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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第三章
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決勝戦

「いくら作戦をたてようとも、勝てるイメージが湧かない」


 控室でルアザは頭を抱え、絶対的な相手に対して絶望感を抱いていた。

 ユーハと出会い共に旅をして一年たち、何度か模擬戦を行った事がある。

 全て完封されて敗北した経験しかない。

 ユーハとの戦いに負け癖のような物がついていることはなんとなく自覚していた。


 ユーハは自分と数歳くらいの年の差しかないのに、あらゆる分野において、最高位に位置する。


 ルアザも多方面の分野で高い質の実力を持っているが、ユーハに比べれば天と地程の大きな差がある。


 自分は才能が溢れていると自覚はしているが、ユーハは本当の天才の天才だと思っている。


 ルアザも欲を出さずに今の状態で満足しようと思えばできなくはないが、ルアザは自分の願望を叶えられる巨大な力を常に欲しているため、満足するわけにはいかない。


 ユーハは武術、魔術、話術、謀略、製作、芸術、精神、と万能の象徴のような物でありルアザが目指し体現すべきそのものでもあった。


 似たようなタイプだから分かる。

 彼には勝てないと。

 だが、この試合にはルールという制限が存在している。

 多少は実力の差を埋める要素がある。

 それが唯一の希望でもあった。


 ユーハなら雷の魔術を使っても大丈夫だろうと思っている。

 雷の魔術は非常に攻撃的で殺生性が高い。

 大抵の生物は直撃すれば死亡する。

 他の攻撃魔術とは一線を画す物であるため、試合などでは使用をしないようにしていた。


「洗練しよう。無駄な思考は排除して、勝利の方程式を組み上げる事に集中しよう」


 悩んでいても仕方なく、ルアザは叫ぶ心を鎮めて思考の海を泳ぐために微笑みは消され、前髪を止めるヘアピンをつけ直し、美だけが残った顔を残す。


 そして、しばらく微動だにしなく、彫刻の見間違えるようになった頃、係の人が呼びルアザは再び微笑みを浮かべ、日光が射す日向の世界へ進む。


「Dominarum et indices《皆様》!!ついに闘技大会決勝が訪れました。ほんの数日前に始まったのに、いつの間にかとうとう終わりが目の前です。しかし、悲しまないでいただきたい! この一戦でロゼリア帝国最強候補が決まりますから! では始めましょう!」


 日光を眩しげに目を細めるルアザとそれはもう気分上々な笑みを浮かべるユーハが対立した。


「まぁまぁ、気を落とさないで楽しんで行こう」


「罠ですよね。それ」


「そんなわけが無いだろう。ルアザ君の事を思ってだ」


 油断を誘うと思えば次は挑発に出てくる時点でユーハはすでに臨戦態勢なのだろう。

 ルアザの妄想かもしれないが、どちらにせよユーハの言葉に従うわけにはいかない。


「大丈夫です。今回こそは勝利をもぎ取り、栄誉の喝采と共に成長した事を証明してみせましょう」


「真面目だ。そんな時期があったな」


 遠く遥かはなたへ視線をやり、自笑するように目を瞑る。


 そして、目を開けると同時に試合開始の合図がなり、光と共に視界に現れたのは竜巻を纏わせた剣を振りかぶるルアザがいた。


 首を暴風を吹き荒らす剣と共に巻き込み吹き飛ばそうとする殺意マックスの一振りをユーハは身屈ませて避ける。


 だが、剣は慣性を無視してそのまま暴風に指向性を持たせて加速しながら振り落としてくる。


 ユーハは身を屈ませて上段から振り落とされる事は予想されており、多少は速くなっているが、予測していた軌道は変わらないため、手を軽く当て弾く。

 纏われていた空気の壁は無くなっているからできることだ。


 弾くと同時に体ごと移動し、距離を取る。


 周辺視野でルアザの様子を確認していると慣れたように水の弾丸が無数に現れ、ユーハの元へ集中する。


 ユーハは腕を振るい、風の魔術を起こしルアザを吹き飛ばす目的と同時に水の弾丸を防ぎ砂煙を上がらせる。


 煙を切り裂いてやってくるところに地面を脆い砂状にして、踏みしめた瞬間落とし穴を作るという作戦をたてた。


 ユーハの思惑通り空気を切り裂くと同時に砂状の場所に着地して砂地獄のようにルアザが下へと沈むが、落ちた穴から爆発音が響き砂は吹き飛ぶ。


 痛みの苦渋が含まれた顔をしながら、攻撃魔術を傍らにユーハへ襲いかかってくる。


 だが、ユーハは上がってくる瞬間を狙っていた。

 そして、ユーハが剣を振るいルアザが防ごうとする時ユーハは一瞬だけ剣を止め、軌道変更をして切り払う。


 更に苦渋に顔を歪ませながら、今の態勢では明らかに無理のある動きをして回避し距離を取る。


「フゥー……! はぁ、……はぁ」


 痛みを吐き出すように息を切らす。


「止めた方がいい。その戦い方は経験を積まなきゃ負担が大きすぎる」


 ユーハは二度相対してルアザの動きの仕組みを見抜いた。

 それは、簡単に言えば魔術で体を動かしたり、引っ張たりしているのだ。

 上手く隠蔽しているが、動きでわかる。

 人ではできない動きだったからだ。


「いや、概要は理解しましたし慣れました」


 ルアザは今回ぶっつけ本番でこの仕組みを思いつき、元々の作戦に組み込み実行した。

 反省点、修正点はユーハが言った通り、負担が大きい動きを常時するわけにはいかない事だ。

 先程の緊急回避でしか許可ができない。

 現在のレベルで出来る事は少しの速度上昇、威力上昇くらいだが、ルアザには助かる。


「やってみたらできたか。さすが天才」


 ルアザの立場から見れば嫌味でしかない一言だが、ユーハは純粋な気持ちで称賛をしているのだ。

 誰かが何かしら考えた事を行動、実行に移せる者は少ない、そして最初からある程度完成させるのは更に少ない。


「更に洗練させる、それが真の天才です」


 才能は磨く物、努力すべき物。

 その先にある大いなる姿を目指す。


 魔術で体の動きを補助するように意識と神経を連動させて、自分は翔ぶように軽く、相手には強烈な一撃を。

 このイメージ通りに動き出す。


 魔術が先に動けたら体は力を込めず、魔術通りに従い、体が先に動けたら、魔術は押し出すようにそして、多少体に負担はかかるが、いつでもブレーキを踏めるように。


 体を二つコントロールしているような物だが、ルアザは天才だ。

 自分の動きの質を落とさずに、基本的ステータスを上げ、ユーハに鋭い突きを繰り出し、剣で防ごうとした瞬間剣先を軽く回転させ手首の下を通して、すり抜けたような一撃を食らわせようとする。


 しかし、回転させる事により、突きの軌道が変わり、そこを狙い正確に防がれる。


 弾いた剣を押さえつけられ、両手が塞がった時に膝蹴りがルアザの腹を貫く。


 苦悶に支配された体を無理矢理動かし、剣を落として、空いた手でユーハの足を掴み、遠心力を最大限に利用して地面に叩きつけようとする。

 だが、ユーハは空中で身を捻り自分にかかる遠心力、重力などのあらゆる力を利用して、力を中和し何事も無かったように着地する。


 ルアザは驚愕の顔を隠せなかった。

 なんで、一秒くらいしかない超短時間で受け身でもなく見事、鮮やか、完璧、感嘆と賛美の言葉を次々と並べられる選択と動きをできるのか、と。


 自分が魔術で無理矢理体を動かしてやらなければ、できない事を当たり前のように行なった。


「ハハ……ハ……ハ」


 空笑いが出てしまう。


 心を何処かに飛ばしている隙だらけのルアザを襲いかからないという時点で自身の評価が予想できる。


「おしかったね。とっても」


 綺麗な姿勢でパチパチと拍手をする。

 膝蹴りをもろに喰らったのに、その痛みを耐えて反撃に回るその胆力は素晴らしい物だ。


 気持ちを落ち着かせたルアザは剣を拾い、構える。

 そして、数秒後に轟音と共に閃光が放たれる。


 ルアザは雷の魔術という伝家の宝刀をついに抜いた。


 人の反応速度では、決して避けきれない速度であり、一発で勝負が決まる反則とも言える魔術を放ったが、ルアザは顔を顰め、結果を期待していなかった。


 土を圧縮した壁がそびえ立ち、その壁は地面とつながっているため、グランドの役割を果たした。

 雷では大地を砕けないのだ。


 そして、土の壁は石の壁へと早変わりすると、縦横に細かく均等に斬線が走りフワリと一つ一つが浮き、殺意を持ってルアザへと向かってくる。


 石や土は重い。

 それ故に威力も申し分ない。

 元々張っていた結界を強力にして、範囲を拡張し石を弾く。

 防いでいる間に電気を溜めて、また同じように熱と光を持って鼓膜が破れる程の音を出し、ユーハの元へ向かう。


 だが、光に飲み込まれたはずのユーハは傷一つ無かった。


 ユーハは自身の周りを真空へと変えて、物理的に導電しないようにしているのだ。

 電気の性質を知っているから為せる対応だろう。


 ユーハは息を一つついた後に剣を高速で降り始める。


 ルアザは焦燥感に満ちた表情で横に駆け出すと、ルアザの一歩後ろには深く刻まれた無数の斬裂痕が残りルアザの走る後ろにはそれが続いている。


 当たれば瞬く間に結界は削られ自身を細切れにすることは容易に想像できる。

 大事な髪を服の中に収納していなければ、散髪されていたことは必須であった。


 不可視の飛ぶ斬撃が桜花爛漫の如くワンランク上げていく。


 威力は重くに、速度は鋭利になっていき、必然的に範囲も広がる。

 ルアザは走っていては避けきれないと判断し、地面での二次元的な動きから空中へと三次元的な動きへ変更する。


 飛行魔術を改良し風で押し出し、急加速、急停止を可能した飛行魔術で一気に熾烈な斬裂の嵐から逃れる。


 ルアザが走った跡は足跡ではなく、砕け散った地面であった。

 それを見たルアザは相変わらず、引く技だと感心する。


 ルアザはこの技を見るのは始めてではなく、ユーハがそれなりに便利使いしている技だ。


 飛ぶ斬撃というよりかは、超極薄の板のような形の魂力を硬質化する術式で調整して超高速で飛ばし、イメージしやすいように剣を振るうという技だ。


 薄い結界を投げつけられているような物だ。


 ルアザもできる技だが、この技は寿命が短い。

 魂力、属性の操作権は距離が離れる程小さくなる反比例関係にある。

 つまり、距離が離れれば硬質化の術式が緩みただの薄く儚い魂力を放っているだけになる。

 術式効果も無くなるまで少しの時間があり、その時間内で距離と速度を考えなければならない。

 当然、強力な術式程、効果は薄れやすい。


 剣を振るう理由も、できるだけ速くしなければいけないため、思考で術式を組み立てるのではなく、直感で術式を組み立てる必要があり、イメージが重要になるからだ。


 ユーハとルアザとの距離は約五十メートル程であった。


 通常はそんな遠距離ではなく、中距離技として扱うため、ユーハの魔術能力に称賛する以外無い。


 ルアザは気体操作の魔術を使っているため、同じ系統の魔術を使用し竜巻を縦にした風の槍をユーハに向ける。

 避けようとする、ユーハを追従するように軌道修正を行い、大きく曲がった竜巻ができた。


 だが、ユーハはマティアトス戦で最後に使用した技で竜巻は吸収されその竜巻のエネルギーを組み込んだ飛ぶ斬撃を二発に分けて放つ。


 空中で避けるが、ユーハも飛行魔術を使い、襲いかかってくる。


 当然、飛行魔術の腕もユーハの方が上なため、逃げ回っていては、敗北決定だ。

 恐ろしいが退くのではなく前に進むのだ。


 遠慮なく踏み込めるように周囲に足場を作り、そこを駆けていく。

 余裕の無いルアザに駆け引きでは勝てないのは明白であるため、間合いなど気にせず、剣を振るう。


 ユーハは一歩下がり、避けるが、ルアザは小振りの一線のため、ユーハを追うようにルアザも一歩足を前に出す。


 基本に忠実な堅実に隙を狙う剣技でユーハと相対するが、それはユーハも一緒であり、ところどころ技術の差が出てきており、ルアザを掠る。


 焦りがルアザの思考を惑わせる。

 その惑いを封じ込めるように更に視野を狭め集中させ、このやり取りに力の割合を傾ける。


 多少の掠りは無視して、最もダメージが与えられる可能性と危険な可能性擦り合わせて動き、その他の可能性は排除して、迷いの無い一撃を次々と行う。


 積極的、攻撃的になった攻撃にユーハは少し、受けた後に今まで掠っていた場所を抉るように重く速い一撃へと変えて来た。


(選択肢を捨てるなら、その選択肢は拾わせてもらおう)


 選ぶではなく、拾うの時点で言葉通り次元が違う。


 だが、ルアザはそれさえも対応してくるようになった。


 ユーハは攻撃の手を考えるようになり、たまに鬼畜なタイミングを狙うが、ルアザは対応してきていた。


(うん、間違いなく。この場で成長している。普通に努力しているだけでも、普通よりもかなり早く成長するのに、追い込まれると凄まじいな。まるで、才能を掘り起こしているようだ)


 人は追い込まれると頑張れるが天才がやると、こうなる実際例がルアザだ。

 一振り、一歩ごとにルアザの動きは鋭さを増し、苛烈になっていき、無意識に最適行動を選ぶ練度が上がっている。


(だけど、色々な才能をくっつけできた少し脆い状態だな)


 ユーハはルアザに毒付きの武器を三百六十度を向けられたような危機感と絶望感を組み合わせたような感覚に陥る殺気を放つ。


 ルアザは濃くなった視野が強制的に広げられ、頭が冷える。

 距離を取り、ユーハはそれを追うことは無い。


「本物の洗練という物を見せてあげよう」


 恐ろしげに威圧を放ちながら、宣言するユーハにルアザは警戒心を保ち構える。


 ユーハの体に濃厚な魂力が纏われ、流水の如く循環する。

 ユーハの魂感にズキズキと過剰な刺激が走る。


 高密度の魂力を纏っている証だ。


 ユーハは少し姿勢を下げると、空間を蹴り空気の破裂音が鳴り響かせながら、ルアザに迫る。


 そして、ルアザもそれに反応し剣を振るう。


 互いの剣が激突し合うが拮抗する事は無くルアザは吹き飛ばされ、ユーハは追い打ちをかけて怒涛の連撃が放たれる。


 ルアザは地面に叩きつけられ、胸から空気が吐き出されるが、剣先を視界に捉えると同時に横に転がる。

 ユーハの剣が地面に突き刺さるが、ルアザが転がった先へ地面ごと抉り取りながら、斬線を放つ。


 体を波打たせ地面を叩き、体を起こして奇跡的に回避が成功するが、激しい動きで出てしまった髪の髪留めを掠め、豊かな毛髪が横に広がる。


 風で靡く髪を舞わせ、ルアザも剣閃を放つが数が足りないため、難なく避けられ牽制にもならずにルアザへ迫る。


 ルアザもユーハに迫り、捨て身の一撃を行おうとするが、ユーハは魔術でルアザを引っ張り、ルアザの細い首を掴まれる。

 絶体絶命で王手をかけられたルアザに剣先を向けるが、ルアザは最後まで諦めるような冷めた雰囲気は見せずに、不屈の意思を表すように魔術的効果を受けやすいルアザの透明な髪がユーハの首へと向かう。


 しかし、纏われる魂力に阻まれ、ルアザは退場される。


「ロゼリアで最も栄誉を受ける者が決まりました! 闘技に優勝者はユーハ・オムニバス! ユーハ・オムニバスです。皆様盛大な拍手を!!」


「「「「「ユーハ! ユーハ! ユーハ! ユーハ!」」」」」


 観客はユーハの名前を地鳴りを引き起こす程連呼し、万雷の拍手が空間を彩る。


 ユーハは手のひらの上に火の玉のような物を生み出し、空へと打ち上げると火の華を咲かせる。




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