一般的に十分な勇気
夢現界にて精鋭部隊の四人が息を飲み、呼吸音も限りなく消して、張り詰めた雰囲気で身を隠している。
「「「「……」」」」
目線の先には大鎌を持った薄暗い闇の体を布で包む夢現生命体らしき物がいた。
ルアザ達はこの大鎌持ちを警戒に警戒をしていた。
先程、大鎌持ちは突然空間を切り裂くように現れたのだ。
当然、四人は驚愕と同時に身を隠し距離をとって観察をする。
囲むように目を離さず見ていると、塔の方へと体を向けて、急スピードで空を飛び移動し始めた。
そして、それに追従してルアザ達も追っていくがどんどん離される。
空にはない障害物の差やアイラルなどの都市育ちにこの環境は不利であった。
ルアザはそれを見て、正体不明の何かがそちらに向かっていることを連絡するための狼煙を上げる。
すると、大鎌持ちは急停止してこちらに向かってきた。
明らかに死の危険を感じる姿に既に大鎌を構えていることから、ルアザも臨戦態勢となり、距離を取りながら術式を組み上げ、暴風が吹き荒れる。
見た目は恐ろしいが重い質量を感じない姿に強風は有効だと想定してこの魔術を選択した。
せめてでも距離は取らせる事したい。
吹き荒れる暴風が大鎌持ちを包み込もうしているが、大鎌が光だし台風の目となり、属性を吸収し始めた。
強風の魔術は吸われると大鎌持ちはその淡く光る鎌を振り下ろした。
予備動作が素人でもわかるため、避けるのは簡単だったが、大鎌から放たれたのは先程の魔術の力そのものを放出した斬撃だったのだ。
斬撃の先には木々は砕け散り、地面は荒く抉れていた。
「〈雷撃砲〉」
先手必勝で自然界屈指の速度と威力を持つ殺傷こ攻撃を放った。
だが、まだ光る大鎌に吸収されてしまう。
逃げても追われる事が予想されるため、退けない戦いになった。
すぐにでも撃破して危機を脱する。
四人はそれしかないと悟る。
そして、事前に話し合った陣形を取る。
ルキウスを前に二人の魔術師を守るようにルアザが間に入るという、前衛のルキウス中衛のルアザそして後衛のアイラルとリナだ。
リナはルアザを除いて善性の付与魔術をかけ、それを維持に能力を割く。
ちなみになぜルアザに付与魔術が無いというと、ルアザにとって付与魔術は善性だろうが悪性だろうが毒になるのだ。
ルアザの体は魔術との親和性が高い、付与魔術も非常かかりやすく効果も高いだろう。
だが、それは身体の健康とは別の話である。
付与魔術は別の物体に別の新たな性質を付与する魔術だ。
つまり、異物を埋め込む魔術である。
普通の人は魔術的な抵抗があるため、ほぼ細胞や内臓にダメージはないが、ルアザはダメージがある。
ただでさえ、短い寿命が更に短くなるのだ。
その事をユーハに知らされた時ルアザは顔を青ざめていた。
「ハァ!」
気合の一声と共にルキウスは素早い槍の突きを放ち、ルアザも剣閃を飛ばして補助をする。
ルアザの剣閃は吸収されたが槍は柔らかな布の中に突き刺さり四人はやったと確信して笑みを浮かべる。
「油断するな!」
ルキウスは突き刺した後の瞬間、気力のような物を槍を伝って吸収されたのを感じ完全に脱力する前に大声を出すことにより、脱力を防ぎ警告もする。
三人はルキウスの一言で気が引き締まる。
ルキウスもすぐに槍を引き抜く。
「キャパリャアアアア!!」
そして、大鎌持ちは鳥が発狂したかのような甲高い声を発すると、その鎌を振り回しながら体から黒い霧のような物を放出しこちらに向かってくる。
あまりにも木々や岩を薙ぎ倒す激しく熾烈な攻撃に四人はバラバラに離れてしまう。
そして、一番近かったリナへと方向転換し、叫びながら向かう。
リナは必死になって逃げるが地面から浮き出た根に足を引っ掛けて転んでしまう。
「キャッ!」
自分の体が挽肉へと変わる未来を予想してしまい、恐怖で動きが鈍りすぐに立ち上がれなかった。
「リナッ!!」
絶体絶命のピンチにルキウスは助けなければいけない焦燥感と使命感に身を支配させ、既に槍を投げつけているが、間に合いそうにもなかった。
今まさに鎌がリナの体を真っ二つにしようとしているときに、高速連打の衝撃波が大鎌持ちの攻撃を返すように打ち付けていた。
アイラルがリナの危機を救ったのだ。
アイラルはリナへと片目をパチンと瞑りながらも目線は大鎌持ちから離していなかった。
「こっちに!」
そう叫んだのはルアザであった。
土を操作して底が見えない大穴を開けており、アイラルもルアザの意思を理解してその穴に叩き落とす。
上がってこようとするが、その穴の中に周りの土を水に浸した泥水を注ぎ込み、電気が通っている焦げ臭い匂いが周囲を包むがルアザは更に出力を上げる。
そして、最後に凍らせ冷気が周囲を包み、リナに呪いも付けてもらう。
「フゥ。流石に疲れる」
重い土を操作するのは普通に疲れ、同時に複数の魔術を扱ったため、疲労の色が出ているが、今も冷気と呪いに対抗する大鎌持ちを抑え込んでいた。
大鎌の吸収と放出の能力を使っているようだが、穴には耐久力のある結界を何個を重ねていおり、仮に破られても今は閉じ込めるための結界をルキウスに張ってもらっているため、被害は最小限に抑えられる。
そして、力が解放されたが、地面が少し揺れた程度ですみ地下が崩れ落ちる音が静かに響く。
響き終わると大鎌持ちの活動は止まる。
「少し休憩しましょうか」
ルアザが皆にそう提案すると、皆命とのやり取りに気を疲れていたため、皆賛成して、最低限の警戒心は残しつつ座り込む。
「アイラルさん。あの時は本当に助かりました」
リナはアイラルの助けに心の底からの感謝を伝える。
「いや、大丈夫だよ! リナと私は同じ年、同じ仲間、つまりもう友達だよ。そんな堅苦しい敬語なんて止めて、一緒に話そうよ!」
アイラルはその感謝を受け止めつつも、既にリナはアイラルの守るべき対象である友達に認定されているため、気にしないように言う。
そして、二人は笑い声を響かせながら、年相応の明るく、新緑的な声を響かせる。
「怪我はありませんか?」
「いえ、無傷ですよ」
「ルアザさん。たぶん貴方は男性ですよね」
ルアザの肌や体格をあまり見せないローブのような服装を見つつ、ルキウスは少し気になっていた事を質問する。
「いや、女性です。なんなら、ここ、触ってみます?」
女性しか出せなさそうな蠱惑的な笑みを浮かべ絶妙な距離でルキウスの目を合わし、自身の胸に手を置き近づく。
「結構ですよ」
ルキウスは不覚にも一瞬ドキッとしたが、冷静に断る。
「アハハ、嘘ですよ」
ルアザはそんなルキウスの反応を上品にクスリと笑い、顔を綻ばせる。
「じゃあ、男で?」
「はい、男ですよ。私は嘘をつきませんから」
めちゃくちゃ矛盾した一言を言い放つルアザにルキウスは呆れと苦笑を返す。
そして、今度自分もやってみようと、思った。
「やっぱ中性的な容姿だと大変ですよね」
「あぁ、わかります。僕たちってただでさえ優れた容姿をしているので、故郷の外は大変でしたよ」
ルキウスは懐かしむように柔らかい声で言う。
「私もです。でも、僕は忌み子とか言われて差別されていたので、あまり自分の容姿は見せませんでしたけど」
「ロゼリアでは結構堂々としているんですね」
「ロゼリアは差別などなかった。最初は本当にビクビクしてました。でも、それ以上にこの現状を変えたかったし、多くの人々と仲良くしたいという気持ちの方が強かったから勇気を出して、自分の姿を見せました」
本当に嬉しそうにルアザはルキウスに語る。
ルキウスは改めてルアザの文字通り透き通る程の白い容姿を視界に入れる。
自分の故郷はロゼリアからあまり離れていないから、差別という物は無かったが、我々が持つ白い肌とは全く別物の白を持つ体の持ち主には驚く。
自分は幸い、綺麗な白だね、で終わるが、一部の人達は異様だ、恐ろしい、と煙たがる人達がいる事を知っている。
「なるほど。その勇気にあっ晴れです」
だが、彼は折れずに諦めずに歩み、最も難しいタイミングで勇気を出した。
勇気とは闇の衣を払う覚悟と不屈の信念が組み合わさった物だと、確認する。
「結果的に良かっただけですし、ちゃんと考えた上でやったので、半分くらいは計画通りでしたね」
「たいてい勇気を出すときはそれなりの勝算がある時ですし、そんなもんですよ」
「そうですか……」
ルアザは自分の全てを奪った圧倒的な実力差のある悪の根源に破れた。
そして、ルキウスの言葉で気づく。
自分は弱くなっているのではないかと?
あの時の巨大な悪を滅ぼし、絶対に親を救ってみせるという気概はどこに行ったのだろうかと、考える。
思考の渦へ入り込もうとする瞬間、拠点の方向から赤い大爆発が聞こえ、見える。
四人はすぐに立ち上がる。
また、青い空を真紅に染め上げようと膨らむ炎が立ち上がる。
爆発点は塔の中央部からであった。
「なんで、塔に登っている?」
伝えられた計画とは違う行動に疑問を持つ。
「今はそれよりも、速くいかなきゃ」
アイラルの言葉に皆頷き、拠点へと急いで戻る。
◆◆◆
ルアザ達が狼煙を上げる前の時である。
「いつまで、ここにいなきゃ、なんねぇんだよ!」
「少なくとも四人が帰ってくるまでだ」
「それじゃあ、足りないだろう! もっと大規模に調査するべきだ」
「夢現界は危険なんだぞ! もしもの事があったらどうする!」
「そのくらい、我慢しろ!」
「そっちこそ、我慢しろ!」
拠点には怒声とそれを宥める声が飛び交っており、非常に収支がつかなく、混乱していた。
原因は現在の変わらぬ状況に不満が溜まった者が次々と現れ始め、現在の指揮者に直談判して、それが断られたという形であった。
そして、今は二つ派閥に分かれており、統率があまりされていない状況へと陥っていた。
一つは慎重に行くべきだと意見する慎重派閥。
二つは積極的に行動を起こし状況を変えるべきだと意見する積極派閥となっている。
現在は積極派閥が優勢である。
真逆な意見に妥協点が無く、いがみ合っており穏やかな雰囲気はなくなっていた。
そんな時に林の中から、ルアザ達が満足そうな顔をして出てきた。
「調査グループが襲われた原因がわかりました」
自信を持った表情で、ルアザ達は言う。
「何!?」
「たぶん、塔の進行具合と連動していると思います」
その根拠について詳しく説明する。
ついに状況が動き出す情報を得た集団は塔の攻略へ乗り出し、大多数の人々はその案に賛成して勢いは止まることなく進んでいった。
◆◆◆
「さっきの大爆発はなに!?」
息を切らしながら、急いで拠点に戻ってきており、アイラルはすぐ近くにいた人に詰め寄って問い詰める。
「あれ? なんでアイラル達がいるんだ。一緒に塔の攻略に向かったんじゃないのか?」
だが、返ってきた返答は疑問を浮かべる以外の物が出ない返答であった。
「塔の攻略? 何言ってるの? 狼煙をあげたの見てないの?」
「えっ、何それ? どういうことだ?」
自分達の情報と相手の情報が噛み合わず互いに困る。
「アイラル。とりあえず私達がいない間何があったのか聞こうよ」
混乱するアイラルにリナは言う。
「そうね。私達が調査に向かった後の事を教えて」
そして、説明される。
説明の中には疑問が浮かぶ事だらけだったが、とりあえず自分達も塔へと向かう。
「私達の真似をしているのを問い詰めなきゃ」
これに関しては疑問や困惑よりも怒りが勝っていた。
本人に許可を取らずに明らかにリスクのある方向へと突き進ませる自分の真似をする自分に。
四人はそう思う。
だが、ルアザは他人の姿を取る相手に対して心当たりがあった。
胸が燃えるようにざわつき、大事なトラウマが蘇りそうだ。
もし犯人そいつであったら、必ずこの手で打倒して問い詰めるのだ。
絶対に。




