神殿への支援
闘技大会が終了した次の日の早朝。
「ハトラ。つまり現在、俺以外の闘技大会出場者は夢現界にいるということか」
「そういうことです」
「結構遠い階層に飛ばされたな。だが、夢現界に飛ばせる能力のある存在は少ないから特定しやすい」
「ですが、夢現界に干渉できるものはそれなりに数がありまっせ。決して少ないわけではないですぜ」
「だが、座標はわかってる。この情報を神殿に持って行く。あとは、なんとかするだろう」
そして、ユーハは立ち上がり神殿へと向かう。
「あ、でもその前に二人の次期執政官に会って問い詰める」
「楽しそうですね」
「楽しいわけがないだろう」
虚空に手を伸ばし、鞘に収められた異様な雰囲気を持つ見た目普通の剣が突如空間から生えてくると、それを掴み背に背負う。
◆◆◆
「おはようございます」
「闘技大会優勝者が何のようかね」
にこやかな笑みを浮かべる、ユーハに対してクラークはどこか警戒心のある視線を向けている。
ユーハは指をパチンと鳴らすと周りの時が止まり、笑みも消える。
「闘技大会で何を仕込んだ? もしくは何を手配した? あとはこれから何をする?」
冷たくもなく熱くもない虚無的な声質で問う。
「何のことだ?」
クラークは突如異常な程静かになった空間になっても臆すことなく、通常通りの口調で話す。
「えーっと。あ、いた。ちょっと我慢してくれ」
何かを探すように視線を周辺に回すと、クラークの頭を掴む。
「な、なにをする!?」
意味不明な行動をするユーハに困惑するクラークを気にせずに掴んだ頭、正確には髪を見ていた。
そして、一本の髪を掴み悪性の付与魔術をかけると、その一本の髪から一滴程の黒い水のような物が噴出する。
その水が机の上に落ちると急速に分裂しはじめ肉体のような物を作っていく。
ユーハは落ち着いた雰囲気でそれを傍観しているが、クラークは怯えと焦りが混ざりあった様子をしていた。
「なんてことを……!」
責めるような口調でユーハを睨むクラークだが、ユーハは気にすることは無く、動く闇を見ていた。
「よく私を見破ったな人間。だが、これまでだ!」
黒の水は人の形を攻撃性に全て偏らせたような姿を取り、その凶悪か爪でユーハを八つ裂きにしようと、振り下ろす。
だ振り下ろす事はできたが、体全体を地面に押し付けられていた。
まるで空間が重しのように。
「目的を言え。何をしていた?」
捕縛した黒い怪物を問い詰める。
「言うわけがねぇ、あげゃぁ!!」
生意気な口調で反抗するが、ユーハは体の一部を少し触ると激痛に悶え苦しむ。
その哀れな姿をユーハは上から見下ろしていた。
「まぁ、いいや。こっちに聞こう」
そう言うと、ユーハは振り返りクラークと目を合わせる。
クラークはユーハのただの振り返りに圧倒的な威圧を感じ、幻の感覚だと理解しているのに本能が恐怖を帯びる。
「何をされた?」
「そ、それは」
「てめぇ、言ったらどうなるかわかるよな! あげゃあ!!」
「静かに。永遠に黙祷を捧げさせるぞ」
言外に次、何か許可せずに動いたら命を請うレベルの対応すると言っているような物であった。
それを果てしない禍々しさ、恐怖、怒りを感じさせる鋭烈な殺気と共に言った。
実際、その殺気が魂力に乗って黒い怪物の頭部抉り物理的に喋れなくなる。
「……」
「どうぞ」
「言えん」
「なぜ?」
「……。おい、なんでだ? 喋っていいから」
既に再生された黒い怪物の頭を叩いて、頭をまた潰し、月は体を踏みつけ痛みを増加させる魔術を利用して体を再構築可能な高位存在専用の拷問方法で恐怖を体に重ね刻み込む。
再生が追いつかなくなり、赤い血が出てきても辞めず、ただ恐怖という支配の根を植え付ける。
「こ、うていに、お、な、じこ、とを、した、から、だ……」
死と痛みの恐怖により、死にかけな掠れた声で喋る。
つまり、ロゼリア皇帝にも何らかの方法で常に殺せるように、暗殺者を忍ばせているのだろう。
「……これ、相当闇深いな」
険しい顔を浮かべ、周りを見渡す。
「そういうことだ。ハハッ。お前のせいで皇帝陛下はお亡くなりになりになった」
絶望に染まった乾いた声でユーハを睨む。
「それはない。ここの空間は隔離してある。次元を越えても、位相を変えても出れなくなっている」
「そんなことができるはずがない」
「まぁ、いいや」
何を言っても無駄だと判断したユーハはクラークを放置して、キリウスの元へ向かい、影に潜んでいたものをまた同じように聞き出して、似たような内容だったため情報の信頼性を高める。
そして、二体の肉塊? を亜空間に封印してロゼリア中央大神殿へと向かう。
「こいつらが、何か進歩になるといいのですが」
ユーハは亜空間から雁字搦めにされた二体の怪物を提出する。
こんな雑に出しても皇帝が死ぬ事はない、なぜなら先程、皇帝にこっそりと近づき、潰してきたからだ。
念のため高位存在の中でもそこそこの力はあるハトラを付けてきた。
何かあれば、時間稼ぎくらいはできるはずだ。
懸念はハトラが裏切る事だが、ハトラは自分が作った存在だ裏切る事は無い。
あったら空間飛び越えて一瞬で処理する。
現在ロゼリアの中でも最強を争うユーハが訪れた事により神殿長が対応し驚いた顔をしてユーハを応対する。
「これは?」
「皆の敵、悪魔。ほら、今君達が頭を悩ませている事件の主犯の部下みたいな存在だ。詳しくは中で話そう」
神殿長はなぜ知っていると思うが、今は事件の解決を最優先しなければならないため、神殿内へ招く。
「というわけだ。一番嫌な事態は今は置いておいて、これから来るであろう動きに対しての準備をした方がいい」
各ロゼリア神の神官の長は険しく、どこか覚悟を決めた悲しい顔をしていた。
だが、ユーハの言葉共に長として部下に何を指示して、自分は何を手配するか決める。
「軍に協力を要請しろ。あと、今すぐに出場者達を全員牢屋の中に入れて封じ込めろ……」
特にアテナ神に仕える神官の長は先程この部屋から出ていき、部屋の外からは指示の声が次々と聞こえていた。
「準優勝者のルアザ・ミラレアはこちらの方で対応する。ご協力の依頼があれば、できることならやりましょう。では、これにて」
話すべき事は全て話し終わったユーハは小さく礼をして去っていく。
そして、ルアザがいる宿の部屋に入り、静かに寝息をたてているルアザの姿を確認する。
「ルアザ君は特異点だ。ロゼリアに来た時点で何か起きることは予測していた。だから、それを利用しよう。我々二人のために、ついでにルアザ君のために」
ユーハはルアザの頭に手を伸ばし触れる。
「さぁ、行こうか」
ユーハの固有魔術、〈権限所持〉が発動される。
◆◆◆
早朝朝早くから、皇帝の補佐人としてユゥグトゥスは仕事を勤めていた。
そして、仕事部屋の中にいる一人が何かを思い出したようにユゥグトゥスに質問をする。
「そういえば、ユゥグトゥス様。なぜ、彼の者をあんなにも優遇するので?」
「彼の者というのは?」
「闘技大会準優勝者ルアザ・ミラレアです」
「あぁ、そうだな。好きだからだな」
「たしかに、彼の者は美しいですからね。妻に迎えたいと誰もが思うでしょう。そして、ユゥグトゥス様は唾を付けて置いたと」
「違う。恋愛とかそういうのじゃない。それにあれは男だ」
「あぁ、男色ですか? 大丈夫ですよ。我々ロゼリアは男色も立派な文化だと認めておりますので」
「俺は普通に女が好きだ。その趣味はない。……でも、実際の性別は知らないな。身長がもう少し高ければ男だと判断できるが、なかなか絶妙な身長と体格をしているからわからないな」
最後の方は自信なくして小さな声でルアザの性別について悩み始める。
男と思えば、男の姿に見えるし、女の姿と思えば女に見える不思議で仕方ない。
「まぁ、そんな性別問題は置いておいて、好きというのはどういった意味合いでしょうか?」
「興味深いと言った方がいいかもしれない。あの容姿じゃ今までもたぶん波乱の運命を経験してきただろうが、このロゼリアでは一種のターニングポイントになるだろうと確信している」
「彼の者から見れば"見てないで助けろ"と言ったところでしょうか」
ユゥグトゥスの部下はルアザの立場を想像するとユゥグトゥスは期待だけする使えない存在なのだろうと思った。
「危なくなったら、助ける。その辺が一番良い。自分で言うのもアレだが、俺は他人の人生、運命は命令一つで変えられる立場にあるんだ。そして、この力は全てロゼリア帝国のために使わなくてはならない。目の前で苦しんでいる限り助けはしない」
ユゥグトゥスの仕事は皇帝の代理人や補佐を行っている。
今の皇帝が崩御したら次の皇帝の最有力候補の一人にもなっている。
権力を一人のために扱わず、なるべく全体に恩恵を行き渡らせるのが、ユゥグトゥスにとっての権力の使い方であった。
「そう、それが俺の運命だと……」
どこか遠い目をして、風は吹かない屋内だが、風に声を乗せるように喋る。
「…………ユゥグトゥス様、疲れてません?」
「いや、大丈夫だ。高い地位だからこそ頑張れる」
「いや、そっちじゃなくて、なんか十三~十四歳の子が言いそうな事を言ってるので、疲れているのかな〜と、思いまして」
運命とかいうよくわからない物を信じ始めているから、ユゥグトゥスも知らずの内に体力が少なっており、追い詰められているかもしれないと客観的にそう捉えられた。
「てめ、それどういう意味だ?」
「いや、特に意味はありません。純粋に御身を慮る、それだけですよ」
鋭い声が彼に向かうが、彼は何を変わらぬ表情で受け流した。
そんなやり取りをしていると、報告書、確認書などの新たな仕事を持ってこられた。
ユゥグトゥスはその中にある封がされた重要か書類を開け、中身を目に通す。
「神殿が手を焼いているのか。……念のために宝具の用意しておこう」
神殿は国から外れた一種の独立勢力だ。
国が直接庇護する対象だから、基本的には安全が約束されている。
ロゼリア帝国では皇帝の命令には絶対遵守たが、例外な存在だ。
国が神殿に要求することは位存在との関わり全般を任させることである。
人類が誕生してから高位存在は崇め、恐れ、とにかく奉れという絶対的な存在である。
そして、文明は発展しても高位存在の恩恵と厄災は生活の一部となっていた。
そして、高位存在の専門組織が出てきたそれが神殿の始まりであり原型である。
そして、高位存在の恩恵を最も預かる組織であった。
その組織が困っている。
不動な存在が揺らいでいる。
状況は険しいと推測できる。
人類の力にして象徴であり結集させた物、宝具の出番が回ってくる。
神が頼れないのならば、自分達でなんとかするしかない、宝具もそのために生まれた。
「何の宝具にします? 捕縛に便利な〈手軽堅牢〉にしますか?」
「あぁ、必要だな。あと〈都市事識〉の感知範囲と識別範囲を広げておくようにしておこう」
「憲兵達には?」
「すでに皇帝陛下の方から指示が回っているらしい」
「そうでしたか」
「神殿を中心に補佐する形で支援していく」
皇帝から割り振られた仕事をこなしていく。
全てはロゼリア帝国のために。




