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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第三章
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愛の神様

 ロゼリアの兵士駐屯所にある牢屋に雑に扱われても目覚めない素人が一目見ても実力者であるとわかる筋肉質の男が運ばれる。


「いいのかよ? こんな実力者を次々と牢屋に入れっちゃってよ?」


「知らね。上司の命令だから従うけど、俺も少し心配だわ」


「おい、お前達! 話してないで速く仕事しろ!」


「「はい!」」


 上司が見回りきやってきてサボっている部下を叱るとまた、実力者が運ばれて来て牢屋の中に入れられる。




 ◆◆◆




「手荒な方法ですが、とりあえず、最悪の事態はなくなったかと」


「そうか。ヒュプノス神、オネイロス神からは?」


「あと少しで救出可能とのことです」


「わかった。あとは何か援助が必要か?」


「今のところは必要はありません。ですが、こういった事態は滅多にないため、何が起きるかわかりません。その時は支援を要請させていただきます、皇帝陛下」


 ロゼリア帝国第七代皇帝マラウム・ガルメア・ファラン・キストル・ロゼリア・ユレイスは書類の処理から顔を上げる。


「わかった。もう下がってよろしい」


「それでは失礼します」


 アテナ神神官長は一つ頭を下げて部屋から出ていく。


 そして、次にユゥグトゥス入ってくる。


「ご機嫌うるわしゅう皇帝陛下」


 明るい笑みで言う。


「ユゥグトゥスか。何の用だ?」


「今回の事件とは関係ないんですけど、執政官(コンスル)の選挙についてです」


「選挙か。それがどうした?」


「神殿への支援を妨害する立候補者がいたので、ご報告をと思いまして」


「そうか。…………お前は選挙についてどう思う」


 選挙。

 ロゼリア帝国が共和制の頃から続く由緒正しく続く自分達のリーダーを自分達で決めるというのが特徴である。

 皇帝という絶対的な存在は巨大になりすぎたロゼリア帝国をまとめるために必然的に生まれた物だ。


「個人的な意見ですが、選挙制度は止めた方いいかと。アレは国を分かれさせる可能性があります。我々は大きくなりすぎました」


 共和制の良い所は様々な意見を受け入れ、許すという点だ。

 許容範囲が広くだいたいの事を認めてくれる。


 だが、だいたい以外の認めてくれないもの数が母数が増えるにつれて、大きくなっていく。


 そして、どこかで一大勢力となって離れていく。


 ロゼリア帝国という母数はあまりにも増えすぎた。

 主に増やした時期は共和制の時代だが。


「まぁ、選挙を無くすなど無理だろうな。そんな事やったら国が真っ二つに割れるだろうし」


 共和制というのは非常に魅力的だ、なにせ参政権という支配と自由の性質を持つ大権利を与えられるから。


 皆、大好きな自由、それが失われる。

 結果は火を見るよりも明らかだ。


 だからか、ロゼリア帝国の民達は意外と人権意識が高い。


「だからこそ、陛下には頑張ってもらいたいですね。陛下は我々の柱ですから」


 王国という王国を滅ぼした共和国が辿り着いた先が空中分解して滅びそうな帝国。

 何も決まらない、何をするにも遅い、そこに終止符を打ったのがロゼリア帝国初代皇帝、つまり帝政の始まりであった。


 だが、その初代皇帝も最初は選挙で勝ってその地位に就いたため選挙という制度は無くならなかった。


 それでも、分かれそうなロゼリア帝国をくっつける接着剤であり支軸、魂という唯一無二な存在であるため、皇帝という地位は帝国の中心にして頂になった。


「共和制に逃げたい」


 マラウムは皇帝の地位に就いてから思っていた本音を出す。


「ダメですよ。我々がさせませんから」


「歴代の皇帝が女に堕ちる理由がよくわかる」


 厳しい部下に終わらぬ仕事、権力に狂わらないように常に働かせる理性。


 それを癒やしてくれるのは、昔から続く娯楽、性行為が一番なのだろう。

 元々、性に寛容なロゼリアであるため、皇帝もその性質を受け継ぐたのだ。


 皇帝だから、男も女なんて選び放題だし、相手の事など気にせず自分の不満と欲望を叩きつけられる。

 心も体もストレスから解放されてスッキリするだろう。


「別に全部やらなくてもいいんですよ。仕事は我々に任せて、最終的な決定作業さえやればいいじゃないですか」


 政策や軍などは下々に任せて決定権は自分が持てば良い。

 間違えたら、部下の方で何とかする。


「それは、それで暇になる」


 時間が空いたら怠惰に墜ちそうだからだ。


「まぁ、良い感じなところを探してください」


「伝令です!」


 突如、やって来た伝令に二人は和やかな空気を引き締める。


「入れ」


「失礼します」


 軍の伝令兵が息を切らしながらも、礼儀正しく入る。


「何があった?」


「〈都市事識ロゼマー〉に突如悪魔の出現を確認しました」


 宝具〈都市事識ロゼマー〉。

 都市の結界や属性の流れから、人、物の動きがわかる、情報収集のための宝具。

 この宝具があることにより、大犯罪などは起こらず、大火事になる前に災害を防げる。


「ならば、決めた通り対応すればいいじゃないか」


 ユゥグトゥスがマラウムの代わりに言う。


「そ、それが、現在問題になっている闘技大会選手の意識不明状態の体に憑依されています」


「なに!?」


 マラウムとユゥグトゥスは目を見開いて、驚く。


「じゃあ、今、高い戦闘能力のある体が悪魔共が乗っ取っているのか!?」


 彼らがいる世界の階層は物理階層と呼ばれる階層だ。

 物理階層は不安定なあらゆる物事の器となっている。

 この世界には自身の器、体を所持していない生命体が存在する。


「そうです。アテナ神官の兵隊や我々憲兵でも抑え込めず、市街地へ暴れようしております」


 物理階層に何かしら干渉したい場合は物理階層の自分が必要だ。

 精神がちゃんとある闘技大会選手が精神階層で行動できるように。

 物理階層の自分がない場合は、他から奪うという手段がある。


 現在、選手の精神は夢現界と呼ばれる精神階層に存在する空間に飛ばされている。

 つまり、器である体には何も入っていない。


 どう考えても大チャンスだ。


 しかも、物理階層に干渉できない存在は大抵、高位存在である場合が多い。


「宝具の〈手軽堅牢ザガラン〉はどうした?」


 〈手軽堅牢ザガラン〉。

 捕縛と隔離を目的とした宝具。

 持ち運びしやすく、ある程度の距離でも捕まえられるため実用的でよく使われ重宝されている宝具である。


「手数が足りず、あまり意味を為していません」


 〈手軽堅牢ザガラン〉の捕縛人数は最大で十人程である。

 もっと大型の物なら一網打尽という形で封じ込めが可能性だが、〈手軽堅牢ザガラン〉はそういった殲滅能力は少ない。


「わかった。まだある〈手軽堅牢ザガラン〉を出してこちらの対応が間に合うまで時間稼ぎをしていろ」


 宝具使用の許可証を伝令兵に渡す。


「どうします?」


「閉じ込めるために、強力な結界を張る。その後本格的に対処する」


 マラウムはすぐに決断を下した。

 結界を張り、被害の進行を抑え込んで一息ついた後、事件の解決する。


「殺人許可は?」


 ちなみに、乗っ取られた体を破壊すると、乗っ取った存在も大ダメージを受ける。

 みんなの敵、悪魔ならあわよくばぶっ殺したい。


 だから、ユゥグトゥスは聞いた。

 ついでに悪魔共に半殺し以上の大きな傷をつけるかどうか。


「出さない」


「承知致しました」


 安心したかのようにユゥグトゥスはクツクツと笑う。


「だが、なぜだ? 牢屋はそういった侵入を防ぐ処理をしてあるはずだ。どうやって取り憑いた?」


「単に力不足で通り抜けられた。もう中にいる。どちらかでしょうね。今は原因よりも事件の解決が先です」




 ◆◆◆




 時は遡る。

 皇帝マラウムのもとに伝令兵が走ってくる前のことである。


「神様、時が来ました」


【信用破り】ロン・ミテウスが喜びに満ちた顔で収容所の隅で謎の石を持っている。


 喜色満面の笑みが向かう先は牢屋、収容所を囲む結界であった。

 石はナイフのような鋭さを持つ形に変わり、その石を結界に叩きつけると結界は綺麗に切れる。


 穴が開いた先から這い寄る、混沌とした色の触手のような歪な手が結界を掴み更に穴を広げる。


「おぉ、神様、お待ちしておりました。私は貴方様の使徒として、貴方様の御意にそえたでしょうか?」


 恍惚としたとろけるような表情を浮かべ混沌の体を持つ魔神に跪く。


「よくやった。我が信者よ」


 派手な見た目に反して声は少年のように無邪気で清い声であるが、魔神としての圧力があるため、青年くらいの声質であった。


「あーアーあーアーあーアー!!!」


 その言葉にロンは恋する乙女のように顔を赤らめ、快感が体中を走り回る。

 言葉にはできない神への熱烈な愛を吐き出しているのだ。


「良い声だ」


「あぁ、神様、申し訳ありません。貴方様への思いが少し暴走してしまいました」


 恥じるがどこか嬉しそうに顔を赤らめながら言う。


「いや、その声は大好きさ。愛は叫ぶものだからね。じゃあ、そろそろ次へ行こうか」


「は、はい!」


 ポッと顔をまたピンクに染める。


「今回は友達を呼んできたんだ。プレゼントを渡すために君に結界に穴を開けてもらったことには感謝しよう」


【信用破り】という異名も結果にすぎない。

 全ては崇め、同じ考えを共有する己の理解者である神様の頼み事ならば喜んで頼まれよう。


「いえいえ、貴方様と友愛のためならば、当然の行いです」


 至上の主と英明の愛。

 この二つはロンにとって全てであり、自分でもある。


「楽しいパーティーの始まりさ」


 結界の穴からは不可視の気配が蠢き、結界の穴は脈動する深淵となる。


 そして、友愛に満ちた友達はプレゼントを快く受け取る。

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