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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第三章
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皇帝凱旋

 そして、太陽が五十回程、登り降りした。


 ロゼリアの街中には心なしか、やけに鍛え込まれた肉体を持つ人々が増え、その人々は目をギラギラと野心溢れた光をその目に宿していた。


 その光景が珍しくなくなった今日は別の方向にて珍しい光景が並んでいた。


 鋼の軍規と屈強な肉体と洗練された防具を持つ兵隊達がロゼリアの皇帝の住居兼帝国の中央である宮殿にまでに繋がる大きな街道を隙間なく並んでいた。


 そして、更にその外側には多くのロゼリア市民が騒いでいた。


 その騒ぎ声よりも大きな声が街道周辺に響き渡る。


「皇帝陛下! お帰りなさいませ!!」


「「「「皇帝陛下!! お帰りなさいませ!!」」」


 他の兵士よりも、豪華な服装をした指揮官と思われる人物が声を張り上げて言う。

 言い終わり、その後すぐに周りの兵士が一糸乱れず、声を揃えて指揮官と同じことを叫ぶ。


 それを繰り返していると、宮殿とは逆方向の街道からまず最初に多くの足を持つ大きな馬の上に乗る兵士が来る。

 民達は止まらなかった声を止め、その巨大な馬の威容に息を飲む。

 〈多脚大馬スレイプニル〉が街道をその威で轟かせていると、次に歩く兵士が現れ、非常に頑強だが、重そうな防具を着ていても汗一つかかず、行軍している。


 乱れぬ行軍をしている兵士達は時折、左右上下に視線をやる。

 ごく稀に持っている槍を揺らすと、民衆の群れの中にいる笑顔を浮かべている一人や建物の窓から覗きこむ人が動きだす。

 そして、何か、誰かが街道の側から消えていく。

 彼らは皇帝の護衛。

 そして、護衛は民衆の中にも混ざっている。

 互いに連携することで、高質な警護ができる。

 怪しい物や人物がいた際に適当な理由をつけて皇帝から遠ざけ、皇帝の安全を確保するのが仕事だ。


 そして、ついに見るからに強く品のある魔獣を従えた大きく豪華絢爛な車がやって来た。

 その上にはロゼリア帝国伝統的なオリーブの冠を被った若く緑明的な覇気がある人物が自信に満ち溢れた笑みを浮かべ手を上げ民衆に手を振っている。


「皇帝陛下~!!」


「お帰りなさいませ!!」


「陛下~!」


「ご無事で何よりです!」


「陛下! 私の息子の名前を陛下と同じにしました!」


 皇帝が手を振るのと一緒に民衆も激しく手を振り、騒ぎ、皇帝の姿を一目見ようと押しかけるが、何重にもある兵隊の壁に阻まれる。


 皇帝が通った後に軍を率いた将軍などが通り、こちらも皇帝と同じように熱烈な歓迎を受ける。


「ロゼリア軍だ。そこのフードを被った者。こちらに来い」


 民衆の中にルアザとユーハがおり、ルアザに皇帝の護衛が命令口調で話しかける。

 皇帝の護衛はルアザにしか聞こえないように声をかける魔術を使うなどの、ただ者ではない様子見せる。

 今のルアザの外観は日光が燦々とした暑い昼間の中、全身を肌が出る隙間も見せずに服で包んだ見た目だ。

 めちゃくちゃ怪しい。


「あっ、はい……。ユーハさん、ちょっと呼ばれたので離れます」


 服の奥に隠された表情は悲哀に満ちつつも覚悟を決めていた。


「わかった。頑張れ」


 一回チラッとルアザの方を見て軽い感情の籠ってない言葉を投げかける。


 そして、ルアザは人通りが少ない場所に連れていかれる。


「名前は?」


「ルアザ・ミラレアです」


「ロゼリア市民?」


「いいえ」


「じゃあ、ロゼリアに何のようがあって訪れたの?」


「観光とオリンピックの出場です」


「そうか。じゃあ、在来証明書と出場証明書見せて」


「どうぞ」


 ルアザは二つの証明書を鞄から出して渡す。

 ロゼリア兵は指から炎を出して、証明書を炙り始める。


「ちょっ!」


 突如、とんでもないことをしでかす皇帝の護衛にルアザは目を見開き驚愕する。


「大丈夫、本物だったら燃えないから」


 焦りに満ちたルアザの声とは対照的に冷静な声であった。

 ただ、冷たく冷徹とも捉えられる声質であったため、もし偽物であった場合での脅しでもある

 のだろう。


「はい、ありがとう。じゃあ、最後に顔見せて」


 証明書を返されるのと同時に時間が止まるような感覚に襲われる一言を告げられる。


「どうしてもですか?」


 この発言は時間稼ぎだ。

 現在ルアザは幻影の魔術で肌を一般的な色にしているが、もし相手が幻影を看破できる方法を持っていたら、本当に捕まるかもしれないため、どの一手を指すべきか迷っている。


「何? 何か見せられない理由あるの?」


「その。ちょっと見せられる顔じゃないんで」


「ロゼリア兵は見た目で差別しないから。安心して」


 安心させるような優しい声で言うが、目の奥は一切隙がなく、色々と確認しているときもルアザから視線を外したりせずにいた。

 それに気づいているルアザは皇帝の護衛の言葉を信用し自分の顔を見せる。


「わかりました」


「……なるほど、今回の闘技大会は騒がしくなりそうだ」


 顔を確認にした皇帝の護衛はルアザの性別を超越した美貌に一瞬見惚れるが、すぐに仕事モードに切り替える。


「いいですか?」


「はい、ご協力ありがとうございます」


 事情聴取が終わると道の奥から必死な形相で走ってくる女性が現れる。

 その女性の存在に気づいた二人は同時に道の奥に視線を向かわせる。


「待てぇ! 貴様! 兵隊から逃げてどうなるかわかってるのか!」


 そして、すぐにロゼリア兵と名乗る男が荒々しい言葉を吐きながら走ってきた。


「助けてください!」


 女性はルアザと皇帝の護衛を見て泣きそうな表情で感情が深く満ちた声で助けを求める。


「二人とも止まれ!!」


 皇帝の護衛が強制的に動きを止めるため脅しと同然の声で叫ぶ。

 その声で女性は体を震わせて皇帝の護衛の目論見通りに動きを止めるが、急に体が止まったため、バランスを崩し、足がもつれてしまい転んでしまう。


「なんだ! お前は! 仕事の邪魔をするならお前も逮捕するぞ!」


「私はロゼリア兵だ。所属を言え」


 相手の荒々しい口調とは真逆に落ち着いた威厳のある声で言う。


「んなんもん、関係ない! お前こそ所属を言え!」


「皇帝陛下直下第六部隊だ」


 目が速く言えと訴えている。


「フンッ! 皇帝陛下直下? お前みたいのはあり得ないだろう」


「本物だ」


 しつこく認めない相手に対して口調は変わらずに淡々と証拠である物を見せる。


「俺はこの辺りの警護も任されてる憲兵だ」


 そう相手がいい終わった瞬間、皇帝の護衛は相手に向かい笑顔で歩き出す。


「……そうか、そうか」


「わかったなら。そこの女をこちらに返せ」


 自称ロゼリア兵はその笑みを理解し納得してもらえたと解釈し油断する。

 その油断した瞬間を狙い、皇帝の護衛は相手を転ばせる。


「お前みたいのが、ロゼリア兵のわけがないだろう。理由そのー、そもそも数週間程は我々皇帝陛下の護衛部隊が直接この辺りを警護している。理由その二、憲兵と言うのだから、当然訓練された職業軍人の正規兵のはずなのに、態度がよろしくない。わかったか? 【信用破り】ロン・ミテウス」


【信用破り】ロン・ミテウス。

 最近憲兵達では有名な詐欺の常習犯だ。

 異名の【信用破り】と呼ばれているように、公的に信用されている身分を名乗り、相手から騙し取るなどをする詐欺師である。

 今回は兵士に変装して兵士の権限で罪なき市民から何かを奪い取ろうとしたのだろう。


「おい、本当だ」


 必死な顔で本物の兵士だと訴える。


「お嬢さん。何かされましたか?」


「いきなり、犯罪の疑いがあると言われて、逮捕されたくなければ、金を寄越せと、言われました。そして、逃げてきました」


 そのやり取りを一歩退いた所でルアザは皇帝の護衛の行動を見ていた。


(たぶん、精霊魔術使って、嘘を感知しているな)


 ルアザには皇帝の護衛の側にいる精霊の気配に気づいていた。

 時折その精霊が皇帝の護衛の耳元に近づいていることから、何か情報を伝えているのだろうと推測する。


(でも、記憶にない顔を見て、特定の人物を判断できるということは……嘘の検知とかそういった類ではなく。数ある情報から求め出して、真実がわかるのだろう)


 そこから導き出すと、思っていた以上に扱い難い精霊魔術を上手にインフラに生かしていることに感銘をする。


(何の精霊の眷族だ? 都市の防衛に関するならアテナ神だが、情報となるとヘルメス神か?)


 ルアザも精霊魔術も扱える魔術師だ。

 故に、便利で有能そうな魔術を見るとすぐに考察して仕組みを知ろうとする。


「……なるほど」


 襲われた女性の言葉も精霊魔術で確かめ、嘘偽りがないことを確認する。


 そして、大通りの方から正式な憲兵が走ってくる。

 皇帝の護衛は事情を説明し、憲兵は【信用破りロン=ミテウス】を逮捕し、感謝の言葉を述べ彼を連れて去っていく。


「では、君は自由の身だ。私は仕事に戻る」


 そう言い残し、去って行く。


(なんか、雰囲気がクラウに似てるな)


 去って行く皇帝の護衛の背中に若干の親近感が湧く。

 その親近感の正体を考えると既視感に似たような感覚を覚え、揺れずに動じず目的を果たす姿にクラウに類似した形が重なった。


「……大丈夫でしたか?」


 ルアザは被害者の女性に話しかける。


「あ、はい。大丈夫でした」


 怪しげな格好をしたルアザに警戒心を持ちなながら、一応返答する。


 ルアザの声は中性的であり、声だけ聞いたら男女か判断がしづらい。

 女性が一段落しても警戒心を強く保てる理由としてはこれもあるのだろう。


「怪しい姿ですけど、訳あって顔を見せられないだけですから、ご安心を……って無理ですよね」


 ルアザも自分で言っていて、無理のある事を喋っていることになんとなく気付き、小さな乾いた声で諦める。


「素直な人だというのは今わかりましたから、大丈夫ですよ」


「なぜ、わかるので?」


 自分をそこまで、素直とは思わないが、少し話しただけで人なりを見抜けることに疑問を持つ。


「我が家では公衆浴場を経営しています。ここはロゼリアですし様々なお客様がいらっしゃいます。なので、話せばどんな人かある程度わかります」


「へー、すごいですね」


「せっかくですし、家の浴場に入りませんか? 気持ちいいですよ」


「その申し出、感謝します。ですが、先程言ったように大勢の人前で顔を見せなくないので、遠慮しましょう」


「そうでしたか。残念です」


 少し落ち込む彼女を見かねて、ルアザは告げる。


「……ですが、闘技大会の第一予選の結果によっては行っても良いですよ」


「それは期待しましょう。お待ちしていますよ」


 落ち込んだ顔を上げ、花が咲いたような笑顔で顔を持ち上げる。


 そして、浴場の場所を教えてもらい、別れる。




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