからだ。

 ルアザはその中でも異色であるし、ユーハもルアザの精神階層を把握しているわけでもない。


 元の構成物質、原理がわからなくてはどうしようもない。


 理屈的に物理階層を動かすだけなら作れるが、世界はそんな単純な物ではなく、複雑ため結果は動かない。


 ユーハは自分の研究の末、生み出した精神階層の元をルアザに組み込んだ。


「……ユーハさんなら、あの魔神を倒せたでしょうか?」


 ルアザを背負い林の中を歩いている時ルアザは少し体力我戻ったのか、声をだした。


「倒せた。正直言って魔神如きあの一撃で真っ二つにできる」


「良いですね。僕の敵はきっと、ああいった魔神レベルなんです」


「……!」


 ルアザが始めて自分の過去を他人に語った事にユーハは小さく反応をする。

 今までルアザは自分の過去を口に出す事はなかった。

 ユーハはルアザと出会った初期の頃、何も知らぬルアザにどのような経緯があるかきになったが、トラウマを引き起こして発狂したため、聞くのはルアザの事を思って止めていた。


 ルアザ自身も自分の過去を他人に話す事を避けていた。

 そんなルアザが自分から公開しはじめた。


「魔神というのは憶測ですけど、なんとなくそう思います。まぁ、どちらにせよ巨大な相手です」


「かなり難しいだろうな。ちなみに今回の魔神はどうやって対応したんだ?」


 ルアザは詳しく魔神との相対を話す。


「最終的には自分の右腕を犠牲にしましたけど、結果は何も変わりませんでした」


 嘲笑するようにルアザは少し笑う。

 そして、唐突にユーハの首を回す首に微かな力が入る。


「……どうすれば、貴方のように強くなれますか?」


 その声は熱いが湿っており、切実な思いで満たされていた。


「それは……」


「僕は悔しいです。理不尽を覆せない自分の弱さが。自分の妄想で右腕も失いました」


 ユーハはそれを感じ取り、共感する。

 自分も贅沢ではない一般的な幸せを得る瞬間、理解不明な不条理に砕かれることを。


「この力は、地道につけていったものだ」


 現実はこんな物である。


「そんなはずが無い! 貴方の力は、その若さで身に付く物ではない! 知っているはずです! 強さの秘訣を!」


 声は小さかったが、激しく感情のままに聞き出そうとする。

 ユーハはそれを煩わしいとは思わず、次の言葉を呟く。


「話しても良いけど、自分を傷つけないって約束できる?」


「無理です」


「わかった。教えてあげよう」


 ユーハはその即答に満足そうに微笑し、ルアザの背中を叩く。

 そして、ルアザは少し驚いたように目を見開く。


「どうした? 喜ばないのか?」


「いや、その、怒らないのですか?」


 ルアザは戸惑うような声を震わせて喋る。


「たしかに、自分の身を大切にして欲しいけど、君が求める強さは人間辞める位の物だ。多少体を削って更に強い肉を得る必要があるからさ。今の時点では腕一本は削りすぎだけど」


 少し叱るようにユーハはルアザに咎める。


「ユーハさん。人間辞めてたんですか?」


 今の文脈から読み取るにユーハは化け物だと言っているような物であった。


「比喩だよ、比喩」


 真顔で真面目、冗談事を言うためルアザはこれ以上聞かないようにした。


「まぁ、色々なんか言ったけど、伝えたいことは諦めないことだ。君はその点、既に完成している。卑屈になるな」


「はい」


 ヒュプノス神、オネイロス神の眷属達が助けに来ており、一緒に飛ばされたマティアトス、ルキウスもそこにおり、笑顔で手を降っている。


 ルアザも手を振り返し煌めく笑みを浮かべる。


(元気になってくれて良かった)


 ユーハはルアザにバレぬように小さく笑みを浮かべる。

 ルアザは最初の人生の幼馴染であるミラエルに似た雰囲気を持っている。

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