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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第三章
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無茶な依頼

 ユーハの鋭く煌めく双剣が左右同時に襲いかかり、大剣使いの〈剛人オーク〉を切り裂く。


「グォォォォ!!」


 だが、誇り高い戦闘種族である〈剛人オーク〉の大剣使いはユーハに切られながらも、怯えるような弱々しい瞳を見せず、雄叫びと共に瞳に宿す炎を纏ったと幻が見えそうな雰囲気を大剣に纏いユーハを切り裂こうと空気と共に振り下ろしてくる。


 大剣使いの〈剛人オーク〉はユーハを真っ二つにしようとする視野が極限的に狭まっているため、足元が疎かになっている。

 そこを狙いユーハは強烈な横蹴りを足に打ち付けバランスを崩す。


「戦いは熱さも必須だが、冷たさも必要だそうだろう?」


 重い大剣を頭上にある態勢である大剣使いの〈剛人オーク〉は全力で振り降ろせる程の態勢を失い、ユーハはその首元に双剣を添え、ピュッと横へ引く。


「……基礎から鍛え直しだな……!」


「第八試合ユーハ・オムニバスVSローガ・ゼンレンティ。ユーハ・オムニバスの勝利です。卓越されたその動きは柔は剛を制しました!」


 ユーハはいつの間にか会場から姿を消して一足先に休んでいる。


「そして! 準決勝へと勝ち進み決勝へと駒を進める可能性がある四人が揃いました!」


 準決勝第一試合

 ルアザ・ミラレア。

 セレン・ルホラ。


 準決勝第二試合。

 マティアトス・フラトロス。

 ユーハ・オムニバス。




 ◆◆◆




「はじめまして。キリウス・パヌ・ユンクティウスだ」


「存じております」


 清楚で礼儀正しく、一定の壁と距離を作るようにルアザは次期執政官(コンスル)二大筆頭の一人と話す。


「私も忙しい身だから、単刀直入に言おう。次の準決勝で負けてくれ」


 ルアザは驚愕で目を僅かに見開き、浮かべている微笑を僅かに歪む。

 正直呼び出された時点で味方か、中立でもキリウス派寄りになって欲しいと要請されるのかと思った。

 それとは見当違いの敗北の要請であった。

 理不尽な頼みによる怒りよりも唐突な予想外の頼みによる困惑の感情の方が強い。


「……理由を聞きましょう。 (秘密裏に呼ばれた時点で気づくべきだった。呼ぶなら堂々と宣伝するようにすればいいものなのだから)」


 理由によってはルアザはわざと負けても良かった。

 例えば自分が負ける事で未然に悲惨で酷な大事件を防げるなどなら了承する。

 ルアザも自身の名誉よりも罪無きその他大勢の命の方が大事だからだ。


「当然だな。……でも言えない。言いたいけど言えない。君が負ければわかる」


「……申し訳ありませんが、それではちょっとご了承致しかねないです」


 しっかりとした根拠もない無茶な頼みにルアザは顔を苦くしながら断りを入れる。

 権力は有ろうが、具体性皆無な曖昧な回答にルアザは訝しげな瞳を隠す気はなかった。


「だよな。じゃあ、負けるなよ。勝ち進め」


 キリウスはから笑いしつつも目は笑っていなく、何を覚悟したのか知らないが、力強い瞳をしていた。

 口から出る言葉も先程とは反対であり、どちらだよと、ルアザを更に困惑させる。


「……。(さて、明日どうするか?)」


 キリウスが何か秘密を隠しているのは察せられた。

 次期執政官(コンスル)の一人である客観的に見ても大権力者がルアザに何かを隠している事は重大な秘密を抱えている可能性が十分にある。


 昼と比べ寝静まった夜中に呼ばれたルアザは思考を回す。


 一方その頃ユーハもキリウスと同じ立場の人間に呼ばれていた。


「はじめまして。クラーク・ゼル・ポントゥスだ」


「忙しい貴方が、なんの用で?」


 ユーハは既に眠っていた頃に呼び出されたため、多少不機嫌な物言いであった。


「次の試合で負けてくれ」


「なかなか、とんでもない事を言いますね」


 多少は驚きはするが、ユーハはクラークの頭と正気を疑うような怪訝な顔をする。

 ユーハは失礼な態度だが、イライラして感情で言っているわけではなく、瞳の奥とほんの僅かな口調には理性と品位が含まれている。

 その証拠に話を終わらせるような決定的な回答はせずに、話を続けられるような回答をした。


「それはわかっている」


「そもそも、なぜ負けなくてはならない? 魔術会の会長とぶつかりますけど、何か魔術会から言われているのですか? あとは神殿とか?」


 ユーハは矢次に政治的な適当に思い浮かぶ可能性を喋り、クラークの様子をずっと観察し、どの可能性に反応するか調べてもいた。


「ーー笑える陰謀論ですが、皇帝陛下以外の貴方以上に力を持った誰かに脅されているとか?」


「なるほど」


 判断ができない曖昧で意味深い一言を最後にユーハはクラークをもう一度見る。


「こちらも駄目だとわかってるから、期待していない。できれば負けて欲しいだけだ」


 クラークはユーハの隠す気の無い探る目線や言動、行動を止めもせずに流していた。


「ご期待に沿えず申し訳ありません」


 罪悪感も何も籠もっていない声で謝る。

 ユーハは見抜いていた。

 クラークの一切変わらぬ表情の裏には苦渋と罪悪感に満ちた真の顔があると。


 そして、夜の道に現れる暴漢や闇に潜む魔物がいたら潰しながら帰路を歩むとルアザと会う。


「おや、ユーハさん。こんな時間にどうしましたか?」


「お偉いさんに次の負けて欲しいと言われてね」


「奇遇ですね。同じですよ。向こうは本気ではなさそうでしたが」


「……へー。笑える事があるものだ」


「……勝つとも決まってないので、油断はしませんけどね」


「明日に備えて寝るとしようか」


「えぇ。良い夢を」


 人はなぜ夢を見る? 単純に脳が記憶の処理、整理するためでもあるが、宵闇の魔から逃れるためでもある。


 魔とは言っても大抵は疲労、寝不足などの自分が原因な物ばかりで心配はないが、時々、体を乗っ取ろうとするなど危害を加える悪性の何かが忍び寄る。


 夢を見る日があるのなら、貴方の近くに魔が訪れているのだろう。

 夢は自分だけの世界であり防波堤、テトラポッド。

 悪夢は夢の中にまで侵食してきた魔に対しての攻撃体制の状態だ。

 意識を覚醒させて起きろと、強制ではないが、強く訴えている状態だ。


 そして、最悪なのが、魔に体も乗っ取られり、文字通り永遠の眠りについてしまう場合もある。


 だが、安心してほしい治療法はあるのだ。

 希少で少ないが、眠りや夢、精神に深い関わりのある高位存在に直して貰えれば良い。

 ロゼリア帝国にはそれらを司る神々がいるため、人々は安心して眠れるのだ。



 ◆◆◆



(たぶん、ルアザ君も同じ話なんだろうな)


 ベッドに座り顎に手をかけながら考える。


(十中八九、脅されているな)


 ユーハは記憶の中から似たような状況を何個も思い出し、追想する。


(まぁいい。ルアザ君は最終的に俺に負けるから脅迫者のシナリオ通りになるが、自分は油断さえしなければ優勝するだろう)


 ユーハは自信があるという燃えるような物は無く計算結果や未来をすでに知っているような当然の結果だと通常と変わらぬ態度であった。


(それに、これまで敗北した選手達は特に何事も無く健康的に過ごしている。……仮にその実力者が何か起こすと困るタイミングは…………わからんな)


 困るというのは立場、立ち位置によって変わる。

 敵の敵は味方と言うように、現在のロゼリアは複雑な勢力争いをしているため、完璧に答えを導き出されない。


(というか、なんで俺達二人だけなんだ? 衝突する二人は帝国のそこそこの地位があるから、消極的に俺達二人の方が国にとっては被害が少ないからか?)


(選挙の投票日と結果公表日はまだ二ヶ月後だし。闘技大会はあと数日で終わるし。終わった後は次にコロッセオを使用する競技に変わるだけだしな)


 次々と可能性が浮かぶが、確信的な根拠は出ず、思考の容量を圧迫するだけだった。


(敗北に意味があるなら、退場時の転移する精霊の眷属に何かあるのか? 勝者なら退場をしないから、眷属が関わる事は無い)


 闘技大会において敗北と退場の基準は精霊の眷属が選手一人一人憑いており、外側に一定の衝撃量で消滅する防護結界と絶対に破壊されない結界を張っている。

 その外側の結界が相手よりも先に消えた瞬間、コロッセオの裏側に転移するという仕組みだ。


 ユーハが述べた通り、勝ち進んでそのまま優勝すれば、転移することは無い。

 ユーハは憶測だが、転移の仕組みは見抜いており、仕組み上何か敗北者に仕込みを行う事は可能だと、想定している。


(こちらも仕込むか……)


 勝利を前提にした作戦がユーハの中で築かれる。


「契約の名の下に現われろ、座標と境界に居座る【観察者】ハトラ。二秒前だ。2・1」


「兄貴なんの用ですかい」


 虚空から何か気配のような物が漏れ出し空気が震えない声が響く。

 姿勢は変わらないまま、ユーハは視線だけ右にずらし、先程考えついた作戦を伝える。


「わかったな。これはお前の働きが全てにかかっている非常に重要な仕事だ」


「ほうほう、なかなか難儀な物に乗っかりましたね。しかし、このハトラにお任せを。その程度の事なら大丈夫でしょう」


「任せたぞ」


 虚空から気配が消え、ユーハは立ち上がり、窓を開け、月を見る。

 今にも切れそうな糸のように細い三日月が浮かんでおり、あと数日で新月になるのは予想できた。

 煌めく夜空に漂う星々を見て、歌を歌い出す。

 その歌はこの時代の物ではなく遠い未来のような洗練されていた。


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